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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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鉄のゆりかご

いつも読んで頂きありがとうございます。

自分の中で1話あたりの制限をつけてるのですが、

正直付けなきゃよかったかなと後悔中。

 屋敷の廊下を三人で歩く。


 診療所に向かいすぐにでも走り出したい所だが、ここにはフレア以外の客人等もいるため、何かあったなと悟らせるような真似はできない。

 誰もが羨む大きな屋敷が今は恨めしく思える。


「例の件をやらかした黒幕はフランベルク王だ」


 急に告げられた爆弾発言に言葉が詰まる。


「お、おいおい。冗談だろう?」


 真っ直ぐ前を見たままフレアが答える。


「こんな状況で冗談など言えるわけがないだろう。間違いなく確かな情報だよ。実際に行動しているのは隣領のロゾル伯爵だがね」


 吐き捨てるようにそう言うと、悔しそうに顔を歪める。


「しかし一体なんで……こう言ってはあれだが、あんたこの国の英雄じゃないか。むしろ王は味方なんじゃないのか?」


 こちらの質問に対し、わかってないなといった様子で応じる。


「英雄だからこそ、だ。簡単に言うと勝ち過ぎたんだよ私は。戦中も、そして戦後もだ。英雄が居て有難いのは国難の時だけだ。今のような平時ではうっとうしい存在でしかない」


 しばらくの間を置き、続ける。


「直接の引き金となったのはナバールのチャンピオン戦が決まった事だ。君も知っての通り私は戦時中大量に優秀な戦士を得て、それを戦後は剣闘界に持ち込んだ。

 全員を食わせて行く事はできないし、放り出す事もできないが故の苦肉の策だったが、これが実にうまくいったよ。装備を整えたりだなんだと出費も多かったが、それに見合うだけの収入が入ってきた。国庫に比べれば微々たる額だがね。しかしそれは問題ではないんだ」


 キスカによって既に手配されていた馬車に三人で乗り込むと、再び話を続ける。


「一番の問題はだね。剣闘界で活躍する剣闘士達の勇士を見て、私が昔と変わらずに強力な軍事力を引き続き保持していると"民衆が"判断した事なんだ。

 実際には戦時の三分の一にも満たない数だというのにね。だが民衆にはそう映ったのだろう」


 しばしの間馬車の窓から見える町の人々を眺めながら再び口を開く。


「前に君に言った事があるだろう。領主というのはだね、舐められたらおしまいなんだ。国王もそれは変わらない。想像してみたまえ、何か事が起こった際に多くの民衆が王でなく私についてしまった状況を。いくら強力な国軍があったとしても民衆を敵に戦う事はできない。民衆とはすなわち国軍兵士の家族達も含まれるわけだからね」


自分が家族を相手に戦えるかどうかを想像する。

まず無理だ。それに目の前で誰かに家族が殺されたら、味方の兵だろうが何だろうが俺はそいつを殺そうとするだろう。


「私もね。必要以上に貴族や国王達を刺激しないよう、できるだけ手を尽くしたつもりだ。常備軍の削減や剣闘士の早期引退。新しい剣闘士を多く作らない事や何かといったものだ」


「だが民衆にはそれがわからなかったと」


「そういう事だ。そればかりは私にはどうしようもない。剣闘士にわざと負けろと言うかい? それは死ねと言うのと何が違うというんだ!」


 怒気もあらわに馬車の壁を強く叩くと、吐き捨てるように言う。

 こんなにも怒りを見せるフレアはいつぶりの事だろうか。

 しばらくの後、落ち着いた声で再び口を開く。


「結果、私に危機感を持った王は伯爵を通じて剣闘士ギルドに働きかけを行ったというわけさ。調べて見るとそういった嫌がらせの証拠が驚くほど見つかったよ」


 馬車を降りると、診療所へと急ぐ。

 半ば駆け足気味にウルへの個室へたどり着くと、フレアは扉のノブを掴み、そのままの格好で口を開く。


「私は……私を虚仮にした連中を絶対に許さない。」


 強い意志の篭った瞳でこちらを見る。


「アキラ。お前にも協力してもらうからな」


 それはどういう意味だ、と声を掛けようとするが、扉が開かれ、その言葉を飲み込む。



 狭く薄暗い診療所の個室で静かに横になっているウルは、こうしてみるとただ眠っているかのように見える。

 医師だろうか。清潔な格好をした男がフレアに頭を下げると、ウルの容体を語った。


 正直内容はさっぱりだ。

 秘術であるにもかかわらず高度に体系化されている魔法の事は、門外漢の自分にはわからない。

 だがたった一つの重要な事だけは理解できた。

 それはウルが今後も目を覚ます事がないだろうという事だ。

 肉体的に静の状態。つまり地球で植物状態と呼ばれていたものだ。



「ウル……」


 ウェーブのかかったやわらかい髪の毛をそっと撫でる。

 左の額には生々しい傷が残っており、魔法で治療したのだろう、傷は塞がってはいるが、まだ赤く腫れ上がっている。

 誰かが拭いてくれたのだろうが、それでも取りきれなかった血が付近の髪を硬く固めている。


「いてぇよアニキ」


 はにかんだ笑顔で今にもそう言ってきそうな気がする。

 しかしウルは今もただ呼吸を繰り返すだけだ。


 非常に静かな、弱々しい呼吸に誘われ体に目を向けると、改めてその体の小ささを実感する。

 大人用のベッドが冗談の様に大きく見える。

 こんな小さな体で武装した大男達相手に戦って来たというのか。



 胸が締め付けられる。



 この小さな体を傷つけたカイルに。


 この小さな体に襲い掛かった大きな権力に。


 この小さな体で戦わなければならなかったこの世界に。


 この小さな体を守ってやれなかった自分自身に。


 全てに。


 全てに今まで感じた事の無い程の強い怒りを感じる。


 何度も何度も経験してきた事のはずなのに。


 ごく短い時間を共に過ごしただけのはずのこの少女に。


 なぜ


 なぜこんなにも胸が締め付けられるのか!!



 酸素が足りないと訴える肺に、

 黙れと押さえ込む様に自分の胸を強くかき抱く。



「アキラ……ウルを助けたいか?」


 はっと顔を上げ、フレアを見る。

 彼女はウルの頬にやさしく触れたまま、静かに喋り出す。


「私はね……この娘を友人だと思っている。ふふ、笑ってしまうだろう? 私に友人だぞ?」


 彼女の優しい笑顔が悲しみに変わり、

 そして強い意志のこもった顔になる。


「お前の故郷について調べていた際に偶然見つけた事だ。かつて四代程前のフランベルク王が若かりし頃、決闘にて落馬しいわゆる脳死状態に陥ったそうだ」


フレアはウルを見つめたまま続ける。


「王を救う為のすべを求めて后は世界中を捜索させたそうだ。そして見つけたのが命の水。単なる伝承だと笑ってしまえばそれまでだが、結果的にどうなったのかは現在も王の血筋が続いている事からも明らかだろう」


「命の水……だがそんなもの……」


きっ、とフレアがこちらを見やる。


「東の国にある現在で言うワンツァル山脈のあたりになる。何十年も人の手が入っていない危険な場所だ。そして……」


   ――そこは外だ……外なんだ!


「外国に向けて軍を差し向けるわけにはいかない。必然的に誰かが個人として行かなくてはならないだろう。」


   ――そこにそれがあるという保証なんて何もないじゃないか!


「私が知る限り信頼を持って送り出せるような戦士は二人しかいない。ナバール。そしてお前だ。」


   ――そこは理不尽と不条理にまみれた"外の世界"だ!!


「見ず知らずの娘を助ける為にナバールを送る事はできない。アキラ……お前が行くんだ」


縋るようにフレアを見る。だがそこにあったのは慈愛の表情ではなく、我が子を谷に突き落とす虎の顔だ。


   ――俺は


「お前だ。お前が探すんだアキラ!単なる伝承に過ぎないのかもしれない。だがそれなら次を探せ!それでもだめならその次を!」


   ――ウル……


「外の世界が怖い? だからどうした!! 自由を手にしろ!! 世界を見ろ! 聞け! 感じろ! その全てを私に持ち帰れ!! 私は私の戦いを。お前はお前にしかできない戦いをしろ!」


   ――そうだ……約束したんだ


「その塞いだ目と耳をこじ開けろ! 剣闘場という名の血と鉄で出来たゆりかごを抜け出せ!! タロウやお前のような人間はお前を見つめているぞ!」


   ――タロウと皆に希望を見せるって。これからもウルとタッグを組むって


「お前はそれが出来ない程そんな弱い男ではないはずだ……もっとずっと遠い外の世界から来たのだろうお前は!」


   そうだ、俺は……


「お前は私の剣闘士だろう!!私の!地球から来た剣闘士だろう!!」




こちらを見つめたまま肩で息をするフレア。

部屋を沈黙が包む。



「フレア……」



フレアをじっと見つめ、もう一度ウルの顔を見やる。




「カイルの挑戦を受ける。最終戦として手配して欲しい」







次回、復讐と旅立ちへの戦い。


それにしてもキスカが空気だ

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公とフレアはある種の契約関係だから剣闘士として戦っている。今回嫌がらせを受けているのはフレアで、その煽りをうけてウルはこうなった。主人公のせいではなく、人生かけて助ける義理はない。なのに…
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