守護者
いつも読んで頂いてありがとうございます。
皆さん三連休どうお過ごしでしょうか。
僕はとあるイベントで武井壮さんをお見かけしたのですが、
彼ならこの世界でも普通に生きてけそうだと思いました。
「隊長、また随分と大漁ですね。もう立派な冒険者じゃないですか」
冒険で手に入れた戦利品を積めた麻袋をテーブルへ下ろすと、どかっと椅子へ腰掛けウォーレンに返す。
「俺は剣闘士なんだがな……」
フレアに魔物の実地調査。つまり戦って経験を積んで来いとの命に従い、剣闘士傭兵団の何人かと共に東の国に乗り込んだのが三ヶ月前になる。アイロナの町での調査は一区切りついたので、今度はさらに奥に行ったニドルの町に拠点を移している。
町の雰囲気はアイロナとさして変わらずだったが、なかなか優秀なまとめ役がいるようで、比較的治安は良かった。あくまで比較的、ではあるが。
町から離れたその辺をほっつき歩いても魔物に会う事はあるだろうが、あまりに効率的では無いので、冒険者達にまぎれて各地の魔物の巣や洞窟、遺跡等を重点的にあたっている。目的は財宝では無いが、活動費になれば越した事は無いので、何か価値がありそうなものがあれば持って帰るようにしている。
「で、今度は何を手に入れたんです?」
お決まりの眼鏡を中指で押し上げる動作と共にウォーレンが麻袋を見る。
中には調査の過程で手に入った様々な物が詰め込まれている。金銀硬貨にはじまり様々な装飾品。それに古い書物や役に立つのかどうかすらわからないガラクタに至るまでだ。何が役に立つ物かどうかの判断は難しい。
「相変わらず半分以上それが何だかすらわからないものですね。やはり専門的な魔道師が必要でしょうか。」
直径二十センチ程の魔法文字が彫られた円盤を掲げてウォーレンが呟く。
「そうだな。正直これだけ魔法に関するものが出てくると思わなかった。それに魔法を使う魔物に対する対抗策が知りたい。今回も酷い目にあった」
古い遺跡に出現したリザードマンの魔法使いを思い出し、不快感が甦る。
二足歩行のトカゲといったリザードマンは、動物や虫といった魔物に比べ人に近い為、こちらとしては御し易い。しかしその中に魔法を使う者がいた為、思わぬ苦戦を強いられる事になったのだ。
「正直炎や電撃といった直接的な攻撃魔法は対処のしようがある。だがやっかいなのは精神に働きかけてくるものや、こちらの動きを封じてくるものだ。片腕で戦う事になった時は本気で死ぬかと思ったぞ」
「えぇ、でも」とウォーレン
「それでも隊長は生き残った。他の団員じゃそうはいかんでしょう。うちのボスが団長を直接送り込むと言った時はどうかと思いましたが、今ではなるほど納得ですよ」
あまり買いかぶられても困るんだがな、と痛んだ防具の整備をしながら答える。
ウォーレンは戦利品を売れる物とそうでない物、そして調査に使えそうなものとに選別し、買取商の元へ運ぶ為の別の袋へ詰め分けている。一見売れなさそうなものでも思わぬ価値が出たりする事がある為、捨てる物は無い。
「うちの調査隊だけなら間違いなく黒字ですね」と笑顔を見せるウォーレンだが、調査団全体を見れば明らかに足が出ているだろう。なにせ百五十人体制で調査を進めているのだ。
ウォーレンに実地報告を済ませ、各魔物についての特徴や生態。あれば弱点等、気付いた点をまとめ、連絡員をフレア領へと報告に向かわせる。
フレアはこの様に各地から送られてくる情報を元に対策や方針を考え、他の団員や領軍に訓練指示を出し、近い先にある領土の拡張に備えるのだろう。金はかかるが、なるほど効果的だ。
「そういえば」と麻袋を担ぎながらウォーレン。
「ここから半日ほど行った所に森に囲まれた湖があるんですが、昔魔女が住んでいたらしいですよ。地元の人間は呪いを恐れて誰も近寄らない場所ですが、行ってみる価値があるかもしれませんね。魔法に関する本でも見つかれば何かの役に立つでしょう」
買取商の所へと向かうウォーレンを見送ると、ふむ、と腕を組んで思案する。
ウォーレンが昔というからには、恐らく魔女が住んでいたのは百年単位で前の話だろう。数十年であれば最近と言うはずだ。
となると残っているのは廃墟だろうか?正直時間のかかる発掘作業は好きでは無いので出来れば避けたい所だが、今のところ他に向かう当てが無いのも事実だ。
それに魔道書などと贅沢な事は言わないが、何か魔法に関する道具でも見つかれば、団員の中にいる数少ない魔道師に有益な結果をもたらせるかもしれない。
少し覗いて見るか、と明日の出発に向けて準備を整える事にした。
「あれか……」
森の中で高台となった崖から湖を見下ろす。
湖はせいぜい百メートル四方ほどだろうか?想像していたような大きいものではなく、こじんまりとしている。湖のまわりはどこも切り立った岸壁で、わずかに石造りと思われる建物のそばだけが水に面した低地のようだ。
昔は確かに誰かが住んでいたのだろう。ほとんど木々やツタに覆われてしまっているが、かろうじて道だったと思われる痕跡が見て取れる。
バックパックを下ろしアンカーを取り出すと、頑丈な岩盤に打ち付ける。
それが十分に固定された事を確認すると、ロープを結びつけ、岩肌をゆっくりと降りていく。
町の人は呪いについて恐れているという事だった。こういった長く続く一見迷信じみた話というのは、どこかしら真実を含んでいる事が多く、馬鹿な話だと一蹴するのは危険だ。
もし自分が侵入を嫌う魔女であれば、罠はあの建物に続く一本道に仕掛ける。
岸壁に足場を見つけながら慎重に足を進める。ハリウッド映画にあるような勢いあるリペリング降下にも憧れるが、急いでいるわけではないのでわざわざ危険な真似をする必要は無いだろう。
やがて水際の岩肌へと到達すると、風で流されてロープがどこかへ引っかかったりしないよう、近くの岩を乗せる事で重しとする。余ったロープの長さから逆算すると、十メートル程の高さだったようだ。
ロープが十分に固定されている事を確認し、建物へ向かい足を進めようとした所で、
ふと太陽の光が遮られる。
直後に上がる巨大な水しぶき。
落石か!?と身を屈めるが、やがて水中からゆっくりと顔を出したそれを見て、そんな甘い物ではなかった事を知る。
「何が呪いだちくしょう! もっと現実的な脅威じゃないか!」
急いで背中から盾を取り出すと、剣を抜き、構える。
水中から現れたのは身長二メートル程の不恰好な丸木で出来た人型の人造生物。魔法使い達が何らかの使役を行わせる為に作成する、ウッドゴーレムと呼ばれる物だ。
ゴーレムは何も迷う事は無いとばかりにこちらへ一直線に向かってくる。もっとゆっくりした動きを想像していたが、思ったよりもずっと素早い。
やがてこちらに近づくと、間髪入れず拳を振り下ろしてくる。
一瞬盾で受けるかと悩んだが、バックステップでこれをかわす事にする。
ゴーレムの拳が砕いた石で出来た地面の破片を見やるに、どうやら正解を選択したようだ。
ゴーレムがその体勢を戻す前に、無駄だろうなと思いつつも剣で顔を切りつける。
ソードは予想通り深さ三センチ程の切れ込みをゴーレムの顔に入れただけで、その勢いを失った。
「そらそうだ。剣で木を切れるなら斧ものこぎりもいらんよな……」
再び跳び退り距離を取ると、ぶつぶつと呟きつつ考えを巡らせる。
本来であれば燃やしてしまうのが手っ取り早い。しかし湖に落ちたゴーレムはどう考えても火が付きそうには見えない。フレアからの調査書には埋め込まれた核を破壊しろとあったが、ゴーレムが分解されるがまま大人しくしているならともかく、現状では不可能だろう。
再び飛び掛ってきたゴーレムを横にかわすと、胴体に蹴りを入れて湖に突き落とす。
――どうする?走って逃げるか?
再び水面から顔を出すゴーレムを見やり、即座にその考えを破棄する。
――だめだ。疲れ知らずの相手にどうしろと!
再びこちらへ走りこむようにして繰り出された拳を、盾で受け流すようにして避ける。
腕に強烈な衝撃が走り、そのパワーを実感する。
――くそ! なんとか岸壁を上れないか!?
先ほどここへ降りる際に使用したロープに目を移す。だが重しの岩をどかし、余ったロープを担ぎ、ゴーレムが飛び掛れない高さまで登る等不可能だ。
岩で固定などするんじゃなかったと後悔の念を抱きながらゴーレムに視線を移すが、ふと思いついたようにもう一度ロープを見やる。
――ほとんど賭けだが、仕方ない!
幾度と無く振り下ろされる拳をなんとか避け、じりじりと後ろに下がる。
やがてほとんど追い詰められる形に岸壁近くへ移動すると、できるだけ水深が深そうな場所を確認する。
飽きる事なく同じ様に繰り出されるゴーレムの拳をなんとか避け切ると、ロープを剣で切り裂き、それを手にしたまま雄叫びを上げてゴーレムに突進する。
「うおおおおおおお!!!」
見た目以上に重量のあるゴーレムの腰にしがみつくと、全身の筋肉を総動員して押しやる。
やがて大きく奥へと体勢が傾くと、吐き気を催す浮遊感が襲う。
そしてお互い、もつれ合うようにして湖へと落下した。
ウォーレンは完全に文科系