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安堵

だんだんと物語は進展して行きます。




「お宝が眠ってるなんて嘘ばっかりね」


 何も無いがらんとしたキープの中を見て、ミリアが呟く。


「噂なんてそんなもんさ。ああいや、当事は残っていたのかもしれんが、その後ネクロマンサーによって持ち出されたんだろう」


 ネクロマンサーが一体何者で、どういった存在なのかはわからないが、まさか霞を食べて生きているという事もないだろう。扉の会との関係も不明だが、内部にいたとしても、外から対立していたとしても、金はいくらでも必要となったはずだ。


「中身が持ち出されているという事は扉の方も望み薄だな。とりあえず上へ向かって街の地理を把握しておこう」


 月明かりがあるので視界は十分に確保されているが、邪魔な蜘蛛の巣を焼き払う為に松明へと火を付ける。急な明かりに驚いたのだろう、薄暗い天井にいた複数の蝙蝠がキーキーと鳴きながら外へと飛び出していく。

 階段にびっしりと張られた蜘蛛の巣へ火を付けると、よほど乾燥していたのか驚く程の早さで燃え広がり、あっという間に上の階へと続く道となった。


「うえ、こりゃ気持ち悪いね」


 巣の中にいたのだろう、四方へ逃げ出していく大量の蜘蛛にベアトリスが嫌悪感を表す。


「ふむ、森暮らしだったろうに意外だな。蜘蛛なんぞいくらでもいただろう」


 ベアトリスは苦々しい顔で首を振る。


「昔毒蜘蛛にやられた事があってね。一週間も足がぱんぱんに腫れ上がったよ。それ以来トラウマさね」


 心底嫌そうな顔に「なるほど」と苦笑を返し、こちらへ向かってきた蜘蛛を踏み潰す。あまり考えてなかったが、これらが全て毒蜘蛛だったらと考えるとあまりぞっとしない。今後は気をつけた方が良さそうだ。


 火勢が収まったのを確認し、階段を上り始める。念のため二階、三階とフロアの様子を伺いながら行くが、やはり中はがらくたが残されただけのがらんどうだった。


 やがて最上階となる四階への階段へと足を踏み入れた時、ミリアが「待って」と声を発し、こちらの袖を引く。


「上に何かあるわ」


 そんな馬鹿なと階段の先へと視線を送る。


「下がこんな状態なのにか?」


 声のトーンを落としそう答えると、ミリアは少し考えた様子を見せる。


「思念のようなものは感じないから生き物かどうかはわからないけれど、間違いなく何かの流れを感じるわ。少なくとも小動物や何かではありえない程度の」


 ミリアの答えに頷く事で返すと、全員に戦闘態勢へ入るよう通達をする。


「何がいるかはわからんが、我々は魔物を討伐しにきたわけじゃあ無い。もし危険そうな何かだったらすぐに逃げる算段で行くぞ」


 杖と蜘蛛の巣を払う為にぞんざいな持ち方をしていた槍をしっかりと握りなおすと、腰の高さで構え、足を進める。

 やがて四階へ到達し、伺うように中を覗くと、はっと息を呑む。


「そんな・・・・・・まさか・・・・・・」


 目に入ったのは、巨大な扉。


 黒く、にぶい光を放つ扉と、火はついていないが、それを囲むように立てられたいくつもの燭台。地面には気が遠くなる程に時間をかけて書かれたのであろう、びっしりと細かい文字が描かれた魔法陣。

 扉はタロウが言っていた通り、四、五メートル程もある巨大な物で、確かに豪華な教会で使われている物のように、細かい複雑な彫刻がいくつも施されている。


 一体何がといった様子で後ろから覗き込むメンバーの、同じ様に息を呑む音が聞こえる。


 視線を扉へと据えたまま、ゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れる。

 松明の明かりが部屋の中を照らすと、扉に背を預けて座る白骨化した遺体が目に入り、再び息を呑む。


 ――こいつか?


 ハンドサインでウルに射撃の合図を送る。本来であれば弓で撃ちたい所だが、扉に傷を付けてしまう可能性がある。


 やがて「ふっ!」と短く吐き出された息と共に投げナイフが投擲され、見事頭蓋骨の中央へと突き刺さる。

 何かアクションがあるかと身構えるが、古く風化した骨はばらばらに崩れ、床へと散らばった。


「ミリア、魔力の流れはあの骸骨からか?」


 どうかしらね、とミリア。


「あの骸骨からというよりも、扉から強い魔力の流れを感じるわ。その扉が例の扉かどうかはまだわからないけれど、ただの飾りって事はなさそうね」


 ミリアの言葉に頷くと、再び警戒をしながら足を進める。


 やがて扉の周りにある蜀台の内、正面におかれた台には古い本が乗せられている事に気付き、それを手に取る。何が書かれているのかと期待して中を開くが、残念な事に全てが魔法文字で書かれていた。


「ミリア、こいつを読めるか?」


 声を掛けるがしばらく反応が無いので、何事かと後ろを見ると、ミリアは地面に這い蹲るようにして魔法陣を解析していた。

 こいつは後でいいかとジーナに本を手渡し、扉へと歩み寄る。


 天井まで届かんとする高さの、本来入り口という物のあるべき所では無い場所に存在する扉は、その禍々しい紋様や魔法陣と合わせ、異様な雰囲気を漂わせている。


「……お前が俺をここへ連れてきたのか?」


 扉に向かって呟く。

 その答えは後ろから来た。


「違うわ。複製品よ」


 振り向いてミリアを見る。


「複製品?」


「ええ、そうよ。この魔法陣。どれだけ高度な術式が練られているのかと思えば、てんででたらめよ。書かれているのはどれもこれも、初歩的な魔法文字とその組み合わせ。多分だけど、扉を再現できないかどうかの実験目的だったんじゃないかしら」


「なるほど」と答え、扉に視線を戻すと、明らかに安堵していた自分に気付く。


 ――なぜ安堵した?俺は……


 思わず思考に没頭しそうになった頭を、軽く小突いて戒める。

 今はそんな事を考えているべきではない。


「いらなくなったという事は、不可能だという事が判明したのか?」


 少なくとも実験に使えるという事は、無価値とは考えられない。制作にかかった少なくないだろう額を考えると、まだ使用できるならば持ち去るべきだし、本物だとすればこんな場所に放置するなんてのはありえない。


「まあこいつを読めば何かわかるかもしれんな」と手に入れた本の事を考え、踵を返す。

 そこでふと、疑問が浮かぶ。


 振り向いて扉を見やる。


 ――どうしてだ?


 扉は銅か何かだろうか。何かはわからないが金属で出来ている。この世界で金属はどれも高価なものだ。どんな方法でも分解して売ればそれなりの額になるはず。


 ――なぜ持って行かない?


 必死で思考を巡らせる。


 ――持って行かない?そうじゃないはずだ。持って行かないのではなく


 頭の中に浮かんだ可能性が収束していく。



「全員撤退だ!! 急いでここを出るぞ!!」



 考えてみれば簡単な事だ。

 この都市はそう簡単には辿り着けないように迷いの力が掛けられていた。偶然迷い込むなんて事はそうありえる事じゃない。現に財宝が眠っていると冒険者達の間で噂されながらも、誰一人辿り着いたという者はいなかった。


 念の為、頭にナイフがささったままの頭蓋骨を足で破壊する。


 城にあった物を残らず持ち出す事が出来るのであれば、こいつを分解して持ち運ぶ事位できたはずだ。最悪それが不可能でも、普通に考えれば間違いなく破壊するはずだ。


 踵を返し、階段へと向かう。


 であれば最も単純で、危険な可能性が残る。

 奴らは"あえて"残していったのだ。


 部屋の中央付近まで到達した所で、突然窓から突風が吹きすさぶ。

 突風と共に大量の蝙蝠が室内へと侵入し、部屋中を飛び回ると、やがて逃げ遅れた俺とベアトリスを阻むかのように、一箇所へと集まり始める。


「簡単じゃないか……くそ! 扉の事を嗅ぎ回る連中を見つける為だ!」


 集まった蝙蝠は、各々がその黒い皮膚を海老が脱皮を行うように脱ぎ捨てる。むき出しになった肉の塊がやがて溶けていくかのように融合し、人間のシルエットを形作っていく。


 異様な光景もさることながら、恐らく最悪の敵が現れた事に怯えが走る。すぐにでも待機組みと合流するよう指示を出したい所だが、場合によってはベアトリス達にまかせ、俺だけが馬車へと走らなくてはならない。


 ――どっちだ!!


 やがて肉の塊が人の姿へと変わり、ご丁寧に服まで着た男の姿に変貌する。

 その瞬間、ベアトリスの顔を抑え、全力で叫ぶ。



「全員逃げろ!! ヴァンパイアだ!!」





今回少し短めですが、キリが良いのでここで。

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