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戦う理由

もう少しはしょれないかどうか、

ペース配分を検討中・・・うーん

「ご助力頂きまして、本当にありがとうございます」


 深々と礼を言ってくるジーナの家族一同に、かぶりを振る事で気にしないでくれと伝える。


 オーガとの一戦の後、家族と抱き合って喜ぶジーナを横目に、井戸を汲んで血を洗い流していると、村長と思わしき男が湯を貸してくれるというので言葉に甘える。

 湯が沸くまでの間半裸状態で剣の手入れをしていると、最初は遠目がちにしていた村人達がお礼と共に肩掛けだのなんだのを持ってきてくれた。ジーナが剣闘士である事を伝えるとやたら感激されたが、慣れていないせいで少し居心地が悪い。照れているだけというのは自分でもわかるのだが。

 その後村人の埋葬を終えたジーナに招かれ、家族が住むという家にお邪魔する事になった。その中には目的の人物である祖母が含まれておらず、不安が走る。



「いや、護衛として雇われた身なんでね。あれも仕事の内さ」


 本日何度目になるかわからない台詞でもって返す。


「なんでも剣闘士様でいらっしゃるとか。この村で剣闘を見た事がある者など長老様ぐらいのものですよ」


 父親のその言葉に何がおかしいのか一同あっはっはと笑い声を上げる。

 しかし間違っても様付けされるような職業ではないのだが……騎士か何かと間違えているのだろうか?


「俺は様付けされるような人間じゃないよ。それに下心があってやった事だ」


「それも娘から聞いてますよ」と頷く父親。


「うちの母で答えられるような事でしたらなんでも聞いてやって下さい。今は離れの方でのんびりやってますよ」


 案内しますというジーナに付いていく形で離れへと向かう。8畳程の大きさだろうか母屋と同じ木造で、かなり年期が入っているもののしっかりと手入れをされているようだ。

 中に入ると、想像とは違うまだ元気そうな壮年の女性が椅子に座っており、こちらを手招きする。恐らく薬師なのだろう、家の中は独特な鼻を刺す臭いが充満し、実に様々な薬棚が所狭しと置かれている。これなら期待が持てそうだ。


「あんたかい。命の水が欲しいってのは。とりあえずほれ、座りな」


 こういった場合、遠慮した方がいいのか悩むが、考えてもわかる事でもないので、ジーナに倣い素直に座る事にする。


「率直に言う。仲間の命を救いたい。命の水について知っている事があれば教えて欲しい」


 年長者に対して言葉による駆け引きでどうこう出来る程口が達者ではないので、ありのままだ。それに決して悪い事をしようとしているわけでも無い。


「なるほど。難儀しとるようだね。しかし言っておくがあれに死者を蘇らせるような力はないよ?」


 驚きの表情を浮かべるジーナを横目に、かぶりを振って答える。


「いや、まだ生きてはいるんだ。ただ、眠ったまま目を覚まさない。治療術師は肉体的に静の状態にあると言っていた」


 ジーナの祖母は「それならなんとかなるかもしれないね」と続ける。


「ただ過度の期待を持たれても困るよ。せいぜいが五分五分といった所だね。それにあんたにはやってもらわなくちゃならない事があるよ」


 ニヤリと笑う祖母に若干の不安を覚える。




「炭鉱?」


 そうさね。と当然のように返す祖母。


「命の水を作るには炭鉱から採れる青い苔が必要さ。握りこぶし位の量があれば平気だね」


 青い苔……なるほど。それでここでしか作れない薬というわけか。しかしこの村である必要はなさそうだが何か理由があるのだろうか?

 いや、それよりも気になる事がある。


「ちょっとすまない。さっきからまるで薬を作ってくれる前提で話が進んでいるようだが、そんな簡単に作っていい物なのか?」


 ジーナの祖母は鼻で笑うと、片眉を上げて答える。


「簡単にってのは聞こえが悪いねあんた。もう無くなっちまったけどお国との約束で秘密にしてるような代物だよ?」


 そうだな、失礼をした。と素直に謝ると、再び鼻で笑い、続ける。


「まぁそれはいいよ。どうせ約束した相手はもう誰も生きちゃいないからね。それよりあんたに一つ頼みたい事があるんだよ」


 やっぱり来たな、と身構える。

 こちらの天秤には人ひとりの命が乗っている。普通に考えて自分の天秤にはそれなりの物を乗せようとするだろう。


「俺に出来る事なら」と答えると、もちろんさ、と続く。


「あんたにね。炭鉱を壊して来て欲しいんだよ」


 さらりと答えられたそれに驚く。壊す?炭鉱を潰せという事か?


「ちょ、ちょっと待ってくれ。命の水を作るには鉱山でしか採れない苔が必要なんだろう? それを壊せっていうのか?」


 半死半生を生き返らせる薬とは、失われるにしてはあまりに偉大な物ではないか?

 しかしジーナの祖母はなんだそんな事かといった様子で返す。


「別に炭鉱からしか採れないわけじゃぁないよ。この辺で採れるのがそこだけって話さ。それにどうせ放っておいても無くなっちまう物だからね。もう作れるのはあたししかいないのさ。前はもっといたんだけどみんなぽっくりいっちまった。マレンもイッカもみんな。みーんなあの悪魔達にやられちまったよ。」


 悪魔……ガブリンやオーガの事か。


「あたしもそう長くはないからね。今更誰に教えられるような物でも無いし、薬をめぐって色々ありすぎたよ……」


 そう語る祖母の目はこちらの目を通り越して、ずっと遠くを見ているように見える。一体何があったのか気になる所ではあるが、きっと人が軽々と聞いていいような事でもないだろう。

 しかし製法を知る者が絶えるというのにわざわざ鉱山を潰すという事は……



「復讐か」



 遠くを見ていた目にかっと力が戻る。


「そうさ! ここいらの魔物どもはみんなあの鉱山から出て来るのさ!」


 しかし、と言葉をかけるが遮られる。


「わかってるよ! 鉱山を潰した所で魔物はまたやってくるってんだろ?そらそうだろうよ。あいつらをやっつけてくれる王軍はもうないからね」


 表情を歪め、こちらに縋りつくように続ける。


「だけどあんた! 一矢報いてやらなきゃ逝くに逝けないじゃないか。平和だった村はあいつらのせいで滅茶苦茶だよ!」


 涙を流し、こちらに訴えてくる。


「その子らが生まれる何十年も前の話だけどさ。本当に平和な村だったんだよ。薬をめぐって諍いがある事もそらたまにはあったさ。でも、それでも平和だった……」


 赤くなった目で孫を見やる。


「この子らが生まれた頃にはみんな猟で生きてくようになったよ。理由はわかるだろう?戦うためさ。不憫なものだよ……どんな少しの間だって平和な時を経験させたげたいと思うのは当然じゃないかい?」



 すっかり日が落ちた村の敷地をひとり、ゆっくりと歩く。


 復讐をしたいという彼女の気持ちはわかる。

 問題は魔物とひと口に言っても、知能を持つ生き物である事には違いないという事だ。テレビゲームの様に、新しい武器が買いたいからといった理由で大量虐殺する気にはさすがになれない。


 地球にいた頃は復讐は何も生まないなどといった言葉を良く聞いたものだが、当人達からすれば正直余計なお世話だろう。復讐が復讐を呼ぶとも言うが、その螺旋に関わる無数の人たちの中で、なぜ自分だけが我慢をしなければならないのか?という質問に満足な答えを出せる人間などいない。

 邪魔だから排除する。でも全く構わないのだが、精神衛生的にできれば何か理由が欲しい所だ。その点、同族の平和の為というのであれば少しは納得ができるか?


 ウルやジーナの事を考え、できるだけ自分を説得しておく。

 戦場でこれをやろうとすると危険だ。


 思えば軍や隷属剣闘士として誰かに命令されて戦う事の何と楽だった事だろう。


「結局は開き直って自分勝手に生きるしかないんだろうな……フレア、今は少しあんたが恋しいよ。」


 どうやら自由になるというのは良い事ばかりではなさそうだ。




「もっとだ! もっと深く掘るんだ!!」


 せっせと地面に穴を掘る村人に指示を飛ばす。


「オーガは体がでかいだけで機敏に動けるわけじゃない。足をやればお前らの勝ちだ!」


 穴の傍では、落とし穴の内部に仕掛ける為の罠を作るため、せっせと木を削り出す人々が忙しそうに手を動かしている。


「ガブリンは大した脅威じゃない! 弓にだけ気をつけろ!」


 体全体を覆える木の盾をバリケードに取り付ける作業員の中には、ジーナの家族の姿も見える。まさに村人総出の作業だ。


「本当にすみません。こんな事までお願いしちゃって……」


 旅支度を終えたジーナが申し訳なさそうに声をかけてくる。


「いや、せっかく物を取ってきたのに村が無くなってました、じゃ冗談にもならんからな」


 あたりを見渡し、少しずつ出来上がってきている新型バリケードに満足を覚える。

 バリケードは形状を工夫し、オーガの様な大型のモンスターを誘い込むポイントを作成した。すり鉢状に狭くなったそこには足を破壊する落とし穴を設置し、万が一すり抜けた場合に備え、倒木による進入口の封鎖と刺激の強い植物の汁を煮詰めて作成した、強力な目潰し液による多重トラップを配置した。お粗末な偽装のそれらは人間相手には全く役に立たないだろうが、オーガの様な知能の低い魔物相手なら十分な効果を発揮するだろう。

 隙間だらけのバリケードはガブリンの進入を防げないだろうが、今までオーガに行っていた射撃をガブリンに集中すればほとんど近寄る事すらできないだろう。この村の連中は揃いも揃って一流のアーチャーなのだ。


「それより問題はこっちだな……」


 炭鉱の攻略に参加する事になった4人の村人を眺め、ため息をつく。


「おい、そのデカい剣を狭い坑道でどうやって振り回すんだ?壁に引っかかって役に立たんし、場合によっちゃ仲間を切る事になるぞ。出来れば槍。無ければショートソードか斧を持っていくんだ。それと弓を忘れるなよ!」


 かけた大声に三人が散っていく。唯一残った熊族の女は槍を手にしており、堂に入った様子だ。手にした槍をぽんぽんと叩くと口を開く。


「あたいは弓は苦手だからこれ一本で行くよ。あんたのケツを射抜いちまうかもしれないんでね。」


 挑発的な物言いに「ちょっと!ベアトリス!」とジーナが慌てて割って入る。この娘が小さい頃共に遊んだという友人だろうか?


「わかった。だが使わなくても構わんから持って行くんだ。矢も弓も他の仲間の予備になる。」


 少し考えた素振りを見せた後、道理だと納得したのだろう。舌打ちと共に弓を取りに行く。


「これは……先が思いやられるな……」


 眉間を揉み解しながらこれからの事を考え、

 本日一番長かっただろうため息を吐き出した。




ジーナは巨乳です。でもベアトリスはも~っと巨乳です。


貧乳好きはキスカの所へ行って下さい。

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