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秀頼のもう一つの才

「秀吉の遺言」外伝シリーズ2です。

本篇の「秀吉の遺言」では諸将の活躍がメインになりますが、豊臣方勢力の中心である秀頼の成長を書いてみます。本編と合わせてお楽しみください。

……豊臣秀吉が冥府へと旅立ち、日本は再び割れた。関ヶ原の大戦で徳川家康率いる東軍が勝利し、家康は征夷大将軍となる。

 徳川の世に纏まるかに見えたが、「秀吉の遺言」により豊臣方も動き出した。

 大阪城へ密かに集った前田利長、真田昌幸、直江兼続らの力を借りて、纏まりつつある豊臣家であった……


一六〇四年


 真田信幸が信濃・小諸城を攻め落とし、大阪城でも伏見城を獲る準備が着々と進められていた。

 そんな折、秀頼は前田利長、真田昌幸、直江兼続を呼んだ。呼ばれた三人は何事であろうかと、首をかしげながら参上した。


 「皆の者御苦労である。本日は皆に頼みたいことがあってな」


 「は、何事でございましょうや?」


 と三人を代表して利長が尋ねる。利長は先般、豊臣秀頼の名代となっている。昌幸、兼続は軍師だ。


 「うむ、余はこのままで良いのか?余は普通の者より早く元服したが未だ初陣を飾っておらん」


 「これは上様、上様はまだ戦場になど出る必要はございませぬ。そのうち機会がございますれば、お待ち下され」


 と利長が諭すように言う。秀頼が愚鈍の殻を脱ぎ捨て、徳川に対抗する事を決めたとはいえ、豊臣家としてやっと形が整いつつある所だ。秀頼を戦に出させる訳にはいかない。


 「余の父は非力であった。槍働きはそちの父上には及ばなかったと聞いておる。余もそうかもしれん。だがな、やはり家を束ねる者は戦場に出なければならぬのではないか? 現に先の大戦で尻の重たかった輝元の所は乱れておる」


 「は、されど上様は、そのへんの大名ではございませぬ。大名を束ねる立場のお方でございます」


 と今度は昌幸が諭す。


 「ふむ、では今はじゃ、今はまだ戦場に立つ時ではないというのじゃな 」


 「御意! 」

 

三人が声を揃えて言う。


 「あい、わかった。今は我慢いたそう」


 と未だ童に面影が消えぬ笑顔で言った。

 三人はほっとした。しかし、秀頼はまだ何かを考えているようである。


 やがて秀頼は少し大きな声で


 「その方らに申しつける。諸国より才のある童を集めよ。余と年の近い方がよい 」


 と命じたのであった。

 これには三人は驚いた。いままで秀頼がこのようにきつい口調で命を出すことはなかった。いままでは子どもが大人にお願いするというような感じだったのである。


 三人は顔を見合わせ、やがて、兼続が尋ねた。


 「は、ご下命とあらば! したが理由を教えていただけませぬでしょうや 」


 「今に分かる! 」

 

 と秀頼は短く返答する。


 その姿を見ていた利長は、不思議な感覚を覚えていた。


【このような雰囲気はどこかで……。太閤殿下ではないな…… 】


 ぼんやりと秀頼を眺めていた利長が、はっとした。


【あのお方じゃ!、あの方に……】


 隣りを見ると昌幸もはっとした顔をしている。





 「もう一つ頼みがある」


 先ほどの毅然とした態度とはうって変って秀吉譲りの笑顔で言う。


 「何でございましょうか?」


 と兼続が答える。


 「うん、これは利長に頼むのが良いと思うが、家康は今や将軍であるな。余はなんじゃ?」


 そこまで聞いてはっとした。これには利長が答える。


 「は、上様は家康に家格でも後れを取らぬようにと仰るのですな。これは私が直接当たりましょう。しばしお時間を下され」


 「うむ、任せたぞ」


 と秀頼は笑った。





 やがて三人は秀頼の前から辞して、兼続の屋敷で話をしていた。


 「童を集めてどうされるのでしょうか?」


 と兼続が疑問を口にする。


 「分かりませぬが、実は先ほど私は不思議な感覚に襲われました。秀頼様が強く命じられた時です」


 と利長が言うと、大きく昌幸も肯く。


 「私もでござる。ある方を思い出しました」

 

 「やはりでございますか」


 利長と昌幸は頷き合っている。


 「やや? お二人ともなんでござるか?私にも教えて下され。お二人が何を感じられたのか 」


 兼続がじれて尋ねた。


 「では、私はあの時、思い出しましたのは信長公でござった」


 利長が言うと昌幸も大きく肯いている。


 「なんと、信長公でございますか!?……したが、これで分かりました。私がお二人と違っていたのは、私は信長公にお会いしたことがございませぬから」


 「ああ、そうでしたか。兼続殿は信長公とはお会いしておらなかったのですか」


 「しかし、考えますれば秀頼様の母君の淀君は信長様のお血筋ですからな」

 

 この後、信長について聞きたがる兼続に、二人は色々と信長に付いて話をして聞かせた。




 利長は兼続たちと別れて、自分の屋敷に帰って秀頼のことを考えていた。


 【秀頼様が殿下の才を引き継がれているのは確かである。さらに信長公の才まで持ち合わせておれば……。これは大変な将になられる】




 同じころ、昌幸も同じことを考えていた。


【秀吉殿下と信長公の才を持った秀頼様、その秀頼様が童を…。

 そうか秀頼様は母衣衆を組織されようと言うのじゃな。

 信長公が母衣衆に有能な直参家臣を集めて、大きくなって行かれたことを学んだのであるな。ふむ、こうなればいい若者を集めよう。そして秀頼様にも武芸の鍛錬を任せる誰ぞをつけよう】




 前田利長、真田昌幸は年端も行かぬ秀頼に、今まで以上に強く惹かれていく己を感じていた。

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