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遭遇


「なんだか拍子抜けだな」


 鉄製の扉を前に、強気であるがほっとした表情で呟くアキラ。

 結局地底湖の扉までの道のりにおいて、警戒していた人影も蜘蛛も現れず、数匹のガブリンとオーガが道を塞ぐに留まった。狭い坑道での事なので突進でもされたらまずい事になったろうが、遭遇直後にアキラがオーガの足を切り落とた為に、ほとんど一方的な展開となった。


「まだわからんぞ。中にいるかもしれん。気を抜くな」


 アキラにノミと木槌を手渡すと、錠前を破壊するよう指示を出す。暗がりと慣れない道具に手間取っていたようだったが、しばらくすると心地よい金属音と共に錠前が床に転がる。


「ウル、どうだ?」


 目線を下げて彼女を見ると、いつものように聞き耳を立て始める。耳の横に"くの字"にした手を添える見慣れた格好だが、あの大きな耳に対して手はあまりにも小さい。正直意味があるのかどうか疑問だ。


「いねぇぜ。たぶん。物音ひとつしねぇ。水の音だけだな」


 親指を立てるウルに「よし」とその頭をぽんと叩く。

 念の為に盾で身を隠しながら扉を押し開けると、耳障りな金属音を響かせながら、ゆっくりと奥を見せ始めた。


 ――敵は……いないか


 何が来ても対応できるよう慎重に中へと足を踏み入れるが、見たところ脅威は見当たらない。嬉しいような残念なような、なんともつかない気持ちで剣を下ろす。


「凄いな……まるでファンタジーだ」


 巨大な地底湖を眺めるアキラが感嘆とした様子でそう呟く。いや、実際ファンタジーだぞと心の中で突っ込みを入れると、アキラと同じようにあたりを見やる。

 地底湖は天井から差し込む光にきらきらと瞬きを見せ、足場は青く美しい苔に覆われている。奥へ目を転じると、いったいどこまで続いているのか。たいまつの明かりが届かない彼方まで洞窟は続いている。


「まるで飲み込まれそうだな……あぁ、そうだ。ジーナ、このあたりのコケを少し持って行こう。良い薬になるんだ」


 そうだよな?と同意を求めるように背後のミリアへ顔を向けると、両腕で体を抱きかかえるようにして震えている姿が目に入り、あわてて駆け寄る。


「どうした、大丈夫か?」


 浅い呼吸を繰り返す彼女の背中をさすってやる。ミリアは小さく頷くと「ここは魔力の流れが多すぎるわ」と床へ腰を下ろす。


「良く分からないが、中毒のような物か? 少し休んでいるといい。準備は我々でやろう」


 バックパックからマントを取り出すと床へ敷いてやる。だるそうにしながらもその上へ座る彼女を確認すると、儀式の為の道具を広げ始める。


 木組みの大きな松明と、良くはわからないが動物の肉から作った粉末。エンゲルという麻薬成分のある木の葉や、干からびたイモリ。そういった物をミリアから指定された通りに並べていく。怪しげな道具に囲まれたミリアは、こうして見ると実に魔女らしいと言える。

 ミリアの話によると、地の力を完全に封印する事は不可能らしい。ただ、力の流れを変化させる事は可能であり、ネクロの体の波長と違った形に変化させる事が出来ればそれで十分との事だ。


 ひと通りの準備を終えると、木組みの松明に火を付ける。今までとは比べ物にならない明かりが辺りを照らし、洞窟の遥か奥までが視認できる。


「後は私の仕事。ほんのしばらくの間だけど、邪魔だけはしないでね。一度途中で止めてしまうと、数年はこのあたりで儀式を行えなくなるわ」


 ミリアはそう言うと、返事は待たずに魔法の詠唱を始める。ぶつぶつと言霊を唱えつつ粉末や木の葉を焚き火へと放り入れ、その度に炎が様々な色へと変化する。青、緑、黄色。そしてまた赤といった具合だ。

 そのなんとも幻想的で美しい色の芸術をぼんやりと眺めていると、少し足元にふわりとした感覚を感じ、なんだろうかと訝しむ。


 しばらく風邪にも似た不思議な浮遊感について思いを巡らせていると、ふとその原因に思い至る。


 ――麻薬か!!


 先ほど用意した物の中にエンゲルがあった事を思い出し、慌てて手ぬぐいでマスクを作る。急にいそいそとしはじめたこちらに気付いた四人は、同じように異常を感じていたのだろう。同様にマスクを着け始める。


「あにきい、もうらめだこれ。らりっちゃっちゃれ。ふへへ」


 破滅的な滑舌でウルが何やらそう呟くと、ふらふらとその場に腰を下ろす。しばらく具合が悪そうに下を見つめていたが、次の瞬間にはへらへらと笑い出し、中空を見つめる。正直不気味な事この上ない。


「全員少し離れるぞ。ベアトリス、ウルから刃物を取り上げておけ」


 何か幻覚を見るなどして、ナイフを投擲でもされたらたまらない。

 腰を低くして出口方面へ向かって進むと、気付け用の木片を取り出し、ジーナとアキラに配る。


「おい、ベアトリス?」


 一向にこちらへ来ない彼女に顔を向けると、ウルと二人で楽しそうに笑っている姿が目に入る。


「鼻が良いとこういうのにも反応が早いのかね……くそっ」


 舌打ちをしながら二人の元へ向かい、襟首を掴んで強引に引きずる。ガリガリと鎧が地面を削る音がし、痛かっただろうかと足を止める。


「あらあ、もう終わりかい? もっと運んでおくれよう」


 ベアトリスの甘ったるげな声に、こりゃだめだなと方向を変えて歩き出す。二人から刃物の類を取り上げると、鎧を脱がせる。胸元と股間を掴むと一気に持ち上げる。


「あはは、高いねこりゃあ。いい景色だよ」


 頭の上でベアトリスがきゃっきゃっとはしゃぐ。


「そいつは良かった。それじゃ次は下だ」


 水中に岩等が無い事を確認すると、力任せにベアトリスを放り投げる。

 派手に水しぶきと共に大きな音が洞窟内に木霊こだまする。儀式に影響が無いかどうかを見ると、次はウルを放り込む。


「これで少しは目が覚めるだろう」


 溺れずにちゃんと泳いでいる様子を眺めると、前もって儀式についてもう少し詳しく聞いておくべきだったと溜息を付く。


 ベアトリスとウルはしばらくばしゃばしゃと水遊びを楽しんでいた様子だったが、しばらくすると何やら水底を不安気な様子で眺め始める。しまいには酷い形相でこちらに向かって泳ぎ始めた。


「あにき!! 下になんかいる!!」


 必死な様子で岸に上がるウルとベアトリスを引き上げると、剣を抜き、じっと湖に目を凝らす。水面が松明の明かりを反射して良くは見えないが、水底は静まり返ったままだ。


「…………何もいないぞ。幻覚じゃないのか?」


 剣を鞘へ収めると「ホントだって!」と叫ぶ二人を出口に向かって押しやる。「わかったわかった」とおざなりに返事をすると、岸辺に立って地底湖を監視する事にする。


 ――まるで酔っ払いだな


 出口付近でアキラとジーナに身振り手振りを交えて自分達が見た物の説明をする二人。話の内容からすると海蛇のような生き物らしい。水面を覗き込むと削られた水底の岩が流線型にえぐられており、これを見間違えたのだろう。


 首を上げ、天井にぽっかりと開いた穴を見やる。


 ――蛇程度であればあそこから落ちてくる事もあるか


 地底湖の水は驚く程澄んでおり、生き物の成育に適しているとは思えない。いたとしてもせいぜい小魚の類だろう想像すると、顔を下ろす。


 目の前には巨大な蛇の顔。


「うおおおおおお!!」


 叫び声を上げながら、後ろへ跳ぶ。

 目の前で合わさる巨大な顎。


 早鐘を打つ心臓をなだめつつ、剣を抜き、相手を見る。

 水面から四メートル程の高さまで伸び上がった蛇の様な体。胴回りは両腕が回りきらない程はあろうか。先端には巨大な口を持つ頭部が不恰好についており、白く濁った目がこちらを見つめている。


 ――グランドサーペントだ!!


 過去に見た調査書の一覧から対峙した相手の正体を素早く判断する。凶暴な捕食者で、船乗りの天敵。目は退化しており、音に反応する。

 仲間に物音を立てないよう通達しようとした所で、ぱちぱちと弾ける松明の音が耳に入り、それが不可能な事に気付く。


「戦うぞ!! ミリアを守れ!!」


 未だトランス状態で儀式を続ける彼女は完全に無防備な状態だ。それに儀式は一度邪魔をされると数年は行えないと言っていた。あとどれくらい儀式に時間が掛かるのかは解らないが、この化け物がミリアを飲み込むのに数秒以上の時間がかかる事は無いだろう。


 ――くそっ、こりゃ今までで一番の大物だな


 舌打ちをしながら水面を見る。あの下にどれだけの巨体が隠されているのだろうか。


 巨体が首を巡らし、松明の方を見る。


「こっちだ化け物!!」


 これは相手の出方を待つわけにはいかないと、

 大声を上げながら足を前へと踏み出した。




こんなんいたらマジでおしっこチビります。

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[気になる点] 遭遇直後にアキラがオーガの足を切り落とた為に、ほとんど一方的な展開となった。 落とた→落とした
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