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伯爵令嬢は精霊の加護を受けることができるか?  作者: 江川 凛
第1章 出会い
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画家

 お父様がある画家の話をしてくださいました。

 その方はさすが、精霊の加護を受けていただけあって、素晴らしい才能を発揮なさり、国中に名声をとどろかせ、宮殿のお抱え画家にまで登りつめました。


 その画家は、一つだけ欠点があって、実際に見たものしか描けなかったそうです。ただ、代わりに見たことのあるものを描かせれば本当にすごかったといいます。


 ある時、王様から「天国と地獄」という題の絵を描くように命令が下されました。何でも大聖堂の改修があり、そのこけら落としの際に、必要になったそうです。


 天国はモデルに天使の格好をさせればよいので、それほど問題はなかったといいます。

 ただ問題は地獄で、地獄のような風景を探してかなりの時間をかけて国内のいろいろなところを歩きまわったそうです。


 そのおかげか、背景は地獄らしいものを描くことができるようになりましたが、問題はその前に描く地獄で苦しんでいる人です。


 拷問シーンは王様の特別の取り計らいで監獄を見せてもらえ、実際に拷問をしているところを見て、描きました。

 しかし、肝心の地獄の業火に苦しんでいる人々を描くことができません。


 我が国では火刑はあまりにも残酷だという理由ですでに廃止されておりました。

 他国に行けば見ることもできかもしれませんが、いつ行われるかわからない上に、宮廷のお抱え絵師が勝手に国を離れることはできません。


 結果、この画家は自分の家に妻を括り付け、火を放って妻が焼け死ぬ姿を見て、絵を完成させたそうです。

 私はあまりのことに衝撃を受けて、その場に座りこんでしまいました。


 お父様もあまり聞かせたい話では、なかったようです。

 思わず「うそですよね。」とつぶやいておりました。


 「残念ながらうそではない。実際その『天国と地獄』は今もサン・モルト大聖堂に飾られておる。」

 「お前も見たことあるであろう。」


 確かにその絵は見た覚えがあります。そして、あまりにも生々しい地獄の描写に思わず顔を覆ってしまったことも忘れられません。

 

 「では、その画家の名前は、ガッティーニ・・・」


 私がつぶやくとお父様は大きく頷かれました。

 まさかあの絵を描くためにそのようなことがあったなんて、全く知りませんでした。


 「このことは秘密とされている。他言無用だよ。」お父様からそう言われてかろうじて「はい。」と答えることができました。


 「当時私は宮廷の警備関係の仕事をしていたから、このことを知っているが、このことは公開されていない。」


 「大聖堂に飾る絵にそのような醜聞があったことは教会に知られては困るとの理由で、国王が内密に処理された。」


 「結果、ガッティーニへの処罰も行われなかったが、国王もあまりのことに二度と絵を依頼することはなく、彼もそのまま宮廷画家を辞めて行方をくらました。」


 「今彼が何をしているか、知らないが、どう考えても幸せな暮らしをしているとは思えないし、それ以降私は彼の描いた絵を見たことがないから生きているかさえわからない。」


 これを聞いて私は目の前が真っ暗になってしまいました。

 精霊の加護を受けなければ、私は学園でいじめられて自殺。

 精霊の加護を受けても、このような未来しかないのであれば、どうしたらよいのでしょう。


 「ハルは徳のある人にしか加護を与えないといったのに、・・・」そんな言葉が口から洩れます。

 それを聞いたお父様が「ハル?精霊が徳といったのかい?」とおっしゃいました。何か思うところがあるようです。


 お母様を見ると、お母様もお辛そうです。

 話を聞くと、以前お父様があまりにもお辛そうにしているので、何があったのか聞いたことがあり、そのとき、他言無用と言われ、ガッティーニの話(精霊の加護の話)を聞いたと話してくれました。


 「では、私は魔法を会得するために何か対価を支払ったのか、それとも今回のミッションがその対価ということなのか?」ふとそんなことが頭をよぎりました。


 その時、お父様が、「ミシェルが熱を出したのは、マナを大量に注入されたからということでよいかな?」と聞いてきました。


 「ええそうです。とても痛い思いをしました。」というと、お父様は不思議がります。

 「なぜ、その精霊はその時、ヒールを使わなかったのかね?」と聞いてきます。


 確かにそうです。血管内の老廃(障碍)物がはがれるのが痛かったなら、マナを注入する際にその場所にヒールをかけてくれれば痛くなかったはずです。


 そんなとき、もしかして、この痛みが魔法獲得の代償という発想が浮かんできて、頭から離れなくなってしまいました。

元ネタは芥川龍之介。

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