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死の世界

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


剣闘場で1体1の戦いをやっていた頃と比べて、

なんとも規模が大きくなってきました。

どんどんと広がっていく世界が表現できてるといいなあ……

 結局あの後ジーナ達の後詰めが砦を開放したのは、我々が尖塔へ引きこもってから丸一日後となった。

 激しい戦闘音の後、扉から現れたベアトリスのあの辛そうな顔が忘れられない。腐った返り血を浴びた彼女から発する臭いは酷いものだったが、我々もそう変わらなかっただろう。


 尖塔から出た後はベアトリス達と共に、そう言って良いのかどうかわからないが、ゾンビの"残党"と戦い、これを全滅させた。

 他にも生き残りがいないかどうか期待したが、残念ながら見つからなかった。建物内にはゾンビ化していない死体もいくつか見つけられたので、ネクロマンサーによって息の根を止められたのだろう。


 近くの川へ行き傷の治療と水浴びを済ませると、再び砦に戻り、中を徹底的に調べ上げる。

 ほとんどの書類や何かは焼き捨てられており、死者による襲撃の中、扉の会の幹部達が勇敢だっただろう事がわかる。こちらとしては有難くない話だが。


「アニキ、これってなんだ?」


 ウルが一枚の焼け焦げた紙切れを手にこちらへ走り寄ってくる。


「ふむ……こいつはロシア語か? 商店の広告みたいだ」


 洗剤や食料品の絵が描かれた、いわゆるチラシというやつだ。恐らく何かの役に立たないかと保存してあったのだろう。未知の言語は魔法文字に見えなくもない。

 その後も続々と見つかる地球由来の品から、やはり扉の会が何らかの手段で"扉"を使用していたという事実がわかる。ほとんどが何の役にも立たない雑多な物や壊れた物だったが、中にはまだ使用できる物も残っていた。


「ライターか……こいつはもらっていこう」


 いわゆる百円ライターを見つけたので、それを懐へ忍ばせる。すぐにガス欠になるだろうが、しばらくは楽を出来る。

 まだ火がつくかどうかを試した時の周りの反応がおもしろい。ウォーレンがこの場にいたなら「隊長。いつ魔法使いになったんですか」とでも言った事だろう。


 ひと通りの確認を終えると、砦の保持を後詰めのメンバーに託し、砦を去る事にする。ここを綺麗にするには大量の人手が必要だ。応援を呼ぶ必要がある。

 それに……いち早くフレアに伝えなくてはならない事がある。




「報告は聞いたよ。ご苦労だった」


 ニドルの作戦指揮所にて顔を合わせる七人。俺、フレア、ウル、ミリア、ジーナ、ベアトリス。そしてキスカ。

 ジーナとベアトリスには地球の事を話していなかったので、事前に伝えておいた。二人とも驚きの表情でなかなか信じなかったが、他のメンバーは既に知っている事と、拾ってきたライターが説明の役に立った。


「何か大事な話があるとの事だが、さっそく聞かせてもらおうか」


真剣な顔のフレアに頷いて答える。


「そうだな。どこから話したものか……まず最初に言っておきたいのは、これから話す事は基本的に俺の推測に過ぎないって事だ。多分大体の所は合ってるとは思うんだが……」


 所詮はその場の思いつきであるという事は事実だ。一同が頷くのを確認すると、続ける。


「なあフレア。例えばだが……ここに扉があって、そいつでここと地球を自由に行き来できるとしたらどうだ。 何かの役に立つと思うか?」


 顎に手をやり、しばし考えるフレア。


「……いや、私だったらすぐにでも破壊を命じるね。もちろん君が……いや、なんでもない」


 かぶりを振るフレア。


「今までの君の話を聞く限り、地球というのはあらゆる面でこちらより遥か先を行っているようだ。人口、技術、軍事、あらゆる面でだね。そんな国と直接繋がるだと? 悪夢以外の何者でもないね。連中だってそんな事は想像がつく筈だ」


 フレアの答えに頷く。


「俺も何かメリットがあるとは思えない。多少興味深い物品は手に入るだろうが、せいぜいそれだけだ。お節介な地球の連中がこっちの社会制度を黙って見ているとも思えないし、欲を出した国が侵略でも始めたら戦争にすらならないだろう。」


 ここには魔法という未知の技術に加え、全く手付かずの資源がいくらでも眠っている。これらをどんな手段を用いてでも欲しがる者はいくらでもいるはずだ。

 それにもし仮に平和的な付き合いを行っていくとなったとしても、こちらもあちらも大混乱になるのは間違いない。成長というのはゆっくりしていく事が望ましく、急激すぎる変化は必ず歪みを生じる。また、一方的にあちらを利用するならともかく、実態はその逆になるだろう。

 ビー球ひと袋で土地を買われるような事は、実際に地球でもあった事だ。


「だけど地球産の道具や何かは確かに魅力的に見える。むこうじゃ誰だって手に入れられるこのライターひとつとっても、何か大きな財宝の夢を見るには十分だ」


 ライターに火をつけ、その炎を見る。


「あいつらは扉の使い方を調べると言っていた。砦にあった物はほとんどが役に立たない物だったし、自由に何かを狙って呼び寄せるような真似は出来ないんだ。だが、運良く金目の物が手に入る事もあったんじゃないかな。宝石や貴金属。もしくはそれを身に付けた人間とかね」


 「なんにもねえって事はねぇよな」というウルに頷く。


「正直、扉の会はそういった不思議な道具や財宝を目当てに、扉を使ってるんじゃないかと思ってた。神の力と勘違いしてもおかしくないような物まで向こうにはあるしな」


 なにやら複雑そうな表情でミリアが口を開く。


「でもそれだと今まで私たちが予想してた事と同じでしょ? 今更って感じだわ。それにさっき貴方が言ったじゃない。ちゃんと繋がるような事があったら危険だって」


「ああ、その通りだ。だが、もしかしたら完全な一方通行なのかもしれないし、安全に制御する方法があるのかもしれない。その辺はまぁ、わからないな。将来的にはそうなるのかもしれないが、少なくとも現状ではたまにお宝を吐き出す危険な扉、というだけの代物だ」


 フレアが後を継ぐ


「だが連中は、その危険性を当然わかっていながらも使い続けている。となると自然と答えは決まってくるね。それだけの危険を冒す理由が他にあるんだ」


 頷いて、続ける。


「今の状態でも扉に十分な価値がある事に気付いた奴がいたんだよ……いや、違うな。扉の"便利"な使い道といった方がいいのかな?」


 業を煮やした様子でウルがわめく。


「もったいぶるなよアニキ、あいつら何を引っ張り出そうとしてんだよ。まさか本当に魔王ってんじゃねえよな?」


 いや、どうだろうな、と前置きをする。


「あながち魔王と言えなくもない。ある意味それより恐ろしいかもしれないな」


 少しの間を置き、答える。



「疫病さ」



 しばし固まる一同。


「疫病って……あの疫病? そんな事が可能なの?」


 あぁ、と頷く。


「出来るなんてもんじゃない。恐らく最も簡単だ。とにかく門を開ければいいだけだからな。」


 よくわからないといった顔の一同に説明をする。


「人間であるのがベストだが、動植物やゴミ。とにかくなんだっていい。それこそ運がよければ空気があるだけでも十分だ。ちょっと想像しにくいかもしれないが、病気の原因となるものは世界中の至る場所にあるんだよ。詳しい話は省くが、それを雑菌とでも呼ぼうか……そう、ザッキンだ。」


 視線を部屋の四方へぐるっとまわす。


「俺たちは身近にあるそういったザッキンに対する免疫を最初から持ってる。しかし体が弱ってたりすると免疫がザッキンに負けて病気になったりするんだ。そしてそういったものは治療術によって治療できるよな? だが新しいザッキンに対してはどうだ?」


 フレアが「そうか」と得心の表情を見せる。


「新しいザッキン……つまり疫病か。治療術が効かない病気の代表だ。我々は疫病治療の際は一度その疫病に侵される必要がある。当然免疫を作る為だ。」


 ミリアがそれに続く。


「そうなると……私たちは地球にあるザッキンに対する免疫をまるで持ってない事になるわね。地球は疫病だらけってこと?」


「そうだな。だが向こうからすればこちらの世界が疫病だらけって事になるな……なあ、ジーナ。先遣隊が疫病にかからなかったのは覚えてるな?それと炭鉱に行ったメンバーが病気にかかった事も」


 頷くジーナとベアトリス。


「多分あの時も扉が開かれてたんだ。そしてメンバーが地球のザッキンに犯され……地球生まれの俺だけには感染しなかった。ニドルの疫病の時は具体的な証拠まであった」


 道端に転がっていたタイヤを思い浮かべる。


「俺は治療術というものがどういったものなのか良くわからない。だが、その病気に対する免疫を持ってないと治せないという事は、自分の免疫を他人に分け与えるとかそういったものなんだろう。そう考えると先遣隊のほとんどが疫病にかからなかった理由の説明が付く。

 かからなかったのは、過去にジーナの治療術を受けた事がある奴らだ」


 「ちょっと待ってくれよ」とウル。


「じゃ、じゃあよ。もし扉がずっと開くようになったら……それって相当やべえんじゃねぇの? あっちもこっちも疫病だらけって事なんだろ?」


 一同の顔色が変わる。


「待っているのは死の世界だろうな。生き残るのは運良く治療術を受けることが出来るひと握りの人間だけだ……そこら中に溢れかえった死体と弱った人々。そしてそれで得をする者がいるな?」


 フレアが怒りの表情で答える。


「ネクロマンサーだ。そうなったら世界は奴のものだ……まさに魔王といった所か」


 ゆっくりと頷くと、「まだあるぞ」と続ける。


「恐らく今回が初めてじゃないと思う。四十年前にも同じ事をやったはずだ。東の国は突然現れた死者の軍団に攻め滅ぼされたとなっているが、実際は違うんだと思う」


 死者で溢れるその死の都市を頭に思い描く。




「扉を開き、そして死者の軍団を作ったんだ」









挿絵(By みてみん)

実際は病原菌を繁殖させる為に弱った人間を傍に沢山おいたりとか、

なんか色々えげつない事やったんでしょうね……


なにやら終わりが近い雰囲気ではありますが、

第三章が終わるだけで、物語はまだ続きます。


ちなみに明日は一日出かけなければいけないので、

明日の分もという事でこちら投稿しました。

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