〜マッチ箱の火〜
あ。稲崎麻耶は、ある違和感に気付いた。
いつものように大船駅の湘南モノレールで、電車を待っていた時だった。
麻耶が向けた視線の先には広告の看板があるのだが、昨日までそこは広告募集と書かれていただけで何もなかった。
それが今は違っている。
『あなたの不満を解消します。摩訶不思議堂』
看板にはそう書かれている。
変な看板。麻耶はそう思った。
場所を見ると自分の家の近くであることがわかる。
麻耶は改めてその看板を見る。
他の看板は歯医者や寺といったモノレール沿いにある施設の看板だが、摩訶不思議堂という看板だけが異質に思える。
その隣の歯医者は、店の内観の写真と曜日や時間があるのに対し、例の看板はただ先の冒頭の文のみしかないシンプルな看板だ。強いてあげれば、看板の色がどす黒く、文字が赤で書かれているのは目を引くだろう。
他の人はどう見えてるんだろうか。麻耶はふと気になって、隣のサラリーマンを横目で見た。
特に看板を気にするでもなく、片手で新聞を読んでいる。
麻耶は自分が気にしすぎなだけだろうかと考えた。
ふと、モノレールが到着する放送が聞こえ、数秒後麻耶の前に停車する。
麻耶は頭の隅であの看板が浮かびながらも、他の乗客とともにモノレールに乗った。
何より麻耶が気になっていたのは、その看板の内容だった。
あなたの不満を解消します。
麻耶はそれは自分に向けられた言葉のような気がしていた。
仕事を終えた麻耶は大船駅から東海道線に乗って、藤沢駅へと降りた。
去年から麻耶は同い年の男と同棲していた。
付き合いは五年になる。大学時代から付き合い始め、三十に近いということもあって、麻耶は彼に結婚のことをさりげなく聞いた。
曖昧な返事しかしない彼に麻耶は同棲を提案した。
そして一年経つが、彼からは結婚どころか帰りが遅くなることさえあった。
麻耶は湘南モノレール沿いにある薬局に勤めている。
麻耶の彼、太田雄二は藤沢の飲食店の社員として働いている。
雄二が結婚を踏み切れない理由を麻耶はなんとなくわかっていた。
麻耶も雄二も一人で暮らす分には経済的に切迫はしていない。しかし、結婚となるとそれらは変わってくる。
こうして一年経つが、麻耶も最近は言わなくなった。
「色気がなくなったとか?!」
麻耶は慌てて洗面所に行き、自分の顔を鏡に映した。
決して美人ではないが普通だと麻耶は思っている。
「あー、でも確かに肌のハリはない気はするなぁ」
化粧も必要最低限しかしていない。元々、お洒落にはさほど興味はない麻耶は仕事の時以外は、手を抜くこともある。
「まさか、それが嫌だから?」
しかし麻耶は自分の彼氏を思い出すとその考えは消えた。
雄二は他人に興味を持つ人間ではないことを麻耶は思い出す。
大学のサークルで出会ったのが切っ掛けだったが、雄二は女性の誘いにも気づいていない節があった。
自分の興味があることを優先する雄二に何度か喧嘩になったこともある。
ただ、こうして五年も付き合っているのだから麻耶も変わり者だろうとは思う。
たまに大学のサークル友達が雄二との交際が続いているというと驚かれるほどだから、たとえ麻耶がお洒落に手を抜いたとしても鈍感な雄二が気付くことはないだろう。
だとするとやはり金銭面だろうか。
それとも浮気とか・・・?
麻耶はその考えを打ち消すが、どうしても完全に消すことはできないでいた。
「あれでも一応、男だものね」
背が高く体格のいい雄二は、見た目で見れば女性の好感は得られやすいだろう。
しかし、その内面は子供だ。告白して付き合っても数ヶ月も続かないと本人から麻耶は聞いたことがあった。
不満がないといえば嘘になる。いや、実際は不満だらけだった。
会社の帰りも遅く、珍しく休日が一緒でも朝早くからどこかへ消えてしまう。
「同棲の意味がないじゃん」
雄大が帰宅し、麻耶は作り置きしていた料理をテーブルに並べた。
「まだカレー残ってたんだ」
「そりゃ、結構な量を作ったから」
雄大は悪気があってそう言ったわけではないが、今の心境の麻耶には一言一言が
苛立たせた。
「解決してもらおうかしら・・」
雄大が黙々と食べる姿をみなが麻耶はそう呟く。
「なんか言った?」
「別に・・・ただ、今日モノレールで変な看板を見つけたと思っただけ」
「変な看板?」
雄大も気になったのか身を乗り出して聞きたそうにしているので、麻耶は今朝のあの看板を雄大に話した。
「変だなー。今日、仕事の関係でモノレールに乗ったけどそんな看板なかったぞ」
「改札に近い車両に乗ってたからじゃない。その看板、改札から離れた車両側だったし」
「うーん、そうかな」
雄大は腕を組んで思い出そうとしているのか、唸り声を上げながら頭を捻っている。
「でも、その看板って料金とか書いてなかったの?」
「そういえばなかったわ」
雄大に言われ、麻耶は看板を思い出すが、名前と内容だけだったことに気づく。
「今度、またモノレールに乗る機会があるから見てみるよ」
雄大はそう言うと食事を終えたのか、さっさと風呂に入ると言って席を立った。
「はあー」
麻耶は深いため息を吐いた。
翌日、麻耶はもう一度あの看板を見ようと最後尾の車両が止まる場所に立った。
「やっぱりあるじゃない」
雄大が看板など見てないと言ったのを気にした麻耶は、目の前に昨日と同じ看板があるのを見て、見間違いでないことにホッとした。
麻耶は同じようにモノレールを待っている乗客を横目で見た。
この中にあの看板を見てお店に行った人はいるのだろうか。ふと麻耶はそう思った。
看板の料金だって馬鹿にならないだろう。以前、テレビで見たが毎月、料金が発生するとか聞いたことがある。
麻耶はもう一度あの看板を見てみた。
やはり華やかさに欠ける看板だな。いや、だからか。
麻耶は他の看板が明るくて見やすいが、この看板はそれを逆手にとっている。
意外とお店の人は普通なのかも。
麻耶は次第にそのお店に興味を持っていることに気づいた。
モノレールが到着する頃には麻耶の気持ちは固まっていた。
仕事終わりに寄ってみよう。
そう思った麻耶はモノレールに乗ると看板がある扉に立って、その店の住所を記憶した。
昔から記憶力はいいほうだ。
仕事を終えた麻耶は藤沢駅に着くと、家とは逆の方向に歩いた。
看板に書いてあった住所は江ノ電のある方向で、歩いていくと住宅街に入った。
住所を頼りに歩いていくと小さな一軒家に目が止まる。
「ここ・・だよね?」
確認するように呟き、麻耶は電柱に貼ってある番地を確認した。
「住所はあってる」
改めて麻耶はその建物を眺めた。
二階建ての一軒家だか、玄関前まで雑草が伸び放題になっており、さらに家の壁には蔦が伸びているなど、人が住んでいるのかも怪しかった。
「あれ?」
家の外観を見ていると玄関扉の横に何か書かれているのを麻耶は見つけた。
『摩訶不思議堂』
そう書いてある。
「じゃあ、やっぱりここが」
麻耶は入ろうか悩んだ。怪しげな雰囲気を持つ家に先ほど固めた決意が萎んでいくように感じられた。
暫く麻耶はその場に立っていたが、このまま立っていても怪しく思われるのも嫌だと思い、敷地に足を踏み入れた。
麻耶は歩くたびに脛や太ももに雑草が触れ合う感触に嫌悪しながら早足で玄関扉まで突っ切った。
「うー、気持ち悪かった」
麻耶は後ろを振り返る。腰のほど伸びている雑草は流石に麻耶も嫌で、よく見てみると服のあちこちに葉っぱがついていることに気づき、手で払いのけた。
「ふぅ」
服についた葉っぱを取り払うと麻耶は改めて玄関扉に向き直った。
朱色の玄関扉はノブの部分が丸く、今時珍しい古いタイプの扉だとわかる。
「リフォームしないのかしら」
この家の場合、リフォーム以前に全てを建て直した方がいいような気がするが。麻耶は他人事であるが、そう思ってしまう。
「と、とにかくここまで来たんだから行くっきゃないわね」
麻耶は扉横にあった呼び鈴を押した。
鈴の音のような呼び鈴が聞こえる。
「・・留守かしら?」
数分待っても誰も出てくる気配がない。
麻耶はもう一度呼び鈴を押した。やっぱり誰も出てくる気配がなかった。
「る、留守なら仕方ないわね」
麻耶は安堵している自分にやはり不安のほうが大きかったのだと今更ながら気づく。
麻耶は踵を返して帰ろうとした時だった。
ガチャリ。
確かに背後で鍵が開くような音を麻耶の耳に聞こえた。
ギィー。
今度は扉が開く音も聞こえる。
静かに麻耶は首だけを後ろに回した。
「き、きゃあ!」
閉まっていた玄関扉がほんの隙間だけを残して開き、そこから白い何かが突き出していた。
「い、いやああ、オバケェーー」
麻耶は絶叫し、同時に腰を抜かしてしまい尻餅をついた。
「これこれ、そう驚くな。ワシはまだ生きておる」
「え?」
麻耶は瞬きして、もう一度玄関扉を見ると、白い何かは鼻である事に気づく。
扉が完全に開くと確かにそこには人間が立っていた。
「あ・・・は、ははは」
麻耶は恥ずかしさや後ろめたさで笑って誤魔化した。
「なにぶん年でな、扉まで行くのに時間がかかってしまう。さあ、お入り。看板を見て来たんじゃろ?」
「あ、は、はい。そうです」
麻耶はゆっくりと立ち上がった。
老人は腰が悪いのか、くの字のように腰を曲げていて、立ち上がった麻耶を見上げている。
長い年月を生きた証のように目の端にはシワがいくつもある。だけども麻耶はその老人の顔を見て、先ほどの不安は一気に消えた。
老人の持つ、柔らかい雰囲気は麻耶の心を安心させた。麻耶は老人の優しい目に安心感を持った。
この人なら不満を聞いてもらえそう。麻耶はなぜかそう思った。
家に上がった麻耶は、少し驚いた。
玄関先は雑草に覆われていたから、てっきり部屋の中も汚いと思っていた。
しかし、いざ部屋の中に入ってみるとゴミ一つなかつた。
「さあ、こちらにおかけなさい」
老人はリビングに麻耶を通すと、黒い革張りのソファーに座るように指示する。
「は、はぁ」
老人に言われるがまま麻耶はそのソファーに腰掛けた。
「さて、あなたのご不満を聞こうかの」
老人も麻耶と向かいあうようにソファーに腰を下ろした。
「すまんが、茶は出せないのでな。ご覧の通り電気が通ってないから」
そう麻耶は部屋に入る前から気になっていたことがあった。
もう夕方で薄暗くなってきているのに、老人の家から電気が点いてなかった。
それは家に入ってからも同じで、麻耶はよほど事情があるのかと思った。
老人はソファーの前にあるテーブルの引き出しを開けるとロウソクを取り出し、それをロウソク立てに突き刺した。
同時に同じ場所からマッチを出すと、マッチに火を起こしロウソクに灯した。
「待たせたの。さあ、お話を聞かせてくれ」
老人は麻耶に向き直ると話すよう促した。
「あ、はい。えっと・・」
どう話せばいいのか、わからず麻耶は視線を彷徨わせる。
ふと老人が灯したロウソクの火を見た瞬間、麻耶は暖かい気持ちを感じた。
緊張していた体は解れ、リラックスしているのが麻耶は自分でもわかった。
「実は・・・・」
すると先ほどまで何を話せば良かったのか分からなかった麻耶は自然と口を開き、老人に自分の不満を全て話した。
「なるほどのぅ。あんたはこのままその男と交際を続けていくべきか、悩んでいるそういうことか?」
「はい。もう三十になる前に結婚する気がなければ他の人を探そうかと、でも彼はそれすらも言わないんです」
麻耶は話しているうちに雄大との関係が、いつの間にか変化していることに改めて気づいた。
「お前さんはどうしたい?」
老人は麻耶にそう聞いた。
「私は・・・わかりません。彼と関係を続けるべきなのか」
「でも、不満があるのなら答えは出ているのではないかな?」
「え?」
「お前さんにいいものを貸してあげよう」
老人はさっき火を灯したマッチの箱を麻耶に渡した。
「それを彼の前で使ってみなさい。良い方向に進むか、悪い方向に進むかはわからない。ただ、前進することは確かじゃ」
「え、でも、あのう」
麻耶は老人の言葉を信じられないでいた。手のひらにあるマッチ箱を見る。
どこにでもある普通のマッチ箱。
「まあ、騙されたと思って試してみなさい。ただし、一人の時に灯してはいけないよ」
「・・・どういうことですか?」
「もし、一人の時にそれを灯してしまったら今ある気持ちを消してしまうからじゃ。だから、絶対に一人でロウソクに灯してはいかんぞ」
麻耶は老人の家を出るとすっかり日も暮れて夜になっていた。
帰りは雑草など気にならなかったのは、未だ手に握っているマッチ箱があるからだろう。
「でも、ロウソクの火を見た時、暖かくて気持ちが楽になったのは確かよね」
このマッチには不思議な力があるのだろうか。
「でも、一人の時に使ってはいけないってのがよくわからないな。あ、そういやお金は良かったのかな」
代金を払うのを麻耶は忘れていたことに気づく。しかし、またあの家に入ろうとする気は起きなかった。
老人が最後に言った言葉は、麻耶は引っかかっていた。
とりあえず家に帰ろうと麻耶はマッチ箱を鞄に入れると家路へと歩き出した。
家に着くと玄関に雄大の靴が置いてあることに麻耶は気づいた。
「あれ、今日は早かったんだね」
リビングにいた雄大にそう声をかけると、雄大は大きな体をピクリと震わせた。
時間は18時を過ぎているが、最近は22時になって帰ってくることが多い。
「あ、ああ。今日は仕事が早く片付いたんだ」
妙によそよそしいなと麻耶は思ったが、気のせいだろうと思い、部屋着に着替えようと寝室へと向かった。
料理を作っている最中も麻耶の頭はあのマッチ箱のことで一杯だった。
いつ雄大と二人きりになろうか。
そう思ったとき、ふと麻耶は今しかないのではと考えた。
なぜか、雄大は早めに帰ってきている。それに麻耶も本当は今の関係に疲れていた。
だからこそ、胡散臭いあの看板を見ても行ってみる気になった。
「よし!」
ようやく麻耶は今夜話し合おうと決めると、料理の最中だが雄大のいるリビングに行った。
「ね、ねえ。雄大・・」
「悪い・・今日は無理だ。あいつがいるから、ここで会うことはできねえよ」
雄大が誰かと電話しているその会話は離れていた麻耶にもきこえた。
誰?女、浮気?。次々と出てくる言葉に麻耶は混乱しその場で立ち尽くしてしまう。
まだ雄大は麻耶に気づいてないらしく、会話は続いていた。
「あ、ああ、じゃあ今度の土曜日に、ああ頼むよ」
雄大が電話を切りそうになることに気づくと麻耶は、急いでキッチンに戻った。
「おっ、今日は冷やし中華?」
雄大は麻耶に聞かれていたことも気付かず、キッチンを覗くとそう麻耶に声をかける。
「え、ええ。もう7月で暑くなってきたし、材料を買ってあったから」
「そうか。じゃあ、俺は風呂の掃除をしてくるよ」
そう言って雄大はリビングから風呂場へ向かった。
麻耶はさっきまで話し合おうと決めていた気持ちは、いつしか無くなっていた。
ふと視界がぼやき、手に何かが濡れることに気づく。
それが自分の涙であると気づいたときには麻耶は涙を止めることはできなかった。
大丈夫。そう何度も自分に問いかけると溢れる雫は止まることなく麻耶の手を濡らしていった。
それから一週間、麻耶は不安の日々を過ごしいた。
まず、眠れないことが多かった。そして、雄大はあれ以来また帰りが遅く、しかも深夜に帰ってくることが多くなった。
原因はやはり雄大がしていた会話だった。
相手はどんな女性なのだろう。自分より綺麗なのだろうか、雄大と同じ趣味なのたろうか。
土曜日。雄大も仕事に出かけて、麻耶は久しぶりの休日を一人で過ごすことになった。
普段なら大好きな読書を楽しめると喜ぶが、今はそれどころではなかった。
そういえば、麻耶は雄大と出会ったときのことを突然思い出した。
「あれ、そういえば何で仲良くなったんだっけ?」
麻耶は何度かそのときのことを思い出そうとしたが、思い出せなかった。
「たしか、雄大が好きなキャラクターを見て懐かしいなと思って話しかけたんだよな」
あれは、確か小説のキャラクターだった。麻耶が小さい頃見ていた、子供向けのアニメで元は小説が原作だと知ったのはだいぶ大人になってからだ。
「たしか、雄大はあのキャラクターの主人公が好きだったけ?」
その主人公は人と関わるのが苦手で、ヒロインの女の子が主人公をどこかに連れていき、毎回そこで何かのトラブルに巻き込まれるといった話だ。
「そうだ」
麻耶はようやく思い出した。その主人公が雄大と似ていて、ヒロインは主人公のことが好きだけど結局気づかれないままアニメは終わった。
「その後の話を雄大から聞いたけど、なんだっけ?」
それよりも麻耶はなぜそのことを急に思い出したのかが気になった。
麻耶は疑問に思いながらもそこに答えがあるような気がしていた。
「ふぅ・・・」
いくら考えてもわからず、麻耶は気分転換に出かけようと決めた。
「あ、そうだ」
部屋着から私服に着替えようとした麻耶は、つい先日の摩訶不思議堂のことを思い出す。
「あれからマッチを使う機会がなかったな」
雄大が浮気していると知った麻耶は、二人きりになる機会を失っていた。
「返さなきゃな。もつ必要ないしね」
麻耶は遊びに行くときに使う鞄にそれを入れると、あの摩訶不思議堂に向かった。
「あれ?」
麻耶はこの間来た道を辿り、あの店のある場所に来た。
しかし店がある場所は空き地になっている。
「潰れたのかな?」
いや、それはないだろうと麻耶は自分が思ったことを否定した。
家を解体するにも時間はかかるし、ましてや三日間雨が降っていたことがあり、工事も中断していたはずだ。
だが、現実に目の前には建物がない。
来た道を間違えたのかと思い、戻ってみるがこの間来た道であることは麻耶自身がわかっていた。
「どういうことだろう?」
麻耶は訳が分からなくなっていた。あの老人は実在したのだろうか。
麻耶は空き地となった場所を見た。
実は麻耶はあの日気になる点が一つだけあった。けれど、それが何かわからなかった。
「うーん、なんかあった気がするんだけどなぁー」
しかし、考えても思い浮かぶものはなく、そのままぶらぶらと駅に向かった。
最近は土曜日でもどこの店でも人が混んでいる。
中高生の姿が多いが、時折親子の姿もあった。
「パパ、これ買ってー」
麻耶は駅の近くにある電気屋に来た。ここは最上階とその下は大型書店であり、麻耶は何も買う予定がなくても来ることが多い。
エスカレーターで7階を目指していた時だ。おもちゃ屋の前を通ると、子供の大きな声が聞こえ、麻耶はエスカレーターに昇る足を止めた。
低学年の男の子が父親の腕を掴んで、目当てのおもちゃをしきりに指差している。
いま、子供達の間で流行しているおもちゃだ。様々なキャラクターのメダルを集めるもので、雄大も集めていた。
ふと、雄大と結婚していたら子供と一緒に楽しんでいる雄大が浮かんだ。
子供向けのおもちゃが好きな、子供のような大人。でも、分別はあるようであくまでも本人が楽しむためのものであることを麻耶は知っている。
遊びに満足したあとは、ちゃんと自分に向き合ってくれる。そんな彼だからこそ、麻耶はこれまで付き合ってこれたのだろう。
いまやおもちゃは大人と子供の境界線が薄らいできてるように感じられる。
大人だって、家電やら車やブランド。それらを目を輝かして見ている。子供と何が違うのだろう。
麻耶はその親子を名残惜しそうにエスカレーターの方に体を翻すと上へと上がった。
麻耶は書店で、昔見ていたアニメの原作となった小説を探した。
かなり昔だからか、検索機のキーワード入力をしてみるが、絶版の文字が出ていた。
気にすることはないのだろうが、しかし頭の中ではそのアニメの結末がどうしても気がかりであった。
「古本屋ならあるかも」
確か、隣の駅にチェーン店で有名なら古本屋があったはずだ。
麻耶は急ぎ足で、エスカレーターを下りた。その途中、さっき立ち止まった玩具売り場を横切ると、目の端にあの親子がレジから出てくるのを捉えた。
どうやら子供は父親におもちゃを買ってもらったようでご機嫌だった。
そうだ。麻耶は強く思った。
自分だって、変えようと思ってあの店にいって相談しようとしたんだ。
明日は日曜日。多分、雄大も休みだ。今夜、自分は決着つけよう。
麻耶は今度こそ固く決意した。
もし、麻耶の予想した未来が訪れたらこのマッチが役にたつかもしれない。
麻耶はあまりそれを望んでいないが、未来がどっちに傾くかわからない。
麻耶はその時のためにいまから覚悟を決めようと決めた。
雄大はやはり深夜になって帰ってきた。
あと一時間で、日付も変わる。
「おかえり」
「あれ、まだ起きてたんだ」
雄大は麻耶がまだ起きていることに驚いた表情を見せた。
「ここ最近、寝不足だからね。ご飯は?」
「いや、いいよ。同僚と食べてきたから」
雄大は素っ気なく答える。
「そう。何か飲み物いれようか?」
「じゃあ、コーヒーいいか?」
麻耶は椅子を引いて立ち上がるとキッチンにあるコーヒーメーカーの前に立った。
「ねえ、明日は休み?」
麻耶はさり気なく、しかし緊張しながら雄大に問いかけた。
「ん?ああ、休みだけど」
「そう。はい、これ」
麻耶は雄大の前にマグカップに入れたコーヒーを出した。このマグカップもデートの時にお揃いで買ったものだ。
「ああ、ありがとう」
雄大は麻耶にお礼を言うとコーヒーに口をつけた。
「ねえ、少し話してもいい?」
「ああ、いいけど」
そうは言うが雄大の視線はあちこち彷徨っていて、挙動不審なのは明らかだった。
「ねえ、私に何か隠し事してない」
麻耶は努めて無表情でいようとした。だが、心臓の音は五月蝿いくらい脈うっているのが手をあてなくてもわかった。
「隠し事って、俺が麻耶に?」
雄大は麻耶に聞かれたのが意外なのか目を見開き口をぽかんと開けた。
「ここ最近、本当に仕事で遅いの?」
「それは当たり前だろ。どうした今日は?」
雄大はまだ麻耶の変化に気づいてないのか、まだいつもの調子で喋ってる。
「なんで、私がこんなこと聞くのかわかってる?」
麻耶はそんなつもりはないのに、口調が厳しくなっていく。
「最近、相手してやれてないのはわかってる。悪いと思ってるよ、でもさ、本当に仕事なんだよ」
ため息を吐いた雄大は、申し訳なさそうに言う。
「悪いけど、それは信じることはできない。あたし、聞いちゃったの。この間、雄大が女と会話してるのを・・・」
相手が女性とわかったわけではないが、麻耶は引っ掛けった。雄大がどう反応に出るのかをみるためだった。
「この間のって・・・・あっ、あれか!」
雄大は一瞬、しまったといった顔をした。麻耶はそれを見逃さなかった。
「ほら、何か隠してるんでしょう!」
麻耶は激しくテーブルを叩きつけた。叩いた手に痛みを感じるが、今はそれよりも怒りと悲しみの感情の方が勝っていた。
「いや、だから、それは・・・」
雄大は此の期に及んでも、はっきりと答えようとはしなかった。
「もういいっ!」
麻耶は勢いよく立ち上がると寝室に戻った。
「おい、麻耶!」
雄大の声が聞こえるが、麻耶は全力で無視し、ベットに入ると布団を頭まで被り目を閉じた。
「おい、麻耶」
麻耶の後を追って、雄大は寝室に入ってくる。
「寝たのか?」
麻耶は雄大の声に耳を傾けるが、返事はしなかった。
雄大も麻耶が本当に寝てるとは思っていないのだろう。
ダブルベットは雄大が腰かけると少し沈んだ感覚を麻耶は感じる。
「本当に浮気とかじゃない、それだけは信じてくれ」
そう言うと雄大は立ち上がり、寝室から出ていたった。
麻耶は雄大の言葉を信じることはできなかった。
また目から涙が溢れてくるのを今度は必死に我慢しながら、麻耶はいつしか眠りについていた。
麻耶は夢を見ていた。それは二人の初めてのデートで、場所は近くの公園だった。
麻耶は初めて付き合う人がいたら、公園でゆっくりと過ごしたいと思っていた。
陽の当たるベンチで、好きな人といろんな話をしたい。
麻耶のその願いは雄大と付き合うことで叶った。
いつか、この人と結婚して子供が生まれ、今度は三人で公園に来るんだろうな、付き合い始めた麻耶はそんな事を思っていた。
突然、麻耶は目を覚ました。
かって憧れていた夢は夢のままで終わった。
ふと麻耶は隣を見ると雄大の姿がなかった。リビングで寝ているのだろうか。
ゆっくりと麻耶はベットから降りると、リビングへ向かった。
「雄大?」
小声でそう呟き、リビングを見渡すが雄大の姿はなかった。
ここ最近の不眠もあってか、麻耶はすこぶる調子が良かった。
「そういえば昨日はぐっすり寝ちゃったな」
何気なくテーブルの方を見ると、麻耶は体を硬直させた。
昨日、雄大と喧嘩してそのまま忘れて置いてしまったマッチ箱がそこにない。
麻耶は慌ててテーブルの下を見るが、見当たらなく、麻耶は周辺を探した。
まさか、いや、でも。
探している最中にどこに置いたのか、思い出すもわからず。次第に麻耶の頭にある考えが浮かぶ。しかもそれは麻耶にとって、最悪の状況だ。
家の中を隅々探すが結局マッチ箱は見当たらなかった。
麻耶は確信した。おそらく雄大が持って行ったのだろうと。
雄大はヘビースモーカーというわけではないが、たまにタバコを吸うことある。
たまにしか吸わないからか、よくライターなど持ち合わせていないときは、マッチなどで済ませることがある。
麻耶は十分考えられると思った。
寝室に置いた携帯電話を慌てて取りに麻耶は動いた。
携帯電話を手に麻耶は雄大の電話番号を表示させた。
手が微かに震えているのを麻耶は気づいた。
もし、雄大があのマッチを使っていたとしたら、本当に二人の関係は終わる。
そう思うと麻耶は雄大に電話する手を躊躇わせる。
もし、自分のことを忘れていたとしたら。麻耶はどうすればいいのか、わからなくなった。
「きゃ!?」
ふいに握っていた携帯電話が振動し、麻耶は驚いて携帯電話を落とした。
「だ、誰?」
表示している画面を見ると、さっきまで電話するか迷っていた雄大からだった。
「も、もしもし!」
落とした携帯電話を取り、麻耶は通話ボタンを押した。
「あ、悪い、俺だけど」
昨日のこともあってか、遠慮したような声が聞こえる。
「うん」
「起きたところ悪いんだけどさ、話があるからさ、ちょっと出てこれない?」
「う、うん。いいよ。あ、それとさ、昨日テーブルにマッチ箱を置いてたと思うんだけど、雄大が持ってる?」
「ああ、あの古びたマッチ箱か?使おうかとおもっていたけど、湿気ってたからやめたぜ」
「え、湿気っていた?」
「じゃあ、ゆっくりでいいから待ってるぜ」
「あ、うん」
雄大がマッチを使ってないことに麻耶はほっと一息ついて安心する。
「湿気っていたって、でもあのお爺さんは火をつけていたし、どういうこと?」
不可解な状況に麻耶は不思議そうな顔をした。
「じゃあ、マッチ箱はどこに?」
あれだけ家の中を探してもマッチは見つからなかった。
訳がわからないまま、麻耶は雄大の待っている場所に急いで着替えると向かった。
雄大が伝えた公園は、あの初デートの時に来た公園だった。
まさか。今朝の夢のことを麻耶は思い出す。
公園に着くと雄大はベンチに座っていた。
ようやく陽が昇り始めるが、まだ付近の住民は寝ている時間だ。
当然、公園には麻耶と雄大以外いなかった。
「悪いな、まだ眠いだろう」
麻耶が低血圧で朝が弱いことを雄大はちゃんと知っていて覚えていてくれることに麻耶は嬉しく思った。
もっとも今朝は確かに気だるく感じたが、マッチ箱の件でそんなことを感じる余裕もなくなった。
「ううん。ところで話って何?」
雄大の隣に麻耶は腰掛けながらそう聞いた。
ここに来る途中、覚悟はしてきたが、それでも麻耶は緊張した。
「あ、ああ。そのさ、ここ最近遅かったのは、確かに仕事をしていたわけじゃなかったんだ」
やっぱり。麻耶は雄大の言葉に表情が暗くなる。
「麻耶、少し目を瞑っててもらえねえか?」
「え、なんで?」
まだ話は終わってないのに急に頼み込んでくる雄大を怪しいように麻耶は見る。
「頼むよ」
合掌し、雄大は麻耶に頭を下げて頼み込む。
「わ、わかったわ」
内心、納得していないが最後になるのだからと麻耶は言われた通りに目を閉じた。
目を閉じると他の感覚は敏感になり、麻耶は左手に雄大の手が触れていると気づいた。
「麻耶、目を開けていいぞ」
雄大に言われ、そっと目を開けた麻耶は眼前に雄大の顔があることに驚いた。
「え?」
ふと触れられた左手の指が痛いと思い、視線を左手に移すと麻耶は信じられない光景でも見たかのように目を見開いた。
「これって・・・!」
麻耶の左手の薬指には指輪があった。
銀色とエメラルドが交差した指輪が自分の薬指にあるのを見た麻耶は目の前にいる雄大を見た。
雄大はしゃがんで自分を見上げた状態で、頭をかいている。
「そのさ、帰りが遅かった理由はこれをデザインしていたからだ。お前に会う色や形を考えて、中々決まらなくてな」
「じゃ、じゃあこの指輪は雄大が?」
「デザインは俺だが、作ったのは高校の同級生だ。世界的に有名なデザイナーでな、この一週間だけ日本に滞在するみたいだから、頼んだんだよ。でもまあ、俺が中々デザインを決められなくて、あの時の電話はその時の催促の電話だったんだよ」
「じゃ、浮気とかしてないの?」
麻耶は信じられない展開にどう答えれば良いか分からず、思わずそう聞いた。
「あのな、俺が浮気できるような性格だと思うか?大学の頃から付き合ってたからわかるだろ!」
「わからないわよ!!あんたは何も言わないし、結婚の話を振っても濁してばかりだし、な、長年付き合っていたとしても・・・わからないわよ!!」
麻耶は怒鳴って喋っていくうちに涙が出てきても、雄大に不満を言いつづけた。
「たまにデートに誘ってもおもちゃ屋ばっかりいったりするし、私はなんなの!」
「悪かったよ、でも、だからこそ俺はお前が居てくれて嬉しいと思ってる。毎日、弁当作ってくれたり、夜遅くに帰っても待っていてくれる。正直、ガキみたいな趣味を持っている俺が、彼女を幸せにすることはできるか悩んだ。でも、仕事帰りに親子を見てさ、麻耶と家族を作っていきたいって思ったんだ」
「雄大」
麻耶は泣き止むのを止めた。涙は出ていたが、それよりも雄大の言葉に耳を傾けたかった。
「麻耶、俺と結婚してくれるか?」
雄大の眼は真剣だ。麻耶はわかっている。
雄大が長い付き合いだからわかると言っていたように、麻耶も言わなくてもわかっていた。
ただ、言葉が欲しかった。
言わなくてもわかるというのは、男の幻想だ。
女であり人であれば、時に迷うこともある。
それを切り抜けることが出来れば見えてくる景色もきっと違うのだろう。
麻耶は今、それに立ち会っているように感じた。
「おい、泣くなよ」
「ち、違うわ。これは悲しいからじゃないの・・・」
嬉しいから泣いてる。そう言おうと思ったがすすり泣きで上手く言葉がでない。
麻耶は返事の代わりに雄大を抱きしめた。
雄大は麻耶の気持ちを察したのか、強く抱きしめる。
「ごめんな、心配させて」
麻耶は雄大とそのまま公園に暫くいた。
「そういえば、マッチ箱を気にしてたろ?」
「あ、そうだ。いま、持ってるの?」
「あ、いや、それがなさっき言っていた同級生に上げちまったんだよ」
悪いな。雄大はそう言って申し訳なそうに言った。
「え、でも湿気ってたんでしょ?」
「ああ、俺もそう思ったんだがな。あいつ、綺麗じゃんとか言って指輪を渡して、さっさと行ってしまってな」
大丈夫なのだろうか?麻耶は少し心配した。
「あのマッチ箱に何かあるのか?」
麻耶の表情が良くないことに気づいたのか、雄大も心配そうに聞いてきた。
「実は・・・」
麻耶は雄大に正直に伝えた。
「なるほどな。でも大丈夫じゃねえか?そのお爺さんも麻耶に安心させるために言ったのかもしれねえぞ」
雄大は老人の言葉を信じていないようで、麻耶は密かにため息を吐いた。
結局、麻耶はあのマッチの効果を試さないままでいた。胸の中に渦巻くもやもやした気持ちが麻耶を安心させてくれなかった。
雄大のプロポーズを受けた翌日、麻耶は仕事先に向かうためいつものようにモノレールの改札を通ろう閉じた時だった。
「麻耶さん」
自分の名前を呼ばれ、振り返るとあの老人がいた。
「おじいさん!」
麻耶は老人の所に駆け寄った。
「その様子だと、不満は解消されたようですな」
「はい。結局、あのマッチは使いませんでした」
「ほう!それはそれは、私の店に来なくても良かったのかもしれませんな」
「いえ、あのマッチを見てから自分の気持ちを整理出来たと思っています。ありがとうございました」
麻耶さん老人に頭を下げた。
「いえ、あなたの幸せになろうとする努力があったからこそです」
「あの、ところであのマッチは一体なんなんですか?」
麻耶は老人にマッチが湿気っていた事を話した。
「マッチ売りの少女を知っているかな?」
老人に聞かれ麻耶は頷いた。
「童話ですよね?」
「そう、マッチ売りの少女は寒さの中、売れないマッチで幻影を見る。あのマッチはそれと同じように自分の気持ちを映し出す力がある」
「じゃあ、私が素直に自分の不満を言えたのも」
「そうじゃ、マッチの暖かさに触れたことで自分の気持ちを表したのじゃ。しかし、忠告をしたのを覚えているな」
「一人の時にマッチを擦っていけない」
老人は頷く。
あのマッチの効果は二人いることで大きな力となる。もしも、一人でマッチの火を見てしまえば、己の醜い部分を映し出し、やがて全てを燃やすこととなる」
「全て?」
「そうじゃ、記憶も想いも全てを燃やす。残るのは抜け殻のみ」
一瞬、麻耶は抜け殻になった自分を想像した。
親も友達も雄大も忘れた自分。自分が何をしていたかもわからないまま、あてもなくどこかへ行く自分を想像したら、ぞっと身震いした。
「おじいさんは何者何ですか?」
麻耶は言うつもりはなかったが、無意識に口からその言葉が出た。
「そうじゃのう、かって不満の中を生きてきた老人の遊びじゃ。そういったいわくのある物を若い頃は集めるのが趣味でな、この年になって今の世は不満だらけ、ならばそれらを有効活用できるのではと思って、あんたみたいな悩みが深い人を助けとる」
「じゃあ、いいことですね」
「さて、どうかの。あんたみたいに素直な心を持っていればよいが、中には不幸になった者もおる」
最後に老人はなぜか寂しそうな表情を見せ、麻耶の側を離れて歩き出した。
「じゃあ、お幸せにな」
「あ」
麻耶は呼び止めようとしたが、モノレールを目指して歩く人だかりが老人の姿をかき消した。
仕事場に着いた麻耶は、職場の人に挨拶をしながら仕事の準備に取り掛かった。
カウンター内で仕事をしていた時だった。
カウンターの外は客が待つフロアで、テレビもありその音が麻耶の耳にも入ってくる。
あまり大きな音は出ないようにしてあるのだが、いまは営業時間でもないため麻耶は作業を続けていた。
『昨日、世界的有名デザイナー、神島優一郎さんの行方がわからないと事務所のマネージャーから警察に届け出がありました』
ふと麻耶は作業していた手を止めて、テレビのニュースに耳を研ぎ澄ました。
「事務所のマネージャーによると、神島さんは友人と会った後、連絡が取れず、警察は事件に巻き込まれた可能性もあり捜索しているそうです」
神島優一郎。雄大から昨日聞いた、麻耶の指輪を作ってくれた人物だ。
まさか。麻耶はその考えが当たっていると不思議と感じた。
神島優一郎は最後に雄大からあのマッチ箱を受け取っている。
そして彼は一人の時にマッチに火をつけたのではないだろうか。
何もかも燃えて抜け殻になる。今朝会った老人の言葉が麻耶の頭の中で響き渡る。