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From The Earth ~地球から来た剣闘士~  作者: Gibson
第一章 ――アキラ――
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親善試合

戦闘シーンでございます。

「重装備限定とは聞いてたけどよ……」


 フレアから特別に支給されたプレートメイルの重みを感じながら一人ごちる。


「集団戦だなんて聞いてねぇぞちくしょう! お前ら! 突っ込むぞ!!」


 号令と共にずらりと並んだ重武装の剣闘士が雄叫びを上げ、

 土煙を後ろへ一斉に走り出す。




 フランベルクから北の国アインザンツ辺境領までは馬車に揺られ1週間ほどの旅だった。親善試合に臨む剣闘士達は総勢二十名程だが、それに監視の者や御者。外交官とその書記達といった者が加わり、かなりの人数になっていた。

 当初ゆったりとした観光気分で構えていたが、かなりの強行軍と、脱走防止用に作られた窮屈で小さな窓しかない馬車に、二日目に入る頃にはうんざりとした気分で一杯になっていた。


 剣闘士は思い思いに武器の整備やたわいのない話で時間を潰していたが、それも長くは続かず行程の半分も過ぎた頃には皆無口になっていた。

 まるで懲罰房にいたみたいだったぜ、とは誰の言葉だったか、皆で一斉に頷いたものだ。


 町に到着すると、どこへも寄らず真っ直ぐに闘技場宿舎へと向かい、恐らくわざと用意したと思われるかなり貧相な寝台ですぐに就寝。

 翌日には狭い運動場を利用した形ばかりの歓迎式典が行われ、その後いくらもしないうちに第一試合の開始。


 嫌になる程悪意が伝わってくる。


 そりゃあ確かに3年かそこら前まで戦争してた相手だ。

 割り切れない思いや何かもあるだろう。だが親善試合というからにはせめて形くらいは親であり善であって欲しいものだ。

 こんな日程で目的の人物に会えるのだろうかと、強い焦りを感じる。


 控室で装備を整えつつ苦虫を噛み潰したような顔をしていると、見慣れた顔が声をかけて来た。


「おいアキラ、これってどう考えても歓迎されてないよな」


 古くからの戦友の声に少し気持ちが落ち着く。


「これが北の国流の歓迎って奴じゃなければな。まぁ事実上鬱憤晴らしの代理戦争だろうよ……ところでパスリー、第一試合は誰が出るんだ?」


 息苦しいのは好きではないので、フルヘルムの邪魔なマスク部分を取り外しながら尋ねる。

するとパスリーは信じられない物を見るような顔で、答えた。


「誰ってお前。ここにいる全員だろうが。十五対十五。フラグ戦だ」




「勝つ気あんのかうちの大将は!!」


 時間がなかった為に中途半端にぶらさがったままになっていたヘルムのマスクをちぎるように取り捨てると思わず叫ぶ。

 十五人対十五人の集団戦は、最初の突撃以降相手の優勢となり、そのままずっと防戦一方に晒されて続けている。

 既に三人が脱落しており、降参の印となる盾と兜が無造作に床に転がっている。

 三人の内一人は兜を捨てた瞬間にメイスで頭を叩き割られるという不幸な"事故"で死亡している。


 十五対十五とはあくまで数字上の問題であり、実際戦っているのは十四対九といった所だ。ことによるともっと酷いかもしれない。

 相手側はうまく全ての剣闘士が戦闘に参加できるよう細かく指示を出しているのに対し、こちらは大将の近くで団子状に固まってしまっている。

 当然団子の内側にいる者達は味方が邪魔で戦闘に参加する事が出来ず、実際の人数と戦闘人数に大きな差が生まれる形になる。


「うちのあれはもうダメだ! おいアキラ! どうすりゃいい!!」


 守れ守れとしか言わない味方司令官に痺れを切らした味方が叫ぶ。


「どうするって、誰か一発殴って目を覚まして来たらどうだ!」


 目の前の敵にフレイルを叩きつける。

 脱穀器から生まれたフレイルは2つの鉄の棒を鎖で繋いだような形をしており、相手はそれを反射的に盾で防いだが、防いだ箇所を軸にしてぐるっと棒先が回り込み、相手の肩を強かに打ち叩いた。

 相手はぐぅっと呻いた後仕返しとばかりに剣を付き入れてきたが、半ば無視する形で再びフレイルを振るう。


「重装備戦でソード?こいつ素人か馬鹿だな」


 向かって来たソードは厚いプレートに阻まれ、耳障りな音だけを残して勢いを失った。対してこちらのフレイルは無防備になった脇腹にぶち当たり、鎧を大きく変形させる。

 相手は身体をくの字に折ると、ヘルムの隙間から吐しゃ物を巻き散らした。


「おまけに試合前に飯とはな。おやすみルーキー」


 体重をかけ、フレイルの柄で突くようにこめかみを一撃すると、鈍い音と共に派手に崩れ落ちた。

 しかしほっとしたのも束の間、近くで戦っていた味方が倒れるとそれと相対していた二人がすぐに指揮官から指示を受け、こちらに向かい走り寄って来る。


 おいおい、と思わず口に出す。

 試合の開催側だから多少の対策期間が余分にあるにせよ、いくらなんでも連携の流れが良すぎる。


 まさかという思いから、先ほど倒した男のベルトに差してある短刀を足で引き抜く。

 着ているのは薄汚れた鎧なのに対し、磨き上げられた刀身。


 刀身の中央には氷の紋様。


「こいつら正規軍か!!」


 咄嗟に腰を低く落とし膝立ちになると、盾に体を隠す。

 直後盾に蹴りを入れられたような衝撃が走り、2回目の衝撃と共に盾の内側に尖った金属片が飛び出してくる。

 鼻先数センチの所で止まったそれに冷や汗が流れ出す。

 まず投げ槍だ、次は――


 ――突進が来る! フレイルじゃまずい!!


 戦時中の経験から北軍の常套手段を思い浮かべると、フレイルを投げ捨て予備として腰に吊ってあったメイスを手に取り、加速時間を少しでも減らすよう前に走り出す。

 片方だけを相手にできないかと横にずれながら走りつけるが、上手く足の速さを調整され、2本の槍による突進を同時に受ける。


「ぐぅぅっ!!」


 一本はメイスで弾いたが、もう一本をまともに左胸に受ける。

 槍先がプレートを貫通しホーバークによって受け止められるが、それでも強い衝撃が伝わり、激痛と共に声が漏れる。

 剣闘士は集団戦での試合もあるものの、やはり基本は一対一であり、集団戦はさほど得意ではない。対して正規の軍隊は複数対複数を前提とした訓練を積んでおり、集団戦におけるその強さは他の追随を許さない。


 このままでは分が悪い。

 従軍経験のある自分はともかく他の剣闘士の事を考え、決断する。


 胸を突き刺してきた槍を掴み、全力で引き寄せる。

 ヘルム同士がぶつかる程に密着し、ストラップにぶら下がるままにまかせメイスを手放すと投げナイフを二本手にする。

 そしてそれを投げるのではなく相手のヘルムのスリットから中に差し入れ、盾でおもいきり顔を殴りつける。ヘルムの中がどうなったのか想像したくも無いが、恐らく前より見れる顔になった事だろう。

 もう一人が首を目掛けて突き入れてきた槍を、顎を引きヘルムとブレストプレートとの間の隙間を埋める事で防ぐ。

 取り外したマスク部分までほんの数センチしか離れておらず、今後はマスクもきちんと付けようと心に留める。

 再び突き出されてきた槍を、握りなおしたメイスで弾き距離を取ると、視界の隅に見つけたパスリーの元へ、相手を牽制しつつ走り寄る。


「パスリー! まずいぞ、こいつら正規軍だ!」


「うえ、まじかよ。どうする? 乱戦に持ち込むか?……あぁ、くそ。また一人やられた」


 顔をやると、既に盾と兜を脱ぎ捨て降参の意を示している仲間に大きく剣を振りかぶる敵の姿が見えた。


「北の野蛮人め! パスリー、このままじゃジリ貧だ。頭をやるぞ!」


 リハビリ中に習ったウル直伝の投げナイフで相手を牽制すると、中央で指揮を執っている男を目がけて走り出す。

 パスリーは「あぁ、やっぱそうなるよねぇ」とうんざりした様子で応じると、盾を右手に持ち替え並走して来る。


 敵側はこちらの狙いに気づくと、迎撃するよう指示を出す。

 すぐさま周りにいた四人がこちらへ投げ槍を投擲してくるが、二人で走りながら身を寄せ合い、左右の盾でこれを受ける。

 内一人が素早く進路上を塞ぐように立ちはだかって来たので、一度停止し、メイスを上に大きく振りかぶる。

 相手の目がメイスに吊られて上がった事を確認すると、すぐさまパスリーが盾で相手の視界を覆い隠し、完全に死角となった位置から相手のヒザをメイスで砕く。

 跪いた所へその後頭部にパスリーのメイスがとどめを加える。


「いやぁ、久しぶりでもいけるもんだな」と呑気な声を発して来るが、それどころでは無いので無視して再び走り出す。

 重装備で戦いながらの移動に足腰が悲鳴を上げ始める。

 急がなくてはいけない。


「パスリー! 飛ばしてくれ!」


 あいよぉというやる気無さげな返事と共にパスリーの身体が一回り大きくなる。ヘルムから覗く顔はいつもの優男とは程遠い荒々しく獰猛な顔つきになっており、赤く光る目と口からはみ出た狼特有の牙がそれに拍車をかけている。

 人狼化したパスリーに助走をつけて走りよると、組んだその手に足を乗せ、強靭な筋力による引き揚げの力をもらい、


 そのまま跳躍する。


飛ぶといってもせいぜい高さ二メートルかそこらだが、呆気に取られている護衛の頭を飛び越えるには十分な高さだ。

 フランベルク闘技場では派手さから有名になってしまい既に対策を取られてしまっている方法だが、ここで我々の事を知ってる者などいないだろうし、強い印象を残しておけばフレアへのいい土産になるだろう。


 足、腰、背中の順番で勢いを殺しながら着地し、敵の指揮官を巻き込む形で地面を転がる。

 落ち着いた所でソードを取り落した事に気づいた指揮官が慌ただしく短剣を抜き放とうとするが、無事ストラップに付いてくる形で手元に残ったメイスでそれを払いのけると、喉元にナイフを突きつけ宣言する。


 「残念だったな。チェックメイトだ」







たまにはヒーローっぽい所を・・・

う~ん、やっぱり地味だなぁアキラ君。

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