003 1-03 SR Silent Runners.
長いです。覚悟を決めてお読みください。…まあ、そんなに大げさなコトでもないんですが。あと中々風邪が治ってくれません(笑)。
薄暗い通気路を這うように移動してどれほど経ったのか。ゴーグルを通じて網膜に直接投影された時間を見てそれ程経過していないことに軽くショックを受ける。
多機能ゴーグルには低視光機能があるが、もとより暗闇を苦とする瞳ではない。この程度の暗さならゴーグル無しでも問題はない。だからといって外すわけにはいかないが…。
さらに通気路を進むことしばらく、暗闇に慣れた瞳が僅かな光を捉えた。
(お…、もしや…)
視線でゴーグルを操作しマップを確認。そこがこの迷宮の出口であることを確認。
(よっし…!)
俄然、力が籠もる。
匍匐前進を極めたのか、その速さは今までの比ではない。
――ザザザザザッ……
下からみれば不審極まりないその様子を幸いなことに咎める者はない。
光の元である、格子状のフィルターに手を掛け、慎重にそれを外す。
見事に音もなく外すことに成功すると、やはり音もなく飛び降りる。…足元を確認せずに。
『danger』
視界の端にそんな文字が踊るが時既に遅し。
『…………』
目の前の警備用ドローンの知覚センサーと目が合った。
(…………やべぇ)
この警備用ドローンは全長140cmの円柱型というどこか愛嬌のある姿をしていながら、侵入者には警告しつつ、内蔵されている機関銃で対応し、あるいは警備部に無線で異常を知らせる機能が搭載されている。
「…………。」
見つめ合うこと幾秒、しかしドローンは機関銃の掃射も、警備部への連絡を入れる事無く、自分の巡回経路に戻っていった。
「ふぅ、危ないトコだったぜい。」
ドローンが彼を認識しなかったのは、このビルの外にいる駆の卓越した電脳技術のおかげである。
いまこのビルの警備システムは駆の手の中にある。例えば先程のドローンの事もそうだが、今のやりとりを見ている監視カメラも既に駆に支配されている。延々と何事もない映像を警備部で待機している者達に見せていることだろう。
(さてと…、)
投影された立体マップで目標地点がまだ階下であることを確認、その足を静まり返った暗闇へと向けた。
***
僅かな光に照らされた道を職務放棄した監視カメラに向かってVサインしたり、警備用ドローンに挨拶したりしながら進み、目標の階に、無事到着。目の前に前と右に分かれる角を確認してその足を止める。
立体マップには、この角を曲がった先に警備員が二人いることを示すアイコンが表示されている。
『3…、』
久々に表示された数字。しかし慌てることは、ない。
『2…、1…、』
静かに息を整え、
『0…。』
躊躇わず飛び出した。
警備員が進の姿に僅かにに動揺するも、それは一瞬。すぐに腰に提げていた拳銃を構え、少年に向ける。
だが、少年が囮であることに気付くこともなければ、ちょうど真後ろにある、天井の格子状フィルターが外されていることや、さらにそこから少女…両手に麻酔銃を持った…が音もなく降りてきたことに気付くこともない。
――パシュパシュッ!
遠慮せずに延髄に打ち込まれた小型麻酔銃で、昏倒する警備員二人を走り込んだ進が支える。
二人をそっと寝かせてから、進は降りてきた少女に目を向ける。
歳の頃は進と変わらないであろう少女は、上は動きやすく色気のないシャツに、下はチェックのミニスカートにスパッツ、足元はスニーカーという格好で、何を思ったか倒れた警備員の銃に手を伸ばしている。
「…何してんの?」
「ん?万引き。」
呆れ返った進の問いに少女はゴーグルを付けた顔を向ける。先程の麻酔銃は既に後ろ腰のホルダーに収められ、代わりに銃を持っている。
手にした銃の作動チェックを行う姿はとても少女とは思えない程、様になっている。
一通りチェックを終わらせた少女は前を見つつ、
「それじゃ、お仕事の続きをしよっか、進?」
と、自分の兄…三つ子なので上も下もないが…に声を掛け、対して進は、
「ああ、そうだな…、歩。」
と、やはり前を見つつ自分の妹に言葉を返す。
ゴールは近い。
…その前に、
「歩、万引きは犯罪だよ。」
「うん、知ってる。」
――ゴンッ!!
進は、とりあえず教育的指導(拳骨)を行った。
ようやく出ました新キャラ。無理矢理出した気がしないでもないですが。区切っても良かったんですが、これ以上だらだらするのもなぁと思い、繋いでみました。どうでしょうか?ご意見・御感想いつでもお待ちしております。気軽にどうぞ。次回更新はやっぱり来週の火曜日を予定してます。ではロドリゲスでした。