161『クワガタの意思には、若干彩佳の意思が混ざっています。 ( ミンナニ ナイショダヨ )』
〔全くもう・・ひやひやしたわよ・・!〕
「す・・済まん」
〔気持ちは分かるけどね。
・・何アレ?
自分は政治家だから襲われることは無い、とでも思ってんのかしら〕
TV局の食堂、兼、休憩スペースみたいな場所でちょっと離れてた所にいる彩佳と電話。
お互い顔を向ければ見える位置だけど向けずに会話。
スパイ映画で見るあんな感じ。
〔食物連鎖の頂点から転げ堕ちたと認識出来んのじゃろうの〕
源太ちゃんはパスで位置は分かるけど・・これ、上の階だよな?
・・まさか天井じゃないよな?
源太ちゃんにだけ陽炎魔法がかかっており、見た目だとソッチを見てもよく分からない。
「ソレより、もう良いよな?
この小っちゃいクワガタ取ってくれよ、流石に素肌はキモいんだけど」
〔可愛いじゃない♡
それにまだ油断しちゃ駄目よ〕
今、俺の服ン中には彩佳のクワガタが入っている。
魔力が完全には安定していないのでイザという時、変なパスを送らないよう・・という配慮らしいけど、配慮ならキモくない作戦を立ててくれ。
・・タマにコイツ、変なトコに入っていって・・その、困る。
〔むっ、幹太よ。
御主を見ながら近づきよる男がおるぞ。
観葉植物のある方の出入口からじゃ〕
「んっ?」
アレは・・俺に出演依頼をしてきて、楽屋でも俺に付いていたディレクターとかいう男だったか。
「どうもどうも、幹太さん」
「どうも・・番組を潰した事の文句を言いに?」
「いやあ、幹太さんは何もしていないんでしょう?」
「らしいですね」
「上司からは・・あと他の出演者からは貴女に文句を言えと、言われましたが・・何もしていないのに、ねえ?」
・・嘘はついてない。
感情は・・悪意はあるけど、俺に向けられたモノじゃない。
今回の番組は、生放送じゃなく収録。
なんで、俺の訴えは世にはまだ出ていない。
マスコミと・・予想はしていたけどやっぱり危機感の足りない政治家に、危機感を植え付けるため悪役を買ってでたワケだが・・。
「ココだけの話、TV屋に嫌らわれているんですよね、アイツ等。
舌の根も渇かないウチに以前と違う事言うし、ソレで契約とか御弁当とか『話が違うッ!』って怒ってくるんですよ」
「あー・・」
「ですから上司に怒られるだけの価値があるモノを、見れました。
アイツ等の無様な顔と───貴女です」
やはり嘘はついてない。
善意悪意は・・微妙だ。
悪意は小さいとはいえ、善悪両方向けられている。
「・・ナンパですか?」
「ソレもイイですけどね。
収録前は貴女を一見して、貴女を芸能人として売りだす案がバァーッと浮かびました。
知ってます?
○○とか◇◇とか、ボクのプロデュースなんですよ。
貴女なら彼女等以上のスターになれる」
「そりゃどう・・も?」
アイドルはチョイ分かんない。
○○・◇◇は人気あるグループ・・程度しか知らない。
「妹さんという単語でもう・・番組ソッチ除けで、姉妹ユニットとか色々妄想していたんですが───」
「・・妹のことは」
「はい、はい。
こう見えて人見る目には自信があります。
貴女の美しさは人を守る時、発揮される・・ソレは【アジ・タハーカ】ですか?
アレから人々を守るのもそうでしょうが、おそらく妹さん含め仲間を守る美しさだ」
ディレクターの言葉を受け、彩佳と源太ちゃんから警戒心と・・デレッとしたパスが来る。
こやつ・・やりおる、みたいな感情っぽいけど・・送らてきた俺が恥ずいからやめて。
「もしボクが嘘をつけなくなる魔法があったら、掛けて欲しいんです」
「あ、魔法使いはソレがデフォなんで。
俺から漏れでる魔力が嘘つきの近くに行くと魔力が乱れるっていうか」
ディレクターの目が細くなり「・・なら」
と続ける。
「最初はネズミみたいな男 ( 俺達につき纏っていたマスコミ男の事らしい ) から貴女の事を聞いて、まあ・・この番組の添え花ぐらいに───と考えていたのですが」
「でしょうね」
「実際に魔法を目の前で見て決めました。
【アジ・タハーカ】、【空の口】といった異世界からの脅威の特番を作ります」
「日本って・・そんな今回の【アジ・タハーカ】とかに興味無いんですか?」
「直接的な被害者以外は・・ね。
政府が意図的に情報を隠しているという噂も有りますが。
知ってます?
【アジ・タハーカ】の死体、殆んどアメリカに渡すって噂」
ソレで対【空の口】研究してくれんならイイけど・・軍事利用しかしなさそうだなあ。
一応、現状は自衛隊が【アジ・タハーカ】の死体管理を民間企業に委託している形。
その企業の今のトップが
『いやあ、研究が捗るね♡
あの三馬鹿ジジイども、自分達の得になる話以外に金を出さなかったんだ』
と、部下に指示を出していた。
ちなみに、その三馬鹿ジジイとやらは、自分の体でブランコをしていたらしい。
無宗教な俺には
『自分の天国を奪われる信者の気持ち』
は、分かんないけど・・まあ、そーゆー気分だったのかな。
「今回の特番はお蔵入りになったとしても・・まあ、多少なりとも動かさざるをえないでしょうし、次の特番はもう少しマシなものになるでしょう」
◆◆◆
日本に再転移して、もうすぐで一カ月になる。
その間色々あったけど、明日俺たちや自衛隊、一部良識のある政治家の協力の下に造られた
『異世界特番』が放送される。
『緊張するわあ。
TVのシステムも持って帰りたいし~』
『異世界の書物』の解読を終え、『異世界への扉』を開ける実験が己の手を離れた事を理解したリャター夫人は日本の技術を中心に収集・記録していた。
さらに免許を取るヒマは無くとも自己流で車とバイク ( どっちもオフロード用 ) の運転をマスターしている。
・・一般道用の運転技術でなく、何処のスタントマン!? って技術だけど。
源太ちゃんは二度と一緒に乗りたくないって言っていた。
( ザレは顔を青くしつつ、『学園長のお側に』と言っていた。)
何故ココまでするかと言うと・・異世界への転移時、トラックに日本製品を詰めて乗っていくつもりらしい。
『あ~、忙しいわあ!
品物は持って帰れないし、出来るだけ覚えて帰らなきゃ!』
というリャター夫人についウッカリ、
「俺達の服が行きも帰りもそのままだったし、身につけていれば一緒に転移されたりして」
と、言ったら『ソレだわ~!』と言い ( 叫び ) 、運転技術習得とトラックに載せる日本製品を買い集めていた。
( 解読やその他異世界の知識提供代として、クワガタや【アジ・タハーカ】の素材代として貰ったお金から。)
リャター夫人としてはザレにもトラックを用意して欲しかったらしいが ( というか俺達全員 ) 流石に無理があり、諦めていた。
そして明日、特番のラストの生放送部分で異世界への扉を開く。
各々、様々な想いを持ったまま───




