172『毒殺螺旋びょ───』
「とーぜんっ、アタシも異世界へ行くわよっ!」
ふんぞり返る彩佳。
何がとーぜんなんだか。
「・・向こうには漫画も小説もゲームも無いんだぞ」
「ぐっ・・覚悟の上よ!
どーせ最近、殆んど家と仕事を往復するだけだったんだもの!」
───ハァ・・。
こりゃ折れないなあ。
「取敢ず、颯太。
向こうのみんなに魔力パスを送ろう」
「分かった!
せぇーのっ!」
『扉』の前で待つみんなに『良』の感情を乗せて送る。
みんなから応答が来た・・と思ったら源太ちゃんから『解』の直後、『焦り』が乗って来た。
「コレは・・まさか、『扉』が開く直前!?
父さん、行こう!」
バッと屈み、父さんに背中を差しだす。
「クワガタ・・空を飛ぶ・・ぐう───」
何事かを呟き、疲れた感じで俺の背中にしがみつく。
全身カタカタ震えて・・そりゃあ異世界行きだもんな。
緊張もするだろう。
「父さん、颯太、彩佳、行くぞっ!」
「うん!」
「ええ」
「ふぅー・・ふぅー・・!」
◆◆◆
走る、走る。
【人土村】と避難場所のほぼ、まん中辺り。
【人土】の皆とザレが『扉』に魔力を送って、少しでも制御しようとしているのが分かる。
みんなの焦りはピークに達して───
──ブォン・・ッ──
眼前から強烈な光の洪水が襲ってくる。
皆、目が開けられない。
魔力の塊・・『扉』が迫る。
間に合・・ええぇぇぇ・・!
光の洪水が収まり───
目を開けると・・廃墟。
人、一人居ない荒れた街・・。
【アジ・タハーカ】の被害跡地のままだった・・。
◆◆◆
「ど・・どうすんのよ、コレ・・?
アタシ達、失敗したの?」
「んん・・そう、だ・・そう、だけど───
颯太、分かるか?」
「う、うん・・。
なんだろ?
パスが・・途中で“ばえーん”ってなってるっていうか・・」
「ば、ばえーん??
どういう意味だね、幹太?」
「ソレが俺にも初めての感覚で・・とにかく、【人土村】の現場に行こう」
源太ちゃん達の『焦り』が・・やがて、『諦観』へと代わってゆく。
おそらく・・俺達が間にあわなかったのに気づき、自分たちだけで何とかしよう、と為ったんだろう。
道すがら、ディレクターさんに電話をすると、『撤収するフリ』をして合流する事になった。
( 屑マスコミやデモ隊を巻くため。)
自衛隊も一部を『火事場泥棒の監視』名目に、【人土村】を極少量部隊で警備する事に。
( 全部隊だと怪しまれるから。)
◆◆◆
「お待たせしました。
・・付けられてはいない筈ですが」
「そうですね、後ろに生命反応は無し。
近づいてきているのは居ますけど、ただ目的地が同じだけ?
尾行じゃあなくて火事場泥棒的に【人土村】へ行きたい、のかなあ・・?」
俺、颯太、父さん、彩佳の4人はTVクルーの車に乗って【人土村】へ。
( 彩佳のクワガタは少しずつ拡散して付いてくる。)
「こ・・コレは・・?」
【人土村】が───更地になっていた。
でも、全部ってワケじゃない。
『扉』中心とした、円状に更地なっている。
「そういや今回の魔法・・山柄さんの先祖が『拠点の砦ごと転移』した魔法を参考にしたって言ってたわよね」
「ああ・・なるほど」
って事は、リャター夫人・・トラックごと転移出来たのか?
まあ、ソレなら良いけど・・『ならもっといろんな物を周囲に置いとけば良かったのだわー』とか言ってそうだな。
「・・やっぱりココだ・・」
「うん、変な感じだね」
「どう変なんだ?」
「普通、魔力パスってこう・・どんなに距離が離れていようと、障害物があろうと、真っすぐ一直線なんだよ」
「ソレが・・ココからパスが、“ばえーん”って感じで曲がりくねってる感じ」
世界と世界の壁を隔ててパスが歪んでる感じか?
「・・アレ?
ソレってオカシクない?」
「ん?」
「確か幹太、アンタ日本に再転移した日───転移したせいで『仲間達とのパスが千切れた』とか言ってなかった?」
「あっ・・そういや・・!
転移する直前、【空の口】の声?
みたいなんが聞こえて───その時、前後不覚になりつつ女生徒達とのパスが千切れる感じが・・アレ?」
って事は【空の口】がパスを千切った?
でもそんな事は出来無いと結論づけて・・でも、【アジ・タハーカ】とか颯太にとり憑いた【魔力体】とかパスに異常があったしなあ・・?
俺が色々考えているとディレクターさんが近づいてくる。
「幹太さん。
自衛隊と転移しなかった【人土】の方々が」
「そうか・・彼等も突然仲間の半数以上が居なくなったんだよなあ」
幸い、居住地の一部は転移円の外側。
流通を維持するのに必要な設備も、残った人達が一時的に生活するには問題ない。
・・コンビニも片方残ってるし。
取敢ず【人土】代表代理だった人達 ( 初めて山柄さんのビルに行った時、私服ではなくスーツだった人 ) と連絡をとる。
◆◆◆
「言ってみれば今回の散財は山柄総代表の個人資産分のみ、ですからね。
【人土】関連企業の総財産からいえば問題有りません。
【巫女】様権限でこの村の維持、もしくは、各【人土】家族の生活保証を致します」
「す・・済みません」
話がデカ過ぎて怖い。
「で、どうされます?
今なら山柄総代表の椅子が空いていますが」
「勘弁して下さいよ・・。
実はあと一つだけ異世界へ行く手段に心当たりが有るんで」




