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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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兎族の剣闘士

酔うと文章が書けなくなる事を昨日発見

 使用武器の限定


 集団戦


 殺害の許可


 一つ一つ挙げていくとキリが無いが、剣闘士の試合ルールは実に様々なものがある。

 三年もの間の剣闘士生活の中で大抵のものはこなせるようになったのだが、未だに苦手な種目が一つだけある。


「次はタッグか……」


 二人一組によるチーム戦。これはまだ大木明だった頃から苦手だった事でもある。

 全員が組みになるわけではないので、一人だけあぶれただの最後まで選ばれないだのと、そういった心配は無いのだが、普段アウトローぶっているつもりの自分には、一緒にやりましょうと声をかける事がどことなく躊躇われてしまう。


 人望が無いわけではないと思うし、そこそこ名前も売れている。

 誰かペアを組まないかと声をかければ喜んで飛びついて来るやつもいるだろう。

 問題はそういった奴らは大抵の場合、こちらの実力を当て込んで来るだろうという事だ。

 特に今回は対戦相手の情報が事前に公開される為、対策を練ってこられるとかなりやっかいな事になる。

 下手に格下をパートナーにしよう物なら、相手は間違いなく最初にそいつを潰しにかかってくるだろう。

 そうなれば必然的にこちらは格下を庇いつつの守勢に回らざるを得なくなる。

 こちらも相手の片方に攻勢をかけられれば良いのだが、パートナーに当て込むような奴が保身に回らないと考える程楽観的にはなれない。


「パスリーかグランが使えれば良かったんだが……」


 残念ながら同日に試合の入ってしまっている比較的仲の良い剣闘士仲間を思う。

 無い物ねだりである事はわかっているのだが、どうにも腑に落ちない。


 一日に行われる剣闘試合の数や種類は、剣闘ギルドが盛り上がりやら何やらを考えた上で決定されている。剣闘はあくまで興行なので集客を考えるのが最優先ではあるのだが、いわゆる「暗黙のルール」というものも存在する。例えば


 周知されているパートナーや恋人同士の戦いでは殺害の許可を出さない。

 怪我をしている選手は、相手も同様なものに限る。

 同族同士や貴族同士の組み合わせはできるだけ避ける。


 といった様なものだ。精神的にも肉体的にも、剣闘士のその後の剣闘生活に影響を及ぼすようなものは可能な限り避けるよう配慮されている。そしてその中に


 同じ宿舎で生活する剣闘士を、同日多数の出場をさせない。

 また、可能な限りそれを対戦させない。


 というものがある。

 以前同一の宿舎の人間が多数負傷及び死亡してしまい、その宿舎に所属する者達が、集団戦において著しく不利な状況になった事があるらしい。

 剣闘士が死傷するのは当然織り込み済みではあるが、可能な限りローテーションさせてリスク回避する事が望ましいというわけだ。

 それらを踏まえて考えると、やはり今回の組み合わせはおかしいと思わざるを得ない。

 パスリーとグラン、そして俺を含む実に8人もの同日試合が決まっているのだ。

 全く無いとは言わないが、そう滅多にある事ではない。

 さらに言うと、同僚たちの対戦相手が全く無名かそれに毛が生えた様な連中なのに対し、自分の参加するタッグ戦の相手はかなり有名なキラー(対戦相手をよく殺す選手)だ。


「誰かが俺を潰しにかかっている?」


 あからさまとも取れる現状に思わず声が漏れる。

 しかし誰だ?商売柄人に恨まれることなどそれこそ数え切れない程になるが、剣闘ギルドに顔が利き、組み合わせに影響を与えるレベルとなると心当たりが無い。相当な権力者という事になるが……


「よぅ兄さん、お困りのようで!」


 かけられた威勢のいい声に対し見やると、長い耳が特徴的な兎族の少年が、ニコニコとした表情でこちらを見上げていた。

 誰だろうかと訝しげに見ていると、ついぞこの間廊下でぶつかった少年だという事に思い当たる。あの時は慌てていたせいもあり気づかなかったが、こうして見るとあまりの背の小ささに驚く。


「聞いたぜ、なんかでけぇの相手にしてるんだって? 俺も混ぜてくれよ」


 開けっぴろげにそう言い放つ。

 やはり他の剣闘士仲間もおかしいと思っているようだ。


「あんた次の試合ペアだろ? 俺を使ってくれよ。いい働きするぜ」


 若さゆえの蛮勇なのか、それとも思ったよりも実力者なのか、全く不安のかけらもない笑顔だ。

 見た目と実力は必ずしも一致するわけではないというのは身に染みて知っているつもりだが、それとて限度というものがあるだろう。

 かぶりを振って答える


「大物を相手にしてるのかそれとも偶然なのかはまだわからんさ。それよりお前見ない顔だが新人か?」


 他人に対してあまり興味を持たないタイプである事は自覚しているが、仲間の顔位は一通り覚えているつもりだ。


「あぁ、二ヶ月前にこっちに来たんだ。新人っちゃその通りだけども、切った張ったの年月じゃあんたにも引けを取らないと思うぜ」


「ほぅ、大した自信だな」


「へへ、まぁな。嘘だと思うならこの後の試合を見てくれよ。あっと驚かしてやるぜ」


 そう言うといつの間に取り出したのか両手のダガーナイフを器用に回し始める。小手先の芸でないとすれば相当なナイフの熟練者だろうと推測する。


「あんたには借りがあるからな。借りたまんまってのは性に合わねぇ。いい機会だしさっさと返させてもらうぜ」


 回していたダガーナイフを危なげなく鞘に収めると、片方の口元だけニヤっと吊り上げた意地の悪い笑みを浮かべた。

 まだ幼さの残る整った顔との対比におかしさを覚える。


「わかった、それじゃあ次の試合を観戦させてもらうとしよう。たしか午後の部だったよな? 試合前に食事を抜くタイプじゃないのであれば、食堂で飯でも食べようじゃないか」


 どうせ次の自分の試合まではまだ数日の猶予がある。

 タッグを組める程の実力が無かったとしても誰か別の者を探せばいいし、ナイフ使いはなかなか貴重な存在だから、仲良くなっておけばいくらか手ほどきを受けられるかもしれない。

 ナバールは優秀な戦士であり教官だが、ナイフやスリングショットといった、習熟に時間がかかる技能にわざわざ付き合ってくれる程暇ではないし、彼自身もそこまで熟練しているわけでもない。


 食堂へ向かい、変わり映えのしないいつものメニューを注文すると、いかにも安物ですといった主張を止めないうす汚れたテーブルに付き、取り留めの無い話を続ける。

 狭い世界で生きる剣闘士に出せる話題などほとんど決まりきっている。

 女の話はいい顔をしなかったので、必然的に戦術や次の試合についての話題が中心となり盛り上がる。


 兎族であり歳は一六。名前はウル。ギルド所属の隷属剣闘士で、得意武器はナイフ。身長が百三十八センチとあまりに小柄な為、特例として重装備強制を免除されているらしい。

 本当かどうかはわからないが、個人戦、集団戦と2か月の間に6戦も行い、4勝2分けを残したとの事だ。新人である事、試合間隔の短さを勘案するとかなりの成績と言える。

 また、人見知りしがちなこちらに対し、どんどん前に出て来る物怖じしないタイプなので、性格的にもうまくやっていけそうだった。


 後は実際の戦いぶりを見てみるしかないだろう。


 そう結論付け、そろそろ準備もあるだろうと席を立とうとすると、後ろから強い力で肩を掴まれ、強制的に椅子へ押し戻された。


「よぅ猿族。お前次のセミファイナルなんだって? 良かったなあ。ついでに顔の横についてるその邪魔なものを切り落としてもらえよ」


「カイルか……」


 普段最も会いたくないと思っている男の登場に溜息が漏れる。


「おっと、猿族は耳が横についてるんだったか。失敬失敬」


 そう言うと頭頂部にある自らの耳を自慢げに撫で付ける。

 豹族であるカイルは隷属剣闘士ではなく一般剣闘士。つまり自由市民でありながら剣闘士をしている男だ。

 選民思考が強く、猫科以外の種族に対して見下す傾向があり剣闘士仲間からの評判も悪い。

 何が気に食わないのかはわからないが、俺に対しては特にあからさまな敵意を向けて来ている。オールフリーでの俺との対戦を何度もギルドに申請して来ており、全て俺が拒否している形だ。ギルドもそこそこ使える剣闘士同士を殺し合わせるのは望む所ではないので、却下され続けている。

 そう、腹立たしい事ではあるがカイルはかなりの実力者なのだ。


「悪いがカイル、取り込み中だ」


 目を合わせないまま、なるべく穏やかに応じる。


「ほぅ、お前、兎族なんかとつるんでるのか。耳の短いお前には丁度いいかもしれねぇけどな」


 自分だけではなく、関係の無いウルまで貶める言動にイラっとするが、安い挑発に乗ってやる必要もないだろうと、平穏な対応を心がける。

 しばらくそうした不毛なやり取りを続けていると、まぁ当日はせいぜい俺様の前座として頑張ってくれと言い残し、一方的に言いたい事を言って去って行ってしまった。


「なんでぇあの野郎。嫌なやつ」


「そうだな……まあ、ああいう奴だから気にしない方がいい。それよりそろそろ時間だ。準備に向かうべきだろう」


 午後を知らせる鐘が鳴り始めたので、ウルを促す。


「おうよ、それじゃちょっくら行ってくるぜ」


 まるでちょっとコンビニにでも行ってくるかのような気楽さで応じる。


 頼もしいやら危なっかしいやら複雑な心境でウルを見送ると、

 自分も遅れないように観戦席へ向かう事にした。

次でようやく戦闘シーンかな。

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