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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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衝撃の事実

1日~2日に1つ投稿できたらいいな

 腕が邪魔だ


 恐らく電撃の魔法と思われる攻撃で動かなくなった腕を、激痛に歯を食いしばりながら無理矢理胸元へ持ち上げる。

 素早くブレストプレートのベルトを1つ外し、本来アームガードと結ぶ為にあるガントレットのベルトとを結びつける。

 間に合わせの対処ではあるが、これで少しはマシになるはずだ。


 いくつかの傷を負いつつも必死に牽制を続け、貴重な時間を稼いでくれたウルに感謝する。


「さて、どうするかな……」


 まだ少し朦朧とした頭で必死に考えを巡らせる。

 砂まみれではあるものの未だほぼ無傷な方の男は、後ろで必殺のタイミングを計る魔法使いを守る立ち位置で、ウルの攻撃を盾で巧みに捌いている。

 こっちの中身は間違い無く事前発表通りの熊族だろう。

 今もウルの足先目がけ体重をかけた盾を振り下ろし、それをかろうじてバックステップで躱した所だ。

 ウルは再び襲い掛ろうとするが、奥の魔法使いが身じろぎをしただけで、先ほど見た光景を思い出したのだろう慌てて中止せざるを得ない。

 腹立たしいがいいフェイントだ。


 何の打開策も見つけられないまま、じりじりと壁際に追いやられる。

 先ほどの魔法の威力と範囲を考えると、壁際に追い詰められた瞬間に死が確定するだろう。

 放射状に広がる地面の焼け跡から左右へ避けるのは難しいと判断する。


 必死に牽制を繰り返していたウルが「くそっ!」と悪態を付く。

 腰のベルトをまさぐっていた様子から、全ての投げナイフを投げ切ってしまったのだろう。


 相手二人はそれを見てさらに圧力を強めてくる。


 ベテランであれば手持ちの投射武器の残弾は常に把握しておくものだし、また、弾切れしたとしてもまだある様に見せかける事だってできる。

 最悪のタイミングで経験不足が露呈してしまった。


 ウルばかりに任せてはいられないと自分も攻撃に参加するが、身体の左半分が引きつってしまい、うまく戦う事ができない。


 迫り来る壁とより激しくなる攻勢。


 ダメだ、限界だ!


「ウル! 俺はもういい! 回り込め!」


 せめてウルを射線から逃がそうと、熊男に対しタックルをする。

 膂力の失われた力では大した効果も出ないが、少なくとも一瞬の間足止めする事はできる。

 盾についたスパイクが肩口から背中にかけて突き刺さるが、気にせず押しとどめ、バスタードで相手の剣の動きを封じる。

 さぁウル、今のうちに――


 ちらりと横目でウルを見やり、その姿を捉え絶望する。


 ウルは迂回する事無く、まっすぐ魔法使いに向かい走っていた。


 笑みと共に紡がれる呪文。

 光と衝撃。


 咄嗟に身体を捻ったようだが間に合わず、右足を撃ち抜かれたのが見てとれる。

 体勢を大きく崩しながらも手にしたショートソードを振るうが、叩きつけるように盾ではじかれ、剣は地面を転がっていった。

 ウルは二刀流の為に反対側に差してある剣に手を伸ばすが、慎重な相手は既にその剣先が届かない距離へと離れていた。


 ――終わった


 全身を諦めが支配していく。

 抑え込む為に体重をかけた剣先は徐々に上がり、熊男は勝ち誇った目でこちらを見やる。


 その時一瞬こちらを見たウルと目が合う。

 一瞬。ほんの一瞬だがそれで十分だった。


 あいつはまだ何かをやろうとしてる!!


 力を抜き上げかけたバスタードを、再び押し返すではなくそのまま柄を持ち上げて相手の顔面に叩きつける。

 既に勝負を諦めたと思っていた熊男は予想外の反撃に反応できず、数本の歯をまき散らしながら後ろへ下がる。

 いつの間にか噛み締め過ぎて砕けていた木片をぺっと吐き出すと、ウルの方を見やりながら幽鬼の様にふらふらと熊男への距離を詰める。


 ウルは残った左足で膝立ちになると大きく身体を捻り、どう考えても届かない相手に向かい剣を素早く抜き放ったが、

 安定しない身体が振り回され、地面に崩れ伏す。


 既に距離をとっていた魔法使いは慌てる事なく呪文を唱えていたが、

 ふとその詠唱が止まる。

 信じられないといった表情で震える手を喉元へやる。


 そこには深々とナイフが突き刺さっていた。


 ウルの手元にはつばがついたままで、柄だけが無くなった不自然な鞘が残されている。

 そして鞘にはナイフが納まるには丁度いい小さな穴。


「だまくらかし合いなら負けねーぜ……」


 こちらへ向けて立てられた親指を見ると、今までどこにあったのか、全身から力が漲って来るのがわかる。


 ――あの野郎、やってくれた

 ――なら次は……俺の番だ


 バスタードを振りかぶり、斜め下へ振り下ろすように突き入れる。

 盾で防がれるだろう事はわかっていたので、地面に突き刺さるまま剣は放っておき、盾の内側へと手を差し入れる。

 熊男はたまらず剣をこちらに突き入れて来るが、そのまま背中側に回る事で回避し、体重を預けたまま力任せに盾ごと腕を捻り下ろす。


 鉄のきしむ音と共に枯れ木を割ったような音が響き渡る。


 熊男は走る痛みに耐える為一瞬動きを止めるが、すぐにこちらへ向かってかけ寄ろうとする。


「ウル! やれ!」


 視線を熊男の後方へ向け、叫ぶ。

 急制動をかけ、後ろを確認する熊男。

 もちろんウルは倒れたままだ。


 稼いだ時間を使い、バスタードを手に取る。


 ――考える時間を与えては駄目だ


 地面を蹴り、砂を飛ばす。


 ――ベテランであればある程


 普段であれば絶対やらないような高さに剣を振り上げる。


 ――身体に染みついた動きが


 熊男は視線をあげ、剣を追う。


 ――お前を死に追いやる!


 振り下ろす間際、剣先の方向を右にずらす。

 熊男は瞬間的にそれを見極め、盾を振り上げようとする。


 男が盾を持つ手が使い物にならなくなっている事に気付くのと、

 バスタードがその頭を叩き割るのはほぼ同時だった。




「――知らない天井だってか?」


 普段出来る限りお世話になりたくないと思っている部屋の天井を見つめ、そう呟く。

 手足は包帯に包まれ、ベッド脇の壁から延びる木の棒に吊るされている。

 せめて首くらいは動くかと思ったが、何かの木枠で固定されているようだ。


「まるで交通事故に遭ったようだな……おい、誰かいるか?相棒の様子を知りたいんだ」


 しばらく返答が無くしんとしていたが、足音と共に誰かがやってくる。


「ふむ、心配して来てみれば元気そうではないか」


「フレアか? すまん。とんだ泥仕合をしちまった」


「いやいや、構わんよ。むしろ客には大受けだったようだぞ。メインだけを見に来た連中が話を聞いて悔しがってた程だ」


 確かに見ている側からすれば随分と盛り上がる展開だったろう。


「そうか。それじゃメインを張ってたカイルには悪い事をしたな」


 前座の方がメインよりも盛り上がったとなっては、プライドの高いあいつの事だ。さぞかし悔しがった事だろう。


「それよりウルの具合はどうなんだ。あいつはどこだ?」


 呆れたようでいながらも、興味深そうな声でフレアが答える。


「ほぅ、自分の体より先に相棒の心配か?お前さんらしくないね」


 かぶりを振ろうとするが、首が動かないので、ふんと鼻を鳴らす事にする。


「ふふ、悪くない事だと思うがね……まぁ心配しなさんな。お前さんもあの子もしばらくリハビリは必要だし傷も残るだろうが五体満足のままでいられるだろうよ。

 それと治療費についても気にするな。"二人とも"私の剣闘士だからな。自分の隷従の健康管理も仕事の内だ」


 相変わらずの下目使いのままそう答える。


「二人とも、か。すまんな。我が儘言っちまって」


 目だけ伏せてそう答える。


「我が儘? こんなもの我が儘とは呼べんよ。私にも十分利益のある話だ。いつか君には君がどれだけ稼ぎ出しているのか教えてやりたいね。いいかい? 我が儘というのはだね」


 そう言いながらベッドへ腰を下ろし、顔を近づけてくる。

 鼻と鼻が触れ合い、香水の甘い香りが漂ってくる。


「勝者に乙女の口付けを、といったものを言うのだよ。お望みかい?」


 吸い込まれるような青い瞳に思わずはいと言ってしまいそうになる。


「いや、悪くはないが遠慮しておくよ。特に君の場合は高くつきそうだ。」


 ゆっくりと顔を離すと、彼女は心底おかしそうに笑った。


「あっはっは、そりゃ自分を安売りする気は無いからね。しかし用心深いな君は。それともあれかね。あの兎族が理由かね?」


「兎族?」


「……ふむ。まぁいい。しばらくは無理せずに大人しくしている事だ。

それと今回のプログラムを組んだ誰かさんについても調べを入れておく」


「やはりあれは誰かが?」


「そりゃそうだろうさ。中身の入れ替えやプログラムの改ざんなんて普通あり得る事じゃない。無いとは思うが単なるミスだったとしても、それはそれで剣闘ギルドには責任を負ってもらう必要がある」


険しい表情でそう言うと、テーブルに力任せにナイフを突き立てる。

どうやら相当頭にきてるらしい。


「あまりやり過ぎるなよ?」


 熱くなり易い性格のフレアに注意を入れるが、思っていた以上に血が上っているようで、強い調子で返される。


「冗談ではないよ君。こういうのは徹底的にやるべきなんだ。わざわざ高い金を払って剣闘士を養う理由を理解しているだろう?

 領民にしろ隣領領主にしろ今回の誰かさんにしろ、領主というのはだね、絶対に舐められてはいけないんだ。」


 テーブルからナイフを抜き取り鞘へ戻すと、扉へ向かって歩き出す。


「では私はこれで失礼するよ。また近いうちに様子を見に来る。欲しい物があればその際か、もしくはキスカにでも言いたまえ。」


 そう言うと扉へ手をかけたので慌てて声をかける。


「ちょっと待ってくれ、さっきも聞いたがウルはどこなんだ?まさか"外"ってわけじゃないだろう?」


外というのは剣闘士の生活エリアの外の事で、内部の診療施設では手に負えない患者が運ばれる先だ。


「お前は何を言ってるんだ? あれを同室にできるわけがないだろう」


 ――同室にできない?どういうことだ?見るに堪えない状態という事か?


痛みによるうめき声が止まらないという事もよくある話だ。あまり考えたくない事だが、ウルの方が同室を嫌がっている可能性もあるか……


あれやこれやと考えていると「まさかとは思っていたが……」とフレアが言い、大げさに天を仰ぐ。


「あれは女だぞ?」





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