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追跡

本日もこちら読んで頂き、ありがとうございます。

この小説が一時の暇つぶしにでもなれば幸いです。


特に考え無しだったので作成してないのですが、

第一章 とかそういうくくりってあった方がいいのですかね?

「大変だアニキ!!」


 まるで蹴破るようにして部屋へと飛び込んで来たウル。何があったかはわからないが、その血の気の無い顔から良くない知らせである事を推測する。


「疫病だ! ニドルで疫病が出た!」



 まだ昼間だというのに人気のほとんど無い大通りを、治療術の使えるジーナ、ミリアを連れ、ゆっくりと歩く。

戸という戸は全て閉められ、不気味な静けさが町を覆っている。


 フレアは疫病発生の知らせを受けるとすぐに剣闘団を町中に走らせ、外出の制限と疫病患者の隔離を行った。勝手に家を出る者は重く罰せられる。

 また、剣闘団の宿舎も空にし、町の4方に分散。町は内からも外からも完全に封鎖する形にした。人口に対して軍が大きかった事による完全な力技だろう。

 幸いなのは軍事拠点として大量の食料が備蓄されていた事だ。これからどう転ぶかはわからないが、飢餓だけは避けられそうだ。


「あったぞ。白旗だ。ジーナ、様子を見てきてくれ」


 恐らくシャツか何かだろう。具合の悪い者がいる合図である白旗が窓から伸ばされ、まるで手招きをしているかの様に風に揺れている。


 やがてしばらく待っていると、扉からゆっくりとジーナが顔を出し、真剣な表情でひとつ頷く。


「ここもね……一体いつまで続くのかしら」


 険しい表情をするミリアにかぶりを振ると、巡回中の団員に声をかけ、家と住人を隔離するよう支持を出す。


「俺は医者じゃないから詳しい事はわからんが、相当強い感染力だな。こっちの世界じゃ当たり前なのか?」


「どうかしらね」とミリア。


「私も専門じゃないけど、少なくとも今までに聞いた事は無いわ。東の方では町ひとつ無くなってるのよね? そんなものがあれば書物にだってなんだって残ってるんじゃないかしら。」


 ミリアの言葉に確かにな、と頷くと、運ばれていく罹患者達を眺める。

 真っ赤な顔で朦朧とした表情をし、団員にもたれかかるようにして歩いていく姿は、まるで映画のゾンビの様だ。


 やがて簡易的な治療を終えたジーナが暗い表情で戻ってくる。


「患者のうち二名は軽い症状でしたが、もう一人はとても助かりそうにありません……しかし皆さんやはり高熱にうなされていました。どうしてでしょう、アイロナの人たちとは症状が全く違います」


 当事の事を思い出しているのだろう、少し遠い目をしながら考え込んでいる。

 わからないが、と前置きをして返す。


「おかしいのはそこだけじゃない。俺たちだ。なんで俺たちには感染しないんだ?」


 ニドルを疫病が襲ってから既にひと月が経っている。

 幸いにも一斉に広がるような形でなかった為に被害自体は少ないが、当然隔離作業に従事する兵士達にも疫病にかかる者が現れた。

 いや、表れたという表現ではおかしい。


 一部を除いて"全員が"罹患した。



 じわりじわりと兵士達の間にも広がった疫病は、一人見つかっては一人治療しを繰り返し、結局その連鎖が途切れる事は無かった。

 少なからず団員の命を奪って行った疫病は、終わってみれば先遣隊メンバー以外のほぼ全員がその経験者という具合だ。


 なぜ先遣隊だけが?とは何度も考えたが、結局わからないままだ。

 今までに近い症状になった事があるのは随分前のジーナだけだし、あれが疫病だったとは考えにくい。

 それに全ての先遣隊メンバーが感染しなかったわけでは無いし、先遣隊以外にも感染しなかった者はいる。例えばキスカも感染しなかった。

 逆にフレアは他の術者と同様、治療の為にあえて疫病にかかり、発病して免疫をつけてから防疫活動に臨んでいる。

 俺と関わりある人間だけか?とは考えたが、それにより真っ先に否定された。


「まぁ、疫病にかからないのならそれに越した事はないわ。それより貴方、ウォーレンがこちらに向かっているみたいよ。すごく気が立ってるからきっと良くない知らせね」


 ミリアの指差す方を見ると、確かにこちらに走り寄るウォーレンの姿が見える。


「良くない知らせねえ……魔物に疫病にと、お次は何が来るのかね」


 うんざりした表情でかぶりを振ると、ウォーレンの方へ歩き出す。



「隊長! お知らせしたい事が!」


 息を切らせたウォーレンが、膝に手を付きつつまくし立てる。


「例の黒装束の男達が町へとやってきています。町の中へ入れろ、だめだの押し問答が続いているんですが、そろそろ引き返して行きそうなんです。恐らく追跡させるんだと思いますが、ボスが団長にすぐ戻るようにと。」


 ウォーレンの言葉を聴き終わるや否や、ジーナとミリアを連れ、全力で駆け出す。

 曲がり角にあった黒い塊を飛び越すと、本部からこちらへ向かって駆け寄るフレアと衛兵の姿が見えた。


「フレア!どっちの門にあいつ……ら……?」



 ――なんだ?



「アキラ! 東門だ! 旅の装備一式も既に届けさせてある! すぐに向かえ!」



 ――今のは一体なんだ?



「ミリアとジーナも行動を共にせよ! ウル、ベアトリスは既に向かっているぞ!」



 後ろを振り返り、曲がり角を見やる。

 道の端に置かれた大きな黒い塊が目に入る。


「アキラ! 何をやってる! ……くそ、なんだというのだ」


 恐らく異常を悟ったのだろう、フレアが駆け寄ってくる足音が聞こえるが、今はそれどころではない。

 ゆっくりと足を進め、塊へと近づく。


「アキラ! 聞こえているのか? 一体どうした」


 黒いドーナツ状の塊の前に立ち、呆然とそれを見る。


「……フレア、こいつを本部に運んでおいてくれないか」


フレアは訝しげな様子で塊を見る。


「それは構わんが、なんだねこれは?」


手を伸ばし、そのゴム質の感触を確認する。



「……車輪さ。自動車っていう乗り物のな」




「全部で……八人。町に来たという人数と合致します」


 高台から黒装束の男達をはるか遠くから見下ろすジーナの報告に、ほっと息を付く。


「途中で分散でもされてたら困った所だったな……連中はこちらに気付いているか?」


 まさかこの距離でとは思うが、連中の中にも目利きの鷹族がいないとも限らない。

 少し困った顔で首を横に倒すジーナ。


「うーん、どうでしょう。何かを警戒したりといった動きには見えませんでしたが……」


「そうか」と短く答えると、黒装束の行き先について考える。


 このまま旧街道沿いを進むのであれば、かつてニドルと首都の間に設けられた宿場町跡へと向かう事になるが、現在は廃墟となってしまっている為、普通に考えるとそれは無い。

 とすると途中に点在する村か、それとも街道を折れて北東部へと向かうのだろうか?

 ジーナの話やフレアが集めた情報によると、黒装束。すなわち扉の会の構成員は少なく見積もって二百。ただし疫病の起こった各街に来ている、恐らく実働部隊と思われる連中の数だけでだ。

 その裏にどれだけの人数がいるのかは全くわからないが、通常の組織と同様に、外回りの人数に対して内勤が異常に少ないという事もないだろう。


「合計四百名以上を養える場所か。まさか村って事はないだろう。となると北東部の町か?」


 まだフレアの勢力圏に含まれていない、付近の町をいくつか頭に思い浮かべる。

 未だにその正体が掴めていない事から、ほとんど交流が無い町だろう。


 ウルと並んで倒木に座り、暇そうにしていたベアトリスにどう思うかと尋ねると、「あんた、そんなの付いて行けばわかるじゃない。」と事もなげに返される。

 なんともやる気の無い返事ではあるが、まぁ、確かにその通りではある。


「アキラさん、あの人達曲がらずに直進して行きました。」


 ジーナからの声に驚きの声を上げる。


「真っ直ぐ? 連中廃墟に何の用だ?」


 思わずジーナが見ていた方向に目を細める。

 黒装束達は遠すぎて見えないが、その先に広がる山々は確認できた。


「まずいな……直進だと山間の森に入る。少し距離を詰めるぞ、見失う可能性がある。」



 追跡速度を上げ、さらに追う事二時間。


「おいおい、一体どこへ行こうってんだ?」


 既に道らしい道が無くなってからしばらくが経つ。秋の訪れと共に随分とその葉を減らしたものの、いまだ鬱蒼とした森の中を進み続ける。


「なぁアニキ。やっぱあいつら俺たちに気付いてるんじゃねぇの?きっとこのまま巻こうとしてんだぜ!」


 ウルの意見に足を止め、唸り声を上げる事で答える。

 疲れ切った顔のミリアがうんざりした様子でこちらを向く。


「参考になるかどうかはわからないけれど、黒装束が何かに焦っているような流れは感じなかったわ。もしこちらに気付いてるとすれば、こういった事に相当慣れてるわね。」


「ふむ……魔力の流れだったか?それはどれくらい正確なものなんだ?」


「どれくらいって……どう答えればいいのかしら? 魔力の流れに嘘を付ける人間なんていないわ。汗をかく事と一緒よ。意識して抑える事は出来ないけれど、その原因となる暑さや緊張自体をどうにかすれば汗自体は止められるわよね。」


 なるほど。という事は少なくともリラックスしているのは確かである。といった所だろうか。

 そうなるとこちらに気付いていないか、ミリアの言う通り連中が熟練であるかのどちらかだ。

 よし、と声を発する。


「もし気づかれていてもなんとかする形しかないな。全員今まで以上に罠に警戒してくれ。もしかすると既にこのあたりは連中の庭という可能性もある。いいな?」


 各々が頷く。


「さぁ、それじゃ行くぞ」と声をかけた所で、ベアトリスから待ったの声がかかる。


 なんだ?と訝しげな顔で見やると、彼女はじっとしたまま鼻をひくつかせている。


「焦げ臭い匂いがするよ。連中火を起こしたみたいだね。何かのスープの匂いもする。なぁ、あたいらもここらで休憩としないかい。」


 ベアトリスの声に、ウルとミリアが賛成の声を挙げる。

 ふむ、と沈みゆく太陽を見やり、夜の訪れが近い事を確認する。

 ベアトリスの言う様な匂いは全くわからないが、熊族である彼女が言うからには間違いないだろう。


「わかった。ではここらで野営する事にしよう。ウルとベアトリスは落ち着いたら先に寝てしまって構わない。もし明日以降も野宿をするようであれば、寝ず番を頼む。」


 いやっほうと喜びの声を上げるウルに拳骨を食らわせると、涙目になりながら周囲の警戒を行うウルを除き、全員で野営に相応しい場所を探し始める。


 ふと顔を上げ、真っ赤に染まった夕日を眺める。



「母の太陽があんなに先に沈んでる……もう冬も近いな。」



 大小二つの沈みゆく太陽が、世界を美しく照らしていた。






婚約しても夫の扱いは変わらず。

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