156『前菜ですが肉料理です。』
・・前菜が動いてる。
逃げているのかなあ?
でも、メインディッシュが一緒に動いている。
ん~?
あ・・そっか。
みんなで調理場へ運ばれているんだな。
◆◆◆
「りゃりゃりゃりゃりゃああっっ!」
「よっ、はっ、とうっ、そりゃあっ・・!」
「颯太、ちょい右にズレてるっ!
源太爺ちゃん、その先の建物の脇に逃げてない奴がいるわっ!」
【アジ・タハーカ】から対物理属性が無くなった。
ただソレだけで全長50m以上ある【アジ・タハーカ】が颯太と源太ちゃんの一撃一撃で大きく吹きとんでゆく。
さっきまでの停滞が嘘みたいに【アジ・タハーカ】がゴルフ場へと近づいていったわ。
まるで白面の・・まあ、ソレはともかく。
「幹太・・何もしてこないわね・・」
◆◆◆
前菜がやっと止まった。
ココが調理場かな?
メインディッシュが、前菜を運んでくれた。
しかも調理場に、更に4っつ美味しそうなのが用意されていた。
ありがとう。
後でキミ達も美味しく食ってあげるからね・・♡
◆◆◆
『あらあら~!
皆さ~ん、コッチよ~?』
『ココは植物が豊富なのです!』
「リャター殿・・!?
それに皆も来とったんか・・!?」
「クワガタで、皆はコッチに先回りしてもらったの」
やっとゴルフ場についたかと思うたら、何時もの顔ぶれが居った。
徐々に【あじ・たはあか】の身体へ木々や蔦が絡まってゆく。
元々・・歩くのが不得意そうな ( 頭が三つ揃って、空を飛ぶんかのう? ) 生物なんで、効果は高そうじゃ。
『最初、怪我人の方々を守ってるつもりだったのだけれど・・。
頭を下げられたわ~。
恐らく『【アジ・タハーカ】を』って』
さっさと片付けるんが、一番【人土】の人等の為になろうの。
『あの・・御姉様は!?』
「幹太はのう・・まあ、離れた場所で儂等のフォローに回っとるよ」
嘘ではないが真実でも無いのう・・。
「彩佳、『アレ』まだ使ってないんでしょ?
爺さん達だけで【アジ・タハーカ】を仕止めきれそう?」
「流石に腐っても街破級じゃからのう。
やって、ヤれんこたあ無いがな」
「時間がかかるのと・・僕達だけだと、回りへの被害がどうしても出ちゃうかなあ」
「ならビタちゃんをワタシとリャターさんとザレで守りつつ、ビタちゃんが植物で完璧に【アジ・タハーカ】の動きを止める。
爺さんと颯太にはその隙に【アジ・タハーカ】を弱らせられるだけ弱らせてもらうわ」
「うむ」
「うん」
「止めは彩佳ね」
「ええ」
彩佳ちゃんの『武器』とやらがなんか分からんが、ソレなら晩メシまでには終わるんかのう?
腹へったわい。
───腹へったと言えば・・幹太。
こりゃあ・・腹ペコなんか?
◆◆◆
前菜が調理されてゆく。
ハーブを巻きつけ。
肉を叩いて柔かく。
・・うーん、まだかなあ。
自分でやっても良いんだけど。
あんなの、量が多いだけでパパッと出来るんだけどな。
でも・・。
前菜を調理するたび。
メインディッシュ達の質が上がっている。
あんなに美味しそうだったのが・・更に美味しそうに・・・!
あ、ああ・・あぁ・・!
まだかなあ、まだかなあ・・!
もう待ちきれないよ・・♡
◆◆◆
僕と源太ちゃんの攻撃で【アジ・タハーカ】の全身のヒビが大っきくなってきたよ。
ビタちゃんもタマに植物で殴ったり脚 ( ? ) の植物を引っぱってコカしたり。
徐々にそのパワーが上がってる。
リャターさんもビタちゃん達を守りつつ、隙が有ったら切りつけてた。
前に『対人特化だから魔物相手は苦手』って言ってたけど、最近魔物と連戦してたからか『チート』も無いのに攻撃が通用してるよ。
ザレさんも飛礫を土壁で防いたり、逆に石弾を飛ばしたり。
そのタイミングが抜群に旨くなってきてる。
彩佳姉ちゃんはクワガタの群を【アジ・タハーカ】周辺をぐるぐる回ってる。
・・うん、まあ、あまり有効打って感じじゃないけど今日初めてちゃんと魔力を使って戦うんだから・・しょうがないよね。
でもだんだん上手くなってるよ。
・・ホントだよ!?
奈々姉ちゃんは・・ずっと「良いなあ・・ホントはワタシがあそこに居たのに・・」って言ってた。
でもみんなのフォローが上手い。
・・・・・・。
・・そして幹太姉ちゃんは・・。
何も・・してない。
ただ、コッチを見てる。
何だろう・・。
【アジ・タハーカ】の大技を討ち消したのも、防壁魔法を剥ぎとったのも幹太姉ちゃんのはず、だけど・・どっか違う気がする・・。
◆◆◆
前菜が、止まった。
観念した?
・・んじゃ無くて、アレは・・中身をポップコーンみたいにさせたのか。
ごくん。
うーん・・元々は粗末な味だけど、このクチの中でハジケる感じはなかなか良いね。
・・・・・・。
・・さあ。
いよいよだ。
やっとだ。
待ちに待った、メインディッシュの番だ♡
◆◆◆
・・・・・・。
い、今の・・何かしら・・!?
弱りきったはずの【アジ・タハーカ】から急に魔力が吹き上がって・・全身が光ったと思った瞬間───【アジ・タハーカ】の魔力が綺麗さっぱり無くなった。
「い、今のアレ・・自爆しようとしてた筈よね!?」
「源太爺・・ちゃん・・が、助けてくれた・・?」
「わ、儂の防壁魔法は無意識に自分へ張るんが精一杯でのう・・」
「ぼ、僕も・・」
そ、そりゃそうよね・・。
リャターさん達の方を向くけど・・意を察して首を横にふる。
『こんな・・こんな凄い事、御姉様にしか出来ませんわ・・・!』
『お姉さん、さすがです』
『・・本当にそう思ってるぅ?
二人とも~?』
『『・・・・・・』』
アタシもだいぶ魔力に慣れてきた。
だから三人が、どんな内容を喋ってるか・・何となく想像がつく。
今、【アジ・タハーカ】以上の異変が起きてる。
その原因は・・恐らく、幹太。
「あっ・・幹太姉ちゃんがコッチに来て・・?」
「───えっ?」
・・やがて来たのは・・・・巨大な、風船?
だった。




