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突入

いつも読んで頂いてありがとうございます。


この小説はファンタジー世界を楽しむというより、

描きたいのはあくまで冒険活劇ですので、

カテゴリを冒険に変更しました。

「おかしいな……どうなってるんだ?」


 見晴らしのいい山肌に土を掘って作った窪地から砦を窺い、ひとりごちる。

 岩肌をくり抜いて作成したと思われるかなり大きな古い砦は、森や谷といった自然の障害と合わせ、それが実用されていた時代には非常に強固な要塞として機能した事だろう。

 雨風にさらされて所々が損壊してしまっている今でも、十分に実用に耐えるはずだ。


「なぁアニキぃ。いつまで張り込み続けるんだよー」


 横でこちらと同じように伏せた姿勢のウルが呟く。

 本人の心境と同期しているのか、うなだれた長い耳がつまらなそうに岩肌を撫でている。


「ベアトリスとジーナが交代要員を連れてくるまでさ。往復で四日かそこらはかかるから、明日には帰れる計算になるな……む、また捨てたぞ」


 高い城壁から黒装束が二人乗り出し、担ぎ上げた死体を外へ放り投げる。

 その下には既にかなりの数の腐乱した死体が積まれており、かなり離れたここまで酷い悪臭が漂って来ている。

 正直この光景を目にするまでは、黒装束。つまり扉の会と疫病に何か関係があると思っていたのだが、今となっては疑問符が付かざるを得ない。


「ちょ、ちょっと貴女。やめなさいよ」


 あまりの暇さに辛抱できなくなったのだろう。ウルが寝そべったまま横にごろごろと転がり、そのままミリアの上を通過する。


「はぁ……仕方ない。今夜の夜警はウルだ。少し早いが寝ててもらうとするか」


 目でミリアに合図をすると、頷きが返ってくる。


「ほら、ちょっとこっちに来なさいな……はい、それじゃ眠らせるわよ」


 魔法で寝ると起きる時つらいんだよな、と不満顔のウルに、ミリアが魔法をかけ始める。だが――


「……待て! まだ眠らせないでくれ。何か動きがある!」


 突然開き始めた城門を確認し、慌てて魔法を制止させる。


 城門に人ひとりがようやく通れるだけの隙間が出来ると、中から慌てた様子で数人の黒装束が飛び出てくる。


「何かから逃げているな……何だ? 中で何が起こってる?」


 横に寝そべるウルに目を向けると、彼女は既に聞き耳を立てていた。


「アニキ、何かが……何かがうじゃうじゃいやがるぜ!」


 ウルの答えに困惑の表情を向ける。

 どういう事だ?連中が毎日外へ捨てるゴミやら排泄物やらの量から推測すると、どう考えてもせいぜい十人かそれに満たない数のはずだ。

 顔を巡らし、ミリアの方へ見やる。

 しかしそこにあったのはこちら以上に深刻な顔でウルを見やる顔だった。


「どういう事? 砦からは何の反応も感じないわ。本当に何か聞こえてるの?」


 懐疑的なミリアに、ウルが吼える。


「うるせえ! こちとら三百メートル先でおめぇが小便かます音だって聞こえんだ!! アニキ、間違いねぇよ。絶対なんかいるぜ!」


 真剣な目を向けてくるウル。


「よし、ミリア、君を疑うわけじゃないが……あぁ、なんてこった!」


 砦の前で繰り広られている光景に目を見開く。

 こちらの驚く様を見た二人も視線を砦へ向ける。


「嘘……なんてこと……」


「ア、アニキ……なんだよあれ」


 砦前にて逃げ出した四人の黒装束が、助けを求める叫び声をあげている。

 四人に縋るようにまとわりつくのは、先ほど彼らが投げ捨てていた死体達。

 おびただしい量の動く腐乱死体が、その内臓やら目玉やらをまき散らしながら、背筋が凍りつくような唸り声を上げている。

 戦場を渡り歩く中で幾多の地獄を見てきたが、これ程までにおぞましい光景を見るのは初めてだ。


「ネクロマンシーだわ……」


 最初の数人は門から逃げるように出てきた。という事は、恐らく中にも何らかの脅威があるという事か?


「まずい! あいつらが全滅したら何もわからなくなるぞ!」


 命令するまでも無く、全員が慌てて戦闘の準備を整え始める。


 死霊術が使われたという事は、それを使った人間がいるという事になる。となると魔法使い。それも強力な奴がいるという事か?一体何者だ?

 こちらはずっと監視していたが、それらしい人間が潜入した気配には全く気付かなかった。俺はともかくウルやミリアのレーダーに引っかからないというのはどう考えても異常だ。


「気を付けてかかれよ。何がなんだかわからん事だらけだ。最優先事項は死なない事とする。やばくなったら逃げろ。いくぞ!」


 野営地を飛び出し、山肌を滑り落ちるようにして砦への道に踊り出る。


「アニキ! 中から悲鳴が聞こえるぜ。まだ生きてる奴がいる!」


 砦への道を先頭に走る。眼前では我々に気付いたのだろう。不気味な唸り声をあげる死体が、それぞれこちらに向き直る。


「ウル! 中の様子をうかがって来てくれ! こっちはまかせろ!」


 走りながら体重を剣に乗せ、横に一閃する。

 黒装束の死体はあっけなくその身体を二分し、上半身がだるま落としのようにその場に落ちる。

 掴みかかって来た別の死体の口から脳へかけて剣を突き入れると、その身体を蹴り飛ばし、死体の頭がついたままの剣でさらに別の一体を袈裟斬りにする。


「くそ、なんて臭いだ!!」


 死体をひと刻みする度に撒き散らされる体液が、目に染みる程の悪臭を放つ。

 恐らくベアトリスがこの場にいようものなら卒倒していた事だろう。


「ダメだアニキ! 中もゾンビだらけだ!!」


 聞こえてきたウルの声に、強引に突破しようとした考えを破棄すると、吐き気をこらえて剣を振り続ける。

 さらに四体程の死体を両断した所で、切り返そうとした足に痛みが走る。


 ――こいつ!!


 ふくらはぎに噛り付いていた上半身だけの死体の頭を剣の柄で殴り割ると、盾を構え、突進してきた死体の体当たりを受け止める。

 後先考えない頭からの突進に、死体の首の骨が折れる音が響く。しかし次々と群がる死体に、次第に押され始める。


「ぐ! 数が多すぎる! ミリア、まだか!」


ウルが護衛を行っているミリアを見やると、返事の代わりに力を持った言霊が吐き出される。



 ――"土よ"――"水よ"――"命よ"――



 ミリアの前に空気の歪みが集まり始める。



 ――"entangle"――



 空気の歪みがはじけ、高い耳鳴りのような音が響く。


 次の瞬間、山の木々に絡みついていた何十ものツタが、異常な程太く、そして長く成長し、まるで獲物を捕食するかのように動く死体へと襲いかかる。

 腕のような太さのツタは、死体の体へ器用に螺旋を描きながら巻き付くと、その身体を信じられない程の強さで締め上げ、その脆くなっていただろう全身の骨を次々と砕き始める。


「よし! 突入するぞ!」


 運よくツタの襲撃から逃れた数体のゾンビを切り伏せると、扉へと走る。

 少しだけ開かれていた扉の隙間を、身体を横にする事でなんとか通り抜けると、まるで待ち構えていたかのようにすぐ脇にいたゾンビに、右腕の肉をかじり取られる。


「ぐ! この野郎!」


 噛まれた腕をそのまま扉に向けて突き出し、その頭を粉砕する。

 なおも次々と走りよるゾンビを切り伏せながら前へ進み、ウルとミリアが入ってこれるスペースを作ると、近くにある階段から城壁へと昇る。


「誰か生き残っている者はいないか!!」


 出来る限りの大声で叫ぶが、ゾンビ達のうめき声が邪魔で、返事が来ているのかどうか全く判別が付かない。


「ウル! 聞き耳を立ててくれ! こいつらは階段でせき止める!」


 わかった!という返事を後ろに聞くと、階段を駆け上がってきたゾンビを蹴り落とす。恐怖心というものが無いのだろう。落ちているにも関わらず、こちらへ向かい手を伸ばすその姿に総毛立つ。


「聞こえた! あっちの建物だ!」


 絶え間なく押し寄せる死体を切り刻みつつ、ウルの指差す方へ首を向ける。


 ――タワー(尖塔)か!!


 走るぞ!と二人に声をかけると、手近にいたゾンビを掴み上げ、階段へと力任せに投げつける。痛みを感じないだろう彼らに対して効果は無いだろうが、時間稼ぎにはなるはずだ。


「待って! 道が崩れているわ!」


 ミリアの声に、タワーの方を振り返る。

 城壁の外にいる敵を弓で狙い打つ為に作られた頑丈なタワーは、本来であれば城壁の上から直接内部に入れるのだが、そのわずか手前が風化によって広く崩れ、大きく穴をあけていた。

 こちらは鎧で、ミリアはその体格から向こう側へ飛ぶのは難しいだろう。

 ならば――


「ウル! 受け取ってくれ!」


 声をかけると同時にミリアを抱え、全力で走る。


「ちょ、ちょっと待って、無理よ無理!」


 叫ぶミリアを無視すると、いち早く向こう岸へ着地したウルにミリアを投げ渡す。


「よいしょー!!」というウルの間抜けな掛け声から無事受け止められた事を確認すると、バックパックから素早くロープ付きのフックを引き出し、城壁を落ちるように降下する。

 着地と同時にロープを切断すると、タワーへ続く城壁の内階段へ向かって走る。


「邪魔だ!!」


 内階段への入り口でたむろしていたゾンビを盾で打ち払うと、階段を駆け上がる。

 先ほどまでウル達がいた箇所へと到達すると、そのまま尖塔の中へ入り、再び階段をかけ上がり始める。

 焼けそうになる肺を我慢しながら上へと登っていると、後ろから多数の追いすがる足音が聞こえ始める。


「アニキ! 急げ!」


 ――言わなくたってそうするさ!


 やがて頂上へ到達すると、倒れこむようにして中へと入る。

 こちらの体が全て中に入るや否やミリアとウルが二人で扉を閉め、かんぬきを下ろす。

 その瞬間、ドアに重い物がぶつかる衝撃がはしる。


 一瞬破られるかと不安になったが、篭城用に作られた丈夫な扉はビクともせず、しっかりとそこへ居座ってくれた。これなら援軍が来るまで持ちこたえてくれるだろう。


「間一髪だったわね」


 うんざりとした顔のミリアに手を振ることで答えると、直径六メートル程の見晴らしのいい円形の広間に目を向ける。

 中には怪我をしたのだろう、肩を押さえた人間の女が不安そうな顔で座り込んでいた。


 女の視線がそれを追うように、見せ付ける形でゆっくりと剣を床へ置く。


「突然お邪魔して申し訳ないが、ちょっと聞きたい事があるんだ」


 女は視線をこちらへ戻すと、驚く程の勢いで頷きを繰り返した。





実際こんなのに遭遇したら、間違い無く心が折れます

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