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第一説 弱気で内気で卑屈な少年

「は、初めまして。僕は……えっと、リューゲン・ダグラスです。趣味とかは……ないです。何処にでもいる普通の人なんで特に面白い人でもないです……よ、よろしくお願いします……」


 最悪の自己紹介から始まる学園生活だった。リューゲンと名乗ったが、実は、その正体はデグラストル三十八代目国王のレイグランザ・ダグラス・デグラストルだ。今、レイザは偽名を使い、学校にいる。それは数日前、とある話し合いで決まったことだった。




「いつまでそうやって部屋に篭ってるつもり?」


 デグラストルの御意見番となっていたクロスは、国王になってからずっと閉じこもっているレイザを外に出そうとしていた。母であるエリーザは無理に外に出す必要はないと考えてはいるが、彼女は何とかして外に出してやりたいと考えていた。三十七代目にして父のレイギはそんな姑みたいになった彼女と妻との喧嘩(とはいってもクロスが一方的な訳なのだが)に挟まれ窮屈になっていた。


「嫌だと言ったら嫌です……こんな世界……僕は、嫌いだ」


「なんでいつもそうやって否定するの? この世界はね、貴方の先祖が命を掛けて作り上げてきた世界なのよ! そんな世界をどうして嫌いなんかに」


「そういう押し付けが嫌いなんです! 僕は……強くなんかない。貴女はきっと英雄と僕を一緒にしているんだ!」


「……確かにそうかもしれない。私はレインの事が今でも忘れられない。貴方をきっとあの人と同一視してる……でもそれだけじゃないわ。今の貴方を見て、国民はきっと失望するわ」


「僕は……僕は国王になりたくてなったわけじゃないんだ! 皆僕に勝手に期待して……僕は何にもできないのに……」


 どこで教育を間違えたのだろうか、とクロスは悩んでいた。どう言っても捻くれ、否定し続ける彼を見て、辛くなった。


「クロスさん……良いじゃないですか、別に」


 エリーザがやってきた。いつもの喧嘩を宥めようとしている。


「エリーザ……そうね。今日はここまでにするわ。だけど、レイザ。一つだけ言っておくことがある。もし国王という立場が疲れるのであれば、私からある提案をさせてもらうわ」


「提案?」


「どうせロクなことじゃないでしょ」


「学校に行くことよ」


「……」


 レイザは、答えなかった。クロスはその場から離れ、裏庭に向かった。


 ところで、学校とは、正しく教育のための学校だ。これまで学校とは、明日を生き抜くためのサバイバル知識を備え付けるために作られていたが、近年、大和(旧聖都)が学校改革を名乗りだし、誰しもが知識を身に付け、有識者となるために新たな学校として生まれ変わった。まだ数は少ないものの、世界中から子どもたちが集っている。


 裏庭に出た彼女は壁に手をつき、俯いて独り言を話していた。


「レイン……貴方ならこんな時、何て言うのかしらね……私はもう時代遅れなのかしら」


 悔し涙が出た。もう、彼が死んでから百年以上も経つ。その後の世代も皆死んでいった。息子、孫、そう、彼女は家族との別れの経験が余りにも多すぎた。おかしくならない方がおかしいのだ。だが、救いはあった。それは友人のリベルト、ハースの存在だ。二人も堕天人なので、寿命が長く、健在である。今は王では無くなったのでふらりと旅に出て帰っていないらしいが。またリーファンも生きていた。改造された肉体はそう簡単に死ねないらしい。死地を求めて彼もまた旅をしているそうだ。そして、いつの時代にもいる、あの女性がいた。そう、今まさに彼女の背後に。


「あの子ならきっと『超えるべき壁を超えない限り明日は来ない。世界が嫌いだというのなら世界を超えてみせろ』なんて無茶苦茶な事を言うでしょうね。さて、何かお困りかしら」


「……わかって言っているんですよね」


「えぇ」


「ライトさん」


 デグラストルあれば彼女ありと言わんばかりにライトの存在は大きかった。


「貴女も私の苦労がわかったかしら」


「嫌になるくらいには……。それで、レイザをどうやって外に出そうかわからないんです」


「貴女の言うとおり、学校に行かせるのが手っ取り早いわ。世界を見直すという点、コミュニケーションの向上、内気から外向的に。それが出来ないのならあの子は根本的に才能がないとしか」


 ライトはもう女王を引退していた。なのでふらりとデグラストルに現れてはクロスの手助けをしている。ちなみに、今は光の国ではなくブリタニアとなっている。


「ライトさんもそう思いますか」


「なんなら私が説得しても良いわ。クロスはいつも必死だからね。違った視点から囁いてあげるところっと変わるわよ」


「う……返す言葉もないです」


「それじゃあ行って来るわ」


 ライトさえいればデグラストルは安泰だとクロスは思っている。ただ、彼女はもう未来予知の力は無くなっていた。




「レイザ」


 彼の部屋の扉を優しく叩く。返事はない。


「眠っているのかしら。それならそれで良いわ。私は今から独り言を話すから」


 彼女は一呼吸置き、話し出した。


「かつて、色んな個性を持った人達と出会ったわ。時には大切な仲間を失い闇の底へ堕ちて行った人、時には窮屈な国を嫌い、最期まで帰らなかった人、時には全てを失ってから人生を始めた人」


 彼女の知る歴代の勇者だ。


「でも、彼らには希望があった。どんな時にでも側にいてくれる人がいたから。一人は闇と光を手にし、未来を勝ち取った。一人は旅の目的を果たし満足した。一人は全てを超え、平穏を齎した。これは独りでは決して出来なかったこと。貴方はまだ一人だから分からないかもしれない。外に出れば、貴方と共に生きてくれる人がきっといる。今は分からないかもしれない。未来は不安かもしれない。でもそれが人生なのよ。初めから何もせず、卑屈になっても世界は何も変わらないし、貴方はいつまでもその世界が嫌いなまま。嫌いなままで良いならそれでも良い。けど、私なら嫌いになるくらいならそれを吹き飛ばして好きに変えてやるわ。もし貴方がここから出てくるのなら、とある場所を案内してあげる。……貴方の選択を楽しみにしている。それじゃあ」


 踵を返し、部屋から離れようとすると、ガチャリと扉が開く音がした。


「待って……ください」


 そこには、少し幼い顔をした少年がいた。ライトは立ち止まり、少年の次の言葉を待った。


「僕も……先祖の人みたいになれるのでしょうか」


 血は争えないようだった。彼もまた希望の一つ。


「えぇ、なれるとも。不安が自信になるくらいに」


「じゃあ、その案内先は」


蒼紅(そうこう)学園よ」


 彼の不可思議な人生の一ページ目が綴られる。

次回予告

誰だって臆することがある。それを乗り越える事で人は強くなれる。少年よ、お前はそれができるか?


次回、PHANTOM LEGEND 第二説 悪夢と幻想と理想を見る少女

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