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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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邂逅

気付いたら日間ランキング50位前後に入っていたようで、

急にアクセスが伸びてびっくりしました。

これもひとえに皆々様のおかげです。

本当にありがとうございます。

 ――その日の事は今でも良く覚えている。


 高校生として最後の正月、恋人を連れて合格祈願を兼ねた初詣を行い、既知の仲だった向こうの家族と共に、大間が存在した我が大木家で、両家揃った宴会を行っていた。

 当時何を大げさなとは思ったが、両親からすれば許婚ができた様な感覚だったのだろう。


「ちょっと飲みすぎたんで、頭を冷やしてくるよ」


 そういって席を立つ。未成年ゆえ酒などほとんど飲んだ事もなかったので、飲みすぎたとは言ってもせいぜいコップ二、三杯のビールと日本酒が少々入っただけだが、十分に酔いが回ってしまっていた。

 ついでだから自動販売機で飲み物でも買おうと小銭を握り締めると、ふわふわと少々危なげな足取りで外へ出る。

 まだ足首にも届かない程度だが降り積もった、そして今も降り続けている雪に少し感動を覚える。

 まだ踏み荒らされていない真っ白な雪が街灯に照らされ、神秘的な雰囲気をかもし出している。

 こりゃ積もるかもなと、元々人通りの少ない道を誰とすれ違う事も無く歩いて行くと、5分もしない内に目的地にたどり着く。

 正月も休む事無く働き続けている自動販売機にごくろうさん、と声をかけつつスポーツドリンクを二本購入し、

 家路へと戻る。


 何もおかしな所は無かった。


 往路につけた自分の足跡を見ながら歩く。

 激しさを増す雪と夜の闇があたりを包み込む。



 ふと



 視界が開けた。



 あれだけ舞っていた雪は微塵も無くなり、目の前には乾いた地面。

 顔を上げるとどこかの森の中なのか鬱蒼と茂った木々が見てとれる。

 真っ先に思いついたのは酒のせいで気づかぬ内に遠くまで来てしまったという事だったが、そこまで酔っていたわけではないし、何より靴先には先ほどまで踏みしめていた道路の雪が付いている。


 ――ここはどこだ?


 何もわからぬままあたりを見回すが、どちらを向いても月に照らされた薄暗い夜の森しか見えない。

 試しにおーいと叫んで見るが、返って来るのは虫の声のみだ。

 しばらくぼーっと呆けていたが、そのままそうしているわけにも行かない。


「帰らなくちゃ」


 誰にともなくそう呟き、電線でも民家でもとにかくどこか文明の香りを探し、歩き出そうとするが、3歩も歩かぬうちに躓いて転んでしまう。

 手を擦りむいていないか確認し、何に躓いたのか膝立ちのまま見やる。


 白い円盤状の塊


 そうとしか表現しようのない直径1メートルほどの塊が地面に置かれている。

 転んだ拍子に落としてしまった缶ジュースをポケットに仕舞い込むと、塊に顔を近づけ見てみる。その正体はすぐにわかった。


 「雪だ」


 手にとりすくってみると、確かに冷たい雪の感触が伝わってくる。

 だが、雪とは躓くものだったろうか?

 円盤状に積もった雪を手で払いのけ、その下を確認する。

 雪の下から現れたのは見慣れたアスファルトの表面だった。

 それが何を意味するのか全く理解が出来ないが、とにかく雪を払い、アスファルトを露出させていく。

 やがて出来上がったのは直径1メートルほどの"黒い"円盤状の塊だ。


「何だこれ……」


 それは間違いなく道路の一部だった。ご丁寧に止まれの"ま"の字の一部も残ったままだ。

 頭の中でそういえばさっきまで立っていた自動販売機の前にも、止まれの字があったなと考えるが、まさかとの思いが強く、思考をその先へ進めるのを止める。

 気持ちが悪い。


 ――誰か、誰か!!


 自分の理解の出来ない現状に、強い焦燥感が生まれる。

 かなり惨めな姿ではあったろうが、ばたばたと森の道を走る。

 誰に見られようと構わない。笑い話になればそれでいいじゃないか。


 どれほど走ったかはわからないが、森の中にある道をひたすらに進む。

 途中何度か茂みががさっと揺れた気がしたが、確認するのが恐ろしく、そのまま素通りした。

 こんな夜の森で茂みの中に人がいるとは思わないし、いるのかどうかわからないが、猪や熊といった獣であれば命が危ない。

 そうしてしばらく走っているとやがて息が切れはじめ、膝に手を付き、息を整える事にする。

 だがそうした瞬間、がさがさっという音と共に茂みから黒い影が立ち上がった。


 瞬間的に熊だ!と思ったが、よくよく見るとおかしな格好をした人間である事に気付く。

待ちに待った誰かである事は確かなはずなのに、

 思わず二歩、三歩と後ずさる。


 鎧を着た人間


 まさかこんな時間、こんな場所で仮装パーティーをやってるとは思えないが、もしかしたらという希望にすがる考えが頭をよぎる。


「あの、すいません。ここはどの辺になるのでしょうか」


 そう声をかけてみるが、男は返答の代わりに腰に差していた鞘から、一メートル程の刀を抜き放った。

 おいおい、何の冗談だとなんとか引きつった笑みを浮かべたが、すぐに冗談ではない事がわかる。


 目だ。


 目が違う。


 藪からぬっと道へと歩き出てきた男は、全身薄汚れており頬がこけているが、その目だけは異様な鋭さを放っており、まるで自分の全てを観察されているように感じる。

 月明かりに鈍く光る剣と鎧はどれも作り物には見えない。

 恐怖にかられ、さらに一歩下がる。


 枯れ木を踏む感触がし、ぱきっという音が静かな森に響く。



 その瞬間


 あたりから2,30人はいるかと思われる男たちが、一斉に開けた道へと飛び出してきた。


 男たちは怒声を発しながらぶつかり合う。


 怒声と悲鳴、金属同士を叩きつける音が響き、

 静かだった森は嘘のように喧騒に包まれた。


 やはりこれは何かのイベントだという考えも、目の前で首から血を流しつつ倒れる男を見て消し飛ぶ。

 鼻先を何かが鋭い勢いで通り過ぎ、遠くで爆発音に似た何かの破裂音が聞こえる。


 ――戦争だ!こいつらは殺し合ってる!!


 なぜ?という考えを現状がそう上書きさせる。

 続いて出てくるのは逃げなくては!という感情だ。

 震える足を押さえつけ、無理やり立ち上がる。

 どこへ逃げればいかなどさっぱりわからないが、ここで無いどこかであればどこでも構わない。


 踵を返し、走り出そうとする。


 次の瞬間、服に走る衝撃を感じる。

 何が、と左わき腹を確認すると、ダウンジャケットから長い棒のようなものが生えているのが見えた。

 棒の先に目をやるとそれを両手で持つ武装した男。

 男は不思議そうに顔をかしげると、棒を手元に引く。

 金属片のついた棒、つまり槍の先には先ほど購入した缶ジュースが刺さっており、中身を盛大に撒き散らしていた。

 男は缶ジュースを足で蹴り落とすと、再びこちらへ向かって槍を突き出そうとするが、どこからか飛んできた矢が男の肩にささり、

 注意が逸れた。


 ――やらなきゃだめだ……


 ――やらなきゃやられる!!


 極限に達していた精神は、思考を通さずに、とにかく目の前の男をどうにかしなければならないと全身に命令を下す。

 アドレナリンの過剰分泌がもたらすコマ送りになった世界の中、足元にあった石を拾い上げ、走りざまに男に叩きつける。

 男はうっとうめいたが、すぐさま槍の柄をこちらに叩きつけ反撃してくる。

 ひじまわりに直撃したそれは骨をいくつもに砕いたが、元より感覚の無くなっていた手足は痛みを感じず、そのままの勢いで抱きつくともんどりを打って倒れ込む。

 二転三転と転がった後馬乗りになると、とにかく手に持つ石で相手が動かなくなるまでその頭を殴り続けた。

 既に石を持つ手の爪ははがれ、力もほとんど入らなかったが、すぐにでも起き上がって自分を殺しに来るのではと思うと手を止める事は出来なかった。

 やがて手を振り上げた際に石がすっぽ抜けてしまい、慌てて代わりになる何かを探す。

 男の腰のベルトについていたナイフを発見し、手を伸ばす。


「やめとけ、もう死んでる」


 声と共に肩に置かれた手にびくっと全身が跳ねる。

 振り返ると心配そうな表情でこちらを見下ろす男と目が合った。


「俺はナバール。名前。ナバール。ナバールだ。わかるか?」


 男の声に必死に首を縦に振って肯定する。


「そいつは死んでる。死ぬ。死亡。逝っちまってる。わかるか?」


 そう言われ、先ほどまで殴り続けていた男を見てひっと短い悲鳴を上げ、尻餅をつく。


 ――人を殺してしまった


 だが、仕方がなかったんだという気持ちと、このナバールと名乗る人は、少なくともそれをやった自分を責めるつもりは無い様だという現状が、かろうじて再び錯乱状態になるという事を防いでくれた。


「あ……ありがとう」


 搾り出すように声を出す。


「お? お前喋れるのか。ふむ。しかし変わった格好だな。

 皮の中に羽毛を詰めているのか? あったかそうな格好ではあるが、季節外れもいいとこだな。」


 そう言いながら興味深そうに裂けたダウンジャケットをいじる。

 言われて見ると全身びっしょりに汗をかいており、肌に触れる風もかなり生暖かい感触だ。

 しばらくそんな事を考え中空を見つめていると、流れ落ちる血に気付いたナバールがこちらの手を取り、見やる。


「どれ、見せてみろ……うわ、ひどいなこれは。生爪を剥がしたのか。今救護所に連れてってやるから待ってろよ。

 おい! パスリー! ちょっと来てくれ! 怪我人がいるんだ!」


 救護所、という単語にたまらない安堵感を覚える。

 どうやら自分は助かったようだ。

 酷い脱力感を感じ、地面に倒れるように横になる。


 星が綺麗だ……


 満点の星空に笑顔を作ろうとする。

 だが安堵と共に徐々に戻りつつあった全身の感覚が、信じられない程の激痛を同時に脳へと送り込み。


 その直後気を失った。




相変わらずの地味さと泥臭さ。

読者の方が読んでいて疲れないかと心配です。

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