after Valentine
バレンタイン。
あなたは誰に贈り物をしますか?
「うーん」
かれこれ30分。
俺は自分の部屋の椅子に座って、考えを巡らせていた。
「うううーん」
机の上に置かれた、箱を見つめて。
カチャーー。
「お兄ちゃんうるさい」
ずっと隣の部屋で兄の唸り声を聞いていたんであろう。
1つ年下の妹が、俺の部屋のドアを開けて顔を覗かせた。
「ずーと、唸ってるんだもん。どうしたの、あ」
そこまで言って何かに気づいた妹は、ズカズカと俺のところまでやってきて、ヘッドロックをかけてきた。
「え、何々。バレンタインのチョコ?どしたの、え〜?」
「いててて。いて。いてえよ。離せって」
妹は離れると、チョコの入った箱を持ち上げた。
「ふーん。手作りかあ。やるじゃん」
「うるせえ」
「で、誰から?」
「わからん」
「は」
「名前が書いてないんだよ」
「……ええー」
そうなのだ。
名前がないのだ。
朝、登校してきたら机の中に入っていた。
『吉野くんへ』と書いてあったので、俺宛で間違いはない、ハズ。
一体誰からなのか。
家に帰ってからずっと考えていた。
「……てことなんだよ」
「あー。それでずっと唸ってたんだ」
「まあ」
妹は少しがっかりした表情を浮かべながらチョコを机に置く。
「まあ明日、そのチョコの人、お兄ちゃんの顔色でも伺いにくるんじゃない?」
「……はあ」
だと、うれしいんだけれど。
次の日の朝。
2月15日。
……遅刻だ。
「……時計、止まってんじゃん」
すでに妹は学校へ、両親も共働きなので職場へ出かけた後だった。
……妹め。
兄を見捨てたな。
「二時限目には間に合うかな」
急いで支度し、学校へ向かう。
高校は電車通学ではあるものの、比較的近いところだから助かる。
学校の最寄り駅からダッシュ。
二時限目に間に合うかどうかギリギリだ。
校門をくぐり、下駄箱で靴を履き替える。
下駄箱のところから階段の方に飛び出した。
……前方不注意で。
「うわっ!」
「きゃっ!」
大柄な人にぶつかって、跳ね返された。
(……え。……『きゃっ!』?)
尻もちをついた後見上げると、角刈りの頭に、学ランの上からでもわかるほどのゴリッゴリ筋肉を備えた、大柄なマッチョ男が立っていた。
「あらっ、やだっ。よ、吉野くんっ。ご、ごめんなさいっ」
……。
「……あ、いや、こちらこそすみません」
明らかに上の学年の下駄箱から出てきたのに、なんで俺の名前を知っているのか、なんて疑問はまるで出てこなかった。
とりあえず、なんだかキャラの強い先輩とぶつかって、手を引かれて簡単に起こされた、ということだけわかった。
「……本当にすみませんでし、た」
俺は急いで頭を下げて、階段へ向かった。
ピンクと白のリボン、
可愛らしい丸文字、
完成度の高いチョコ。
ふわふわした感じの可愛い女の子、かなー。
二時限目の授業は自習になっていた。
席につき、チョコをくれた人のことを考える。
やっぱり、自分好みの女の子だと嬉しいよなぁ。
まさか。同じクラスだったりとか……。
クラス中を見回してみるが、やっぱりわかるはずもない。
「吉野、おはー。遅刻じゃん。どした」
「おー、木村、はよ。……時計止まっててアラーム鳴らなかった」
「うわー」
2つ後ろの席の木村が俺の席の横にやってくる。
「俺さ、わかったよ。昨日吉野にチョコくれた人」
突然、木村は言った。
「……。……えっ、あ、え?まじで?」
木村を見ると、ニヤッと笑っている。
「まじまじ。聞きたい?」
「え。お、おう」
まさか、こんなに早く判明するとは夢にも思わなかった。
「三年の先輩で、豪田原先輩っていうんだって」
「ごう……だわら?」
「朝、吉野の席のとこに来てたの見たって女子が他のクラスにいた」
……すごい有力情報。
「……え。で、どういう人?」
はやる気持ちを抑え、尋ねる。
「……それは俺もわかんね。タイミング悪くて聞けなかった」
……まあ。
そんなに、上手くいくわけないか。
「そっか。ありがとな。……にしても俺、2つ上の先輩とは思わなかったわ」
「それな。俺もびっくりした」
俺と木村はその時間中、ずっと豪田原先輩の想像をしていた。
立てカールの巻き髪で、ちょっと強気な美人。
……そういうところで、俺と木村は決着をつけた。
強め美人かあ。いいかもなー。
昼休み。
木村とご飯を食べている。
食べ終わったら、豪田原先輩を見たと言っていた女子に話を聞きに行くことにしていた。
「くそぉ。いいなー。俺も美人の先輩からチョコもらいてー」
「まあまあ。まだ美人と決まったわけじゃないんだから、落ち着け」
「なんだよ。勝ち誇った顔で。くそー。あ、そうだ。今度お前の妹紹介しろよ。可愛いらしいじゃん。今回のお礼にさー」
「うわー、あんなゴリラが可愛い?どこ情報だよ、それ」
浮かれてそんなことを話していた。
しかし少しして、木村が怪訝な顔をする。
「なあなあ、なんかすげえごっつい人がこっち見てんだけど」
「ごっつい人?」
振り返る。
すると。
今朝、下駄箱のところでぶつかった先輩が、ドアのところから顔を出していた。
「あの、誰か呼びましょうか?」
ちょうど通りかかったクラスメイトが声をかけている。
「あら、いいのよ。おかまいなく。ありがとねー」
「……わー、すげえキャラ濃い人だなー。うちの学校にいたんだ、ああいう人」
「……な」
とりあえず。前に向き直る。
木村はまた、俺の家のゴリラについて話始めた。
しばらくして、また木村が言う。
「……あの先輩まだいる」
「……え、まじ?」
「おう。……あ、振り返んな」
「なんで」
「さっきから思ってたんだけどさー」
「ん?」
そこで木村は一息おいた。
「あの先輩、吉野のこと見てる気がするんだよな」
「……え」
「……いや、まじで」
「……」
さっきぶつかったから怒っているのかもしれない。
ここは謝りに行った方がいいのだろうか。
「……いや、怒ってるって感じじゃねえ」
「……マジ?」
「おう。
…………なんか微笑んでるもん」
「……ごめん、そっちの方が怖い」
俺と木村がずっと小声で喋っていると。
廊下の向こうから声がした。
「あ、豪田原先輩!」
……。
ご、豪田原!?
俺と木村は瞬時に廊下へ目を向けた。
廊下の声に応えたのは。
「あらやだっ。なっちゃんじゃな~い」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……は、はは」
開いたままの木村の口から笑いが漏れる。
「はははははっ。ははははは!」
「……おい、何笑ってんだよ」
俺はやっと口が塞がった。
「ははっ!だっ、だって!ひーっ。腹いてえ。わはははは」
「おい」
少し待つと、ようやく笑いがおさまった木村が涙を拭いた。
「……いや、お前が昨日からずっと会いたかった人じゃん。良かったな」
「……」
木村はお茶を飲む。
「まあ、ちょっと予想外だったからびっくりしたけど、まあいいんじゃね」
「……え。いいって、何が、え」
「今の世の中、だいぶ愛に性別は関係なくなってきてるし。まあ、人に好かれるって良いことじゃん?」
木村はにっこり笑う。
「……まあ、そうだけど」
振り返る。
頬をピンクに染めた豪田原先輩が、やはりこちらを向いて微笑んでいた
季節はずれなバレンタインネタでした^^;
書いたのはバレンタインの日だったので、ご勘弁をm(__)m
また次もよろしくお願いします!
(※この作品は「小説カキコ」にて掲載しているものを、少し改訂してお送りしております。「小説カキコ」とは作者名は異なりますが、同一人物でございます。)




