種
お母様から「期待している」と言われてうれしくなってしまった私は、前々から試してみたいことがあったので、種を分けてもらうようにお願いしてみました。
そして、実験的に隅の方に私専用の花を植える場所をもらえないかと頼んでおりました。
目立たないところならば、ということで、すぐに許しをもらって、庭師に具体的な場所を案内してもらいます。
そして、春になったら、何を植えるか相談しましたが、最初から難しい花は無理だろうということで、ゼラニウムと金魚草を勧められました。
特に私的には異存はなかったので、それで了承しましたが、種を今すぐもらえないかと頼みました。
庭師からは「種を植えるのはまだまだ先ですよ。」と言われましたが、実は試してみたいことがあったので、無理をいってもらいうけました。
実は種にマナを注入してみたかったのです。
これには理由があります。
護身術と殆ど同時に、魔法の先生も家庭教師として家に来てくださることになりました。
本当はもうしばらくしたら魔法学園に入学するクラウドお兄様に教えておられる先生に教えてもらうと思ったのですが、私の年齢を知っていたので、まったく話も聞いてもらえませんでした。
私のことをあまりに幼すぎると思ったようです。実際、我が国では、10歳位から魔法を習い始めるのが一般的です。
そのため、どうやらグーテンベルグ伯爵家の子供が魔法の家庭教師を探しているという話をして、以前魔法学園の先生をなさっていたという方を見つけてきました。
何でも今は定年で退職なさって、私のように入学前の貴族の子女に魔法の予習のようなことを教えているそうです。
名前はロイドとおっしゃいました。
聞くと、元魔法学園の教師というのはやはり人気があり、かなり予定が詰まっているようで、殆ど毎日どこかの貴族にお屋敷にでかけておられるということでした。
そこを、何とか無理をいって、週に1回半日程度来てもらうということになったそうです。
しかし、ロイド先生と初めて顔合わせをしたときはいろいろ大変でした。
先生は、当日、客間で、お父様、お母様とお茶を飲みながら、話をされておられました。
そこに、あいさつをするために、私が部屋に入ってきたわけですが、私をご覧になって、どうやら話が違うとなったようです。
どうも、クラウドお兄様の家庭教師としてきたと思ったのが、その妹だったのが気にくわなかったご様子です。
露骨に不快そうな表情を浮かべると、首を振って、「1年後にまた来ます。」とおっしゃいました。
そこで、私がすばやくマナを吸収し、炎を目の前にお出しすると、少しびっくりなさって様な顔をなさいましたが、すぐに興味深いものを見つけたような表情をして、座り直すと「来週の金曜日の午後からで良いですか?」と言ってくださいました。
そこで、「実は一緒に学びたいものがいるのです。」と言ってサリーを紹介します。
彼女が獣人であることを見るや、「わしを馬鹿にするのはよしてもらいたい。この話はなかったことに!」と言って、また席を立とうとします。
そこでサリーがすかさず、私と同じようにマナを集めて、先生の目に前に炎を出すと「ほおー。」と何とも言えない声をだされ、もう一度席に座りなおしました。
そして「獣人が魔法を使える例は今まで見たことがない。」と本当に興味深そうにサリーを見ておられます。
あまり、じろじろ見られたせいかサリーは恥ずかしそうにしております。
そして「では、今週の金曜日の午後から。」とおっしゃって下さいました。
先生は、確かに魔法学園で教えられていたというだけあって、教え方は体系だってしっかりしておられました。
ただ、一つだけひっかったのが、空気中から体内に取り込んだマナは時間が経つとまた空気中に戻ってしまうというところでした。
先生に確認しましたが、どうもマナを体内にためておくことはできないそうです。
ただ、ハルははっきり、マナは蓄えておけると言っていましたし、それを使って大きい魔法を使うとも言っておりました。
しかし、ロイド先生はできないと、おっしゃいます。
そこで、「大きい魔法を使う際にはマナの吸収はどうするのでしょうか?」と質問してみました。
すると、「如何にマナをすばやく大量に吸収するか、これが全てで、才能あるものは皆これにすぐれていた」と答えてくれました。
先生が嘘をおっしゃているとは思えませんが、ハルも最後の最後にそんな嘘をついて行ったとも思えません。
であれば、先生はマナを蓄えるということを知らないのではないかと思いました。
ただ、私も先生の言われたことがわからないではなかったのは、ハルに言われたとおり、毎日マナを蓄える練習をしておりましたが、蓄えても翌日にはかなりの部分が放出されてなくなっていたからです。
そこで、どうすればマナを蓄えることができるかいろいろ試してみたかったのです。
そして、もし体内に蓄えることが可能なら、種にもマナを蓄えさせることができるのはないか、そんなことを思っていたからこそ種をわけてもらってきたのでした。




