176『絵面的にはオッサンでギュウギュウです。』
「カンタさん・・カンタさんなんスね!」
「ああ、ただいまジキア」
「二週間ぐらいブリッスか」
目の前には【ファフニール】を退治した日以来、離れ離れになっていたジキアがいた。
俺にとっては───
『異世界で、役一週間』+
『日本で、役一カ月』
離れていたけど・・日本での一カ月はコッチでは一週間だったのか。
「───良かった・・実在したんスね」
「は?」
ソレだけ言うと・・ジキアはフラつき、倒れた。
頭をうつ前に飛びだした颯太がキャッチしてくれたお陰で、大事ないみたいだけど。
「じ・・ジキア!?」
「うわっ?
ジキアさん、くさい!」
「・・は?
颯太、何を・・・た、確かに匂うな。
ソレに、ちょい痩せこけて・・」
何日も体を洗っていない匂いだ。
ジキアは魔法使い。
俺みたいに一瞬でどんな汚水からでも麗水を作れる訳じゃないけど、一般人よりかは風呂ないし洗浄に必要な水は簡単に用意できる。
ディッポファミリー傭兵団が水で苦労した話は聞かない。
( 日本ほど水源豊かではないんで、1日水が手に入らないことも有るけど一般人はもっと手に入らない。)
ソレに痩せた体・・。
傭兵なら ( 比較的 ) 当たり前だけど、ジキアも無駄な体脂肪のない・・日本の一般的中学一年生より痩せて見えた。
最後に見た時より更に引きしまった、訳じゃない。
栄養失調っぽいな。
『対、村破級』であるディッポファミリー傭兵団は食にも困らない。
稼ぎはソコソコ有るし、イザとなったら自分達で狩りも出来るからだ。
「彩佳、気持ちは分かるけど・・俺と颯太は彼に何度も命を救われたんだ」
「うっ・・わ、分かったわよ!
取敢ず、クワガタ達に哨戒させるから今のウチに道場に運びなさい」
「すまん」
◆◆◆
「う・・ううん・・」
「目ぇ覚めたか、ジキア?」
「か・・カンタさん・・!
夢じゃ・・なかったッスね」
「ああ、俺はココに居るぞ」
道場のシャワーで体を拭き ( 俺が拭こうとしたら父さんがニコやかに自分が拭く、と聞かなかった )、医者の【人土】が栄養材を打ってくれた。
怪我らしい怪我や病気の兆候もないし、見た目通り栄養失調と疲れで気絶したんだろうとの事。
「どうしたんだ?
ディッポ団長に何かあったのか?」
「実は───」
ジキアの語る所によると、約一週間前に突然・・空から声が聞こえ、自分以外の人間の様子がオカシくなったらしい。
ジキアは抵抗に成功したが、失敗したメンバーは俺達の事を忘れたり、冷徹になったりしている、との事。
SUNチェック成功ね、とは彩佳の弁だけど違う。
・・いや違わない、のか?
「団長はギリギリまで抵抗して最後に倒れてから、未だ目覚めないんス。
タゥコオジさんとクジャラ兄さんは自失。
クラッゲ兄さんとナムァコ兄さんもソウタちゃんの事を忘れつつも心に残っている様で───って、何で睨まれてるッスか?」
「あー・・この人は、俺と颯太の父さん」
「おっ・・御父様っ!?
ほ、ほほほ、本日はお日柄も良く・・!?」
「君に御父様と呼ばれる筋合いは無い!」
「父さん、話が進まないから」
クラッゲさんとナムァコさんが颯太と一緒にお風呂に入って、体の一部が質量変化を起こした事は黙っておこう。
・・とにかく、ジキアはあんなに優しかったファミリーの皆に虐められるようになり、今日も一人でココ魔物の森へ来たそうだ。
「【魔力体】・・か?」
「【魔力体】?」
「実は颯太もソイツにとり憑かれて、人格が変わったんだよ」
「えっ!?」
ココでジキアに俺達の事情を説明する。
俺達も恐らく同じ日同じ時、【魔物の森】で【女学園】の皆と空から声を聞いた事。
故郷である日本へ、ザレとリャター夫人と新しく仲間になったビタという幼児と共に転移した事。
その際、【女学園】の皆と魔力パスが千切れた事。
日本で一カ月過ごした事。
その間、【空の口】の手下と何度も戦った事。
コチラへ転移する際、源太ちゃん達とはぐれた事・・等々。
「“いせかい”云々はちょっと分かんないスけど───【空の口】ってあの伝説の・・お伽噺じゃあなかったんスね」
「このぶんだと、【女学園】の皆も同じかもしれないなあ・・超広域探査魔法にも引っ掛からないし」
冷徹になった娘は分からないけどクラッゲさん達のような娘は【北の村】へ移動しているハズ。
「源太ちゃん達や女生徒達の噂って、聞いたこと無いか?
源太ちゃんの魔力パスは感じるんだけど遠いしさ」
「いえ、最近コキ使われてたんで・・」
「す・・すまん。
取敢ず、暫くウチに泊まってくれ」
「え"」
「他のディッポファミリー傭兵団の皆の様子が見たい」
「あのっ・・そのっ・・」
「ジキアにココへ来る命令を出したんだ。
ジキアが帰ってこなかったらどうするのか・・」
「武装してきたら敵になるかもしれないんだね?
幹太姉ちゃん」
「ああ。
放っておくなら放っておくで対処も有るしな───って・・何やってんの、三人とも」
父さんと彩佳が並んで腕をくみ仁王立ちをし、ジキアが土下座している。
「ザレといい、アンタといい!」
「ちゃんと責任は取れるのかっ!」
「取れます!
命をかけてっ!」
そういや、言葉通じているな。
・・まあイイや、放っとこ。
そんな事よか今すぐの問題は飯だな。
ジキアは栄養失調だし、ただでさえこの人数の食糧備蓄は節約しても三日は怪しい。
「異世界に来るってことはサバイバルって訳で・・食糧も野生だけど覚悟は有りますか」
「覚悟しております。
【巫女】様」
「じゃあA班B班にわけようか。
A班は食糧調達。
B班は準備をおねがいします」
「キャンプが趣味なので準備なら私が」
「なら私は───」
【人土】の皆で班わけしている間に・・。
「ココが魔物の森なら・・颯太、悪い。
ちょっと飛び跳ねて、川を見つけてくれないか?」
「分かった!
・・・・・・川はアッチにあったよ。
ついでに第二広場はアッチに見えた」
「てことは大体・・」
地面に簡単な地図を書く。
魔物の森は広大で、何往復かした【北の村】から【コカトリス】までの通称『素材回収ルート』しか分からない。
ココはほんのちょっとだけルートから外れる場所だな。
移動に便利と見るか、敵に侵入されやすいと見るか・・。
「幹太姉ちゃーん。
僕、ココに行きたいんだけど・・ダメ?」
「ん?
ココは・・ああ、【スライム】がいたとこか」
と言うと【人土】が皆、ザワッとなる。
「【人土】のサガなのか・・俺も凄く行きたくなってきたなあ。
・・皆も?」
「「「はい」」」
「まあ今日一日の食糧は道中の果物で何とかなるか。
見張りはどうするかなあ・・」
周囲を哨戒するクワガタが近くの木に停まってたんで話しかけてみる。
以前、彩佳とクワガタは相互理解で動いていると、言っていた。
クワガタにも自由意思があり、彩佳のことが好きで動いてくれている・・らしい。
「俺達、ちょい離れるからさ。
何匹か付いてきてくれない?」
≪ブッ≫
一匹が俺の頭に乗り、三匹が俺達の上空を飛ぶ。
付いてきてくれるようだ。
・・【モスマン】、元気かなあ。
一応、家の敷地には防壁魔力を、残りの魔力で大小自動追尾型魔法を待機させておく。
◆◆◆
「この小玉スイカぐらいあるサクランボ、毒のある種類は存在しないので素人でも安全に採取出来ます。
・・味は保証しないですけど」
「若い娘である【巫女】様には微妙かもしれませんが、甘いのが苦手な私だとむしろコチラの方が」
「地面に筍みたいに生えてるレモンも毒がないよ。
なんだっけ? 『いしやいらず』?
って言うぐらい解毒作用がある完全栄養食なんだって。
遭難して一カ月、コレだけで生きのびた人が居るんだ」
「ほうほう」
などと話していると、【スライム】のいた場所、空っぽの【スライムプール】に着く。
まあ、残っちゃいないのは分かっていたけど・・何とも言えない達成感のようなものがある。
聖地巡礼する人ってこんな感じか?
あんな奴等でも居なくて寂しい感が、無くは無い。
───ふと、誰が一番ともなく・・く皆同時に【スライムプール】の中へ。
中心地にて【人土】同士肩を寄せあい座る。
「あー・・イイなあ、コレ」
「お風呂とは違う心地好さだねぇ」
「他の仲間にも教えたいですな」
暫くして・・姿の見えない俺達をパス便りに探しにきて、ギョッとした彩佳に怒られるまで【スライムプール】の癒しを味わっていた。




