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ダンジョン

そこら辺のダンジョンに財宝なんてきっとありません。

魔物と人間の価値観が同じなら別でしょうが・・・

でもそれでも何かを求めて行くのが冒険者なんでしょうね。

イカれてるとしか思えませんが、そこに憧れます。

 昔は炭鉱へ続いていたとされる道は既に人が歩かなくなってから久しく、本当にそこに道があったのかと問いかけたくなる有り様だ。

 森を大きく迂回する道も無くは無いとの事だったが、三倍以上時間がかかると聞かされてはそれを選択する気にはなれなかった。

 丸一日ほど経った頃だったろうか。労働者の宿舎跡を見つけ、そこから少し離れた場所を拠点にする事を決定。各自運んできた武具や工具を身に着けると、二手に別れて行動を開始した。


 俺、ベアトリス、ジーナを含めた六名が突入組に。

 残りの三人は荷物番と坑道口の封鎖だ。


「入口が全部で……六つか。まわりを崩して簡単に塞いでくれるだけで構わないぞ。あまり派手にやると俺たちが生き埋めになる。もし魔物がいるようであれば無理して戦う必要は全く無い。安全を確保した上で他の入り口に向かってくれ」


 ジーナの祖母から手渡された地図を見ながらマトックを背負った三人を見やる。


「一応日没までに戻ってくる予定だが、時間になっても戻らないようだったら先に村へ戻ってもらって構わない。その場合は拠点に道具を置いてってくれ。さあ、それじゃ行くぞ」


 各々がこちらへ頷いたのを確認すると、ロープや松明等の入ったバックパックを背負い、地図上で目的の箇所まで最も近いとされている入口へ向かう。



「すごい湿気……水が溜まってるんでしょうか」


 不安気な顔のジーナに、かもしれないなと返すが、本当の所どうなのかはわからない。

 湿気でなかなか火が付かない松明にどうにか明かりを灯すと、炭鉱の奥へと足を踏み入れる。


「なぁおい、崩れたりしねぇだろうな」


 後ろからかかるベアトリスの声に誘われる形で壁を見る。元々は沢山の添え木で支えられていただろうそれは、どれも朽ちてしまっており、ほとんど地肌が見えてしまっている。


「まぁ……オーガやらなんやらが使ってても大丈夫なんだ。お前さんがあの化け物より重いわけじゃなけりゃ平気だろうよ」


 軽口で返したので何か反応があるかと思ったが、黙ったままだ。

 妙に圧迫感を感じる天井に不安を感じているのだろう。


 やがて分かれ道に差し掛かったので、壁に切れ込みを入れると共にロープの先を少し削り、それを半分はみ出す形で埋め込む。地図があるので迷う事は無いとは思うが、はぐれたり、別行動を取る必要がある場合には重宝するだろう。

 それに地図を無くしました。死にました。はできれば避けたい。


 ベアトリスの「まめなやつだな」という言葉を無視すると、さらに奥に進む。

 地面には魔物の物だろうか?様々な木片や布が散乱しており、具足を履いていないメンバーに足元を注意するように声をかける。


「何かいます!」


 囁くように発せられたジーナの声に緊張が走る。

 身振り手振りで弓を構えるように指示をすると、射線の邪魔にならないよう壁際へと移動する。


「簡単なハンドサインを決めておけばよかったな……さぁ、何が来る?」


 松明の明かりが届かない程の距離から何かの影がゆっくりと動き出す。


「明かりを持っていない……人ではないぞ! 撃て!」


 影に向かい吸い込まれて行く4本の矢。ぎゃっという悲鳴と共に地面を転げまわる音がする。間髪いれずにベアトリスと走り出し、間合いを詰める。


「ガブリンだな。やっぱりこいつらが住み着いてるのか」


 矢によって既に致命傷を負っているようだが、念のため首を刎ねて確実に息の根を止めておく。

 仲間の元へ引き返そうと踵を返すが、ベアトリスが動かずに固まったままだ。

 どうした?と声をかけるも静かに!と返される。耳をそばだてているのか?

 不安になりこちらもそうしてみるが、特に何も聞こえない。

 いい加減戻るべきだと言おうとした時、「奥だ!えらい数がいやがるよ!」とベアトリスが叫ぶ。


 まさかこんな状況で冗談を言うとは思えないので、残った仲間に合流するよう声を上げると、松明を地面に降ろし、バックパックから盾を取り出して構える。


 その後二十秒ほど待ったろうか?後ろの仲間が合流し弓を構えたあたりで、無数の足音が響き始める。今度は確認はいらないだろう。敵だ。


 やがて姿を見せた無数のガブリンは、こちらの姿を確認し驚いた様子を見せたものの、意を決したのか再び走り出して来る。


「数が多い! 武器を持ってる奴だけを狙え!」


 放たれる四本の矢。その攻撃によって倒れた仲間を乗り越えるようにして走り込んでくるガブリンに向かい、盾を前にラッセル車の様に突撃し、分断する。

 後ろを振り返り仲間がそばにいない事を確認すると、剣を抜き、目の前にいた短刀を持つガブリンに切り付ける。

 不快な叫び声と共に血を噴出させるガブリンを蹴り、その反動を利用して後ろへ下がり、再び剣を振るう。

 いくつかのガブリンは飛び掛かってきたり、棒で殴り掛かってきたりするが、武装したこちらにはさしたる脅威は無く、さらに三体程を始末する。

 しかしそれでも流れ込むように走り込んでくるガブリンが、どんどんと後ろへ抜けて行く。戦いながら後ろを確認すると、ベアトリスを先頭に同様の戦いをしているようだが、おかしな事にガブリン達は彼女達をも抜けて走り去って行っているようだった。


「何だ? ……何かから逃げている?」


 一体何十匹いたのか、なおも途切れずに現れるガブリンの後ろから、坑道を塞ぐかのような巨大な影が現れる。

 丸々とした黒い胴体に沢山の長い手足を持った化け物が、逃げ遅れたガブリンをひょいと持ち上げると、そのままひと飲みにした。



「……ギガントスパイダーだ!! みんな逃げな!!」



 ベアトリスの声に従い、松明を拾うと全力で駆け出す。

 同方向に逃げるガブリンがわずらわしいが、今は構ってる暇は無さそうだ。

 ガサガサとした耳障りな足音と、逃げ遅れたガブリン達の悲鳴が坑道に響く。

 たまらず振り向くと、どうやら化け物は複数いるらしい。壁や天井を這い、仲間を押しやるようにして前へ前へと進んで来る。


 やがて前方より「三叉路!」の声がかかったので「右だ!」と返す。

 しばらく行って自分も同様に右へ折れると、バックパックから油壺を取り出し松明で火をつける。その場で壺を割り、奥へと飛び込むと、あわや蜘蛛の手が自分の頭を掴みとる寸前だった。

 火の勢いは決して強いものでは無いので、馬鹿でかい蜘蛛を焼き殺す事などできないだろうし、天井を来られたらおしまいだ。


 緊張の数秒が流れる。


 だがありがたい事に危険を冒してまでこちらを食べるより、より安全なガブリンを食す事を選んだようだ。蜘蛛は嫌がるように火から離れると、ガブリン達のほとんどが逃げて行った出口方向に向かって走り去って行った。


 しばらく行った先で仲間全員が揃っている事を確認し、倒れ込むようにして酸素を貪る。


「はぁ……はぁ……くそ、なんなんだあの化け物は……」


 こちらが走ってきた方向を警戒しつつ、ベアトリスが答える。


「何って、森で一番会いたくない奴さ。馬だろうがなんだろうが、頭から噛り付いて骨も残さないよ。しかしあんた火を嫌うって良く知ってたね」


 身体を起こし、息を整える。


「いや、完全にたまたまだな。他に方法が無かっただけの話さ。それよりこの辺にいる危険な魔物について事前に言っておいてくれると嬉しかったね」


 こちらを見てにやついているベアトリスに当てつける。


「そろそろ行こう。あいつらが戻ってきたら敵わん」



 その後いくつかのガブリンとの戦いと共にしばらく足を進めると、恐らく作業員の詰め所だったのだろう、既に何もなくなっておりがらんとした小さな部屋で食事を摂り、小休止する。三本目の松明に火を付けた事から、おおよそ三~四時間が経過しただろう。

 複雑に入り組んだ坑道に、今現在どのあたりにいるのか実感としては全くわからないが、地図上では役八割を来た計算になる。


「傷は痛むか?」


 左足に負った傷を自ら治療しているジーナに声をかける。


「いえ、これくらい平気です。それよりもうすぐですよね?急ぎましょう」


 そう言うと焦った様子で立ち上がるジーナを訝しげに見やる。

 確かに傷は浅かったし他に怪我を負った様子もなかったが、松明の明かりに照らされた顔にはびっしりと汗をかいている。

 馴れない戦闘や悪環境下でのストレスだろうか?

 いずれにせよ急いだ方が良さそうだ。


 溜まった湧き水を膝までつかりながら狭くなった通路を抜け、固い岩盤を避ける為に急勾配になった坂を登る。

 崩落によって人ひとりがようやく通れる位に細くなった通路を、普段信じてもいない神に祈りながら通り抜けていく。



「しかし全員見事に泥だらけになったな」


 汚れていない場所など無いといった有様の仲間達を見やる。


「早く帰ってさっぱりしたいよ。さっさとその扉を開けてくれないかい」


 うんざりとした様子のベアトリスに頷き、目の前にある鉄で出来た扉に手を添える。

 立つ事もできない程狭い通路の行き止まりに見つけた扉は完全に錆きっており、少し触れただけでぼろぼろと表面が崩れ落ちる。

 非常に読みにくいが表面には王家の許可無く入る事を禁ずる旨が書かれているようだ。

 ジーナの祖母から受け取った鍵を懐から取り出し錠前に差し込もうとするが、予想だにしなかった問題が起こる。


「……錆付いてて……入らん」


 何十年にもわたる酸化によって膨れ上がった錆が、穴をほとんど全て塞いでしまっていた。


「くそ! 冗談じゃないぞ!!」


 勢いを付けて扉へ体当たりをするが、重厚な鉄の扉はビクともしない。


「か、貸せ! あたいがやる!」


 ベアトリスが鍵を奪い取るようにして手にすると錠前へと向かう。

 彼女は防具の修理に使う工具を使って鍵穴を削ってみたり、無理やり鍵を押し込んでみたりと試していたが、結局どうにもならず癇癪を起こして錠前に蹴りを入れ始める。


「ちくしょう! せっかく苦労して来たってのにさ!」


 諦めの沈黙の中、錠前を蹴りつける音だけが坑道に響く。



  失敗だ……


 全身から力が抜けていくのを感じ、へたり込む。

 どうすればいい……魔術師を雇って爆破でもするか?

 ダメだ。鉱山が崩落する可能性が高い。

 地道に内部の錆を落としていったとしても、鍵のおうとつが差しはまる部分までは無理だろう。実際に鍵を無くした錠前を破壊する場合のように、巨大な工具とハンマーを用意して梃子の原理で破壊するか?

 しかしその為には、まずこの狭い通路をなんとかするのが先になるだろう。魔物で溢れたここでそれをやるには、一体どれ程の工期と金と人材がかかるのか検討も付かない。


 疲れた体をなんとか起こし、膝立ちになる。


 ジーナの祖母はここだけで取れるわけじゃないと言っていた……

 そこに縋るしかないだろう。


 地面に腰を下ろした状態でなおも蹴り続けるベアトリスに、いい加減にしろと声を掛けようとした所で、ガゴン、という鈍い音が響く。



 地面には壊れた錠前。



 錠前を破壊した本人も含め、全員が沈黙の中固まる。


「ベアトリス……お前が凄まじい怪力の持ち主で助かった。帰ったらなんでも言う事を聞いてやって構わない。感謝するぞ」


「あぁ、いや。怪力ってあんた」と続けるベアトリスを横目に、錆付いた扉に体重をかけて少しずつ開けていく。


 少しずつ焦らすように開いていく扉の隙間から不可思議な物が現れる。



 ――光?



 後ろでは凄い凄いとはしゃぐジーナに「や、錆が錠にもだね」とベアトリスがぶつぶつ言っている。


 ――どういう事だ?

  

 ――まさかこんな場所の地下深くに誰かいるとでも?


 なおもゆっくりと開いていく扉を人ひとりが通れる大きさまで押しやると、


 混乱と警戒が渦巻く中、部屋へと足を踏み入れた。




ベアトリス大金星

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[気になる点] 地図上では役八割を来た計算になる。 役→約 鍵のおうとつが差しはまる部分までは無理だろう。 凹凸
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