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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第六章 ――ナバール――
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誰が為に

「どうした。やはり緊張するか?」


 隣から聞こえる鎧同士がガチガチと当たる音を耳にし、声を掛ける。


「そりゃあね。戦争なんて教科書とニュース位でしか見た事ないよ」


 震えるアキラの肩を叩き、顔を付き合わせる。


「まあ、初陣だからな。大丈夫だ。半年間の訓練を思い出せ。お前にならやれるはずだ。それに――」


 続けようとした所で、アキラが被せてくる。


「必要な事だ。でしょ? もう数え切れない程聞かされたよ。でもいまだに信じられないんだけど。本当に俺が"螺旋の勇者"なの?」


 何度も繰り返されたやり取りだが、真剣な表情のまま答える。


「あぁ、そうだ。それは間違いない。前にも言ったろう? 俺は未来から来たんだ。未来でお前がどれだけ活躍したかは"よく知ってる"。いずれわかる時が来るさ……さ、そろそろ始まるぞ」


 吹き鳴らされた突撃ラッパの音に、槍と大盾を持って立ち上がる。


「俺たちの役割は本隊の突破口を開く事だ。何も考えずに突っ込み、暴れ、そして生き残れ。いいか? 俺から三メートル以上離れるんじゃないぞ?」


 壊れた人形のようにかくかくと頷くアキラ。若干の不安を覚えつつも、突撃の合図を出す。


「全員突っ込むぞ!! 北の野蛮人に戦争というものを教えてやれ!!」


 雄叫びを上げる仲間達と共に、敵陣に向かい、走る。

 こちらに気付いた敵軍が、すぐさま弓による応射を開始する。


 突撃隊は各々が持つ大盾に身を隠しながら、前へ前へと進む。何人かの仲間が弓で射抜かれ、その場で盾の影に隠れるようにしてうずくまる。


「一斉射撃の統制が取れてない! 相手は素人だぞ!!」


 やがて接近したこちらに向かい、敵の守備隊が飛び出してくる。


「投げ槍が来るぞお!!」


 北軍の得意武器である投げ槍が、こちらに向かい一斉に放たれる。

 突撃隊は事前の訓練通り、槍が投擲された瞬間その場に座り込み、手に持つ盾と体とに隙間を作る。

 放たれた投げ槍は放物線を描き、こちらに降り注ぐ。


 槍は仲間の持つ木の盾を無数に貫くが、盾を持つ手を貫かれた何人かの不幸な者を除き、作った隙間のおかげで無傷に終わる。


 さぁ、反撃の開始だと腰を上げようとした所で、従軍魔法使いのニッカがこちらに向かい、叫び声を上げる。


「隊長!! 相手の中に魔法使いがいます!!」


 すぐに指差す方へ顔を向けると、弓兵の中に紛れるローブ姿数名を確認する。


「第一小隊は俺に続け!! 残りの者は予定通り前進!!」


 怒号に負けないよう声を張り上げると、魔法使いの一団へ向けて走る。


「ニッカ!! 煙幕頼む!!」


 ニッカはそれを聞くや否や、乾いた大地に向けて無数の光弾を発射する。それはぽんぽんといった軽い音と共に炸裂し、砂煙を盛大に巻き上げる。

 横目にアキラがきちんと付いてきている事を確認すると、煙幕を突き抜ける形で敵へと切り込む。


 放たれた幾つもの魔法があたりに飛び交い、味方へと降り注ぐ。

 しかし煙幕によって正確な射撃が出来なかったのだろう。たいして大きくない被害にほっと胸をなでおろす。


「第二射は撃たせるな!!」


 声を上げながら突進の勢いそのままに、魔法使いの護衛の一人を槍で貫く。相手に刺さった槍を手放すと、そいつが持っていた槍を奪い取り、柄を使って隣にいた護衛のあごを砕く。

 魔法を詠唱しようとしていた男に投げナイフを投擲すると、他の魔法使いから放たれた光弾を盾で受ける。

 光弾で破壊された盾が爆散し、木片のいくつかがヘルムの隙間から顔に突き刺さる。痛みに顔をしかめつつも役に立たなくなった盾を放り捨てると、残りの魔法使い三名を立て続けに切り捨てる。


 ――これでとりあえずは


 安心だと顔をめぐらした所で、敵に覆いかぶさりながら呆然としているアキラの姿が目に入り、冷や汗が溢れ出る。その背後には剣を振りかぶる男。


「後ろだ!!」


 頼むから聞こえてくれ、という思いを乗せて叫ぶ。アキラははっとした様子で横に向けて転がると、振り落とされた剣が宙を切る。

 自分のそばにいた敵兵を切り捨てながらアキラの元へ走ると、無理矢理起き上がらせる。


「悩むのは後にしろ!! 責任は俺が負う!!」


 気合を入れるようにガントレットで強く胸を叩いてやる。


「本隊が来るぞ!! 向こうに合流だ!!」


 遠目に見える軍馬の姿に、巻き込まれないように移動を開始する。

 やがて響く重低音と共に軍馬が走り来て、突撃隊の開けた隙間から敵陣へと殺到し、その陣を切り開いていく。槍兵による水際防御のできなかった敵軍は、満足な対応をする事も叶わず、致命的な混乱が広がっていた。


「これはもう決まりましたね」


 肩で息をしながらそう言うニッカ。頷くことで答えると、再び槍をしっかりと握りなおす。


「だが先は長いぞ。相手は正規軍だ。そう簡単に撤退はしてくれないだろう。もうひと仕事いこうじゃないか」


 隣で座り込み、嘔吐しているアキラを立たせると、再び突撃隊を率い始めた。



 オレンジに輝く二つの太陽。

 既に見慣れてしまった、血と死体だらけの戦場を眺める。


「せめてファンタジーの世界でくらい、戦争が無くならんもんかね」


 誰とも無しに呟くと、そばにあった岩へ近づき、邪魔な死体をどかして腰掛ける。


 今頃フレア軍による残党狩りで、敵はその被害数をさらに積み重ねている所だろう。報告によると国軍の主力部隊も、大きな会戦で勝利を得ているとの事だ。

 アインザンツは国土が縦に広く、それを制圧していく事は、フランベルグには国力的に不可能だろう。とすればこのまま終戦に向かう可能性が高い。前回は痛み分けという形になっていたが、今回の戦争ではかなりフランベルグ側に有利な講和となる事だろう。


 少しは歴史を変える事が出来たのだろうかと、なんとも言えない気持ちで地面を見つめていると、隣にアキラが腰を下ろしてくる。


「ちょっと、隣いいかな」


 暗い様子のアキラに「もちろんさ」と応える。アキラはいくらか迷った様子を見せた後、口を開く。


「ナバールも……ナバールも人を殺した時は、やっぱり悩んだ?」


 ふむ、とかつての事を思い出す。


「そうだな……いや。俺の時はそんな余裕は無かったよ。とにかく必死だった。そうじゃないと生きて行けなかったからな。悩んだのは随分後になってからだった気がする」


「嫌味で言うわけじゃないが」と続ける。


「悩むというのは、選択肢があるという事だ。それはこの世界では贅沢な事なんじゃないかな」


 真剣な表情でそれを聞くアキラ。しばらく考え込んだ後、何かに納得したかのように頷く。


「そうだね……そうかもしれない。それに開き直る気はないけど、今日殺してしまった人達の、何倍もの人を救う事になるんだよね?」


 アキラの真っ直ぐな瞳を見つめる。夕日に反射して輝くそれは、俺には少し眩しく見える。


「そうだな。いずれお前は、人々を救うための戦いに参じる運命が待ってる。お前の戦いは、大勢の人々の為の戦いだ」


 笑顔と共にそう言うと、アキラに聞こえないよう、小さく呟く。


「俺のは、自分の為の戦いだろうな」



 後日アインザンツは、南方領土の一部の割譲と、多くの賠償金の支払いに応じ、戦争は終結した。領土の割譲が行われるという事は、今後の二国間の関係に大きな遺恨を残す事になるだろう。それが一体どういう結果を生むのか。それは今の所誰にもわからない。


 ただひとつ言えるのは、歴史が大きく変わったという事だ。



 突撃隊の面々と共にフレア領へと戻ると、歓喜の声と共に迎えられる。凱旋中に一人の女性がこちらへ走り寄り、衛兵によって止められるが、ウルがそれを押し退け、女性へと身を埋める。

 どうしますか、と目で訴えるウォーレンに先へ行くよう促すと、親子の対面を少し離れた場所で眺める。


 きっと、自己満足なんだとは思う。


 本気で世界を救う為と考えるなら、ウルの母親は居ないままの方がいいはずだ。かつてのウルが戦う原動力としていたのは母親の存在であり、今回のウルはこれで戦う事を辞めてしまうかもしれない。当時の様な努力をしなくなるかもしれない。いずれにせよ良い所などひとつも無い。


 泣きじゃくるウルの声がここまで聞こえて来る。やがて連れて来たウルの弟や妹達もがそこへ合流し、抱き合う。


「……世界など知った事か」


 これを見て世界だなんだとわめく者がいるなら、この場で殴り倒してやる。


 俺は、俺の為に。

 この手が届く範囲の人達の為に、戦う。

 それだけだ。




主人公も色々葛藤し、迷っています。

一体どうするのがベストなのでしょうね?

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