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第二説 悪夢と幻想と理想を見る少女

前回のあらすじ

引きこもりの勇者は、最悪のスタートだった。心を鍛えるため、学校という新たな舞台へと物語は進展する。

「そう、こう学園……?」


「えぇ、クロスから聞いているはずよ。貴方を学校に連れていくわ」


「それなら、やっぱり嫌です」


「そう……じゃあ、良いわ。今までの話は無かったことにする。国という重荷を外し、自由に生き、誰でもない貴方自身を作るチャンスだったけど」


「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それってどういう」


「貴方は国王である必要がなくなるということよ」


「……!」


「貴方は国王という立場が嫌なのでしょう。でもこの提案を受諾しないとするのであれば貴方は生涯引きこもりのロクデナシ国王という汚名を背負い続け、もがき苦しみながら死んでいくのよ」


「そ、それはもっと嫌です……」


「なら、やるべきことは一つよ」


 ライトはニッコリとした。今でも綺麗な顔立ちのままなので年齢を知らない人からすれば確実に落ちる美しさである。


「わかりました……学校、行きます」


 彼は上手く誘導されてしまった。人心掌握は彼女の得意技だ。


「そうと決まれば早速だけど」


 彼女はとんでもないことを口にする。


「学校では女体化してもらうから」


「……はい? よくわからなかったのでもう一度言ってください」


「女の子になってほしいの」


「何意味わかんないこと言ってんですか!」


「天地人は性別自由に変化できるのよ。で、女の子になる理由なんだけど、その学科は女子しかいなくて」


「なんで女子しかいない学科前提で話進めているんですか! 頭おかしいんじゃないですか⁉︎ 年老いてボケましたか⁉︎」


 ボケなどと言われては流石のライトもショックを受ける。


「ぼ、ボケ……と、とにかく今学校が人気すぎてその学科しか空いて無かったのよ!」


「だったら僕学校行く必要ないじゃないですかー!」


 また、話は最初に戻る。いや、彼女はそうはさせまいとしている。


「とにかく行くのよ! そして学んできなさい、社会というのを! 貴方が思っている以上に世界は素晴らしいのだと!」


「っ……もう一回受けてしまいましたからね……わかりましたよわかりました。貴女には敵いませんよ本当。歴代の勇者も貴女のその口でその気にさせていたんでしょうが、僕は心の底じゃまだ納得していませんからね!」


 ぶつくさ言いながら彼は準備をし始めた。その様子を見ながら、彼女は計画通りね、と呟き、女子しかいない学科しか空いていないという嘘は隠しておいた。


 何故、彼をそのような目に合わせるのか。簡単だ。いずれ後継者を生まなくてはならない。そのため、できる限り多くの女性を籠絡させ、所謂俗的な意味のハーレムを築き上げることが彼女の狙いだ。未来が見えなくなった以上、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法で行くしかないという考えでいる。それを彼が知ることは生涯ないだろう。


「入学手続きとかはもう済ませてあるからね」


「焦らせないでくださいよ!」


 そして、あの最悪な挨拶へと繋がるのだ。




 皐月。かなり暖かくなったこの時期、突然の転入だった。この時期に転入などあり得ないのだが、彼女らはそのかなり臆病な彼を受け入れた。最悪なスタートだったとはいえ、生徒は貴族が中心であるため(金を持つ者しか学校には入れなかった)、彼に対する振る舞いは上々である。


「リューゲンさん、はじめまして」


 あまり女性名っぽくないので疑われるのではないかと思っていたが、そんな事もなく話し掛けてくれた。が、彼は話し慣れていないので、ぎこちなく言う。


「は、はじめま、して……」


「何処の出身なの?」


 多方面から質問責めだ。これは、転入生あるあるの一つだろう。興味を示すことは決して悪くはない。だが、彼は女性に対してあまりにも耐性がなさすぎるので緊張の度合いが違う。匂いが充満し、泣きたくなりそうだった。


「ぶ、ブリタニア……」


 デグラストルといえば、すぐにバレると思い、嘘をついた。


「ダグラスなんて貴族いたかしら」


「な、成金なもので」


 成金が自分で成金なんて言うものか、と自嘲した。が、今回は上手く騙せたので、そのまま押し通すことにする。


「さっきのは緊張してて上手く話せなかったんだよね。大丈夫だよ。皆仲が良いから。ああ、でもあの子には近寄らない方が良いわ」


 とある女子は反対側に座っている女子を指差し、言った。


「話し掛けても無視するのよ。貴女もきっと彼女から無視されるわ」


 感じ悪いよね、とそばにいる皆から言われる。


「……な、名前はなんて言うんですか、あの子の」


「クリス。クリス・ブラウン。貴女と同じブリタニアから。ま、関わっても無意味だと思うけど」


「そう……ですね」


 彼はひとまず周りに合わせたが、彼は少し彼女に興味が湧いてしまった。


 何事もなくその日を終えた。女子寮へと向かおうとするが、やはり気が引ける。


「うう、僕本当に女になってしまっているんだよな」


 チラリと服の中を覗くと少し大きくなった胸が見える。何もそこまで変化しなくて良いのに、と溜息を付きながら門を通る。


「えっと……僕の部屋は二階の五号室か」


 階段を登っていると、いつもと違った景色が見えてきた。


「地上って結構悪いものじゃないなぁ」


 彼がこれまで恐れていたもの。それは地上も含まれていた。だが、一度出てしまえば慣れるというもの。


 部屋に辿り着くと、隣の部屋がブラウンと書かれていた。


「今日、関わらない方が良いって言われていた人か……でも、挨拶くらいはした方が良いよな……挨拶……か、僕にちゃんと出来るのかな……」


 ウジウジしていると、部屋からクリスが出てきた。


「あんた、声が無駄にデカイ。丸聞こえよ」


 ひっ、と身を固めると、クリスは眉間にシワを寄せた。


「クラスの連中があんたに何言ったかは知ってる。粗方合ってるわ。あたしは無口で、感じの悪い女だと」


「何も自虐しなくても……」


「良いさ。あいつらと馴れ合うつもりなどない。あんな気色の悪い陰湿で狡猾な連中、大嫌いだ」


 女性特有の縄張りというものだろう。彼女はそれからあぶれてしまっている。


「そ、そこまで言わなくても」


「あんたも気をつけろよ。それこそあたしと関わってたらあいつらに目を付けられる。話はこれくらいにしとくわ」


「まっ、待ってください」


「何?」


 部屋に戻ろうとするクリスを引き止めた。


「あ、いや、想像してたのと違った感じの人だったから……その、何というか、優しいんですね」


「そうかな」


「優しくなきゃ、敢えて自分と関わるな、なんて言いませんよ。あの、もし差し支えがなければ今後も仲良く……」


「仲良くはできない」


 即答された。落ち込む彼を見て、頭を掻きながら続けた。


「あたしと仲良くしたいのなら、今後次第だ。なんせ、あの最悪の自己紹介をされたんだから。まだ貴女の事を何も分かっちゃいない。だからこっちもこっちで心の内を晒すつもりもない。仲良くなるということはそういうことよ」


「わ、わかりました。今日のところはこの辺にしておきます……隣なのでどうぞこれからよろしくお願いします」


 彼は頭を下げた。これまでの生活なら絶対にあり得ないことだった。王が頭を下げるということは余程の事態、或いは国そのものが終わる時だ。


 彼が部屋に入ろうとすると、今度は彼女が引き止めた。


「リューゲン、だったわね。名前くらいは覚えておく」


「……! あ、ありがとうございます」


 彼は満面の笑みだった。それを見た彼女は少しだけドキっとしながら部屋に戻っていった。


 部屋に入り、荷物を整理していると、中から剣が出てきた。


「何でこの剣が此処に……」


 いざという時のためだろうか。ライトが差し向けたに違いない。と、彼は考えた。


 その後、慣れない調理をし、イマイチな味付けの野菜炒めを食べ、男に戻り、シャワーを浴びてその日は寝た。




 次の日、二人の会話を見ていたものは誰もいなかったので特に何の事件もなく放課後を迎える。


 女子寮。やはり彼は彼女のことが気になるので扉をノックした。


「誰」


 小さな声が聞こえてきた。


「りゅ、リューゲンです」


 これまた慣れない偽名を言う。


「ああ、入りな。あんたなら別に、良い。鍵なら開いてる」


 彼は部屋に入れさせてもらった。


「こ、ここがクリスさんの部屋なんですね」


 想像の上を行く部屋だった。てっきり、生活感のない部屋だと思っていたが、至って普通だ。だが、一つだけ奇妙なものがある。


「この壁に描かれているのは誰ですか?」


 壁一面に描かれた人物。右目が髪の毛で隠れている。


「そ、それは気にしないで。まさかそこに注目されるなんて」


 途中から小声になる彼女は無視するように促す。が、


「え、かっこいいじゃないですか」


「そ、そう?」


「誰なんですかこの人」


「それは……伝説上の人物よ。本当にいたのかも分からないけど。名前はレイグラン・ダグラス・デグラストル。そういえば貴女もダグラス性ね」


 予想通り、レインだった。


「まあ、そうですね……でもなんでレイグラン?」


「レイグラン様、よ。私の憧れの存在」


「憧れ……まさか、その口調とか、性格って」


「気付いた? そう、あたしは彼に憧れて伝記にあった台詞の口調を真似している」


「なんでよりにもよってレインなんだ……」


 彼は呟いた。先代天地の勇者。それはあまりにも遠すぎる存在だ。自分と違い、何もかも失った状態から生き抜き、全てを乗り越え成し遂げた人物。憧れでもあるが、同時にそんな先祖のせいで苦労したので憎かった。


「どうした?」


「いや、別に……。まあ、レインは実際に存在していましたけどね。その妻が今も生きているので」


「やっぱり、そのダグラス性って関係あるんじゃ?」


 察しの良いクリスは彼に聞いた。


「む、無関係ですよ。僕は別に誰でもない、ただの成り上がりの子どもですから」


「そう、残念。ところで、話があるんじゃないのか? わざわざ尋ねたんだ」


「あ、えっと、昨日の続きというか、そのどうやったら仲良くなれるのかな、と」


「ああ、その事なら、今あたしはあんたに秘密の一つを教えてしまった。なら次はあんたの番ね。それが仲良くなることの第一歩」


「ひ、秘密ですか」


 秘密はあまりにも多すぎた。先程成り上がりの子どもと言ってしまったので実はデグラストルでした、などと言えない。ではどうする。彼はこれを選択した。


「じ、実は……」


「実は?」


「実は、僕、友達が一人もいないんです」


「ああ……え、秘密っていうのかそれは」


「ご、ごめんなさい……思いつかなかったので」


「あんた、結構間抜けなんだな。気に入ったよ」


「ど、どうも、です」


 クリスは手を伸ばしてきた。


「手、出しな」


「は、はい」


 彼もまた手を出すと、握手される。


「仲良くなるということはこういうことだ。これからあたし達は友達、だな」


「ありがとうございます」


 彼は分からなかった。何故、ここまで良くしてくれる彼女がクラスで嫌われているのか。そこを追及したかったが、言うに言えなかった。


「飯、作るからよ。お前も食って行くか?」


「良いんですか?」


「当然だろ。じゃあ待っていろ」


「ぼ、僕も手伝います」


 とはいえ、彼の料理スキルは大したものではないので、準備ぐらいしか出来なかった。


 食べている間は無言だった。食べることに集中していたからである。


 その後、適当にきりをつけ、自室に戻った。


「……明日、皆に聞こう。どうしてそこまで彼女を疎外するのか。もしかしたら彼女の味方になったのかと思われて、皆から嫌われるかもしれない。けどそれは仕方ないよね。僕は……もっと意味のある会話をしたい。そのためには、彼女の存在は重要だ」




 その夜の事だった。突然、壁がドンと音を立てる。寝ていた彼は起こされ、何だ何だと慌てる。


「そっちってクリスさんの部屋……何かあった⁉︎」


 急いで着替え、部屋を出る。そして彼女の部屋を開けようとするが、鍵が掛かっている。


「もし変な奴が侵入してたら……くそ、こうなりゃ」


 扉を蹴破り、警戒しながら中に入って行った。すると、彼女一人だけだった。侵入者はいない。それでホッとするが、何か様子がおかしい。彼女は魘されていた。


「悪夢でも見ている……?」


 尋常ではないほどの汗と呻き。彼は起こそうとするが、起きない。


「どうなっているの……」


 彼はこの異変の原因が分からなかった。こんな状況は初めてだ。


「どうすれば……」


 迷っていると、腕を掴まれた。そして、助けて、と彼女は呟いた。


「……!」


 その時、彼の脳裏に一つの答えが出た。単純だ。彼女を助ける。ただ、それだけ。


 臆病な彼は、変わろうとしていた。その思いに彼に眠る神が目醒める。


『汝、我力欲』


 不意に頭にこの言葉が刻まれた。誰、と問うとそれは答える。


『我、夢幻神。夢世界秩序守神。汝、我力欲』


 断片的だが、それが何を伝えようとしてきたのかがわかった。


「君は、夢の世界を守ろうとしているんだね。じゃあ、僕を彼女の夢の世界に連れて行ってくれるの?」


 それは答えなかった。だが、彼の目の前に天地の剣が出現する。夢、幻の宝玉が既に嵌められている。


「僕もまた勇者なんだな……」


 先代達は勇敢に戦った。それに彼は続く。だが、次の戦いの舞台は未知なる世界。前人未到なる夢の中。


 彼は無意識の内に神格化の詠唱をした。これは夢幻神によるものである。この世界に入るには、神格化であることが前提なので、それを知らない彼を手助けしたのだ。


「夢に落つるは人の精神(こころ)。儚きそれはやがて食い潰される。それを護るため降臨するモノ、夢幻神。神格化せよ。そして彼女の中へ」




 夢は混沌としていた。あらゆる事象が混ぜこぜとなり、押し潰されそうになる。特に今は悪夢であるため、暗いイメージが世界を覆い尽くす。


「これがクリスさんの夢の世界……いや、精神世界というべきか」


 突然、森が現れる。現れるというより、木が大量に生えてきた。この奥に彼女がいるのだろうか。


「一体どんな夢を見てるんだろ……」


 恐る恐る奥に進むと複数の声が聞こえてきた。


「なんでまだここにいるの?」


「やめて」


「早く消えれば良いのに」


 それは、罵りだった。


「やめて!」


「リューゲンさんと仲良くなったみたいだけど……彼女は君のこと良く思ってないんだよ」


「うっ……ぐっ……」


 複数の声の正体はクラスメイトで、クリスを囲んでいた。彼女からは涙が零れていた。


「クリスさえ居なければみ〜んな仲良いクラスになれるのになぁ」


 ゲラゲラと嗤われる。


「やめろよ……」


 彼は小声で言った。が、聞こえていたようで、全員が彼の方を向く。


「誰?」


「さあ?」


「闖入者はお断りだよ」


 今の姿はリューゲンではなくレイザそのものなので誰も正体を知らない。


「誰でもないけど、そこにいる人を救いに来た」


 彼は知った。彼女は本当は弱いのだと。仲間外れにされ、スレて、だから独りでも強く生きた英雄を崇めて、自分も一人ぼっちになっても生きたいという願望がこの夢に現れている。だが、その願望そのものが彼女を押し潰そうとしている。結局、上手く行かないという被害妄想が、今の状況になってしまっている。


「レイン様……?」


 彼女は混乱していた。自分を助け出してくれるとすれば、それは英雄しかいない。だから彼を誤認し、レインと勘違いをした。彼は先代のことを少し嫉妬しながらも、今はレインとして合わせた方が良さそうだと判断し、話を進めた。口調も含めて。


「そうかもな。ぼ、いや俺はお前をここから救い出してやる」


「どうやってこの女を救おうっての?」


「どうしようもない惨めな女をか!」


「黙れ! そうやって自分を追い込むのは俺は好きじゃない!」


 彼もまた同じように自分自身を追い込んでしまったことがあるからだ。


「クリス……目を覚ますんだ。お前はもう一人なんかじゃない。今日、友達が出来ただろう。そいつがきっとクラスメイトと結び付けてくれる。お前が今までクラスメイトと仲良くなれなかったのは自信の無さからなんだ。照れ臭くて上手く行くかわからなかったから無視してたんだろ。大丈夫さ。クラスメイトはああ見えて本当は誰だって仲良くしたいんだよ。陰湿な事なんて妄想に過ぎない」


 と言っても、本当に自分が出来るのだろうか、と不安になる彼であった。


「レイン様はあたしのこと、お見通しなんですね」


「当たり前だ。俺は全てを知り尽くし、全てを超えているからな」


 よくクロスが自慢話で先代の口癖を言っていたので、それを真似をする。


「あたしも……貴方様のように強く生きられますか」


 強く、か。僕はまだ全然強くないけどなあと彼はぼやきながらも、ああ、その意志があるなら必ず、と答えた。


 すると、周りにいたそれらは形を崩した。彼女の意志が反映された。ただ、それで終わるわけではなかった。


「この悪夢の原因は単なる被害妄想からではないようだな」


 もっと別の悪意が感じられた。誰かによって仕向けられたもの。


「レイン様!」


 考え事をしていると、彼女は抱き付いてきた。


「んなっ⁉︎ いきなり何を」


「じ、自信を持てって言うからまずは大好きな貴方様に近付こうと」


 慣れない事に慌てふためく。


「た、確かに言ったけど、今やるべきではないと思う、ぞ?」


 抱き着かれて嬉しくないわけではないが、好意は先代の方に向いているのでこれまた彼は少し嫉妬する。


「そ、そうですか……ごめんなさい」


「良いけど……それより、変だとは思わない? こんな不自然な悪夢、あるのだろうか」


「……? どういうことですか?」


「悪意を持って生み出されている気がするんだ。君の意思とはまた別の何かが」


 気が緩んでいるので、口調が元に戻ってしまっている。が、彼女は気にしていないようだ。何せこれは夢だから。


「分からないです……気付いたら皆に責められてたから」


 何か手掛かりはないのか、とまた考えに耽りそうになると、先程形を崩したものが動いている事に気づく。


「まさか……」


 やがてそれは集まって行き、形を整え、まるで邪神のような姿になった。


「貴様の予感は的中だ勇者。この女に悪夢を見せていたのはこの我自身。弱みに付け入り、味わわせてやったのだ」


「っ……! 何という卑劣な奴……お前は一体何者なんだ!」


「我は虚神の一つ。人の精神に入り込み、それを裏で操るもの」


 邪神ではなく、虚神。また新たな神が出てきた。現実における戦いの相手が邪神であれば、精神世界における戦いの相手は虚神となるわけだ。


「邪神じゃ、ないのか」


「表裏一体よ。我が外に出れば邪神となる。だがまだ不完全であるため、虚神でしかない」


「……大体分かったよ。俺のやるべきことが」


 それは、邪神として現実に出現する前に、虚神の内に倒すということ。


「これは俺だけが出来ることだ。クリス、悪いけど下がっていてくれないかな」


 彼女は頷いた。この戦いを彼に預けた。そして彼の活躍を目に焼き付ける事だろう。


「えっと……確か先代は」


 こうなればあの決め台詞を言うしかない。


「例え此処が夢の世界でも、俺はお前を超えるだけだ! ってね」


 ついでに自分なりの決め台詞を付け加えようとしたが、上手く思いつかなかった。次までには決めておこうと思う彼である。


「レイン様、頑張って」


ㅤこの子、もし自分がレインじゃないって知ったらどうなるのだろうか、という疑問を抱きながら、戦いを始める。


ㅤだが、戦い方を知らない彼は剣を乱暴に振り回すだけだ。隙を見た虚神は弾き、殴った。


「ガハッ!ㅤくそ……」


ㅤずっと引きこもっていた弊害が出てしまったなと後悔する。


ㅤこのままでは勝てない、そう思っていた時、無の宝玉が輝き出した。


「何だ、これ」


ㅤ導かれるように剣に嵌めた。すると人格が乗っ取られたかのように体が勝手に動き出す。


『今回だけだぞ。俺の真似をして……全く』


ㅤ幻聴がした。どこか懐かしい声だった。


「急に動きが変わった⁉︎」


ㅤ虚神もこれには驚く。たちまち彼の動きは俊敏となり無駄のない振りを見せた。もう一度殴ろうとしてもそれは空振り、既に伸び切った右腕の外側に彼はいた。そのまま斬りつけられ、吹き飛ぶ。


『天地の勇者は自由自在だ。本能に従え。限界などない。それを今から体に刻み付けてやろう』


ㅤその幻聴の後、口が勝手に動く。


「古より伝わりし我が一族の力を見るが良い。火水闇風(かすいおんふう)天地鳴動(てんちめいどう)‼︎」


ㅤ素早く火、水、闇、風に宝玉を入れ替え、剣から四つの属性の巨大な光線を放った。それを直撃した虚神は溶けていった。


「ただの人間如きに我が敗れるというのか!ㅤバカな、バカナァァァッ‼︎」


「俺は天地の勇者だ。天地人であって、人間ではない。相手を間違えたようだな」


ㅤ宝玉の効果が無くなると、彼は戻ってきた。


「……はぁはぁ」


ㅤ体が自由になったことで、疲労がドッと出てきた。こんな無茶な動きを先代はやっていたのか、などと思っていると、クリスが出てきた。


「終わった……んですよね?」


「ああ、間違いなく」


「あの……ありがとうございました。あたし、一人が嫌で、本当は仲良くしたい。でも自信がなくて。だからレイン様に縋ってました」


「大丈夫。もう、一人じゃないから」


「……そうですね。ところで、冷静に考えたんですけど、レイン様じゃないですよね?」


ㅤクリスは彼がレインではないと思い始めた。それもそのはずで、彼の髪色は緑であって、黒ではない。


「あ、あはは。バレちゃったかな」


「結構前に……でも、例え貴方がレイン様でなくてもあたしを助けてくれたことは事実ですから。お名前は何て言うんですか?」


「俺、僕は……レイザ。レイグランザ・ダグラス・デグラストル。レインの子孫で、僕もまた天地の勇者なんだ」


ㅤ彼はもう、隠すことはしなかった。


「そうですか、それで最初レイン様と間違えてしまったわけですね……まさか子孫の方がわざわざ助けてくれるなんて」


「あんまり卑屈にならないで欲しいかなぁ」


ㅤ過去の自分を見ているようで、嫌になるからだ。


「あ、ごめんなさい」


「良いよ。じゃあ明日から仲良くね」


「は、はい」


ㅤ夢の崩壊が始まった。彼は神格化を解くことでそこから抜け出す。そして彼女は目を覚ますのだ。




「……酷い夢を見た」


ㅤクリスは目を開けると、呟く。それを見た彼は良かった、と返した。


「リューゲン⁉︎ㅤ何故ここに⁉︎」


「何故って……唸ってたり壁を叩くから心配で見に来たんですよ。扉を蹴破ってしまったのは謝ります……」


「そう……すまなかったな。だが、悪夢はもう見ることはないだろうよ。ある人が助けてくれたんだ。それで、これからはクラスの連中と、な、仲良くしようと思う」


「随分と人が変わったように見えますね」


「そりゃまあ……あの人との約束だし」


「あの人ってどんな人ですか?」


ㅤ何と白々しい物言いだろうか。


「レイザ……様。あのレイン様の子孫で格好良かった」


「成る程……しかし、都合良く悪夢を見ている時に助けに来てくれましたね」


ㅤ本人が目の前に居るから当然なのに意地悪な男である。


「それはあたしも思うさ……だけど、天地の勇者ってのは世界中の困っている人をタイミング良く助けてくれるのかもしれない」


ㅤそれはわからないけど、と彼は思った。


「だと良いんですけどね。じゃあ、僕戻りますね。明日からはみんな仲良くしましょう」


ㅤ彼は自室に戻った。そして男に戻り、寝た。


「レイザ様……また会えるかしら」


ㅤ儚い思いがまた一つ、作られた。




ㅤ次の日。彼の仲介もあってか、クラスメイトのクリスへの誤解を解くことが出来た。彼女は、本当は皆と仲良くしたかったけど、自信がなくて黙っていただけなんだよと彼が言うと、あっさり理解してくれたのだ。貴族出身のためか、ある程度の教養はあるらしい。彼はすんなり行ってくれて助かっていた。


「ありがとうなリューゲン」


「お安い御用です。これで全員が仲良くなれましたね」


ㅤギスギスすることのない平和な世界。誰かにとっては退屈かもしれないが、彼からすれば居心地の良い住処になりそうだ。だが、これで終わったわけではない。次の悪夢はすぐにくる。


ㅤそして彼は、己の無力さを嘆き、毎日の鍛錬を開始しようとしていた。

次回予告

明るい奴がいつでも明るいとっては思っていたら大間違いだろう。もしそうなら、それは異常だ。普通なら、喜怒哀楽全てがあるはずだ。彼女もまたそれだろう。

次回、PHANTOM LEGEND 第三説 太陽と月と星の瞳

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