108『一家全員でお風呂に入るのは当たり前でした。』
〔───ンジさん〈42歳〉が、行方不明になって一週間・・警察は懸命に捜索を続け───〕
「へ、へー・・一方で警察が探してくれるケースもあるんだなあ・・ハハ」
「幹太・・」
「・・はい」
「幹太ぁ・・・」
「・・・はい」
父さんが青い顔で、頭を抱えている。
◆◆◆
彩佳への電話から十数分後、安全運転第一の父さんが爆音ともに門扉を破壊せん勢いで帰ってきた。
玄関に向かう途中、彩佳に道場に居るからと呼び止められる。
「気を・・しっかり持って下さいね?」
「な、なんだい!?
三人に何かあったのかい!?」
「い、いえ・・無事ではありますけど・・とにかく、一目会って下さい!」
震え、彩佳に支えられながら道場へと入ってきた父さん。
・・ゆっくりメンバーを見渡し・・俺と目があい───
「~~~~~~~!?!??」
───父さんは声にならない悲鳴をあげ・・腰を抜かした。
放心状態の父さんに、道場の隅にある水道( シャワー付き )の水を飲ましつつ・・俺が母さんではなく幹太である事、寝ている二人が颯太と源太ちゃんである事を伝える。
未だ立てない父さんを介抱するついでに、颯太と源太ちゃんも家に。
『済みません。
父のショックが大きいんで、ココからは父子二人と彩佳だけで会話させてもらって良いですか?』
『御父様のあの様子じゃあ仕方無いわねぇ。
分かったわ、ソウタさんとゲンタさんは任せてちょうだい』
『お願いします。
一階の施設は全て自由に使って下さい』
ココからは、俺達が元男とかそうゆう話がバンバン出てくるからな・・流石に今のように広い道場でのヒソヒソ話や誤魔化しが通用しづらい。
彩佳には二階居間の俺と一階のみんな、両方のフォローを頼んだ。
情けないけどキャパオーバーだ。
◆◆◆
「異世界? 魔法? 女体・・化?
───は、ははは・・はははははははは」
あー・・やっぱ父さんにはキツい話だったか・・。
俺も颯太も源太ちゃんも( ついでに母さんも )基本、
『為るように為る』
がモットーみたいなトコがある。
けど、父さんは現実主義というか・・悪く言えば頭が固い。
だからって、一方的に「 アレ駄目コレ駄目 」と言われた事は無いし、父さんの決断で一家が救われた事だって多いけど・・こういった、非現実の塊みたいな場面だと──脆くなる。
「・・なあ、冗談だろう?
みんなして、からかっているんだろう!?」
「なら一緒にお風呂入ろっか」
「ぶふォっ」
異世界組に我が家施設の仕組み( 冷蔵庫にコンロや蛇口、風呂トイレ等 )を身振りで教え終わってコッチに来てた彩佳が、何故かお茶を吹く。
「あ、彩佳ちゃんは信じているのかい!?」
「まあ・・コレだけ証拠が在れば・・」
「一流の手品師の手品は、どれだけ調べても分からないモノだよっ!!?」
「・・・・・・」
「オジさん!
・・幹太は───そんな家族を騙す嘘はつきません!!」
「───あ・・、・・・・う、うん、そうだね」
・・せめてこの場に颯太が居なくて良かった。
父さんは悪くない。
状況が悪いだけだ。
「・・済まない、幹太」
「大丈夫だよ、父さん」
「ほらほら、良い歳して・・。
はい、ちーん」
「そ、ソコまでじゃない!」
うー・・彩佳に無様を見せてしまった。
恥ずい。
しかし参ったな・・こんな状況で俺の腕なんて見せれないぞ。
どう、説明しようか悩んでいると・・父さんが瞑想のするかのように目を閉じる。
「と・・とにかく、俺達はこの数ヵ月異世界で傭兵となって、色んな人に助けられつつ旅をしてたんだ」
「・・そう、か。
まあ、三人とも無事に帰ってこれたんだ。
その女体・・化? とやらもいずれ治るかもしれん。
ゆっくり療養するといい。
高校も私から巧く取直そう」
「え?」
・・帰ってきた?
そうか・・俺、家に『居る』んじゃなく『帰ってきた』・・のか。
「・・幹太? 大丈夫??」
「あ? あ、ああ・・今までコッチにどうやって帰るか色々悩んで・・ソレが訳も分からず急にコッチへ帰ってきたから───」
『お姉さん、お姉さん!!』
「ひゃっ!?
───ああビックリした・・。
あの声、あの幼女の・・?」
「ビタ?『ビタ、どうしたんだ!?』
『ゲンタさんが目を覚ましました!』
『そうか! よかったあ・・』
『ソレが・・とにかく来て下さい!』
『何だ!? どうし───』───源太・・爺ちゃんが目を覚ましたらしいけど、何かあったみたいだ!」
慌てたビタの様子の言葉を彩佳と父さんに訳し、大急ぎで一階へ。
ソコで見たのは───
魔法使いとして魔力を産み出すより早く、『世界のナニか』により魔力が消滅してゆき・・女体化した身体が崩壊しつつある源太ちゃんの姿だった。
冒頭のニュースの『彼』が、身寄りも無いのに警察が探している訳。
罪を犯し警察に目をつけられた『彼』の元上司が、身寄りを無くし鬱と余命を診断された『彼』に、ちょうど良いとばかりに自らの犯した罪を擦りつけたからです。




