014 2-06 ID Interval Days. 三つ子の事情。
後書きにちょっとお知らせがあるので確認お願いします。
『桃中家荘』管理人室にて進、歩、駆の三人は集まって…否、正確には集められていた。
テーブルに先程の順番で座っているのだが、先に来ていた進はなぜか突っ伏したまま動かず、頭には冗談のようなたんこぶが出来ている。
そしてその三人と対峙するように座っている女性が、この『桃中家荘』の管理人である。
年の頃は四十代ほどで茶色の髪を後ろでまとめた恰幅の良い女性なのだが、その顔は不機嫌そのもの。
周りから見れば『やんちゃな兄弟を叱り付ける母親の図』という風に見える
あながち、その表現は間違っていない。
彼女の名前は『ビッグ・ママ』通称『ママ』。無論、本名ではない。
「話は聞かせてもらったよ」
と言って一枚のディスクを取り出した。
歩と駆はそれに見覚えがあった。彼ら三つ子の初仕事の際、進が余計に盗んだものだ。
「えー、と『ママ』?それはその」
駆が恐る恐る口を開くが、それを『ママ』は視線で制する。
「もうそのことで、とやかく言う気はないさね」
ここでちらりと進に視線を向ける。
「このバカたれも反省してるみたいだしね」
正確には反省させられたのだが。
うめき声とともに進が面をあげた。
「うう、痛ぇよ『ママ』、…あれお前らいつ来たんだ?」
「気付いてなかったの?」
「何のことだ?」
「『ママ』手加減してあげて。これ以上バカになられたら困る」
「ちょうどいいクスリさね」
まだ痛いのか、頭をさする兄をいろんな意味で心配する妹弟。
ちなみに『ママ』がやったことはただの拳骨だったのだが、やけに痛かった印象を進は受けた。
話が一段落ついたところで、駆がやおら切り出した。
「で、『ママ』なんで僕達を呼んだの?」
「もしかして仕事?」
「ンなわけあるかね、全く…」
歩の、期待に満ちた言葉を『ママ』は切って捨てた。
『ママ』こと『ビッグ・ママ』はこのアパートの管理人の他に、仲介屋の一面を持つ。
仲介屋とは進たちのようなフリーランスの便利屋などに仕事を斡旋する職種のことで、バイト感覚でやれる小さな仕事から、大きいものなら超大手企業からの依頼がある。
前回の仕事は中々難度の高い仕事であった。
「そう簡単に大きい仕事が回ってくるなら苦労はしないさね」
『ママ』は肩をすくめ、話を続ける。
「ま、依頼人を選ばなきゃ多少はあるんだがね」
兄弟たちはある特定の依頼人からしか仕事を引き受けないようにしていた。
「わりぃけど『ママ』、俺らさ――」
「わかってるよ」
申し訳なさそうに口を開く進を、いつもの厳しく、しかしどこか優しい口調でたしなめる。
「アンタらの目的を叶えるには企業家、それも超十社に属する企業家がベストだからね」
そう、彼らは企業家からの依頼しか受けないようにしていた。
超十社とは、実質的に世界を牛耳る超大手企業のことである。詳しい話はいずれ記述するとして。
「今回呼んだのは、このディスクの中身のことさね」 先程取り出したディスクを指差す。
「なんか解ったの?」
歩が興味本位で軽い気持ちで尋ねる。
しかし『ママ』の返事はそれとは正反対で重いものだった。
「全く、とんでもないものを盗って来たもんだね」
――ッ!!
三人、ほぼ同じに息を飲む。
「こいつは、あの超十社が一社『H2コーポレーション』の機密文書さね」
三人に、緊張が走る――…
「ジョーダンだよ」
そして一気に抜ける。
「『ママァァァァッ』!?びっくりさせるなよぉぉぉぉ!?」
進は思わず絶叫してしまった。…まぁ、無理もないが。
「だよねぇ。進の手に届く場所にそんなモンあるワケないかぁ」
歩は逆にどこか納得した様子だ。
駆はただ無言で机に突っ伏した。ただ全身から『驚かせないで』オーラが漂わせているが。
三者三様の反応を見てからからと笑う『ママ』。
「いいかい、お前たち。今回はジョーダンでした、ですんだけど次もそうとは限らないんだからね」
『ママ』の言葉に三人とも静かに耳を傾ける。
「困るのは自分だけじゃない。他のメンバーにだって迷惑がかかるんだからね」
その言葉に三人とも頷く。
「あと仲介屋の私も」
「あ、それなら良いジャン」
――ゴンッ!!
「なんか言ったかい?」
「い、いいえ。言ってません」
進、本日二度目の拳骨。
「ま、とにかく話はこれでお仕舞いさね。次仕事が入ったら連絡入れるよ」
「はーい、そこんとこよろしくぅ〜」
最初に歩が立ち上がり、続いて進も立つ。
「『ママ』、さっきのディスクどうするの?」
最後に立った駆が尋ねる。
「私が預かっておくよ。文句はないね」
『ママ』の言葉に何か言いたげな駆であったが、結局何も言わずに、先に出ていった兄姉に続く。
「駆」
それを『ママ』が呼び止める。
「冗談で残念だったかい?」
「……どうして、そう思うの?」
駆は何の動揺も無しにそう言ってみせた。あくまで表面上は。
「もしこのディスクがその機密文書とやらなら、交渉次第で何にでも化けるからねぇ」
「例えば市民ID三人分、とか?」
駆は、冗談っぽくそう言った。
市民ID獲得は駆たちにとって悲願であり、何に代えても手に入れたい代物なのだ。
「流石に超十社を敵には回せませんよ」
出来れば穏便に片付けたいですね、と付け加えて管理人室を後にした。
復活!誤変換シリーズ!○とやかく言う気はない、×戸谷かく異浮きはない。○いつ来たんだ、×五木丹だ――おかしい、新しいケータイなのに……。それはさておき。来週から『Joyful・Joker』お休みします。今まで読んでくださった方々には申し訳ありませんが!でも!必ず戻ってきます!休む理由は、コレとは別に書きかけの話があるから、なんです。――では、ロドリゲスでした!