151『以前バナナの皮で滑った彩佳を幹太が笑い、シバかれました。』
〔な・・なあ・・・?
さっきから電話が遠いんだけど・・。
───じゃなきゃ、オカシイ単語がポンポン飛び出てんだけど・・〕
電話の向こうで幹太が渇いた笑い声をあげてる。
コッチで【人土】が歓声をあげてる。
温度差。
「・・奈々が、ビタに頼んで黒キノコを改造したって。
『人喰いキノコ』と『改造人間キノコ』」
〔歓声でよく聞こえんけど・・ビタが『混ぜた』『ドクツルタケ』『カエンタケ』『ワライタケ』とか言ってんだけど・・〕
幹太達の魔法は黒に限りなく近いグレーだけど・・アタシはコレ、100%黒じゃない?
パパ、ママ、ごめん。
「・・で?
奈々の作戦は通用しそう?」
〔当たりゃあ・・な。
少なくとも、俺の運動能力じゃあ当たらんよ〕
「当たらなければ、どうということはない・・って訳ね」
TVに映る、颯太や源太爺ちゃんは二人係りで【アジ・タハーカ】を押さえるのに精一杯みたいで、そんな余裕ないし・・。
「【人茸】は?」
〔【人茸】・・なあ。
まあ黒キノコを除去した直後の奈々は俺の魔力を吸収したり・・【人茸】に成ってたようなモンだけどさ。
───ってか、当たり前のようにクチにしているけど【人茸】って何!?〕
何なのかしらね。
きの~ご? ( 古い。)
・・でも、奈々が幹太の魔力を吸収してるって事は───実害無く寄生されるなら、有益って言え・・なくもない、のかしら。
寄生虫ダイエットみたいなモン?
「ふっ・・あはははっ、嬢ちゃん・・アンタの言葉も発想もイチイチ面白い・・!
なんか・・なんかこう───若い娘だった頃のアレやコレを思いだす感じだよッ!」
「「「分かります、山柄支部長ッ!」」」
【人土】の人達が・・なんか・・目つきがヤバくなってきた。
「あっ・・幹太、TV!
颯太がなんか・・踊ってる!?」
〔ほんとだ・・。
アレは───ゴルフだな!
何で自衛隊の連中は気付かねーかな!?
・・くそっ、こんな時に俺の魔法が効かないなんて!
俺、もっと援護しやすい場所を探してくる──────ブツッ〕
「あっ・・・ちょ・・幹太!?」
幹太・・。
焦るのは分かるし、チカラの無い者の気持ちも分かるけど・・颯太のアレは竹槍を突く訓練にしか見えないわ・・。
「ふん、こんな鉄砲もっただけの連中が頑張りよって・・『三者』の子孫、『三種族』たる私等がなんもせずに居るとはねえ・・!?」
「田坂支部長、山柄支部長ッ!」
目つきのヤバい人達の中でも一際ヤバい人・・確か【ナーガ】退治の時、田坂と一緒にいた部下かしら。
「自分は・・自分は昨日の体験が忘れられませんッ!
幹太さんから無限に魔力を供給されるアレは・・今までの人生の中で、最も自分の中の【スライム細胞】が活性化した瞬間でしたッ!」
「ああ」
「うむ」
「本場の【スライム】は魔力吸収でこそ本領発揮する生物だとかッ!?
魔力の無いこの世界では実感出来ていませんでしたが、我等【人土】もかくあるべきなのではッ!!?」
「「「ウォーーッ!!」」」
・・アタシ、今、狂信者誕生の瞬間を見てるんじゃない・・?
オジさんが隣で、力無く 「 ぉ・・ぉぉ-・・・ 」 とか言ってる。
「・・そ・・ソレは相手からの魔力譲渡、でなく───
私等自らで魔力吸収を・・!?
・・で、出来るのかい・・!?」
「山柄さん。
昨日、山柄さんがボクに教えてくれたんですよ。
プライドや疑問よりまず、【空の口】の目的を潰す事をこそすべきだと」
「・・・・はんっ。
まさかアンタに教わる日が来ようとはね」
───なんぞコレ。
なんでアタシ、山柄さんと田坂の青春ドラマを見てんの?
「いくよ、『三種族』でもない三人や自衛隊が頑張ってんだ。
私等【人土】が頑張らないでどーすんだい!?」
「「「ウォォーーッッ!!!」」」
◆◆◆
・・・・・・。
皆、シェルターから出て行っちゃった。
残ってんのは、怪我人と看病してる【人土】と───
アタシ達・・オジさんと異世界組 ( ザレ・ビタ・リャターさん ) と奈々だけ。
『・・アヤカ?』
「い、いや、アタシじゃなくて奈々でしょ!?」
半眼のザレがコッチを睨む。
言葉は分からねど、奈々が ( 結構ビタも ) ヤラカシちゃったってのは分かるようね。
「奈々ぁ・・!?」
「し、仕方ないじゃん!?
元々『黒キノコ改造計画』はワタシとビタちゃんの個人的な目的だったのが・・【アジ・タハーカ】相手にド嵌まりしそうだったから・・。
ちょォーっと、自慢したくて・・」
奈々がテヘペロしてる。
シバくわよ?
ビタが真似してテヘペロしてる。
シバくわよ?
「個人的な目的て」
「いやあ・・『せっかく魔力があるんだし』って、ちょっと魔法の練習してたら・・ド嵌まりしちゃって♡
───けど所詮、今のままだと魔力が足りなくて・・。
幹太のそばに居ても、どんどん魔力が吸収出来無くなってるし?」
「だからって・・黒キノコの怖さはアンタが一番知ってるでしょ・・」
幹太が女体化する上で肉体が再構成され、0歳児の肉体になり倫理が一部短絡的になった・・。
善意悪意に敏感になり、善意には命懸けで報おうとし・・悪意にはタマにゾッとするほど残酷になってる。
奈々が黒キノコで再構成されて、倫理が短絡的になった結果・・マッドサイエンティストになっちゃった。
やっぱアタマ良い人って、紙一重なのが多いのね・・。
「に・・人間辞める気!?」
「ソコまでオーバーな話じゃ無いわよ。
【人土】の人達みたいに子供も【人茸】になる訳じゃないし。
・・まだ。
筋力を補助するパワードスーツってあるじゃない?
アレの魔力版よ。
・・身体の内側に着込むだけで」
「ちょいちょい恐いっ!?」
「まあ、イザって時はビタちゃんに頼むし」
【人茸】キノコを掴もうとする奈々。
この世界の為。
異世界の為。
・・幹太の為。
【アジ・タハーカ】をどうにかしなきゃならないのは分かるけど・・!
「・・やっぱりちょっと待って!
パパとママにどう説明する───」
「「「『『『あ』』』」」」
奈々の手を払おうとして・・【人茸】キノコのケースをひっくり返し、アタシが【人茸】キノコを被っちゃった!?
何処のお約束!?




