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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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旅立ち

ようやく冒険のはじまりまでかこつけました・・・

が、仕事が忙しくなってしまい、毎日更新は難しくなるかもしれません。できるだけ頑張りますが。

「冗談だろ?」


 裂かれた胸を押さえながらそう呟くと、よたよたと後ろへ下がるカイル。切り落とされた腕からあふれ出る血を確認すると、苦痛とも笑顔とも取れる表情で「やっぱおめぇ狂ってるぜ」と残し、大きく後ろへと倒れた。


 闘技場の入り口から慌ただしく治療師達がカイルへ向かい走り寄って来るのが見える。

慌てているという事はまだ間に合うという事だ。たぶん死にはしないだろう。まぁ、どうでもいい事だ。それにしても……



 ――疲れた。もう帰りたい。



 カイルと同様ふらふらとした足取りで闘技場の出口へと向かう。

 ふと静かになった闘技場に気付き、顔を上げると、誰も彼もがこちらを見て何かを待っている事に気付く。



 ――何だ?



 まさか止めを刺せというわけじゃないだろうなと、貴賓室にいるフレアを見やる。

 彼女はゆっくりと頷くと、右手を高々と上げる。



 ――そうか……勝ち鬨か……



 痛む体を抑えつつもう一度闘技場をぐるりと見渡すと、


 高々とソードを掲げた。




「具合はどうだい、チャンピオン」


 日も暮れ始めた頃、フレアとキスカが病室に入って来る。怪我で動けない俺に代わって各式典に参加してきたのだろう、どことなくうんざりした様子だ。

 ててて、と走り寄って来たキスカから花束を受け取ったのでありがとうと返すと、照れたようにフレアの後ろへと戻って行った。なんだろう?とは思ったが気にせずフレアへと返す。


「悪くはないよ。いつもよりずっと良い治療を受けられたからな。せいぜい十日も休めばいいそうだ」


 安心した様子の笑顔でフレアが応じる。


「そうか、だがこれからは注意しろ。怪我をしてすぐ治療を受けられるなんてのは剣闘場での話だけだからな」


「あぁ、わかってる」


 本当かね、と優しい顔でそばにある椅子へと腰掛ける。


「まぁ、なにはともあれ良くやってくれた。おかげで我々はこの都市を追い出されるのではなく、自ら出て行くのだと印象付けられただろう」


「やはり出て行くのか?」


 肩をすくめるフレア。


「これ以上王国と対立しても何の益も無いからね。いつか落とし前は付けさせてもらうつもりではあるが、主だった剣闘士を連れて帰るだけでも興行益に大きな影響が出るだろう。あいつら既に後悔しているかもね」


 そうか。と二人で意地の悪い笑みを浮かべる。


「そうだフレア。さっき係りの人間に自由剣闘士になる意思を伝えておいた」


「ほぅ、試合には出れないのにか?」


 少しの間包帯の巻かれた手を見つめ、応える。


「あぁ、剣闘士じゃない自分ってのが想像できなくてね。それに……俺はお前の剣闘士なんだろう?」


 たまにはやり返してやろうとニヤリと笑って応えるが、当たり前だ、と事も無げに返されてしまう。


「君には諜報団をまとめてもらう役目があるからね、今までもそうだったようにこれからも私が雇用主だ」


 初めて聞く事実においおいと慌てるとフレアが続ける。


「表向きは剣闘士傭兵団という事になるからね。君は象徴として相応しいだろう。実際の管理や何かは私がやるから気にする事はないよ。それに――」


 真っ直ぐとこちらの目を見る。


「わたしは君を誰にも渡すつもりはないよ」


 淀みなく応えられたそれに少し赤面してしまうが、ニヤリとしたフレアの表情にからかわれたのだと気付く。


「先ほどの仕返しさ。私をやりこもうなどと十年早いね」


 嬉しそうに笑うフレアに小さく舌打ちを返す。それを聞いたキスカがクスクスと笑ったのを見て、負けを認める。


「わかった。俺の負けだよ。あんたがボスだ。それより命の水についての調査はどうなったんだ?」


 あまり好ましい状況ではないので、話題を変える。


「もちろん続けているよ。先遣隊が調査結果を持って来てる」


 フレアが指を鳴らすと、キスカが脇のテーブルに布で出来た地図を広げる。用意の周到さに驚いていると、古い地図だがと前置きをしてフレアが続ける。


「東の国が崩壊する前の地図だ。信憑性はそれなりに高い。ここと……ここだな。両方とも私の領から馬で十日程の所にある町で、現在拠点として調査員を派遣してる」


 所々目印になる建物や地形のみが描かれた、地球の地図を知る身からすると冗談のような地図ではあるが、目印から目印への距離や方角のみを考えれば、十分実用に耐える。


「文献によるとこの辺りが当時の王軍が捜索した場所になる」


 フレアは二つの町と山の中心にあたる一帯を指差す。


「昔は銅や鉄を産出していた鉱山があったらしいが、現在は魔物の巣窟となっていてどうなっているか見当も付かん。文献では地下から見つけたとあるが、当時から既に存在してた炭鉱だ。ここではないだろうな」


 そんなものが鉱山から取れるのであればとっくに話題になっているだろう。まぁ、そりゃそうだろうなと返す。


「しかし闇雲に探すわけにもいかないだろう。先遣隊は何か掴んでないのか?」


 フレアがかぶりを振って答える。


「ウルが倒れてからまだひと月だぞ?現地の拠点と簡単な様子を見るくらいしか出来んさ。無政府状態で治安は最悪。各自治体がなんとか野盗や魔物から自衛をしている様な状況で、むしろ良く情報を持ち帰ってきてくれた方さ」


 フレアはキスカに地図をしまうよう指示を出すと、立ち上がる。


「まぁ、以上が現状報告といった所だ。詳しくは出立前になったらまた相談するとしよう。今は体を休める事に専念してくれ」


 わかった、と答えると二人はドアへ向かうが、途中何かに気付いた様にフレアが足を止め、キスカへ先に行って用意しているように指示すると、こちらへ戻って来る。


 忘れ物か?と声をかけようとした所でおもむろに口を塞がれる。


「ん……勝者にはこれが必要だろう?君は本当によくやってくれたよ」


 囁く様にそう言うと、ではな。と軽く手を上げて今度こそ部屋を出て行く。

 俺に出来る事はただ驚き呆ける事だけだった。




 あの戦いから二週間が経った。


 体の傷は回復し、十分に活動できるまでになった。もっとも、深い傷と呼べるのは左手の甲だけだったので、一週間も経った頃には普通に歩いて旅支度を進めていたが。


「いいか、くどいようで悪いがもう一度言うぞ。現地のスタッフ含め、なるべく誰か信用のおける者と行動するんだ。正直お前はかなり目立つ」


 出発の準備をする間幾度となく聞かされてきた言葉に「わかってるさ」と返し、念のため忘れ物がないかどうかもう一度リュックの中身を確認する。フレアは本当に理解したのか?と訝しげな表情だ。

 食糧や寝具、それに各種武器や防具といったかさばる物は荷馬に乗せ、貨幣や非常食といった物はリュックへと詰め込む。

 軍隊時代に斥候をやった経験があるのでさすがに迷う事はないとは思うが、獣や魔物に襲われて荷馬が死ぬ、逃げる等の可能性も無くはないので、念のため少し多めの備蓄を用意した。

 最終戦で得た収益はかなりの額となったが、紙幣の存在しないここで大金を持ち運ぶのは物理的に厳しいので、宝石やアンクレットといった宝飾品に変えて身に着ける事にした。これは紛失対策になるし、貨幣が役に立たない場所でも物々交換する事で十分な取引価値となるだろう。


「ふむ、こんな事なら私もついていくべきだったか……」


 しかめ面をしたままフレアがぶつぶつと言う。気持ちはありがたいがフレアとて俗世間に明るいわけでは無いので、余計酷い事になるのがオチだろう。


「そのうち旅行にでも行けるようになったらウルも連れてみんなでどこかへ行こう。エスコートはそれまで我慢してくれ」


 笑顔と共にそう言うと、鼻を鳴らして肯定してくる。


 一通りのチェックを終えて満足すると、改めてリュックを背負いベルトをきつく締め、やわらかくも丈夫なソフトレザーアーマーの感触を楽しむ。

 ゲームや何かでは板金鎧を着たまま荒野を歩いたりするが、現実でそんな事をする奴はよほどのマゾヒストだろう。重い。疲れる。暑く、そして寒いと、何のメリットも無い。常に戦場にでもいるならともかく、敵がいるのであればなおさら体力を温存すべきだ。


 全ての準備を終え、さぁ出発だと立ち上がった所でキスカが走り寄り、チェーンの付いた四角い鉄のような物を渡してくる。聞けばお守りとの事なのでありがたく受け取ると、首からかけ笑顔を返す。


 神を信奉しているわけではないが、こういうのは心の持ちようだろう。


 実際の所いくら入念な準備をしようとも頭の中は不安だらけだが、なるようになるさと開き直るしかない。神が助けてくれるというのであれば断る必要もまた無い。



「さて、それじゃ行ってくる」



 二人に軽く手を振り、左足を一歩踏み出す。



 次は右足。



 そしてまた左足。



 目的地は遠いが、なんて事はない。

 これを繰り返すだけだ。


 荷馬の手綱を引きつつ前へと進む。


 ほとんど見えなくなるまで手を振ってくれていたキスカに途中一度だけ手を振り返すと、

 その後は前だけを見て歩き続けた。





挿絵(By みてみん)

物語は新たなる展開へ


ちなみに「改行がよくわからんタイミングで読みづらい」との評を友人から頂き、今回から変更してみました。

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