157『【スライム】の生態は『喰って』『増えて』です。』
巨大風船はポヨンポヨン・・と、ゆっくりコチラへきた。
ただ・・風船と違うのは、空に浮かんでゆく動きや風に流される動きがない。
完全に真っ直ぐ、コチラへ向かって直進してきた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
静寂の中───
風船が目の前に、ゆっくりと着地する。
アタシはまだ幹太と魔力のパスを繋いでないから『アレ』が幹太かどうか、分からない。
「ね・・ねえ、そう言えば静かすぎない?」
「・・えっ?」
「自衛隊の戦闘機とかマスコミのヘリとか・・全く飛んでないわよ?」
そ、そう言えばそうね・・?
「幹太じゃ」
「はい?」
「幹太に近づいたモンは皆・・音が消えよった」
「・・へ?」
音が消え───
・・つ、墜落?
「たぶん、死んでないよ。
なんか包まれた感じ?」
「包まれた、って何!?」
「突然現れた幹太姉ちゃんに、近づこうとして・・こう、フッと。
その後、道路に並べてた」
「そういや小さい頃、自分のオモチャを延々廊下に並べる癖があったのう・・」
「あー、何となく覚えてるわ」
『御姉様可愛い』
「幹太ならエンジン内の燃焼だとか揚力に必要な風を操作出来るんと違うかの?」
ただでさえ【アジ・タハーカ】相手に身心を削ったトコロへ・・突然現れた正体不明の物体。
コレ以上、不安要素はいらない───
調査に近づいた瞬間・・高速で動く機体がアッサリ止まって捕まる・・幹太は慣性も操れるって言うし、肉体の負担もなく気絶すら出来なかったでしょうね・・。
「殺してはないのね?」
「悲鳴はずっと聞こえてたしね」
「なら最悪、面倒だけは避けられるし別に良いわ」
「・・彩佳姉ちゃん、変わったね?
サッパリした!」
「まあね」
ソレより幹太よ。
皆は完全に風船を幹太って認識してる。
「颯太と源太爺ちゃんはパスで、感情も分かるんでしょ・・?」
「うん・・。
だけど・・コレ・・僕、よく分かんない。
お腹空いてる・・?
んぅ?
んぅう?」
「コレのう・・その・・のう・・・。
そういや、以前ディッポ殿が───」
源太爺ちゃんが何やら、クチごもって・・ふと、世界が青くなった。
◆◆◆
「アレっ?」
ここ、何処かしら?
えーっと・・確か・・皆と話してて───
そうよ、みんなは!?
「う・・うぅん、アレ? 僕・・」
「うん? なんじゃあ?」
「まあまあ、この感じは~?」
「お、御姉・・様・・?」
「植物の声が全く聞こえないです」
「ビタちゃん平気?」
みんなも若干フラフラしつつ・・この場所へきた。
「みんな、大丈夫!?」
「え、ええ・・大丈夫ですわ、アヤカ」
「そう・・良かった───ってザレ!?
今アタシと会話した!??」
「あ・・あら・・・!?」
マジでココ、何処かしら・・!?
心───いえ、魂が繋がってる?
「・・?
ね、ねえ、みんな・・『流れ』みたいなのを感じない?」
「あらあら・・?
そう言えばそうねえ・・?」
「お姉さんを感じます」
「・・コレが幹太のパス・・」
「って事はココ、あの風船ン中?
ワタシ等、幹太に食べられちゃった?」
この死後の世界感・・マジで食べ───
いやいや、流石にソレは・・。
「行きましょう。
とにかく幹太と話さなきゃ」
◆◆◆
「あ・・ああ・・はぁああ・・♡
み・・みんな・・・美味し・・かった・・よ」
「か・・幹太?
ソレに山柄さん達も・・」
『流れ』の先に居たのは・・まあ、予想通りの幹太と・・山柄さんほか【人土】の人達。
・・けど、何かしら。
幹太は幹太なんだけど・・。
コレは、再構成された雰囲気に近い?
幹太達はみんな、全く同じ笑顔・・っていうか恍惚の表情で口をモゴモゴしながら、アタシ達を迎えいれてるわ。
「幹太?
ココは何処?」
「はああぁ・・♡
しあわせぇ~・・♡」
話を聞いてるようで、聞いてない。
「幹太・・取敢ずそのモゴモゴを止めなさい」
「───ッ!?
やだっ!」
明らかに反応が変わって・・コレ!?
幹太が変わった『全て』の原因がコレなのね・・!!?
「吐きなさい、幹太!
ペーッしなさい、ぺ!」
「やーーだーーーー!」
再構成ってより、幼児退行してってない?
・・てか、バカになってない!?
「幹太姉ちゃん!」
「・・っ!
・・・そ・・ぅ・・た・・・?」
「良く分かんないけど・・僕、幹太姉ちゃんとなら良いよ」
「───そう・・太・・・!
・・ぉ、お・・れ・・・・」
颯太は何か・・幹太の『コレ』を・・たぶん無意識にだけど、理解してる?
そして幹太は・・アタシが言っても聞かなかったのに颯太には───ううん。
ソレは後でイイ!
「幹太っ!
ペーッ───」
「───颯太・・・俺・・うぐっ!?
ぅゲロヴぇロロろロゥロェェェッ!?」
「ぎいやああぁーーーーーーっっっ!?」
◆◆◆
・・。
・・・・。
・・・・・・。
・・あれ?
ここ、何処だ?
確か俺・・ビルの上で山柄さん達と一緒に【アジ・タハーカ】を───あれ?
「幹太」
「・・んん?
彩佳・・??」
「目ぇ覚めたかしら?」
・・・・・・。
何だ、この状況。
場所は・・荒れているけど、たぶんゴルフ場。
【アジ・タハーカ】を追い詰める予定地だった場所だろう。
回りは・・目の前に彩佳。
ニコやかに笑ってる。
けど・・目だけ笑ってない。
本能が最大級の警戒信号を出している。
逃げたい。
その後ろにだいたい何時もの面々。
『しょうがないよな』っていう感じ?
なんなん?
更にその後ろには【アジ・タハーカ】の・・死体!?
・・一切の魔力反応が、無い。
俺の後ろには・・山柄さんと【人土】の皆。
ビルの上で【アジ・タハーカ】をどうしようかと作戦会議していた人達だな。
みんな寝てる。
ズルい。
俺も夢の世界へ逃げたい。
更にその後ろには・・田坂?
田坂と、田坂と一緒に【アジ・タハーカ】の魔力を吸おうとしていた【人土】の人達か?
なんか・・土下座みたいな姿勢で慟哭している。
「うおおぉぉ・・!
何故そちらのチームとだけ合体して我等のチームとは合体してくれないんだああぁぁ・・!」
「『我等』じゃないですよっ!
『あんた』一人だけですから!
田坂支部長が入るまでは、みな合流出来てたんですから!」
「うおおぉぉ・・ボクも幹太殿と合体したいいぃ!」
マジでなんなん!?
田坂のキモさが天元突破した。
聞いているだけで吐きそうだ。
「まさかフフフキャラに助けられる日が来ようとはね」
彩佳がウンザリした顔で呟き───
「さ~あ、か・ん・た♡
タップリと話を聞きましょうかぁ・・♡」
彩佳の『とびきり』『極上』の笑顔に俺は───
しょ・・しょわー・・。
◆◆◆
生涯、二度と思い出したくない地獄の時間が過ぎて。
「山柄さんも!
ちょっと意識が残ってたんですって!?」
「う・・うむ・・。
こう・・眠ったまま情報が流れてくるというか───
このまま無敵生物『幹太』の一部として生きていくのも悪くないと思い初めていたんだよねえ」
何処の右井さんだ。
あと誰が無敵生物だ。
「今回は事情が事情だし、コレだけで不問にするわ」
コレだけ?
「不満?
もっと?」
いいえ?
滅相も御座いません?
ただ、しいて言うなら何も聞かずに着替えさせて下さい。
( ちらちらオトメのオマタに視線がきてんだし、聞く必要もないと思うけど。)
源太が聞いたディッポの台詞
「あのエロ御嬢チャンがなあ───」




