158『どんな業界にでも何にもしてないのに権限だけはやたら高く、高給だけ取ってく人は居る。という話。』
日本に再転移して、もうすぐで一カ月後になる。
その間、色々あった。
◆◆◆
まずは俺。
【スライム細胞を持った人間】、ではなく【人土】になった。
「何が違うの?」
「さあ?
今までは脇腹に一塊あるだけだった【スライム細胞】が、全身に散ったらしいぞ」
「シンイチ!」
「ちゃうわ。
まあ特に身体に変化はないなあ」
「か、幹太は幹太のまま・・なんだな?」
「遺伝子調査結果からも、俺は父さんの知る『秋原 幹太』だよ。
・・XYじゃないってだけで」
溶けたり、触った相手を喰ったりは出来ない。
魔力運用は上がった。
身体の最奥から生まれていた魔力が全身からも生まれるようになった気がするからか───
今まで意識だけで魔力を操作していたのを、手足でも操作出来るようになった・・が、近い表現か?
後は・・他の【人土】の人達と、ほぼ強制的にパスが繋がった事か。
パスが繋がって分かったのは───
考えてみれば当り前だけど・・山柄さん達の組織で働いている人達だけが【人土】の全てではなく、主婦や学生など一般人も多くいた。
どうもこのパスが繋がりまくったのは、俺が【人土の巫女】とかいうのに選ばれたから・・らしい。
道ゆく見知らぬ小学生に 「 【巫女】様! 」 と挨拶されるのは、中々に恥ずかしいけど。
「その節は幹太様に大変ご迷惑をおかけしましたわ」
『その旨、御姉様にお伝えしておきますわ。
どうぞお帰りはアチラです♡』
今も・・ザレと、 「【歪み】を正せる8人 」 のウチの1人で初め会った時に絡んできた読モとが噛みつきあっている。
最近のウチの玄関先でよく見る光景だ。
【歪み】の位置が判明し、【歪み】を正す旅に出るたび・・まるで御本尊扱いで会いにくる。
「あの二人、キャラだだ被りよね。
で、【巫女】って?」
「意思を持った【核】、としか分からん。
ただ何人かが俺を【巫女】って呼びだして・・他のみんなも『確かに!』とか言い始めてんだよなあ」
「 理由は?」 と、聞いても 「 さあ? ですが貴女は【巫女】です 」 としか答えてくれない。
この辺、新参と先祖代々の【人土】で、微妙に差がある。
彼等特有の、【空の口】に対する執着は俺には無いしな。
【巫女】という言葉を聞いたビタは、姉が【人花の巫女】だったと言っていたけど、【巫女】が何する人かは分かんないらしい。
「本部とやらにも行ったしな」
強制的にパスが繋がった、といっても無条件に全ての【人土】と・・ではない。
俺か、向こうか・・どちらかが拒否ればパスは繋がらない。
( 例・俺がキモいと思っている奴とか。)
向こうから拒否してきたのは【人土】の最高幹部、本部の存在。
「 ただの老害 」 とは山柄さん含む、『【歪み】を正せる8人』の言。
『【人土】となったからには挨拶に来るのが筋だろう。
何故こない?
コレも山柄の教育が悪いからか。
云々───』
みたいな事が書いてある手紙を送りつけられた・・から、行ってやった。
冗談みたいな長さのテーブルの先にジジイが三人座っていて、その前に石が一つ。
たぶん【土の核】。
「俺は秋───」
「底辺の新参者の名前なぞ、どうでもエエわ。
ソレよりも我が【人土】は、【巫女】などという破廉恥なモンは認めん。
【核】はコレ、由緒正しき【土の核】のみ」
認めんもナニも、俺から言いだした事じゃないんだけどな。
「誇りある真の【人土】である我等は真の【核】へ魂を捧げるを誇りにしておる。
小娘如きの出番などないわ!」
あっそ。
「魔力譲渡っと」
「うぉ熱ッチっ!?」
「き・・貴様、【核】にナニをした!?」
「別にい?
【核】に魔力を送って満タンにしただけぇ」
山柄さんがクックと笑う。
「おやまあ、ソレじゃあアンタ等の死後に魂は【核】の中に入れないねえ」
「なっ・・・・!?
おい山柄、今スグこの穢わらしい魔力を使いきってこい!」
「アンタ等が作った『掟』に、現状【核】を使う事態には為ってないよ。
私達現場の人間がどんなに必要っつっても『掟』だからって【核】を使わせなかったんだ。
アンタ等も『掟』は守りなよ」
「んじゃ、【巫女】様とあたし達8人はコレで~♡
・・ねえ幹太様、たまには山柄さんの中華料理店だけじゃなくあたしン所のイタリアンにも来て下さいよ~!」
「幹太様は刺身が好物だとか。
寿司はどうです?
今日は良いのが入ったんですよ」
「───おいっ、貴様等・・!?」
「【アジ・タハーカ】の時の『ああゆうの』を起こす人=【巫女】・・なのかしらね」
「アレはもうイイよ・・」
「やっぱりあの時、幹太が口ん中でモゴモゴしてたのってアタシ達の魂だったと思うの」
「覚えてないっつうの」
覚えているのは───
彩佳は途中から。
皆はずっと。
俺の腹から下に一切視線を向けなかった事だけ。
黒歴史中の黒歴史だ。
◆◆◆
彩佳が【人茸】になった。
「いやまあ・・クワガタを操ったことから、何となく予想はしていたけど・・。
他に何か出来るのか?」
「ほら」
「おわっ!?」
彩佳が差しだした右手に、黒キノコが発芽した。
菌糸で空中に『オムツ』と書く。
───くっ・・!
「黒キノコが寄生した生物全部を操れるかは、まだ分かんないわね。
まさか他の生き物を実験動物に使う訳にもいかないし。
はァ・・犯罪者とか使えないかしら」
「あ・・彩佳ちゃん?」
「あらオジさん。
何か聞こえましたか♡」
「い・・いいや」
黒キノコその物は【人花】たるビタにも操れるけど、黒キノコに寄生された生物は【人茸】にしか操れないようだ。
「人体実験が出来ないいじょう、今のトコロ出来んのはコレね」
「・・何のキノコ?」
「【アジ・タハーカ】を倒そうとしたキノコ」
「ちょっ・・おま・・・!?
ソレ、いろんな毒キノコまぜた奴じゃんか!?」
「結局美味しいトコは全部幹太に取られちゃって、無駄になっちゃったしね」
「だから覚えてないっつうの」




