174『転移。( 途中。)』
「この本・・動かしたらダメなんだって?」
「ああ。
何故かココの【歪み】はこの状態だと下手に封印するより安定しているらしいんだ。
俺達が転移した事と関係あるのか」
イメージだと、すごくシッカリした天然の洞窟は人間がヘタに補強しようと工事するより安定している・・っつう感じか。
「魔方陣的なアレかしら」
「コッチでもアッチでも魔方陣とか呪文とか見たこと無いんだけどな」
円陣の中に俺が。
周囲を颯太、父さん、彩佳が。
更にその周囲をディレクターさん達TVスタッフ、自衛隊、【人土】の人達が囲む。
「あー・・魔力パスの『ネジ曲がり』がココだとちょいほどける感じ?」
「僕も僕もー!
わあ、ホントだあ」
「体の一部でも出てたらダメね・・全身入ったら───あ、コレ源太爺ちゃん?」
「ほ、ホントかい!?」
替わる替わる【人土】の人達が入り 「 おおー、総代表達を感じる 」 だの、魔力を持たない人達が 「 やはり我々には分かりません 」 だの、 「 御義父さん・・( 泣 )」 だのを一週り終える。
後はいよいよ儀式だ。
『扉』はこの円陣が、開いてくれる。
『目印』は先に転移した皆が、なってくれる。
俺がヤるのは、その道筋を間違いなく進むだけだ。
「後は代表8人分の魔力さえ用意出来れば・・ですね。
今、マスコミの目を掻い潜りつつ【人土】を集めて───」
「ああ、そんぐらいなら俺一人で。
・・ぃや!」
『扉』に魔力をおくる。
細かい制御は、結構ギリギリまで本気の魔力で補佐。
「・・・・?
コレは魔力を送っているのかい?
見た目的には、炎とか無いと分からないな」
「お・・オジさんには分かんないかしらねー。
アタシ今、背中が汗ビッショリよ」
「え、ええ・・。
【巫女】様の魔力がケタ外れだとは聞いていましたが、こ・・コレ程とは・・」
別に本気を出したからって、
『空気がゴゴゴ』となったり
『地面がビシッ』と割れたりする訳じゃないしな。
「【人土】全員の魔力を足してなお、比肩出来るか・・!?」
「うーん・・幹太姉ちゃん、クワガタ一万匹の時はすでに魔力切れかかってたし、【アジ・タハーカ】の時は殆んど本気をだすチャンスが無かったからねえ」
「そ・・そうなのか?」
「喩えば【人土】の平均魔力が───
仁一郎さんの筋力・・仮に50kgを持ちあげるのと同等として、代表の8人が自衛隊員の100kgぐらい・・。
【人土】全員が持てる重量───ドンブリ勘定で50t分の重量を幹太様お一人で持ちあげていると想像して下さい」
「「「ご・・ごじゅっとん・・」」」
人を、怪獣の体重みたいに呼ぶな。
「ソレも、幹太姉ちゃんが一度に使える魔力は。
・・だしね」
「「「「は?」」」」
「幹太姉ちゃん、魔力が多すぎる上に強すぎるから小分けにしか魔力を使えないんだって。
腕の怪我がそうだよ」
「で・・では総魔力量は・・?」
「うーん・・。
極大爆発魔法と、おんなじぐらいだし・・十数倍?」
「・・・・・・っ」
颯太がホントに嬉しそうに俺を誉める。
けどなあ。
「颯太は俺を立てて、話してくれてますけど・・。
颯太や源太ちゃんだって負けてないんですよ?」
「あの【アジ・タハーカ】の巨体を蹴りとばしていたしな」
と、さっき合流した自衛隊員の崖下さん。
あの屑マスコミ連中ですら、ホッコリしていた颯太と理太郎君のキスシーンで・・実は俺と父さん以外で唯一真顔になっていた。
密かに性癖を疑っている。
「───っと。
異世界と繋がった!」
「け・・けっこうアッサリ繋がんのね。
山柄さん達の苦労は何!? って感じよ。
アタシも会社で頑張ったんだから」
「俺も手伝ったし、その経験が生きたってのも有るけど・・ココまでお膳立てされてたら吸着魔法の訓練とかよかは楽かなあ。
───ただ」
「ただ?」
「やっぱこの魔法の微調整は、8人に劣るから・・ちょい大雑把になりそう」
「と、いうと?」
「・・ピンポイントは無理っぽい。
敷地ごと行きそう」
「はい?
ソレっ・・て、【魔力体】が【人土村】でやったみたいな!?」
参考にした元々の魔法がそうだったからか、最後に見た後継が無人の【人土村】だったからか───
山柄さんが本来ヤりたかった『扉』魔法をヤってしまった・・。
「・・し、敷地内の異世界へ行くつもりの無い人は退避してっ!?」
「ヤバい・・飛んじゃう飛んじゃう!」
「漏れちゃう漏れちゃう、みたいに言わないでよ!?」
【人土】の一部、一緒に行きたいという人達以外は慌てて退避する。
「幹太さん・・今まで有難う御座いました。
今までの映像は、コチラでの【空の口】との戦いに役立ててみせます」
ディレクターさんとTVスタッフが最後の瞬間までカメラを回しながら下がる。
「悔しいけど補給が出来ないんなら自衛隊は役にたたないからな。
コッチに来る魔物を退治するよ」
崖下さんが腰の銃をポンポンと叩きながらチラチラと、颯太の顔を見つつ下がる。
「残った【人土】で【巫女様】達の故郷を守ってみせます」
異世界へ行けない【人土】達と代表代理の人達が、あるいは悔しそうに、あるいは悲しそうに、下がる。
「お願いします・・。
ソレじゃあ・・行ってきます!」
コチラの世界へ残る人が全員敷地外に出たのを確認し、留めていた魔力を開放。
扉を開き、異世界へと再び転移する───
◆◆◆
強い光とともに、お隣さんが家ごと消えた。
ふふ・・最後まであのニブチンは冗談か何かと思ってたみたいだけど───
「このまま一緒にいたら・・また、裏切っちゃうと思うから。
ばいばい、ワタシの好きな人達。
裏切ってしまった人達・・」
◆◆◆
道場と家、庭の一部ごと───青一色の世界をすすむ。
気分は家型宇宙戦艦に乗ってワープしているかの如くだ。
「本来の転移って、こんな感じなのかあ」
「【巫女化】とかいう、風船のアンタん中みたいな雰囲気ね」
「なるほど・・この綱引きのロープのようなモノが魔力パスという奴か。
父さんにも見えているぞ」
「僕達も本来、パスは直接的に見えないんだけどねぇ」
道場から出て、家の敷地外を眺める。
さながら、家にヘソの緒が生えているみたいだな。
「さっきから父さんの体の中に何か入ってくる感触が有るんだが・・コレが魔力かい?」
「うーん・・?
魔力っぽいっちゃあ・・ぽいんだけど・・もっと魔力の根源に近いっていうか───パスに近いかな?」
「ははっ・・コレで父さんもチートかな」
という、父さんの台詞で彩佳が顔をしかめる。
「ま・・まさか、オジさんがオバさんにならないわよね?」
「「「えっ!?」」」
「ど、どうするの?
もし向こうの【人土】が一斉に性転換してて、ザレとかが
『異世界転移者=性転換』ってなったら───アンタの事・・」
「えっ!?」




