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反撃

クリスマスだから、連日更新してもいいじゃない

「ナバール! 無事で良かった!」


 林の向こうから現れたアキラ達に、親指を立てる事で答える。


「そっちもな。全員無事か?」


 こちらの問いにかぶりを振るアキラ。まさか主要メンバーの誰かが死んだのかと、冷や汗をかく。


「一緒に来てくれた剣闘士が十人程。戦争だから仕方ないんだろうけど……残念だよ」


 俯き加減にそう言うアキラに、不謹慎だが少し安堵する。「そればっかりはな」とアキラの肩を叩くと、横にいるベアトリスが「アンタ、ちょっといいかい?」と森の奥を親指で指し示す。


 ベアトリスに付き添う形でしばらく歩くと、「この辺ならおチビにも聞こえないさね」と耳打ちをしてくる。


「今さっきさ。敵の増援が来たと思ったら、あたいらを素通りして真っ直ぐあんたらのとこに向かったよ。どっからか情報が洩れてやしないかい?」


 ベアトリスの言葉に、驚きの表情を返す。


「君も気付いてたか。今まで探る事ばかりに気を取られてて、探られる事に無頓着だったのかもな。君等を無視してこっちへ来た、か……間違い無さそうだ」


 どうしたものかと腕を組むと、「確実に信用できるのは誰だい?」とベアトリス。


「まず間違い無いのはフレア、アキラ、ミリアだな。理由は聞かないでくれ。次点として君やジーナ。ウル、キスカ、パスリーにウォーレンといった所か。他にも七つ子や幹部連中は大丈夫だとは思うが……いや、やはりその辺は自信がないな」


「あたいは次点かい」と苦笑いを返すベアトリスに、「正直者なんでね」と笑いながら返す。


「まあ、わかってるならいいのさ。小難しい事はあんたらお偉いさんが考える事だからね。あたいらの命預けてんだから、しっかりしとくれよ」


 ベアトリスは軽い調子でそう言うと、返り血で濡れた髪を揺らしながら戻っていく。


「内通者か……まあ、やりようが無いわけではないな」


 大きく一つ溜息を吐くと、ベアトリスの後を追って仲間の元へと戻る事にする。今すぐに行える防諜などたかが知れており、こちらはやれる事をやるだけだろう。

 アキラ達の所へ戻ると、すぐさま移動するように指示を出す。砦まで引き返すのであれば草原を通るのが最短距離だが、敵主力の弓兵を相手にするのは避けたい。森と林をつたい、少し回り道をする形とする。


「ねえナバール。俺達の役割は殿だろう? 迂回なんてしたら役に立たないんじゃ?」


 怪訝そうな顔をするアキラに「構わん」と続ける。


「それよりミリアと二人で至急やって欲しい事があるんだ。ちょっといいか」


 人差し指を立ててそう言うと、静かに耳打ちを始める。くすぐったそうにするアキラだったが、やがて真剣な表情で聞き始め、しまいには悪そうな笑みを浮かべだした。


「なるほどねぇ……わかった。それじゃさっそくやってくるよ」


「頼んだぞ」とアキラに手を振ると、無言で待ち続ける。しばらくすると紙束を抱えたアキラとミリアが戻り来て、それを地面に下ろす。


「これで全部よ」


 目の前に積まれた紙の山。「ご苦労だったな」と声をかけると、それに火を付ける。


「うわ、もったいねえな。なんで燃やしちまうんだ? つか大丈夫なんかよ」


 燃え広がる炎を見て、ウルが発する。


「大丈夫だよ。気にするな。それよりさっさと動くぞ。これだけ間が開いても敵が来ないという事は、まとまった編成で動いているという事だ。大軍が来る前にずらかろう」


 燃え盛る火が十分な勢いに達したのを確認すると、自らが先頭に立ち、前進の合図を発する。


 ――何もかもが思い通りになると思うなよ


 死んでいった仲間達の事を頭に思い浮かべると、怒りとも笑みとも付かない表情で、森の中を進み始めた。



 山中の行軍は、その方向感覚を狂わせる。

 何も知らない素人が険しい山へ入れば、高い確率で迷子となる。しょっちゅう山へ登る登山者でさえ、条件次第では時にそうなるのだ。山へ入る際には案内役となる専門のスカウトを雇うのが普通で、ろくな装備も無しに分け入る事はありえない。


「団長、我々は今どの辺を移動してるんですか?」


 先程から不安そうな表情を見せているウォーレン。そろそろいいかと、手元の地図を見ながら大きな声で指示を出す。


「みんな、聞いてくれ。我々は今ウェイアンの森の中腹部に到達した。ここからしばらく行くと川にぶつかるから、そこで水を補給しよう。後は川に沿って一度平原へと戻る。国軍の進み具合によっては接敵するだろうから、戦闘準備をしておくように」


 背中から弓を取り出すと、皆がそれに倣う。


「ミリア、離れていても俺の位置を把握する事は出来るな?」


 装備を下ろしながらそう聞くと、「えぇ、もちろん」との答え。それに満足して頷くと、森の奥へ向けて足を踏み出す。


「合図があるまでその場で待機。斥候をしてくるが、少々時間がかかるかもしれん」


 団長自らが?と不思議そうな顔をする皆を横目に、どんどんと先へと進んでいく。木と草だらけのかなり迷いそうな景色だが、アキラだった頃に身に着けたスカウト技術が役に立った。


 やがて開けた場所へと出ると、川を確認し、そこでじっと待つ事にする。冬場であれば耐えられなかったかもしれないが、春のあたたかい風が心地よい。


 ――さあ、来い。俺達はここにいるぞ


 理由はわからないが、ネクロの狙いが俺。もしくは主要メンバーの誰かである可能性が高い。たかだか六十かそこらのしんがり部隊を潰すのに、内通者を使ってまで追撃を行う理由が無いからだ。

 挟撃を恐れるにしても、この人数では大した効果は出ないだろう。であれば、野戦陣地を手にした後は真っ直ぐフレアの元へ向かうのが自然だ。フレアを狙うのであれば時間との勝負であり、こちらに構っている暇など無いはずだ。


 そのまま二時間も横になっていただろうか。眠気と戦いながらぼうっと景色を眺めていると、遠目に川沿いを歩く集団の姿が現れる。


 ――かかった!!


 すぐさま飛び起きると、仲間の元へ急ぐ。途中の木に付けておいた切り傷を目印に、迷う事無く待機地点へと到達する。


「見つけたぞ。大した距離じゃない。全員弓だけ持ってついて来い」


 あっという間に準備を終えた仲間を引き連れると、すぐさま先ほどの場所まで移動する。相手からは見えない位置で向こうを伺うと、やはり何らかの手段で情報が伝わっているようだ。敵の大部隊が身構えるのが見てとれる。一体何人いるのだろう。三百から四百?それとももっとだろうか?


「まあ、だからどうしたって感じだがな……さあ、思い知らせてやろうじゃないか」


 笑顔でそう発すると、"崖下の川べり"で周囲を警戒している敵へと向けて、弓を引き絞る。


「各員、自由射撃。もったいないから狙って撃てよ」


 素っ気無くそう発すると、矢を放つ。

 ほとんど真下に近い角度で放たれた矢は、真っ直ぐに。そして重力に従うまま加速を殺す事なく敵兵へと突き刺さる。固い鉄の胸当てを装備していたようだったが、それをやすやすと貫通する。


 部隊の持つ地図は全て焼いた。

 この部隊で高いスカウト技術を持っているのはジーナだけだ。


 とすれば、現在地がどこであるかは唯一の地図を持つこちらの言葉を信用するしかない。方向感覚の狂いやすい森で、正確な地図も無しに現状を把握するなど不可能だ。


 やがて敵軍も崖上へ向けて応射を始めるが、反り返った崖壁とほぼ真上への攻撃という最悪な状況に、まともに狙いを付けるのも困難な様子だ。


「これは一方的だね……誘い込んだんでしょ?」


 弓の苦手なアキラが、手持無沙汰に様子を伺う。「そうだな」と返すと、次射を放ちながら続ける。


「ウェイアンの森なんぞとうに通過したよ。水を補給というのも嘘だ。誰だかはわからんが、内通者は全部正直に伝えてくれたらしい。大きく迂回すれば別だが、ここは地形的に草原やウェイアンの森側からは川べりを歩く事でしか来れないんだよ。水を汲むと言っておいたから、お互い川を挟んで戦う事になると思ってたんだろう。馬鹿な奴だ」


 手持ちの二十本を消化すると崖下に手を伸ばし、岸壁に刺さった矢を抜き取る。矢は折れてさえいなければ再利用が可能だ。


「アキラ、角度の高い流れ矢がその辺に落ちて来てるはずだ。走り回って回収して来てくれ。この状態で弾切れじゃあもったいない」


「了解!」と元気良く走り出すアキラを見送ると、視線を崖下へ戻す。

 いったいどれほどの損害比率となっているのだろうか。こちらも何人かが肩や腕を射抜かれて負傷、及び死亡しているが、相手側のそれはまさに死体の山といった具合だ。流れ出た血が川を真っ赤に染め上げ、鉄の臭いがここまで漂って来る。

 やがてこのままでは時間の問題だと思ったのだろう、国軍兵士は武器を捨てて下流へと逃げ出し始める。


 ――"FireBall"――


 ぎょっとした表情で声の方を見ると、ミリアから巨大な火の玉が放たれる。火球は国軍では無く岸壁へと衝突し、派手な爆発音を響かせる。


「あの娘が敵でなくて本当に良かった」


 爆発と共に崩れ落ちる岸壁は何人もの兵士を押し潰し、国軍兵士の退路を塞ぐ形となった。慌てて引き返す国軍兵士達だが、ジーナ達の正確無比な射撃がそれらを撃ち抜いていく。完全にパニックに陥った敵兵は次々に対岸目指して川へと飛び込んでいくが、鎧の重さが邪魔をしたのだろう。そのままかなりの数が二度と浮かび上がってくる事は無かった。やがて川に死体の橋がかかると、我先にとそれを渡っていく敵兵。死体と岩とでせき止められた川が増幅し、細い対岸を飲み込んで行く。


「まるで地獄ですね……」


 崖下を眺めつつ、ウォーレンが呟く。

 否定するでも肯定するでも無く鼻を鳴らす事で答えると、敵のいなくなった平原へ向けて悠々と撤退を開始する事にした。




だって暇なんだもの

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