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報告


「駄目だ駄目だ!! そんなんじゃゾンビどもの突進は止まらんぞ!! お前ら全員戦死だ!!」


 入口を固めていた人員に怒声をもって死亡判定を送ると、判定された人員のうちの半数を攻略側。すなわち敵役へとまわす。実際にその場でネクロマンシーが使われた想定での訓練だ。


「外堀は敵の死体で埋まったと想定する。外周はこれで陥落! 攻略組は内門へとなだれ込め!!」


 合図と共に外堀付近で防衛にあたっていた人員は素早く城内へと引き換えし始め、攻略組は門や塔へと肉薄していく。


「この馬鹿野郎!! おめぇ相手は痛みも恐怖も感じねえんだぞ。城門を閉めるのが少しでも遅れてみろ。あっという間に門の間は死体で詰まっちまう。そうなったらもう二度と閉じれねえぞ!!」


 防衛組の指揮を執っているパスリーがげんこつと共に剣闘士へ罵声を浴びせる。「しかしまだ味方の収容が」と言う剣闘士にパスリーが再び声を荒げる。


「アホ言え!! 足の速さじゃ勝負になんねえんだぞ。少しでも間に合わねえ奴はきっぱり諦めろ。お前確かジーベンの隊だったな。奴は前の野戦を経験してるから聞いてみるんだな。馬でもなけりゃ逃げられねえと返って来るだろうよ」


 パスリーは再びげんこつを見舞うと、外堀陥落後の細かい説明をもう一度始める。それが一通り終了するのを確認すると小休止を取らせ、再び外堀攻防戦からの仕切り直しを宣言する。このまま続行しても結果が目に見えているだろう。外堀から内門にかけての同時陥落。実際に起これば悪夢以外の何者でも無い。


「よぉアニキ。そっちは大変そだな」


 かけられた声に振り向くと、石の詰まった風呂敷を重そうに背負うウルの姿。


「まあな。予定より砦が大きくなったんで調整にいくらかかかりそうだ。そっちの様子はどうだ?」


 ウルから風呂敷をひったくると、それを軽く背負う。大体三十キロ近くはあるだろうか?


「サンキュー。こっちの出来は悪くないぜ。本番じゃあよ、あいつらの腐った脳みそをそこら中にぶちまけてやるぜ」


 そう言うと、「げひひ」と下品な笑い声を上げるウル。その笑いに少し引きながらも、いくらか安堵の気持ちを覚える。ウルを中心に新設させた部隊はいわば秘密兵器的な役割を持たせてあり、次の会戦で大きな戦力となるはずだ。


 持っていた風呂敷を城壁脇に取り付けてあるクレーンへ乗せると、それが運ばれていく先。すなわち城壁の上へと目を向ける。先程からぶんぶん聞こえる風切音が、不快ながらも頼もしいBGMとしてあたりにこだましている。


「おおい!! 逃げてくれ!! 上だ!!」


 かけられた声に顔を向けようとするが、遮られた日の光に素早く後ろへと飛び退る。直後、先ほどまで自分が立っていたあたりに勢いよく岩の塊が突き刺さる。


「くそ!! 何をしてやがる!! 会戦前に殺す気か!!」


 塔へ向けて怒鳴り声を発すると、大股で中へと足を踏み入れる。青い顔をして降りてきた剣闘士へ強く注意をしながら階段を上り、平たくとられた塔の屋上へと出る。


「お前ら、砲弾の扱いはあれほど気を付けろと……っと、おいおい。なんでこんなギリギリに設置してあるんだ?」


 申し訳無さそうに腕を組んで屈みこむ二人を立たせると、屋上のきわに配置されたカタパルト――バリスタと同様に弓を用いた投射器。バリスタが直線へ"撃ちだす"のに対し、こちらは円弧を描いて"放り投げる"――へと疑問を投げかける。投射物を設置する部位が塔からはみ出しかけており、これでは下へ物が落ちるのも当たり前だ。


「そこの尖塔が邪魔で、これ以上前に行けないんです。前へいくと角度を取る必要がありますので、遠投射しかできなくなってしまいます」


 投石班の指差す方には、確かに邪魔な位置に突き出した尖塔が見える。恐らく既に一度ぶつけたのだろう。屋根の一部が崩れており、壁にもその跡が残っている。彼の言う通り、これでは浅い角度で発射する事が出来ない。


 ――はあ……まあ、事前にわかっただけ良しとするか


 この砦は突貫工事で作成しているものであり、設計も途中で変更されている。設計士も優秀ではあるがベテランというわけでは無く、今回の尖塔の位置のような不具合がいくつか見つかっている。元々城の設計というのは最高難易度のものであるし、いささか仕方が無いという所もあるだろう。


「設計士を呼んであれを取っ払うように言っておけ。場所が中途半端すぎるから尖塔としての効果も期待できないだろう。何より味方の砲撃で死ぬかもしれん所など誰も使わん。恐らく人手が足りんだろうから、君等もその手伝いにまわってくれ」


 ため息交じりにそう指示をすると、階段へ向けて踵を返す。


 ――何だ?


 ふと違和感を感じ、振り返る。


「気のせいか……くそ、俺は疲れてるな」


 一瞬、作業員の片割れが笑った様に見えたのだが、振り返っても俯いたままの姿が見えるだけ。自分でも気付かない内に疑心暗鬼にかられているのだろうか?


 いくらか自己嫌悪に陥りつつも、次の仕事場へと足を急がせる。

 日に日に増していく重圧。足取りは重い。




「ありがとうございます将軍閣下。家族一同、このご恩は一生忘れません」


 地に膝を付き、頭を垂れる職人達。それに合わせ、何人かの同席していた彼らの家族も同じように膝を付き始める。


「頭を上げてくれ。こちらこそ無理を言って申し訳ないと思ってる。向こうで何か不便があるようなら遠慮なく言って欲しい」


 ひざまずく彼らをそっと起こすと、デアエルデまでの道中を護衛する事になっている剣闘士に必ず無事送り届けるよう発破をかける。


「出来ればあれが活躍しない事を祈っています」


 去り際にそう言う職人に「まったくだな」と笑顔を返すと、こちらもその場を後にする。


「ウォーレン、くどいようだが彼らを殺すなよ。寝覚めが悪いなんてもんじゃない」


 横で待機していたウォーレンにそう言うと、彼は「えぇ、わかってますよ」といつもの調子で返して来る。


 彼らは本来であればこちらの勝手な都合で殺される事になっていた者達だ。誰もが城塞の抜け道作成担当の職人達とその家族で、他の職人達とは完全に切り離されて作業に従事していた。こちらの世界の慣例として抜け道作業に従事した人間達は、作業終了時にその命を奪われるのが常だ。理由はもちろん機密保持の為である。


 ――理屈はわかるが、いくらなんでもな


 今更正義漢ぶるつもりは無いが、いくらなんでもそれは酷いだろうと、彼らにはデアエルデの屋敷でちょっとした軟禁状態に置かれてもらう事にした。出入りに許可や同行が必要だったりと不便もするだろうが、得をする事も多いはずだ。「誰もが嫌がる作業が、一転して大人気でしょうね」とはウォーレンの弁だが、殺されるとわかっていてそれでも立候補してきた――実際には職人ギルドに押し付けられただけなのかもしれないが――彼らの勇気を評価したい。


「ウォーレン様、ご報告があります!」


 声の主は相変わらずウォーレンの補佐官を続けているニッカ。彼女はこちらへ一礼をすると、素早くウォーレンに耳打ちをする。


「隊長、ご報告が三つほどあります。良い報告。悪い報告。なんとも言えない物。どれからに致しましょう」


 またいつものかと、いささかうんざりした心境で鼻を鳴らす。今まで幾度となく同じやりとりを繰り返してきたが、その度に同じ答えを返してきた。彼もいい加減わかっているはずだが、それでも聞くのはウォーレンなりのこだわりか何かだろうか?


「いつもの通り……と言いたいが、たまには逆をいってみるか」


 何か変わった反応でも見れるかとそうしてみるが、ウォーレンは相変わらずの表情。軽く舌打ちをしながら運搬中の石材が積まれた資材置き場にある簡易ベンチへ腰を下ろすと、ウォーレンにも隣に座るよう促す。彼は「では」と腰をかけ、口を開く。


「いや、すまん。やっぱりいつも通りにしてくれ」


 口を開きかけたウォーレンをそう制すると、彼は一瞬得意そうな表情を見せる。結局こだわっているのはこちらなのかもしれない。


「では悪い方の知らせを。ヤーク連合のカダスが死にました。公式発表は病死となっていますが、真相はわかりません。遺言としてクデルクセス族の族長を首領に指名したとありますが、権力バランスから言って不自然です。恐らく嘘でしょう。既に激しい勢力争いが起こってると見て間違い無さそうです」


 ウォーレンの言葉に、はっと息を飲む。


「そうか……逝ったか……」


 かつてカダスから語られた言葉から覚悟は出来ていたつもりだったが、実際にそうなると衝撃は大きい。


 自分であり、自分では無い者の死。

 俺を助ける為に、人生を犠牲にした男の死。


 ――俺はその価値がある人間だろうか?


 がっくりとうな垂れていると、ウォーレンが不審そうに覗き込んでくる。恐らく、そこまでショックを受ける理由がわからないのだろう。


「少しは希望を抱いたまま逝けたのだろうか」


 それとも絶望や後悔の中で眠りについたのだろうか。今となっては知る術は無いが、平穏や幸福とは程遠い人生だったはずだ。


「それが決まるのはこれからじゃないかしら」


 かけられた声に振り向くと、いつの間にかいたのか。石材の上に腰かけているミリアの姿。じっとこちらを見つめる彼女に「そうだな」と返すと、彼女の言葉を心の中で反芻させる。


「全ては今後の流れ次第か」


 独り言のようにそう呟くと、ウォーレンに次の報告をするよう促す。彼は「わかりました」と丁寧に頷くと、ニッカから手渡された書類へ目を落とす。


「では良い方の報告を。先日、帝国の選挙結果が発表されました。僅差でロバートが勝利し、無事に皇帝へと選ばれたようです。圧勝では無く僅差というのが良いですね。隊長の助勢が大きな役目を果たしたという事になります。今後の友好に期待が持てますよ」


 先程とは一転。にこにことした表情でそう語るウォーレン。それに「ようやくか」と返すと、大きく伸びをしてベンチにもたれかかる。


「僥倖だな。向こうの選挙期間は十年だったか? であれば当面の交易相手には困らないだろう。うちが全力で品物をかき集めたとしても向こうの財政に影響を与えるような事は無いだろうしな」


 帝国とジパングでは経済規模がまるで違う。いくらか落ち目だとはいえ、北の大陸で名を馳せる大帝国だ。恐らく帝国内での有力者は、個人でジパングそのものに匹敵する富と権力を持つ者すらいるはずだ。


「近い未来は真っ暗だけど、その先にさえ行ければ開けた未来が待ってそうね」


 ミリアの率直な物言いにウォーレンと二人で苦笑を漏らす。真っ暗とはこれまた厳しい。


「あの時とは何もかもが違う。きっと上手く行くさ……っと、そういえばもうひとつ報告があるんだったか?」


 浮かしかけた腰を再び戻すと、ウォーレンへと目を向ける。視線を受ける彼は何やら複雑な表情で「それが……」と口ごもる。


「その報告って、もしかしてこれの事かしら」


 そう言いながら自らの胸元を指し示すミリア。吊られる様に指の先へ目を向けると、そこには違和感を催す光景が待っていた。


 ――胸が……ある? 成長期にしても早すぎるな。魔法か?


 ミリアは――彼女の場合は年齢的に当り前なのだが――ウルと並び、胸部の平坦さにかけては剣闘団随一だったはずだ。それが今では明らかにそれとわかるふくらみが見える。しかも決して薄くは無いローブを着ているにも関わらずだ。もしミリアにしか使えない魔法というわけで無いのであれば、間違いなく世の中に革命が起きる。


 ひとり感慨深くそれを眺めていると、何やら二つのふくらみがうごめき出す。なんのつもりだと突っ込みを入れようとするも、徐々に激しく動き出すそれに圧倒される。


 ――違うぞミリア! 我々はそんな機能は望んでいない!!


 混乱する頭のまま推移を見守っていると、やがてふくらみは首元までせり上がる。


「珍しいでしょ。わたしも初めて見たわ」


 ミリアが語るそれ。彼女の襟首から姿を現した、羽を備えた身長四十センチ程の羽の生えた人間。それはいわゆる妖精と呼ばれる生き物の姿だった。


「……あぁ? 何見てんだこら。うんこみてえな顔しやがって。きたねえ顔を近づけんじゃねえよ!」


 しかも、とびきり口の悪い妖精だった。




2週連続でおっぱいネタ。

さすがにどうかと思う。

思うだけダケド

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