171『アレは俺の百八式より危険だぁーー!!』
目の前の魔力渦が───
不安定に明滅を繰りかえす。
・・段々その頻度が多くなる。
そのウチ、発動するんだろう。
「いやー実を言うとね。
最初、コッチの『扉』を造ろうとしてたのさ」
「は?」
山柄さんの突然の告白。
「無論、こんな無差別のじゃないけどね。
ドレだけ魔力を『扉』に込めても幹太殿達だけが通れる程度の『扉』しか造れなかったんだ。
理論上はこの村丸ごと、転移できるはずなのにね」
あ・・ああ・・あぁ・・・?
「いやぁー楽しみだ♡」
「も・・戻ってこれないかもしれないんですよ!?」
「覚悟の上さ」
「財産や便利な生活・・全部捨てるかも・・!?」
「覚悟の上・・さ。
幹太殿。
アンタがナニより、颯太殿優先なのと一緒。
私は、留まってる【人土】は。
ナニより、【空の口】優先なんだ」
ソレを言われたら───俺には何も言いかえせない。
回りを見渡せば・・皆、同じ顔。
「幹太さん、ボクはキミを一人にしな」
「父さんっ!
父さんも避難しなきゃ!」
「その前に颯太だ!
颯太と合流しなければ・・!」
「でも・・ううん、分かった。
魔力パスはコッチだよ!」
異世界組、源太ちゃん、代表の8人は『扉』のまん前に構える。
全員が俺達を見て頷く。
───もし・・もし、颯太が 「日本に残る」 と言った時は。
・・「残っていい」と、言外に言ってくれているんだろう。
「・・有難う御座います」
「御義父さん、また会いましょう!」
「ザレ、勝負はまだ終わってないんだからね!」
颯太から・・パスがきた。
どうするかを決めた───清々しいパス。
◆◆◆
「颯太、理太郎君!」
「幹太姉ちゃん、父さん、彩佳姉ちゃんっ!」
二人は【人土村】の離れにいた。
「山柄さんの放送は聞いたか?」
「うん」
「まず、父さんと理太郎君を離さなきゃな」
俺が父さんを、颯太が理太郎君を背負う。
村にある車は【人土】の家族が避難に使ったり、自衛隊がソレ以外の【人土】の避難に使っているからな。
「父さん、大丈夫?
行くよ。
・・超速歩魔法ッ!」
「こう見えて、中学の時から御義父さんの元で鍛えええええええ・・!??
ぢょ、ぢょぢょ・・幹"太"あ"!?」
「理太郎君、大丈夫?
・・もっとぎゅってしてイイよ♡
───超速歩魔法ッ!」
「させて貰うよ・・死に───た"く"っ"!?
にぇぇえええ・・・・!」
彩佳に空中からナビゲーションして貰う。
父さんも理太郎君も、だいぶ超スピードに慣れてきたみたいたな。
さっきから一言も発さなくなった。
ウザいデモ隊が居なくなっている。
屑マスコミも居ない。
「彩佳ぁ、近くに人はぁ?」
「居るワケ・・あっ!?
一人、女がいるわ・・しょうがないわね。
『クワガッター』、ちょっと拾ってきて!」
ネーミングセンス。
・・まあとにかくコレぐらいか。
コレ以上俺達が出来る事はない。
◆◆◆
【アジ・タハーカ】により破壊された街の一番外側辺り───自衛隊と、転移しない【人土】、特番製作側のTVスタッフ、屑マスコミのスタッフ、デモ隊達その他が避難している場所が見えた。
「父さん、着いたよ」
「御義父さん、枝豆の準備が出来まし───ハッ・・ココは!?」
なんか理太郎君も、似たかんじで目が覚めた。
魔力体・・『扉』の暴走・・ストレスはハンパ無かったのだろう。
「そ・・颯太。
い、異世界への事なんだが───」
「父さん・・ゴメン。
僕、勇者なんだ」
「ゆ・・勇者?」
「父さんと離れたくないのはホント。
この前、ケンカしちゃった時より・・ホントに異世界に行きたくないって思ってる!」
「・・・・・・」
「・・・・でも【空の口】の、本当の目的がコッチの世界なら───
僕、行かなきゃ!」
「───そう・・か」
父さんが深く目をつむり、天を仰ぎみる。
10秒程、瞑目し───
「ディレクターさん、まだカメラは回していますか?」
「ええ」
「では、私を」
屑マスコミの方は最初からコッチを撮っていたが、ディレクターさんの方は周囲や【人土村】の方角を撮っていた。
そのカメラが俺達の方へ向く。
屑マスコミの方もちゃっかり斜め後ろに陣どる。
「えー、この世界に住まう全ての皆さん。
私は秋原仁一郎、この姉妹の父です」
本来、父さんに出演予定は無かった。
自衛手段のない父さんには、ギリギリまで身元バレして欲しくなかったから。
「一部のマスコミが『巻きこまれただけ』の娘達を、さも『諸悪の根元』に、仕立てあげていますが───」
忌々しげに、顔をしかめる屑マスコミ。
「敵の総大将が宣戦布告してきた通り、奴等の狙いは『この世界その物』であり───ウチの娘達は関係有りません!」
父さん・・ずっとコレを言いたかったんだろうなあ。
最後までTVに出たい出たいと言っていた。
「ソレでも!
此方の世界のため、異世界のため!
罵詈雑言を受けながらも
『我が秋原家』は、【空の口】退治に行きますっ!!!」
まあ、コッチの人間だろうと知らん奴に罵詈雑言を浴びせかけられようが───
「───あっ・・『秋原家』っ!?
と・・父さんもくるの・・!!?」
「ああ、御前達や御義父さんの居ない世界に価値はないからな。
・・というワケで○○商事の皆さん、御迷惑を御掛けしますが以前話した通り、自主退社させて頂きます。
溝板専務、お望み通り目の上のタンコブが居なくなりますよ」
へ、へえ~・・父さん、TVドラマみたいな権力争いみたいなんをヤッてたんだ・・。
しかも勝ってたんだ・・。
スゴいなあ♡
「じゃなくて!
俺達みたいにチートが手にはいるとは限んないんだよ!?」
「此処まできたら、危険度はどっちの世界も同じだ」
「まあ・・そりゃ」
「だ・・だったら、俺も行く!」
理太郎君が手をあげる。
「駄目だよ」
「颯太・・でも!」
「理太郎君はお母さんを守らなきゃいけないんでしょ?」
「───っ!
・・・・・・。
ああ、そうだな」
「だから───」
颯太が理太郎君の隣に立ち───ほっぺにキスをする。
颯太は頬を染めつつはにかみ、理太郎君はアッケにとられて固まっている。
回りの大人達はホッコリしていた。
・・俺達以外。
・・んぐぐ・・。
二人の仲を認めているとはいえ、中々くるモンが有るなあ。
感情レーダーが有るからイイようなものの・・普通に颯太が成人して彼女とか連れてきてたら、一時間位質問ぜめにする嫌味兄貴になっていたかも。
父さんは鬼の形相で理太郎君を睨んでいる。
あんな顔、初めて見た。
「───だから、待っててね♡」
「あ・・ああっ!」
理太郎君が顔を真っ赤にしつつ、胸をはる。
・・うん、男らしい。
理太郎君なら問題はない。
( 父さん以外。)
「理太郎・・でかパイ派より、ちっパイ派だったのね」
良いシメを壊すんじゃない。




