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気付いたら34話目。

完結かそれ近くまで一通り書き終えたら、時間をかけてガチで書き直そうかなと思います。

今書き直しちゃうと現在のスタイルが好きで読んでくれている方に申し訳ないですしね。


いればですが。

「さて……何から聞いたものか」


 目の前の黒装束の女を見やり、考える。

 かなり怯えた様子で、ガンガンと止む事無く叩かれ続けている扉と、足元の剣とを心配そうに見ている姿から、色々と素直に喋ってくれるだろうとは思う。

 しかしそれらの信憑性が高いかというと決してそうではない。


 ――あまり使いたい手では無いが、拷問されるよりはマシか


 ミリアに目で合図をし、頷くのを確認する。


 扉の会は、当初こそおかしな宗教観で人々を扇動するだけの変わった集団と考えられていたが、それは単に今までの東の国の混沌が覆い隠していたに過ぎず、フレアが町の治安を取り戻すにつれ、今まで恐怖から沈黙していた人々から一斉に訴えが挙がりだしていた。

 その主たるものが教会等の宗教施設や従事者に対するもので、その治安の悪さから代わりとなる司祭の補充が出来なかった東の国の宗教にとって、ほとんど致命的と言える損害を与えている。

 他にも彼らに表立って反対する者や、対立するタウンギルド等の自治体組織に対する妨害、暗殺行為。盗賊団に対する資金援助等々。挙げていくと枚挙に暇が無い。

 フレアが近い内に一斉駆除を行うと言っていた事から考えると、この後我々に保護されたとしてもあまり愉快な未来が待っているとは思えない。


 ひと通り考えをまとめると、女に声を掛ける。


「あぁ、まず自己紹介からしようか。俺はワート。そっちの小さいのがケニスで、魔法使いがエイダだ。あんたは?」


 腰を下ろし、できるだけ優しそうな笑みを浮かべる。うまく出来たのかどうかはわからないが、女は震える声で「ヤト」と短く名乗る。


「ヤトか。いい名前だな。俺たちは流れの冒険者で、これからニドルに向かう所だったんだ。山越えして向かってたんだが妙な事に巻き込まれちまったよ。"あれ"はなんなんだ。あんたらのお仲間なんだろう?」


 背後の扉を親指で指す。するとヤトは凄い勢いで首を横に振り始める。


「し、知らない。あなたたちがやったんじゃないの?」


 噛み裂かれた腕と脚の傷を見せ、「自分でやっててこうなってちゃ世話ないぜ?」と無関係である事を示す。


「完全に通りすがりだよ。叫び声を聞いて慌てて駆け付けたんで、まともに防具を付ける事もできなかった。そういや荷物は無事かな……」


 白々しい演技だが、射撃用の狭間から外を眺める。

 ウルのニヤニヤした顔が頭に来るが、仕方あるまい。


「ねえ、他に誰か一緒じゃないの? 助けは来ないの?」


 かぶりを振って、女に答える。


「あんたも俺が無様に転がり込むさまを見ただろう? ここへ逃げ込むのに必死だったのさ。残念だが俺たちはもう終わりだろうな」


 女の顔に絶望の表情が浮かぶ。


 ――いけるか?


 すかさずミリアへ視線を送る。



 ――"MindHack"――



 ミリアが精神掌握の呪文を唱えると、女は一瞬痙攣したように仰け反り、その後虚ろな表情でぺたんと床に座り込む。


「どうだ?」という問いにミリアの得意気な笑顔が返る。


「障壁はほとんど無かったわ。死ぬような思いをして助かったと思ったら、すぐに絶望。心の壁を無くすのには十分なショックだったようね。でも貴方、演技の勉強をした方がいいわ。こんな状況下じゃなかったら誰も信じないわよ。」


 ウルに負けず劣らずのニヤニヤした顔に、ほっといてくれと返し、ヤトの前に屈みこむ。


「さぁヤト、俺が誰だかわかるか? ……違う違う、ワートなんて名前じゃない。俺は君の直属の上司だ。今日は君が扉の会について、どれだけ勉強しているかの試験をしようと思う。いいかい?」


 ヤトは虚ろな表情のまま頷く。


「さて、ではあの動く死体について説明してくれ。何があった?」


「わからない……急に動き出してみんな……」


「そうか……それじゃ会のメンバーはここにいたのが全員か?」


「違う……でも他のグループとも連絡が付かない……」


 ――連絡が付かない? つまり孤立していたという事か?


「理由に心当たりはあるか?」


 女は無言で首を振る。続けてメンバーの数や構成を訪ねたが、それらも満足な返事を得られない。残念な事に組織の下っ端のようだ。


「――そうか。では質問を変えよう。扉の会の目的を教えて欲しい」


「…………」


 流れる沈黙。騒がしく扉を叩く音の合間に、誰かが息を飲む音が聞こえる。


「世界に幸福を……」


 期待していたのと違う答えに、声を荒げる。


「違う!そうじゃない。もっと現実的な形での目的だ……そうだな……言い方を変えよう。世界を幸福にする為、具体的に何をしてるんだ?」


 虚ろの表情がこちらを向く。



「扉……扉を開いて……"扉の使い方を見つける"……」



 しばらくその意味を掴みかね、固まる。


 ――使い方を……見つける?


 頭にその事実が染み込むにつれ、衝撃が押し寄せる。

 女の肩を掴み、揺さぶる。


「扉は……扉は存在するんだな? 教えてくれ! それはどこにあるんだ!!」


 空ろな目で揺さぶられるがままの女がゆっくりと手を上げ、壁を指差す。


「東の…………」


 ――東の?


 ふと、女の空ろだった目に焦点が戻る。

 そして驚く程の力でこちらの手を振り解くや否や、首の骨が折れるにまかせて顔だけを後ろへ向け、ミリアの方を向く。

 目の前で起こっている事態に誰もが理解できず、その場に固まる。


 やがて女は白目を向いたままの顔で、口を開く。


「"湖の魔女か! 余計な事をしてくれる!!"」


 先ほどまでとは違う、低く、うなるような声。


「"森へ帰れあばずれめ!!"」


 女の前に集まる空気の歪み。



 ――"Recall"――

 ――"CounterSpell"――



 女が唱えた転移の魔法に、ミリアの対抗呪文が打ち重なる。

 行き場の無くなった魔法の力がまるで爆風のような衝撃を生み、全員が床へ転がる。


「くそ! 一体何がどうなってる!」


 這うようにして剣を拾い上げると、女へと向ける。


 しかし女は倒れたまま動かず、沈黙だけが流れる。


「ミリア! 今のは一体なんだ? 何がどうなってる!」


 興奮したこちらを宥めるようにゆっくりと口を開くミリア。


「わからないわ……誰かが外からその女を操っていたのは間違い無いけれど、一体どこからどうやってかまでは。 一つ言えるのは、信じられない程強力な力を持った魔法使いって事ね。とりあえず落ち着きなさい。もうそいつは傍にはいないわ。"多分"だけど」


 "多分"を強調するミリアは若干不安そうに見える。

 こんな小さな子に何を怒鳴り散らしてるんだと、ミリアへ謝罪の言葉を口にし、女の元へ向かう。

 生きているかどうかを確認しようとしたが、首が真後ろを向いているのだ。脈を診るまでもない。死んでいる。


 力が抜け、その場にへたり込む。


 ――大丈夫だ。落ち着け。得られた物は多いはずだ


 バックパックから気付け用の木片を取り出すと、口に含み、今わかっている事を考える。ジーナ達が駆けつけるまでにあと半日から丸一日はかかるだろう。時間だけはいくらでもある。


 ここは扉の会の拠点のひとつで、他にもグループがあると言っていた。こんな人里離れた砦で簡単に生活が出来るわけはなく、普段から頻繁に行き来があったはずだ。

 そしてその連中か、もしくはそいつらが運ぶ情報が遮断され、砦は孤立。目的はわからないが、ここの惨状を見るに先ほどの魔法使いがやったと見るべきか?


 口から血を流して倒れている女を見やる。


 一人で大きな組織を相手取るなど馬鹿馬鹿しいにも程があるが、死体の数だけ部下を増やせるネクロマンサーとなるとわからない。しかも実力は湖の魔女のお墨付きだ。

 しかしそうなると目的はなんだ?

 先ほどの様子ではとても正義の味方には見えなかった。やはり扉か?


「なあアニキ」


 ――だが扉を手に入れてどうするというんだ?


「なあなあ。アニキぃ」


 ――何か目的があってやってるのは確かだろうが……


「あーにーきー!!」


「……はぁ……何だ?」


 うんざりとした顔でウルを見やる。


「ちょっと思いついたんだけどさあ、ネクロマンサーって死体からゾンビとかを作るんだろ?」


「あぁ、そうだな。その辺は俺よりミリアが詳しいぞ」


 ミリアに矛先を向けるが、意に介さず、何やら考え込む様子で上の方を見るウル。


「だったらよ、疫病のあるとこってすげぇ便利だよな。どこ行っても死体がわんさかあるわけじゃん? ここもそうだし」


 ぞんざいに頷きながら答える。


「確かにな。俺がネクロマンサーだったら…………」


 当たり前としか思えないウルの意見に、何か強い引っかかりを覚える。


 ――なんだ?


 死体の多い場所でネクロマンサーが有利。そんなのは当たり前だ。

 しかしなんだ?何かが気になる。


 ――ウルの言葉を思い出せ。なんと言っていた?



 疫病のある所は有利である……いや、違う!


 疫病のある所は便利である……そうだ!"便利"だ!



 はっと顔を上げ、ミリアを見やる。


「ミリア、念のためもう一度確認するが、疫病を起こす魔法なんてものは無いんだな?」


 一体何度目?といった表情でミリアが答える。


「無いわ。呪いをかけて病気にさせる事は出来るけど、人に移るようなのは無理ね。理が余りに違うもの。まだ空を飛ぶほうが現実的だわ」


 ミリアの答えに満足し、再び思考へと沈む。


 何かがある。


 いくつもに分解されたジグソーパズルを繋ぎ合わせる何か。


 頭の中に断片的に広がった情報の中にある、その何かをたぐり寄せる。


 ――考えろ。


 ――考えろ!


 ――俺は何かを知っているはずだ!!


 まるでうんざりする程絡まりきった毛糸のようになった思考を、ひとつひとつゆっくりと、丁寧ににほどいていく。

 決して再びからまり合う事が無いよう、慎重に。



 扉を叩く音だけが響く沈黙の中、その事だけを考え続けると。


 ある一定の段階までほどいた時


 それまでの苦労が嘘のように


 何の抵抗も無く



 するりと一本の長い糸となる



「扉……」



 国中に蔓延する疫病

 ネクロマンサー

 ミリア達の高熱

 携帯電話


「扉だ……!」


 扉の会

 地球

 疫病にかからない先遣隊

 自動車のタイヤ


「扉を開いてたんだ……!!」


 松かさ

 治療術師達の治療方法

 東の国の崩壊

 魔王の召還



「あいつらは扉を開いてたんだ!! 何度も!! ずっと昔から!!」








別に推理小説というわけではないので、

期待させるような終わり方ですが、

基本的にこの小説はどれもテンプレ通りです。

オチはあまり期待しないでやって下さい。


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