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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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同郷

いつもの方も初めましての方も、

読んで頂きありがとうございます。

 わずか十人かそこらの勝ち鬨が闘技場を揺るがす。


 敵のフラグである指揮官を押さえ勝利が決まったのにも関わらず、それでも戦闘を続けようとする北軍に対し発せられたそれは、既に試合は終わったのだと知らしめるのに十分な効果を発揮した。



 臨時宿舎へと引き返した後も相変わらずの酷い扱いではあったが、敗者としての責任なのか侮りがたしとの思いを持ったのか、来た当初に比べれば多少はマシな対応になった。

 フランベルクの剣闘と多少ルールの異なるこちらでは、デスマッチ。すなわちどちらかが死ぬまで決着を付ける試合が多く、待機している医療スタッフも少なかったが、それでも十分な治療を受けられたのは特にありがたかった。


 宿舎に戻った剣闘士達は、身近なスタッフに保護監督を頼み込み、かなりの数が町へと観光に出かけて行った。

 普段であれば試合後はさっさと自室なりに引きこもる事が多い自分も、この時ばかりはと治療を受けた後、できるだけ目立つ場所で目立つように行動する。


 この世界において黒目黒髪はかなり珍しい。

 その上アキラという名前であれば、地球人でしかも日本人と思われるタロウの目に止まるのは機会の問題だけだろうと踏んだからだ。

 本来であれば自分から探しに行きたい所ではあるが、余所様の立場であれやこれや動き回るのはまずい。

 だが、有難い事に少々目立つ活躍をしたおかげで、こちらの剣闘士達からフランベルク剣闘士の戦術や戦闘法についての質問が相次ぎ、かなり顔を売る事ができた。

 軍に比べると同業者である分仲間意識が働くのだろう、非常に好意的だ。

 飛ぶという行為は着地点で待ち構えられると致命的であるという弱点がある為、すぐに対策を立てられてしまうだろうが、ほんのしばらくの間は闘技場を賑わせる新しい戦法として注目される事だろう。

 ライカンスロープ(狼男)であるパスリーに匹敵する怪力がいればだが。



「アキラ、ほれ、お前にだとよ」


 仲間の剣闘士から投げられたそれを礼と共に受け取る。

 十センチ程の木片を2つ合わせて紐で結んだもので、こちらでのいわゆる手紙だ。

 来たか、という思いと共に紐をほどく。


"これが読めるなら最終点呼後に闘技場裏に来てくれ"


 懐かしい日本語の文字に思わず涙が出そうになる。

 向こうにいる時は気づかなかったが、なんと美しい文字だろう!

 こちらが感激しているのに気付いたのか、近くの剣闘士が手元を覗いてくるが、もちろん日本語など読めるはずが無いし、この男は確かそもそも字が読めなかったはずだ。

 知り合いからちょっとな、と濁し、非常に残念ではあるが木炭のチョークで手紙を塗り潰していく。

 ここではあまりに異質な日本語での手紙が、どう不利益をもたらすかがわからないからだ。


 既に読めなくなった手紙を懐に入れると横になり、相手の事を考える。

 フレアによると金髪から黒髪になったという話なので、不良かそれともお洒落さんか。偏見もあるだろうが、茶髪ならともかく金髪に染める日本人はさほど多くは無かったはずだ。

 それとも六年の間に変わったのだろうか?


 夜が待ち遠しい。




 夜になり、剣闘士宿舎恒例の最終点呼が行われている声が他の宿舎から聞こえてきたのを確認すると、布団の中に荷物を突っ込んで中身が居る様に見せる簡単な偽装を施し、外へ忍び出る。

 剣闘場施設の外へ続く道や門は非常に厳戒な警備がされているが、内部での移動に関してはさほど注意を払われていないし、外から内部に入るのも簡単だ。多数の剣闘士がいるここへわざわざ盗みに入る馬鹿な泥棒はいないという事だろう。

 呼び出された場所は闘技場裏なので、途中誰と会う事もなく到達する事が出来たが、裏と一口に言っても闘技場は円形なので、周り全てが裏となる。

 仕方なしにぐるっと周りを歩いていると、外周の3分の2程行った所で、柱の隅から誰かが覗いているのを見つける。

 万が一という事もあるので腰にナイフがしっかり括り付けてあるのを確認すると近づいて日本語で声をかける。


「やあ、いい夜だね」


 声をかけられた相手は一瞬びくっと身をすくめると、おもむろに立ち上がり駆け寄って来る。


「あ、あんた、やっぱり日本人か!」


 喜びを隠せないのか大きな声を出すタロウに、口に人差し指を当てて静かにするよう伝えると、右手を差し出し答える。


「あぁ、初めまして。俺は大木明。会えて嬉しいよ」


 タロウはこちらの右手を両手で強く握り返すと「こっちにいい場所がある」と角奥の恐らく巡回の死角となっている場所へ移動する。


「名前を見た時もしかしたらって思ったんだ。アキラなんてこっちじゃ全然聞かない名前だし。それにあんたと話したっていう奴が言うには黒目で黒髪だったって。もう絶対そうだと思ったよ。

 なぁ、あんたどこの出身だよ。俺神奈川なんだ。そ、そうだ。歳。俺21なんだ。その……そう。太郎。一条太郎。あぁ、聞きたい事がありすぎて!」


かなり興奮した様子でつっかえながらも質問を並べていく。


「大丈夫だ。落ち着け。時間はゆっくりあるさ。

 俺は千葉で生まれて東京で育った。歳はこっちに来たのが一八で、今年二四だ。お前さんと同じで隷属剣闘士をやってる」


「そうか……てことはあんた六年もこっちにいるのか。すげぇな。俺まだ一年くらいなんだけどもう音を上げそうだよ。こっちに来た時はさ、なんかゲームとかライトノベルの主人公になったみたいですっげぇ興奮したんだ。何も持ってない俺でもヒーローになれるんじゃないかって。

 でもよ、世の中そんなに甘くねえんだよな。何もうまくいかねえんだよ」


 恐らく伸ばしたままになっている長くなった髪をわしゃわしゃと掻き毟り、縋るような、それとも言い訳でもするかのように続ける。


「向こうで勉強してた事とかちょっとした雑学とかそういうのってさ。やっぱ向こうだから上手くいった事なんだよな。地球で見た事ある生き物も一杯いるけど、わけわかんないのも一杯いる。木とか草とかもそうだろ? 根本が違うんだよな……知ってるか? 鉱山掘る時に魔法で一気に岩を吹き飛ばしたりするんだぜ?どーんってダイマイトみてぇにさ」


 身振り手振りを交えてなんとかこっちに言いたい事を伝えようと必死な様子がうかがえる。なるべく真剣な顔で頷き、相槌を打つようにしてやる。


「他にもほら、あれ。イーノっていうどこにでもある木の根っこのやつ。あれとか水に入れとくだけで汚れが無くなってくだろ?かっこつけて砂利とか砂とか色々使って濾過機作ってた俺馬鹿みてぇだよな。

 他にも俺、色々やろうとしたんだけど、すぐ思い付けてすぐ出来るようなもんはさ、こっちにも似たようなのとかもっといいもんとかが既にあるんだよ」


 喋り続けて喉が渇いたのか、水を一口飲むと大きくため息を付く。


「俺さ、そういうつもりは無かったんだけど、多分こっちの世界の人を馬鹿にしてたんだろうな。何にも知らない遅れた奴らだみたいに見下して。

 でもそうじゃないんだよな。こっちはこっちで色々工夫しててさ、こっちで必要な事をこっちで無理無くできるようにうまくやりくりしてんだ。すげぇよ実際。

 俺なんて結局何の役にも立たなくてさ。村の連中とも上手くやれなくて、しばらくしたらわけわかんねぇうちにしょっ引かれちまった。

でも俺が悪いよな……正直恥ずかしくてたまんねえよ」


 その時の事が思い出されたのだろう、涙を流し始める。

 まさか懺悔のようなものをされるとは思わなかったので慌てるが、とりあえず背中をさすってやる事にする。

 村人と上手くやれなかったという事は相当辛い思いをした事だろう。


 かつての地球がそうだったように、村はそれ1つが完全な運命共同体だ。

 年貢は村毎に収めるし、何かあれば自分達で武装し、自分達で村を守る。

 日本の農村だって徳川家康による平和な治世が始まるまでは各農家農村で武装していたし、昭和・平成となった後でも蔵から鎧に槍、刀やら鉄砲やらが見つかる位だ。世界的に有名な侍映画のように傭兵を雇う事だってある。軍が来たとしてもその村から得られるものが、村の抵抗によって失われるだろうものより少ないのであれば、わざわざ襲うような馬鹿な真似はしない。

 そういった言わば完全な1つの自治体から村八分にされるというのは、通常ほとんどの場合死刑を宣告されるのとそう変わらない。

 穿った見方をするのであれば、タロウは奴隷として生き延びる事が出来た分幸運だったと言えるだろう。


「へへ、泣いちまってごめんよ。なんか俺ばっかり喋ってるな。あんたの事を聞かせてくれよ」


しばらく背中をさすってやっていると、落ち着いてきたのか恥ずかしそうに笑い、そう言う。

肝心の聞きたい事が聞けていないので少し焦りが入るが、なんとか落ち着けて自分のこちらでの世界の事を話して聞かせる。

話していくうちに段々と呆けた顔になっていき、最終的には開いた口が塞がらないといった様子になっていた。


「……す、すげぇ。まじすげぇなあんた! 貴族とか喋った事すらねぇよ俺。それにこのまま行けばチャンピオンかもしれないんだろ? ありえねぇ……確かにすげぇ身体してるもんな。腕とか俺の何倍太いんだよ。」


 感嘆とした様子で尊敬の眼差しを向けられ、少し居心地が悪く感じる。

 運が良かっただけさと答え、そろそろいいだろうと目的の質問をする。


「なぁタロウ、実は俺は今でも地球に帰る事を諦めてないんだ。手がかりらしい手がかりは見つかってないが、こっちに来れたんだ。向こうに行けないっていう道理はないだろう?」


 手振りと表情ではまぁ分からないけどな、という感じで言い、続ける。


「そこでだ、何かこう、なんでもいい。こっちの世界に来た時や来る前に何か不思議な事とか、感触とか、そういったものは無かったか思い出せないか?声が聞こえたとか匂いがしたとか何でもいいんだ。俺の時は何も無かったんだよ……いや、六年も前なんで忘れているだけかもしれないが」


 手を顎に当て考え込むようにするとタロウが答える。


「うーん、どうだろう。あのでかい扉以外でって話だろう? なんかあったかなぁ……こっちに来た時は気が動転してたしなぁ」


 さらりと答えられたそれに鳥肌が立つ。


「扉? 何の話だ?」


 怪訝な様子で聞くと、え?といった様子でタロウが返す。


「何って、扉だよ扉。空に浮いてたやつ。何十メーターってあるようなでかい扉」


 空に浮く扉・・・全く記憶に無い。だがそう言えば俺がこちらに来た時向こうは雪だったはずだ。もしかすると何も無かったのではなく、ただ単に雲や雪で見えなかっただけかもしれない。


「空だな? 空にこう、大きな扉が浮いていたと。間違い無いな?」


「おう。はっきり覚えてるぜ。黒で西洋風のどっしりした奴。教会の扉にあるようなのに近い感じだったな」


「そうか・・・貴重な情報だ。ありがとう」


 両手を肩にかけ、礼を言う。


「いや、いいんだ。それよりもし帰る方法が見つかったら……その、その時まで俺が生きてたらでいいんだけど」


 僅かばかりだろうが希望を見つけた顔で見つめてくる。


「あぁ、わかってる。その時はお前も一緒だ」


 笑顔と共に答えると、ありがとよと笑顔を返して来た。



 その後も二時間ほど喋り続け、地球での事やこちらの世界の変わった所など、ほとんど雑談ではあったが楽しい時間を過ごした。

 タロウはこちらの世界の男女比率が2倍以上差がある事に興味を示したが、その分剣闘で女を殺す事も多いんだぞ?と返すとそうなんだよなぁ、と覚えがあるのか遠くを見ていた。

 いい加減月も高く昇って来たので、また連絡する事を約束し、解散する事にする。二人とも明日は剣闘を控えており、名残惜しいが寝不足になるわけにはいかなかった。



 ――そして翌日

 ソードと盾、そして先日の反省からマスクを着けたままのクローズドヘルムを身に着け闘技場へ立つ。

 しばらくすると同じ様な格好をした対戦相手が場内に姿を現す。ゆっくりと開始線へ着くとお互いの顔が見える距離となった。



 もしこの世界にいる神とやらがここにいるのであれば、

 俺は知りうる限りの罵詈雑言と共に、殴りかかったろう。




「タロウ……」


「アキラ……」



 軽装備によるデスマッチの対戦相手は、

 出会ったばかりの同郷の男だった。








たまぁにアキラが幸福なのか不幸なのかわからなくなります。

自分だったらまず耐えられないなぁ・・・がんばれアキラさん!

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