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軍靴の音

いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

皆さんの期待に応えられる作品になっているのか、

なんとも不安ではありますが、精一杯頑張ります。

「今日は楽しかったな……」


 一人になった部屋で横になる。

 決して普段の生活がどうしようもなく辛いというわけではない。

 大変な日常にだって楽しい事は見つかるものだ。

 だが、今日のように勝手知ったる仲間達で集まると、やはり普段と違った特別な楽しさを覚えるものだ。


「しかしフレアとミリアがなぁ……偶然なのか運命なのか」


 日頃運命など神と同じ位信じていないものだが、さすがにそう思わざるを得ない。確率としてどれだけ低い事なのか検討もつかない程だ。


 身体を起こし、まだ器に残っていた酒をあおる。


「それに扉の会……新手の新興宗教かと思ってたんだがな」


 個人的な予想としては、混乱に乗じて新しい宗教を興そうとしている輩たちを想像していたのだが、ミリアによるとずっと昔。それこそミリアが冬眠に入る前から東の国に存在していたらしい。


 王家に忠誠を誓う過激派組織。


 ミリアの説明を聞いたフレアが一言でそう要約していた。

 王家の方針に反対する者を暗殺したりもしていたようなので、宗教団体というよりは秘密警察に近いもののようだ。

 そんな組織が表だって活動を始めたという事は、普通に考えれば目的はひとつしかないだろう。


「王家の復興か……どこかに遠い血筋でも残っていたか?」


 だがそうなると、確実にフレアとぶつかる事になりそうだ。

 彼女がどこまで進撃する気なのかはわからないが、それを黙って見過ごすとも思えない。

 まさかほとんど崩壊しきった国の組織がフレアの軍勢に対して、何か抵抗らしい抵抗ができるとも思えないが、黒服の男の存在がどうにも不安感をもたらしてくる。

 たった数分。しかも見ただけの事だったが、異常な点が多すぎる。



 地球の品である携帯電話の存在。


 太古の魔女すら知らない飛行の魔法。


 地面に描かれた魔王召喚の為の魔法文字。


 そして扉の会。



 一体何がどう繋がるのか?それともそれぞれが別々の意味を持つのか?


 もちろん全てが確定したわけではなく、どれも否定的に捉える事もできる。

 魔女が全ての魔法を知っているわけではないし、携帯電話は使うふりをしていたのかもしれない。

 魔法文字は魔法使いならば誰でも知っている文字のようだし、扉というのは彼らが表だって主張する通り王家の門。つまり城の事を差している……


 そこまで考えた所で馬鹿馬鹿しくなり、思考を放棄する。


 今ここでごちゃごちゃ考えてもわかる事では無いし、完全に理解の範疇を超えたものだってある。


「だいたい中継基地も無しにどうやって電波を飛ばすってんだ……魔法でどうにかできるのか? いやいや、電波の存在すら知らないのに不可能だ。それに魔王だと? 馬鹿馬鹿しい。」


 自分に言い聞かせるようにそう呟くと、睡魔に抵抗するのを止め、闇の中へと落ちる事にした。


 いつか必ずチャンスが来るはずだ。

 今はじっとその時を待とう。




 あれから二ヶ月が過ぎた。

 訓練と報告等。それに作戦立案等、やる事が多く忙しい毎日ではあったが、こんなに平和な日々が今まであったろうか?と本気で思うほどに穏やかな時間だった。


 嬉しい事にジーナとベアトリスはフレアの強い誘いに応え、傭兵団に加入する事になった。向こうの風土に詳しいという事。そして東の国の人間がいるという事が、進軍の際に相手側の士気に影響を与えるだろうとの考えからだ。

 残念な事は、疫病からこちらへ逃れてきた村人の中にジーナの祖母を含めた何人かの姿が無かった事だろう。いくら魔法があっても子供や年寄は病気で命を落としやすいし、遠く離れたこの地までの移動に耐えられなかった者も数多くいたようだ。


 ミリアはフレアの命で魔法使い対策についての指導と、抗魔力を持つ道具の制作とその指揮にあたった。意外な事にキスカがその才能を発揮し、何やら二人で部屋に閉じこもり作業をしている姿が見られた。

 ミリアの方が師にあたるが、その身長差から子供と大人の組み合わせにしか見えず、「あら、キスカちゃんいつ産んだの?」と仲間の使用人から良くからかわれていた。


 俺はリハビリを続けるウルと共に訓練を行い、フレアと作戦について語り合った。痩せ細っていたウルは今や十分に戦える程回復しており、足も全く問題無いようだった。二人で厨房に忍び込み食糧をかっさらったが、どうやら廃棄処分する予定の物だったのだろう。二人そろって腹を壊して寝込んだなんて事もあった。


 よく働き、よく遊び、よく寝る。


 健全な生活は眩いばかりの物だったが、その生活が長くは続かないだろう事も良くわかっていた。

 いくらそれを望んでもまわりがそれを許さないなんてのは良くある事だ。

 だからこのかけがえの無い日々をできるだけ心に残す。


 それがまた訪れるだろう戦いの日々の糧となるはずだ。


 そして何より戦う理由に。




「先発隊の出撃準備? 早すぎないか?」


 各種書類の処理をしながらのフレアが、こちらの発した質問に答える。


「ああ、すまないがのんびりしている暇は無くなった。予想以上にフランベルグ王家の動きが早い。密偵の報告だと国中の食糧と鉄を買いあさり始めたそうだよ。まさかまた北の国とやらかすつもりはないだろうからね。狙いは一つだ」


「東か……」


 フレアは秘書官に書類を手渡すと、彼に退室を促す。


「そう考えるのが普通だね。ただ明らかに準備が早すぎる。東への事はここ最近思い付いた事ではなく、随分前から計画していたんだろう。北南戦争がイレギュラーな出来事だったと考えた方が良さそうだ」


 しばし考慮し、なるほどと頷きを返す。


「そう考えると色々と納得がいくな。北南戦争の時に王家の対応が遅れたのは東に軍備を集中していたせいか……それにフレアを陥れようとしていた事の説明もつくな。フランベルグで最も東に位置するのは君の領だ。邪魔にならないはずがない」


 ご明察だね、とにこやかな笑み。


「恐らく連中が動き出すのは秋の収穫が終わってからだね。冬の方が魔物の動きは大人しいし、奥地へ進撃してしまってからから冬を迎える事は避けたいはずだ」


「残り一年か……もし間に合わなかった場合はどうなる?」


 レアはうんざりした様子で答える。


「その場合は"我々の戦争"ではなく"王家の戦争"となる。いくら活躍して町を解放していったとしてもそれらは全て王家の物だ。無論活躍に応じて爵位だの土地だのを褒美として寄越してくるだろうが、どうせろくな場所じゃないだろう。少なくとも私が王家ならそうするね。爵位なんぞ偉そうに踏ん反り返る時以外は何の役にも立たんしな。話にならんよ」


 今がどれだけ危機にあるかがわかるかい?というフレアに肯定の意を示す。


「東への侵攻で力を付けた後は煮るなり焼くなり好きに出来るってわけか。しかし君も嫌われたもんだな」


「嫉妬というのは非常に強い感情のひとつだからね。物理的にも精神的にも邪魔なのだからまぁ、王家の気持ちもわからなくはないよ。だがね――」


 そう言うとフレアは素早い動作で短剣を引き抜き、壁にかかった国旗に向かってそれを投擲する。

 それは狙い違わず王家の紋章に突き刺さる。


「敵は敵だ。アキラ。いつか私は君にも協力してもらうぞと言ったね。覚えているかい?」


 フレアは執務室のテーブルを回り込むと、こちらへ歩み寄る。

 真剣な表情になった彼女に応じるよう、強く答える。


「あぁ、ウルが倒れた時の事だな? もちろんだ」


「そうか……いつも君には頼み事ばかりで申し訳ないが、またひとつ頼まれて欲しい。まさに今がその"いつか"なんだ」


いつもと違う弱気なフレアの物言いに不安を覚える。


「おいおい、らしくないな。追い詰められてるとは言ってもまだまだこっちが先を行ってるだろう?どんと構えていつものように命令すりゃいいのさ」


 しかしフレアは不安気な表情で俯きながら答える。


「そうか……君は……私を信じているかい?」


 これは思ったより重症だぞと背中を嫌な汗が流れる。


「当り前だろう!俺はこの世界で君より信用できる人間を知らない。この世界で何も知らない俺を拾ってずっと助けてくれたじゃないか」


 説得を、そして励ますように強く答える。

 それにこれらは嘘じゃない。俺は彼女無しには間違いなく生きられなかっただろう。


「何があっても俺は君を信じる。どんな命令にだって従うさ」


 戦争時代。奴隷時代。剣闘士時代と、彼女と共に歩いた日々が去来する。


「死ねと言われればそうする。殺せと言われれば殺す。今までだってそうだったし、これからだってそうだ。さぁほら、いつものように頼むぜ」


 そこまで言うと、ようやく彼女は顔を上げる。


「ふむ。君の覚悟が聞けてよかった。そして今どんな命令にでも従うと言ったね?」


 急にいつもの様子に戻ったフレアに驚きを隠せない。まさか演技だったのか?

「いくらなんでもそういう冗談は」という言葉は「言ったね?」という言葉にかき消される。

 恐らく何を言っても同じように返されるのだろう。


「あぁ。言ったな。」


 その言葉に満足そうに頷くフレア。

 そして真剣な顔に戻り、口を開く。


「君にとっては不本意な事だろうが、これは今の我々にはどうしても必要な事だ。他にも方法があるのかもしれないが、私が考えうる限り最善であり、最も効果的だ。今この状況下で最善という事は、失われる民の命が最も少なくて済むという事でもあるね。だから私はそれを君に命令する」


 フレアはこちらの目を覗き込むように顔を近づけてくる。

 青い瞳が広がり、頬をやわらかい髪が撫でる。


「すまないがアキラ……」


 肩に置かれた手に力がこもる。



 ――おいおい、まさか本当に死ねというんじゃないだろうな?



 もちろんそう言われればそうするつもりだが、心の準備というものが必要だ。


 しばらくの間を置いた後、フレアが口を開く。



 しかし出てきたのは全く予想だにしていなかった一言だった。




「私の夫になってくれないか?」








挿絵(By みてみん)



平和な日々を堪能しているアキラさんですが、

ここしばらく戦闘シーンが出ていません。

これは問題です。

問題です。

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