告白
読んでくれてありがとうございます!
別にテンプレ(王道?)が嫌いなわけじゃないし、
むしろ大好きです。ですがそれはそれ。これはこれ。かな?
二人して大怪我を負った試合から二ヶ月が経った。
傷の具合は大分良くなり、再び剣も振れるようになったが、しばらく動かさなかったせいで左腕だけ細くなってしまっている。
ウルの方は自分より比較的軽症で済んだらしく、一月ほど前に再び試合を行ったようだ。
ウルが女だという事を知った後、本人に謝ろうとしたが、よくよく考えたら何かセクハラめいた事をしたわけではないし、当人も俺が勘違いしていた事を知らなかった様なので、それには触れないでおく事にした。
薮蛇をつつく必要は無い。
「しかし快気祝いとはね……」
当人も言っていた事ではあるが、俺は思った以上にフレアに対しての利益を生み出しているようだ。
隷属剣闘士は保護人無しに外を歩く事はできないので、招待状と共にフレアの代理としてやってきた壮年の執事に連れられ町を歩いていると、覚えの無い建物がいくつも建っていたり、逆に見知った店が無くなっていたりと、外へ来るのが随分久しぶりだった事を実感する。
都市部の変貌の移り変わりが激しいのは、地球も、ここフランベルクも同じのようだ。
フレアはここより馬で3日ほど離れた場所の領主だが、中央官僚としての役職もある為、年の4分の1程は王都フラムで生活をしている。
石造りの町並みが並ぶフラムは戦前と変わらず活気に溢れ、皆忙しそうにしているが、昼間の商店街にしては人が少ない。
「ナバール様の試合を見にいっておられるのでしょう」
執事が雰囲気を察して言う。
「あんたはこんな仕事押し付けられちまったせいで、見に行けなくて残念だったな。
フレアに文句でも言っとくかい」
軽い調子で返す。
「いえいえ、こんな年まで雇って下さっているフレア様には感謝しておりますし、剣闘を見て興奮してしまってはそのままぽっくり行ってしまうかもしれませんよ」
それにナバール様がお勝ちになるでしょうしね。との言葉に確かにな。と返す。
今日はナバールの最終戦だ。
最終戦とは最高位であるチャンピオンになる為の試合の事で、現在最も活躍している剣闘士同士が戦い、勝者には栄光と賞金、そして奴隷であれば自由になる権利が与えられる。
その試合に来る観客は通常の入場料とは他に特別料金を支払い、それはそのままチャンピオンへの賞金となる。
特別料金は任意額となるので、人気のある剣闘士はかなりの額を手にする事になるだろう。
チャンピオンになった者はその後も一般剣闘士として残る事もできるし、外に出て軍の指揮官。もしくは教育官の斡旋も受けられる。
もちろん全く関係の無い、たとえばパン屋になるのも自由だ。
アキラ様ももうすぐですね。とは執事の言だが、
曖昧に濁し、無言で歩き続ける。
――俺にはフレアとの約束がある。
――今はまだ剣闘士を辞める訳にはいかない。
フレアの屋敷に到着するとまず控え室へ向かい、持参したフレア領の刻印が入った軽装の鎧を身に付ける。
学校の制服がそうであるように、剣闘士のフォーマルが鎧にあたるからだ。
まさか街中を武装して歩くわけには行かないので、わざわざこちらで着替える必要がある。
たかだか個人の快気祝いなのになぜ?とは思うが、主人がそうしろというのだから仕方が無い。
もしかしたら他にお偉いさんでも来ているのかもなと想像する。
執事に案内され部屋に入ると、テーブルに酒と料理が並べられており、少し顔を赤くしたフレアとキスカが着席していた。
「すまんが先に始めているぞ」
主役を待たないでどうするんだとは思うが、いつもの事なので気にせず、礼を言って席に着く。
「わざわざ快気祝いだなんて悪いな。大した怪我でもないのに……と言いたいが、さすがに今回のは堪えたよ」
そう笑いながら言うとキスカがうんうんと頷く。
「お前にはまだまだ活躍してもらうからな。あんなつまらん形で失うには惜しいよ」
そう言ってフレアが杯をぐっとあおる。
「まぁ、ともかくも今日はゆっくりしていってくれ。足りない物があれば持ってこさせる。
あぁ、そうだキスカ。そろそろウルを呼んで来てくれ」
いないと思っていたがもう来ていたらしい。
飲みかけた杯を元に戻す。
こちらには乾杯と同時に飲み始める習慣はないが、地球にいた頃からの癖だろう。
しばらくすると扉の向こうからなんやかんやと押し問答をする声が聞こえてくる。フレアが「入れ」と声を掛けるが、扉は閉まったままだ。
何をやっているのか、「私は入れと言ったんだ」との声にようやく扉が開き始める。
そしてキスカと共にドレスを着たウルが入ってきた。
こちらの呆けた顔を見て、だから嫌だったんだよ!との声が聞こえる。
これが漫画やアニメであれば普段とのギャップにやられた主人公が、急に女性として意識し始めるパターンかもしれないなと苦笑いする。
「いやいや、十分似合ってるさ。ほら、席につきな」
そう言って席を引いてやる。
「パトロン付きってのも楽じゃねぇんだな。こんなの似合うわけねぇだろ……」
ウルはぶつぶつ言いながら席に着く。
確かに彼女には少し大人向きすぎるデザインだし、地肌が見える背中や腕はどこも鍛え抜かれ筋張っているが、似合わないという程ではないだろう。
「ふむ、なかなかお似合いの二人じゃないか」
にやついた顔を隠しもせずフレアが言う。
この為にわざわざフォーマルを指定したのかと思わず舌打ちをする。
「まぁ、そう怒るな。これも余興さ。さぁ食べて飲んでくれ。たった四人の祝いの席だ。無礼講といこうじゃないか」
最初こそ遠慮がちにしていた3人だったが、豪快な気質のフレアに引きずられる形で、
最終的には飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとなった。
途中執事が参加したり料理を運んできた女中を巻き込んだりもしたが、よくもまあ4人でそこまで盛り上がれるものだと後々になって感心する程だ。
「そういえばアキラ、ちょっとした情報が見つかったぞ」
ほろ酔いの中、どっちの話だろう?と考えていると、
続けてフレアが言う。
「お前としている約束の方だ」
その言葉の意味を飲み込んだ瞬間、フォークを持つ手が止まる。
ウルは何事だといった様子でこちらを見ている。
「本当か?」
テーブルを見つめたまま答える。
「あぁ。決定的なものではないが、かなり興味深い話だ。そこから他の手がかりを探す事もできるだろう」
そう言って本日何杯目になったかわからない杯をあおる。
「正直かなり苦労したぞ。なにせ雲を掴むような話だからな。だがお前さんの頑張り振りは十分それに値するものだろうよ」
「そうか……詳しい話は後で聞かせてくれ。あぁいや、酒が入っているから明日の方がいいか」
頭が回っていない状況で考えるような内容ではないので、そう答える。すると痺れを切らしたのか、頬を膨らませたウルが、テーブルを叩きこちらを見る。
「アニキ、一体何の話だってのさ。キスカも知ってるみたいだし、約束って何さ。俺だけ知らないのはなんか気分悪いぜ!」
ふん、と鼻息荒く詰め寄って来る。
兎族だがこうして見るとリスみたいだなと、関係の無い事を思いつつも考える。
元々ウルとは間に合わせのタッグとして組んだはずだったが、戦闘スタイルとしての相性も良いし、性格も気に入っている。
口にはしていないが、今後もチームを組めたら良いと思っているし、向こうはそもそもそのつもりの様だ。
酒で喉を潤しつつ、ウルを見やる。
まだ出会って三ヶ月かそこらの間柄だが、一度は命を預けた仲間であり、訓練やリハビリによって信頼関係も築けているだろう。
私的な事の相談にはあまり喋りたくないだろう過去の話もあった。
対してこちらは、今まで自分の事をあまり話した事がないし、そのつもりは無いが、無意識で一線を引いている可能性もある。
あまり公平では無いかもしれない。
杯をテーブルに置き、フレアを見る。
いつもと変わらない下目使いと共に、ゆっくりと頷いた。
こいつには話しても平気だろうか?
話しても馬鹿にされないだろうか?
今までの経験から不安がよぎるが、酒による判断力の低下がされたらされたでいいじゃないかとも訴える。
「ふむ……」
もう一度ウルの目を見、決断する。
「信じてもらえやしないとは思うが……実は俺」
若干の間を置き、続ける。
「別の世界から来たんだ」
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