163『様々な視点⑤』
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田坂視点
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フフフ、ボクは田坂。
かつて魔物や魔法が実在する彼岸より、【空の口】の手によって此岸へと飛ばされた【人土】達の子孫だよ。
当時の御先祖様は多くの【スライム細胞】を体内に持ち、強力な魔法をバンバン使っていたらしい。
だけど世代をかさねた今、御先祖様と同等の魔力を持つものは居なくなったのさ。
現在、全【人土】のトップ8、その頂点に立つのがボク!
この田坂なのだよ。
しかし・・【人土】の顔役、山柄さんの方針で『溢れるパワー』より『繊細な魔力操作』を優先させられるせいで今一つ僕の評価が上がらない。
嫉妬としか思えないね。
そんな日々が続いたある日。
奇妙な・・此岸と彼岸の間の【歪み】の話が報告にあがった。
普段ならボクでなくともチョチョイと正せるはずの【歪み】が・・固い、というか重い、特別な【歪み】。
しかもコイツは広域時空震探査のチェックに引っ掛かりづらいのさ。
そんな特別な【歪み】がついにボクの担当地区で発生した。
慌てて部下とともに現場へと行くと・・クワガタ?
クワガタにはちょっとウルサイこのボクが見たことのない新種のクワガタが襲ってきたんだ。
しかも微かに魔力が見えるよ。
もしかして此岸の魔物!?
「た・・田坂支部長・・!
こ、コイツ等をみていると・・心が───いや本能がザワめくというか」
「あ・・ああ。
もしかして此が長年聞かされ続けた・・我等の怨敵【空の口】?
その手駒なのか・・!?」
ゴクリと唾をのむ音が響く。
はたしてソレは部下の誰かから出た音なのか、ボク自身から出た音なのか・・。
数は六匹。
攻撃手段はハサミ。
・・ただ、そのハサミがどう見ても刃物だ。
素材はわからないが、どう見ても生き物から生えているような血肉を感じさせない。
部下の一人がその攻撃をかすらせてしまったが、まさしく刃物傷だよ。
なんとか全滅させたけど、大変な敵だった。
魔力残量がギリギリだ。
「・・た、田坂支部長!
【歪み】が何らかの反応を!?」
「まさか・・新手!?」
「冗談じゃない!」
此以上、魔力を消費したら・・【歪み】を正せなくなる!
「クワガタは我々が!
田坂支部長は【歪み】を!」
「分かった!」
なんとか【歪み】を正すことが出来たけど・・恐ろしい敵だった。
こんなのが増えているのか?
・・上等じゃないか。
この沸き起こる闘争本能にかけて【空の口】を倒すと誓おう!
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ソレからは驚きの日々だったね。
特にあの女性、
『秋原 幹太』さん。
男みたいな名前に、男みたいな喋り方。
・・だがソレに見合わぬ美しさ。
隣の少女の物言いのせいで出会い頭に口論となってしまったが・・その駄々漏れの魔力が不安だからね。
そっと付いて行ったら・・無限かと錯覚する莫大な魔力。
全てを終えた時の・・攻撃魔法の尋常為らざる威力。
妹さんから聞いた、此でも魔力不足だという事実。
そして───魔力切れによるフラつきから怪我を心配する彼女の父親に、無事を証明するため我等の前で突然・・怪我一つない肌をさらして───
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「故に、何処か危うい君をほうっては置けないからね・・。
あ、安心したまえ。
生涯をかけて我が田坂家が君を守───」
「た・・ただ、人の胸見て欲情しただけじゃねえかああぁぁぁ・・っ!?
石化魔法【タサカ・ファフニール】!!」
「ぎゃああぁあああっっ!?」
田坂の全身に、周囲の土やらコンクリートやらを押しかためて一体の巨人像をつくる。
変に丈夫な奴だから死んじゃあいないだろう。
「ちょっと・・本部の前に気ッッ色悪いオブジェを勝手に建てないでおくれよ・・」
「・・っていうか田坂の話、全編美化だらけよね・・」
・・更にもう一つ、っていうか・・。
俺の胸を見て欲情して俺に惚れた少年を一人知って───うん、まあ気にしないでおこう。
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???視点
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「明日のデート、コレで充分かなあ」
「うん、可愛いぞ颯太♡」
「あ、口調どうしよう?」
「あー・・口調なあ。
理太郎君、勘がスルドイっぽいし・・
変えた方が良いのか?」
「あの時は仕方無かったとはいえ・・ホントなら好きな人に、嘘は付きたくないんじゃない?」
「う・・うん」
「まあ俺達の物真似、皆に不評だったからなあ。
こんなに似ているのに・・。
『颯子さん、頑張るのだわー♡』って」
『ソウコさん、頑張るのだわー♡』
───ビクウッ!? ×3
「・・へっ?
リャ───
ぱ・・パスとか音とか全く・・!」
『まあまあ、誰の物真似かしらぁ?
もっと見せて欲しいわぁ♡』
「いや・・あの・・」
『物真似する三人、可愛いかったわぁ♡
私・・可愛いって正義だと思うの♡』
「あ、アタシ、物真似して無───」
「ぼ・・僕も───」
『可愛いわぁ♡』
「「「ぎにゃああああああああああああああああああああああああああああああああーッッ!??!!?」」」




