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魔女

忙しい事この上無いアキラ君ですが、

時系列を見るとそんなに頻繁に長旅してるわけでもありません。

仕事に追われつつも充実した日々な気がします。

しょっちゅう死にかけてますけど。

「扉の会……扉……」


 はっとフレアへと目配せすると、無言の頷きが返って来る。


 もう少し突っ込んだ質問をしたい所だが、この場で地球の事を知っているのはフレアとウル、それにキスカだけか……いや、しかし。


「同様の報告は他の町からも届いている。だが何か悪さを働くといったものでもない。正直どうしたものかと困っているよ」


 こちらの動向を遮るように発せられたフレアの言葉に、情報はあるから黙っておけとの意を暗に読み取り、開きかけた口を閉じる。


「……そうだ、ベアトリス。村のみんなは無事なのか?」


 ベアトリスは強気な笑みを見せる。


「もちろん。村に戻ったジーナから疫病の話を聞いたからね。すぐにでも町から人がやってくるかもしれないってんでね、村長らと話し合って村人全員で森へ避難したさ。あたいらの活躍で森は前よりずっと安全になってたからね」


「なるほど。森か」


「そうさ。みんなハンターだからね。しばらく家がなくたって困りゃしないのさ」


 それを聞いてほっと胸をなでおろす。

 せっかく村を救ったのにすぐに疫病で壊滅しました。ではいくらなんでもやるせない。

 だがそうなると、なぜわざわざ遠いこの地まで来たのかという疑問が残る。

 こちらの納得のいかない顔に気づいたのだろう、ジーナが口を開く。


「しばらくは森にいたんです。ひと月も我慢すれば疫病も収まるだろうって。でも実際は時間が経てば経つほど酷くなる一方で、その内同じように森に避難してくる人たちが出始めてしまったんです」


「ひどいもんだったよあんた。一目で疫病持ってます、ってわかるような赤いまだら顔になった連中が森のそこらで死んでるんだよ。こっちは死体に近づくわけにもいかないだろう?もうどっか遠くに逃げるしかなかったのさ」


 疲れた顔を見せるジーナとベアトリスに、いかに当時大変だったかが伝わってくる。

 フレアはそんな二人に視線を送りつつ言う。


「彼女らはだね。勇敢な事に自らが疫病に侵される危険を承知で、村の皆をこちらに避難させて良いのかどうかわざわざ訪ねて来たんだよ。そんなもの気にもせずに押しかけてくる連中がほとんどだというのにね。

 今彼女らと共に来た何人かが残りの村人を呼びに戻っている所だ。断るつもりだったんだが、薬の件とその勇気に感銘を受けたよ」


 なるほどとフレアに頷きを返し、感心した様子で彼女らを見やる。

 二人とも浮かべているのは誇らしい笑みだ。


「真の英雄は俺なんかじゃなく君らだな。そうだウル。ちゃんと二人に礼は言ったのか?」


 遠慮のかけらも無く料理を食べ続けるウルにそう振ると、ジーナが「もうウルさんとは仲良しなんですよ」と答える。二人で顔と声を合わせて「ねー」と首を横に倒す姿に、やっぱりウルも女なんだなと妙な関心をする。


「貴方はまるでその子の父親ね」


 ミリアのその一言に笑いが起こる。

 もちろん笑ったのは五人だ。




「アキラ、まだ起きているかい?」


 ノックと共に掛けられた声に身体を起こす。

 どうせ返事をしてもしなくても一緒だろうと想像したが、まさにその通りだった。


「ふむ。今日はあれやこれやと悩んでいた様子はなさそうだな……あぁいや。先客がいたのか」


 部屋へと入ってきたフレアはこちらへ向けられていた視線を窓際へ移すと、じっとそこを見つめる。


「やあ、何の用……先客? なんの事だ?」


 視線を彼女が見つめる先に移す。

 すると窓際の一角、何も無い空間が虫眼鏡を通した世界のように歪んだかと思うと、音も無くミリアの姿が現れる。


「こんばんわ主様。やはり貴女魔術の素養がおありね」


 驚きの表情でミリアを見やると、彼女はこちらへウインクを返す。


「ごめんなさいね。ちょっとどうしても貴方達と話がしたかったのよ」


 彼女はそう言うとフレアに椅子を進め、自らも腰を下ろす。


「別に構わないよ。私も話がしたかった所だ」


 フレアはいつもの下目使いでミリアを見やると、足先から頭に至るまでゆっくりと目線を動かす。


「まどろこしいのは好きじゃない。単刀直入に言おう。君は私の先祖にあたるね?」


 流れる沈黙。

 一体何の冗談だ?とミリアへと視線を移すが、冗談を言っているような顔ではなかった。


「そうね。直接繋がっているわけじゃないけど、私の師。つまり母からの血縁になるから……遠い叔母という事になるのかしら」


「ふむ、そうなるだろうね。湖の魔女と聞いて正直驚いた。母が魔女の血縁で、湖の魔女についての話を良く聞かされていたからね」


 事もなげにそう答えるフレア。しかし彼女から感じる圧力は、決して穏やかな雰囲気と呼べるものではない。

 ミリアも当然それに気付いているのだろう。両手を上げ、降参を表す。


「貴女とやり合う気はないわ。信じてもらえるかはわからないけれど、アキラと出会ったのは偶然だし、自分の血縁者がここにいる事も知らなかったわ」


 それに、と続ける。


「私が最初の魔法を唱える前に貴女は私の喉を切り裂くわ。しかもそれ、封魔のお守りでしょ?それを破るのはしんどいわね」


 ミリアはフレアの胸元に光る金属片を指差す。


「あれは……キスカの?」


 自分の胸元にも下げられている同じお守りを手に取る。

 そんな力があるとは全く知らなかったが、もしかすると気付かない内に何度か命を救われていたのかもしれない。

 心の中でキスカへ感謝の念を唱えると、二人に視線を戻す。


「ちょっといいだろうか。何がどうなってるのか良くわからないが、二人に血縁関係がある事に何か問題があるのか?」


 フレアはミリアから視線をはずさないまま、「わからない」と答える。

 おいおい、そりゃないだろと返すと、ミリアが口を開く。


「湖の魔女に家族はいない。湖の魔女はいつも一人。小さい頃に寝物語で聞かなかったかしら?」


 こちらへ片眉を上げそう言うが、残念ながら小さい頃は魔女などいない平和な場所にいたので、さっぱりだ。


「湖の魔女はその力の源を血の中に持っている。子が生まれればそれを受け継ぐが、全てでは無い。残った力はその母が死ぬ事で手に入る。兄弟でも同じだね。大抵の場合は殺し合い、一人が生き残る。それが魔女の血族というやつなのさ」


「殺し合うって……そいつは穏やかじゃないな」


 フレアは少しおかしそうに笑みをもらす。


「そうでなければ"魔女"などとは呼ばれないさ。ここしばらく強い力を持つ魔女が生まれたという話を聞いた事が無い。何故かと疑問に思った事があったが、なるほど当たり前だね。強い力を持つ魔女がまだ生きていたのだから」


「そうね……貴女は私を殺したいの?」


 少し怒りを含んだ声でフレアが答える。


「君の力を手に入れたとして何の役に立つというのだね?私はいちいち配下の魔道士に直接教育する程暇ではないし、戦場で魔法を使う位ならひとつでも多くの指揮を飛ばすべきだ」


 ふふ、と笑みをもらすミリア。


「だったら平気ね。私は魔力に関しては十分に持っているわ。これ以上はいらないもの。それに貴方はアキラの主なのでしょう?だったら私の主でもあるわ。臣下の礼をとったのは嘘じゃないわよ」


なんならもう一度やる?との声にかぶりを振って答えるフレア。


「それには及ばんよ。しかし君の言葉をそのまま信用するわけにもいかない・・・そうだな。アキラ、君はどう思う」


 フレアはようやく視線をミリアから外すと、こちらを見る。


「どうと言われてもな。こう言っちゃなんだが、今までにフレアへ危害を加えようとすればそれが可能だったタイミングが何度もあったろう? それでも何も無かったんだし信用していいんじゃないか?」


 しばらくの間じっとこちらを見るフレア。今一つ決めかねているのだろう、視線がフレアとこちらとの間を揺れる。


「だったらこれをアキラに預けるわ。主従の証としては十分でしょう?」


 そういってミリアは赤い宝石を差し出してくる。

 手に取り眺めると、まるで液体で出来ているかのような複雑な光のうねりが見て取れる。何か魔法の品だろうか?知識の無い自分でもそれが大変な価値を持っているだろう事は想像できる。

 フレアは驚きを持ってそれを見ると、今まで纏っていた殺気めいた雰囲気がようやく収まり、感心を表す表情になった。


「まさかそれほどとは思わなかったね。君はよほど好かれているようだ。アキラ、その石は彼女の命そのものだ。そう簡単に壊れるような物ではないが、落とさないよう大事にしまっておけ。それが割れれば彼女も死ぬ。」


 フレアの口から出た恐ろしい事実に慌ててミリアへ宝石を返そうとするが、話の流れ的に返すわけにはいかないと気付き、不承不承預かる事にする。

 丈夫な鉄で出来た貴重品入れに入れたので、よほどの事が無い限り大丈夫だとは思うが、それを括り付けているベルトの左側がいつもよりずっと重くなった気がする。


「さて」とようやくリラックスした様子でフレア。


「ではもうひとつの用件の方に行こう。アキラ、君はまだ彼女に地球についての話をしていないんだろう? 魔女の知識は有効だ。例の宗教団体についての件も含め、この三人の間には共通認識を作っておくべきだ」




「はぁ……母の知識を受け継いで少しは世界の事を知ったつもりになってたけど・・・思い上がってたわね」


 地球、そして扉についての話を聞いたミリアは、溜息と共にそう言う。


「私も最初は狂言の類かと思ったよ。じゃーじと言ったか? 彼の着ていた服やなにかははまだ保存してある。信じられないというのであれば後で確認してみるといい。恐るべき技術力だぞ」


 フレアはなぜ知っているのか、ベッドの下に隠しておいた高級な酒を取り出すと、人数分の杯に注ぎ始める。

年齢的にミリアは大丈夫なのだろうかと疑問に思ったが、彼女は何も躊躇する事なくそれをあおる。


「信じるわよ。そんな嘘をついても何の意味もないもの。でもそうなると炭鉱で見たっていう扉の会の男が気になるわね。ケータイデンワっていうそっちの道具を持っていたんでしょう?」


 一体どんなものなの?という彼女に石版とチョークを用いて説明する。


「こういう形をしていて、同じ道具を持つ者同士が会話をする事が出来る。他にも色々できる事があるが、何をするにもバッテリー・・・なんて言えばいいんだ? 蓄えた電撃の力を使うんだ。詳しくは知らないが魔法で雷を起こしてもだめだろう。専用の道具や施設が必要だと思う。」


 興味深い顔で石版に描かれた下手くそな絵を見やる二人。


「それは誰でも。例えば私やミリアでもすぐに使える物なのかね?」


 手についた白い粉はたきながら、首を振る事で否定する。


「難しいと思う。特に通話に至っては絶対に無理だ。道具それぞれに個体識別番号があって、それを指定する事ではじめて相手に繋がるんだよ。」


 こつこつと石版を叩くフレア。


「だが炭鉱で会った……便宜上黒服の男とでもしようか。そいつはどういうわけかそれを所持しており、使う事さえできたと。」


 あぁ、と頷きを返す。

 ミリアはそれを見ると、「だったら簡単な話じゃない」と続ける。



「黒服個人か、あるいは扉の会に。貴方と同じ地球から来た者がいるんだわ。」








物語はだんだんと盛り上がりを見せて


・・・るといいな。

話的には全話かそこらで第二章が終了して、

新章に突入した感じですね。

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