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死の都

ちょっと進行速度を落として、行動をきちんと描写するようにしたんですが、どうでしょう。

前みたいにトントン進んだ方がいいのかな?

 吹雪の奥にシルエットとして現れたそれは、

 東の国が王都の誇る巨大な城壁だった。


「比喩でも近くにでもなく、本当に到着していたのか……」


 既にいなくなってしまったが、ここまで我々を運んでくれたトレントに驚きと感謝を念を送ると、警戒しながら城壁へ向けて足を進める。


「こ、こりゃあどうなってるんだい?」


 隣を歩くベアトリスがきょろきょろと首をまわしながら言う。


「俺がわかるわけないだろう。こういった事の専門家はミリアだ」


 手をひらひらさせつつ答える。

 ベアトリスは不思議そうな顔をしながらも、どことなく嬉しそうだ。


「そらそうかもしれないけどさあ。あんた、雪の境界線を見れるなんてなかなか出来る体験じゃあないよ」


 そうだな、と返事をしながらベアトリスの言う境目線を見やる。

 左右へと続く城壁から十メートル程離れた場所だろうか。驚く事に、そこから城壁側には、あれだけの吹雪であるにも関わらず一切の雪が見当たらなかった。地面はもちろんの事、空にもだ。


「何はともかく、雪も風も無いというのはありがたいな。あのあたりを拠点としよう。中に人がいるとは思えないが、いたとしても矢狭間からは死角になる」


 既にかなり風化が進んではいるが、今もなお強固な作りの城壁を見やり、壁に作られた弓を射る為の矢狭間を確認する。

 王都は既に人はいないはずだが、普通何十年も使われていない建造物は大抵が植物の住処となっているものだ。しかしここには雑草含め一切の植物が見受けられず、何者かがいるという可能性もゼロでは無いかもしれない。長大な城壁の全てをカバーするだけの人数がいるとは到底思えないが、用心するに越した事は無いだろう。


 生き物の気配――というか匂い――を感知するのに優れたベアトリスを残し、馬車へと戻る。境界線を越えると猛烈な吹雪が襲いかかり、再び寒さを思い出す。まだかろうじて残っていた足跡を伝う事で馬車へと戻る事が出来たが、途中で消えていたらどうなっていただろうと、さほど時間を開けずに戻れた事に安堵する。


 寒さに凍えた隊員達に事情を説明しながら城壁へと向かうと、誰もが雪の境界線にあっけにとられているようだった。ミリアにこういった現象について心当たりがあるかどうかを尋ねたが、博識な彼女でさえ見当が付かない事のようだった。


「ざっと見渡す限りでは町全体を吹雪から守っているように見えるわ。そんな真似、どれだけ優秀な魔法使いをいくら集めても無理よ。誰かが意図的にやっているのだとすれば、それはもう人ならざる者だわ」


 人ならざる者という言葉に息をのむ。

 願わくば敵であって欲しくないものだ。


 ひとり辺りを警戒していたベアトリスと無事合流すると、たき火の明かりを隠すための穴を掘るように指示を出す。植物が見当たらない為に薪も諦めていたが、予想に反して枯れ木は大量に見つける事が出来た。

 二か所にわけて起こした火にあたり、全身で幸せを感じる。馬車から携帯食料を取り出して火であぶり、簡単な食事を済ませると、すぐに眠気がやってきた。

 明日は本格的な調査だが、今日以上に疲れるという事も無いだろう。

 本日の夜警担当に声をかけると、馬車へと乗り込む。ミリアの魔法によって温められた車内と柔らかい毛布は、一瞬でわずかに残っていた意識を刈り取った。



 ふと強い息苦しさを感じて目を覚ます。

 寝ぼけた意識で酷寒の地を旅していたはずだがと考えるが、いつの間にか横で寝ていたジーナとミリアの姿に納得をする。ミリアの方にあった腕は冷たく冷え切っており、ジーナと接していた逆側は汗だくになっていた。

 しばしの間汗を拭いつつ露わになっているジーナの胸元を堪能すると、今は何時頃だろうかと表へ出る。身体の回復具合から結構な時間が経っている物と予想していたが、驚いた事にあたりはまだ薄暗いままだった。


 たき火に近付くと、夜警の一人に声を掛ける。


「夜通し……と言っていいのかわからんが、ご苦労だったな。しかし俺はまだ寝ぼけてるんだろうか? そろそろ夜が明けてもいい頃だと思うんだが」


 夜警は略式の敬礼を返すと、何がなんだかといった様子で答える。


「自分もそう思います。たき火の灰の量からしても間違いないかと。最初は雪のカーテンが日を遮っているのかと思いましたが、上を見ればご覧の通りの月夜です。夫婦揃って旅行ですかね?」


 隊員の物言いに一対の太陽を思い出し、恋しく感じる。

 引っ越しではなく旅行であればいつかは帰ってくるだろうが、それを待つわけにもいかない。月があるだけマシだろうと、調査を開始する事にする。


 二人で折り重なるように寝ていたウルとベアトリスを起こし、馬車の中へも声をかけると、万が一を考えて武装を始める。冷え切った鎧を身に着けるのは最悪の気分だが、仕方ない。キスカのミトンとガントレットのどちらを装備するかは最後まで迷ったが、かじかんだ手で武器を振るう危険性を考え、ミトンを付ける事にした。せめて手の甲に鉄板を取り付ける事が出来ないだろうかと、ニドルに帰ったら相談してみる事を決める。

 腰にフレアの剣を差し、槍を手にすると、全員の支度が整ったかどうかを確認する。


「全員準備はいいな? 我々は東の王都の地理に疎い。迷わないように城壁沿いをしばらく探索し、王城へ向かおうと思う。扉があるとすればそこが一番可能性が高そうだし、無ければ無いで、城から町を見下ろして地図を作る事が出来るだろう」


 視線をジーナへ移すと、自分の仕事だと心得ているようで、大きく頷く。


「さ、それじゃ出発だ。ウルとミリアはいつものように警戒を頼む」



 月明かりの中、古く、所々が崩れ落ちた城壁の回りを慎重に進む。

 場所によってはロープとフックを用いて強引に侵入する事も出来るが、時間がかかる為、いざという時の退路として使う事が出来ない。できれば真っ当な入口が欲しい所だ。


 変わり映えのしない城壁を眺めて三十分ほども程歩いただろうか、ようやく見えてきた城門に、警戒しつつ様子を伺う。


「ジーナ、何か見えるか?」


 癖なのだろう。薄暗い中でも手でひさしを作るジーナ。


「人影は……というより動いている物は何もありません。城門は、閉まっていると言っていいんでしょうか? 朽ちているようですから、通れそうです」


 他のメンバーにも顔を向ける事で尋ねるが、誰からも特に反応は無い。


「わかった。それじゃ中へ入ってみよう。どんな些細な事でも構わない。何か感じたらすぐに教えてくれ」


 全員がしっかり頷いた事を確認すると、門へ向けて城壁沿いを歩く。すぐ横にある雪のカーテンから聞こえてくる風の音を除けば、不気味な程の静けさだ。


 門はジーナの言う通り、金属のフレーム部分を除いて腐り果てており、槍で少しほじってやると、人が通るのに十分な大きさの穴を簡単に開ける事が出来た。


 中へ入ると、中央広場だろうか。遠目に見える広場へと続く長い大通りが目に入り、左右には石造りの家が立ち並んでいる。どこも荒れ果ててはいるが、焼かれた様子や荒らされた様子は見られなかった。


「あんた、あれ見てみなよ」というベアトリスの声に従い顔を向けると、家の壁に無数に描かれた包帯とバツ印。注意して見てみると、付近にある家のどれもに描かれている事がわかる。


「アニキの言った通りだな。やっぱ疫病だ」


 らしくない深刻な声に頷く事で答えると、扉の会の連中の生活の跡や何かがないかどうか、あたりに注意しながら足を進める。


 城壁に沿う形で貧民街を越えると、もはや水の流れていない水路をまたぎ、宿屋街へと到達する。思う所があったので、最初に見つけた適当な宿屋の厩舎に入る。

 何をしてるのかと不思議そうな顔つきのメンバーに見守られながら、槍の反対側を用いて地面の土を少し掘り返す。


「やっぱりあったぞ。骨だ」


 土と埃の下から出てきたのは、人間よりもずっと大きな骨。


「そりゃ見ればわかるさ。それがどうしたってんだい?」


 よくわからないといったベアトリス。


「馬だかロバだかわからんが、骨で出来た乗り物を作ってもしょうが無いという事さ。乗りにくくてかなわんだろう?」


 彼女は納得が言った様子で「あぁ」と声を上げる。


「なるほどね。そういや確かに人っ子の骨は全く見かけないねえ。こんなに大きな町なんだから、そこら中に溢れててもおかしくないだろうに」


 「そういう事さ」と骨を元の場所に放る。


「実際の真相がどうだったのかは、それこそ当時の人間にしかわからんが、少なくともこの町で出来た死体が何かに利用されたのは間違い無いだろう。浮浪者が無数にいる貧民街でさえ骨が無いというのは、どう考えてもおかしい」


 貧民街を通る時に見た、軽く土が被っていただけの石畳を思いだし、そう結論付ける。土や砂は、骨を覆い隠す程には積もっていなかったし、四十年かそこらで全てが風化するとも考え難い。


「全部埋葬する程秩序立っていられるとも思えないしな。さ、それじゃ城へ向かおう」


 厩舎から外へ出ると、途中途中でいくつかの家を覗いたりしつつ、なるべく大きくわかり易い道を選んで王城へと向かう。どの家もあまり荒らされた様子が無く、戦闘の跡などは皆無だった。


 王城へ到達すると、外から見える範囲で内部の様子を伺い、異常無しと確認してから跳ね橋を渡る。一見無事に残っているように見える跳ね橋だが、やはり金属フレーム以外の部分は腐りきっており、あやうく踏み抜いて水の無い堀へ落下する所だった。

 跳ね橋を超えると、そのまま足を進め、中央広場へと歩み出る。


「さ、到着だ。一体何が見つかるかね」


 軍を駐留させる場所として広く取られた広場から、ゆっくりと目線を上げ、キープ(天守)を見やる。

 扉があるとすればここか、魔法関連の施設のはずだ。


 まずはキープからと足を踏み出した所で、この先の事を考えて、その足が止まる。



 ――そういえば考えて無かったな



 可能性としては決して高く無いだろうが、

 もしここで扉を見つけるような事があったら



 ――俺は一体どうするんだ?







ASEBANDA TANIMA


……ちょっと人の名前っぽい。

アゼバンダ・ターニマ 19歳 トルコ人

みたいな。

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