128『新ヒロインではありません。』
「ば・・馬鹿な・・!?
こんな子供を戦場へと駆りだすのですか!?」
「『【人土】の使命を部外者へ押し付けない』、という約束を破ったのは本当に悪いと思う。
・・しかし我等ではアレを、一匹倒すのが精一杯だろう」
父さんが青い顔をして、山柄さんを問いただす。
父さんからしたら颯太は、いくら秋原甲冑柔術を高い練度で会得した天才とはいえ唯の子供なんだろう。
颯太は強い魔法使いだ、とは説明した。
けど・・実際に見なければ、魔法使いとしての強さなんて実感のしようが無いのかもしれない。
───けど。
「子供だけど戦えるよ!
だって傭兵だもんっ!」
「そ、颯太・・!」
「仁一郎君、魔物は警察にはどうこう出来んよ。
しかし儂等にはなんてこたぁ無い雑魚じゃて」
「御義父さ・・し、しかしですね!?
け、警察が無理なら自衛隊が・・!」
「父さんの気持ちは分かるよ。
めっちゃ」
「・・幹太?」
「俺も颯太には、危険な目にあって欲しくない・・けど、百聞は一見にしかず───かな」
転移した日、ディッポ団長に答えた誓い───
『帰る方法は、楽しみながら探す』
女学園で過ごした最後の日にリャター夫人に答えた誓い───
『楽しむのが大事』
俺と颯太・・そして源太ちゃんや仲間達と共に異世界で学んだことだ。
その限りじゃなきゃ・・自由にさせたい。
「な・・何でソコまでするんだ!?
山柄さん達のような生まれついての使命でも無いだろう!」
「・・使命、か。
『ヤられる前に、ヤる』・・かな」
「!??」
「───チィ・・ッ!
警察だの猟友会だの・・集まりだしたよ!」
TVを確認していた山柄さんがTVを見してきた。
警察と猟友会が半狂乱になりながら【ナーガ】へ銃を乱射するも・・。
全然通用していない。
大半を外し・・当たった弾丸の多くが丸みをおびた硬皮にハジかれ───警官の一人が食われた。
怒号と銃声の嵐で何を言っているのか、殆んど分からないけど・・『自衛隊』とはまだ聞こえない。
アナコンダ以上の、巨大人喰い蛇にパニクっているのは分かる・・けど!
「ゴメン、父さん・・行くよ!」
「───待ってくれ・・ならせめて私も、近くで見届けたい!」
「待って・・幹太!」
高級車に乗り込もうとしていて・・呼びかけられる。
彩佳?
・・と、思ったら───奈々!?
奈々が両親に支えられ・・いや、両親を引きずって俺達の元へ。
奈々と両親を追って、彩佳もくる。
「奈々ちゃん!? 一体どうしたんだ!?
まだ安静にしなきゃ駄目だろう!」
「奈々ちゃん!?
救急車がもうすぐ来るわ・・!」
「大した怪我なんかしてないんだから離してよ・・パパ、ママ!
幹太に伝えなきゃならない事があるんだから・・!」
今、ハッキリと俺と目があい、『幹太』と呼ばれた・・!?
「奈々ちゃん・・?
何を訳の分からない事を・・?
・・彩佳!?
お前か!?
お前が奈々ちゃんに何か可笑しな事を吹きこんで・・!??」
「あ・・アタシは知らな───」
「パパ!
ちょっと黙ってて!」
何だ、何なんだ・・!?
彩佳以外───子供のころから、ほぼ付き合いの無くなった海野一家と・・明らかに様子が違うのが分かる。
「アンタ・・幹太でしょ・・?
分かってる。
さっき、あの恐ろしい虫から助けてくれたのも分かってるし・・」
「な・・奈々?」
あの時、奈々と一緒に倒れていたOLさんは完全に気絶していた。
起きていたら颯太が気付くハズ。
「行って・・!」
雪崩れ込むように奈々が、奈々に引きずられる形で両親が、ついてきて彩佳が、山柄さんの用意した高級車に乗り込む。
「このままじゃ【空の口】の『思惑』通りになんのよ・・!」
「「「・・・・・・っ!?」」」
い、今・・奈々のクチから、出たのか?
【空の口】・・と?
慌てて彩佳を見るけど、彩佳は首を横にふる。
・・彩佳から【空の口】という名前を聞いた訳じゃない?
◆◆◆
「さっき、その女の子が取ってくれた奴・・。
アレに私、命令されてたのよ」
「め・・命令・・?
【コカトリス】の・・?」
「いいえ・・【空の口】の、よ。
私ン中にあったのは、【空の口】に改造された茸なの」
そういえば・・【コカトリス】が吐く黒キノコには魔力が無かったハズなのに、奈々とOLさんに寄生していた黒キノコは魔力が有った。
【空の口】が改造したから・・?
【コカトリス】のエサ集めから命令プログラムを書き変えた、ってことか・・?
「完全に寄生されてたんじゃないから、ボンヤリとだけど・・とにかく『キノコを増やせ』『【空の口】の敵を殺せ』・・って」
「目的は?」
「そ、そんなのまで分かんないわよっ!」
おもわず詰め寄ると・・顔を赤くし、そっぽを向かれた。
くっ・・貴重な情報なのに!




