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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
凄惨な日常に花束を
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綻び始めた嘘が嗤う


 そろそろこの章も終わりです、きっと。


 騎士の名前や武装名を考えるのは、楽しいんですけど、思いつかないときは適当に書きなぐってます。

 風呂や自転車漕いでるときなどに、イイ案が浮かぶことが多いですね。

 そんなときに慌てて忘れないように、メモします。

 風呂場では曇った鏡とか、自転車では携帯とか……。

 いろいろと危ないですね……。

 

 空から降ってきた人物は、全身タキシードの礼装姿で頭にシルクハットを載せていた。顔には表情を隠す仮面がつけられ、そこに描かれたピエロの顔は口が裂けて狂気に満ちている。声で判断すれば、相手は男だろう。

 

 突然の来訪者は七彩とピグモの中間に着地すると共に、身を捻って蹴りを放った。

 アギトは何とか腕を身体との間に挟み込んだ。が、男の蹴りはあまりに重く、七彩の身体はその場に留まれず、後ろに吹き飛んだ。

 ズザザザザ、地面の上を転がって砂埃を立ち昇らせると、七彩の身体は止まった。

 アギトは今さっき起きたことに対し、理解に苦しんだ。

 七彩のカメラアイは、男を騎士として捕捉していない。人間として映していたのだが、先ほどの蹴りは人間離れしていた。

 蹴られたのが生身の人間であれば、腕を挟んでも肋骨をへし折られただろう。殺意を乗せた一撃だった。


「いやぁ、なかなか反応がよいですねぇ。軽く同調率が九〇%を超えないと見られないですよ、さっきの反応速度は」


 タキシード姿の男はシルクハットの位置を整えて、ネクタイをきつく締める。

 そんなことをしなくとも、男の服装はこれっぽっちも乱れていない。

 これこそ本当の怪人だ。


「あぁ、そうでした。そこに倒れている豚さん、質問なんですがー、入口はどこだか分かりますかぁ? 校内にいましたランカーの方に尋ねましたところ、問答無用に攻撃されたので返り討ちにしてしまって」


 男の言葉に、ピグモが咄嗟に顔を上げた。多聞はもはや満足に戦えないだろうが、同調は継続中だ。


「まさか、フンダートを倒したのか。監視の蜘蛛もオメェの仕業か」

「すみませんね。ワタクシも仕事なんですよぉ。早く教えて貰わないと困るんですぅ。だって、あなたもターゲットですから。ほら、これを見てくだいよ」

「んな、まさかオマエ……そんな馬鹿なことがあるわけ。そいつを何で持ってんだぁッ」


 多聞の声は怒りに震えていた。先ほどまでの多聞では考えられないほど、取り乱した様子だった。

 多聞の視線は男が胸ポケットから取り出してみせたものに向けられていた。

 男の手に収まったそれは、数字の入った蛇のキーホルダー。赤黒く汚れた表面に浮かんだ数字は60。


「いやはや、洒落たことしますよねぇ。メンバーがそれぞれご自身の番号の入ったキーホルダーをもってらっしゃるなんて。これはぁー60番ですかぁ。双子だったらしいですね、可哀想に」


 男は嘆かわしい声で、同情します、と言ってお辞儀する。仰々しい仕草は白々しく、男が仮面の下で笑っているような気がした。

 アギトは周囲を素早く見回して、安堵した。小埜崎は無事に少女たちの元に辿りつけていた。彼女が傍に居てくれるだけで、ひとまず安心できる。出来れば避難してもらいたいものだったが、今の状況下ではヘタに動かない方が得策かもしれない。


「林野兄妹を殺しやがったな、オメェ」

「林野という苗字だったんですかぁ、可愛らしい兄妹でしたね。──寝顔が特に」


 アギトは状況を理解した。

 目の前のタキシード姿の男は、ここに来る前にニーズヘッグのメンバーを殺してきたのだ。だからこそ、多聞は怒りに震えていた。

 では、こいつは誰だ。ニーズヘッグのメンバーは同調している場所がバレないように細心の注意を払っていたはずだ。そんな場所を見つけ出した男。

 先ほどの蹴りからも只者ではないことは分かる。


「そうそう、挨拶が遅れました。ワタクシ、懲罰部隊に所属しておりますぅ、ラパニールと申します。あなた方からの認識では、災厄と言ったほうが分かりやすいですねぇ。ヨルムガンドのラパニール、半人半騎の道化師でございます」


 それが災厄の自己紹介だった。

 ラパニールは挨拶を済ませると、両手に嵌めた純白の手袋を取り外した。その下から現れたのは、金属光沢を持った鋼の手。

 ラパニールは続けてタキシードの袖を捲った。露にされた両腕の金属骨格は、見ているだけで身の毛がよだった。露骨に戦闘仕様であることを示す刀身が、二の腕を形成していた。と、指を鳴らしてけたたましく笑った。

 ラパニールの両腕は急速に展開し、巨大な翼肢へと変貌する。翼膜のない翼の指一本一本が鋭い刀の形をしている。二の腕部分に収納されていた刀身が巨大な翼を模った手を構築した。


「仕方ありませんですね。いっそのこと、校舎も騎士も全部壊してみるしかないですね。丁度観戦客もいらっしゃるようですし、盛り上げていきましょう」


 ラパニールは狂ったように笑い、その奇怪な手で地面を掻いて抉る。指が地面をなぞっただけでも地面には細く深い線が引かれる。

 あまりの出来事に先ほどまでの怒りを忘れて、多聞は口を開いた。


「半人半騎だと、そんな話は聞いたことがねぇぞ。冗談もほどほどにしとけ、オメェ」

「ワタクシ、冗談が苦手なんですよぉ。本当の本当ですよ。あぁでも、厳密に言うとですね、ワタクシは身体の八割ほどが、機械なんですよ。ちなみに脳は本物を使っています。なので特殊なケースなのですが、機械の身体に生身の脳が擬似神経で接続されてるんですよぉ。同調率は105%辺りでしょうかね」


 同調率が100%を超えていることが、事実なのかまでは分からなかったが、男の肉体の大半が機械なのは間違いないらしい。

 男が武装を展開したことで、アギトの視界にカーソルが表示されていた。男が人間ではないことを示す、赤い円だ。


「さきほどから聞こえる鈴の音は心地いいですねぇ。心が癒されます。気分がいいので、観客達には特等席に移動してもらいましょうか。それでは皆さん、そこの朝礼台の上に移動をお願いしますね。そこの爬虫類みたいな騎士の方も同じくですよ。無駄に抵抗はしないでくださいね」


 ラパニールの声はふざけたようにヘラヘラとしている。それが単に口先だけなのは明確だ。男は値踏みしているように、大人しく移動していく少女たちを視線で追いかけた。

 手が落ち着きなく動いているのは、破壊衝動を抑えているように見えて不安になる。

 アギトはいつでも彼女たちを庇えるように身構えた。


「彼女たちを傷つけるなよ、オマエ。彼女たちは一般人だ」


 七彩の最終兵装はラパニールには通用しないらしい。レクイエムを終了させると、副兵装を展開した状態で狂刄鈴蟲の柄に触れる。

 災厄、ヨルムガンド、全ての元凶である存在。未だに半信半疑であったが、ラパニールの実力は確かなものだ。醜怪な翼のような両手は指の一本一本が刀剣という武装で、まるで一〇刀流を相手にしているような圧倒さがある。

 七彩は肱、膝、踵と狂刄鈴蟲の刀身を合わせて七だ。手数で負けている。

 つらい戦いになりそうダ、とアギトは舌打ちした。

 由佳里たちが人質にされようとされなかろうと、アギトはラパニールと戦うつもりだった。目の前に災厄を名乗る存在がいるのに、指を咥えているなど出来るわけがない。


「えぇ、ワタクシも一般な女子高生を赤く染めたくはないですよ。それにしても良かったですね、ボレアースのアギト。幸運にもあなたはターゲットではないらしいですよ。いや、ターゲットだったけれど除外されたみたいです。おめでとうございます」


 抹消リストでもあるのかもしれない。しかし除外されるようなことをしただろうか。

 ミツルを見ていたかぎり、ありきたりな生活を送っていたように思える。


「それでは、戦闘ゲームを始めましょう。ただの手合わせではつまらないので、条件をつけてみませんか? ではこうゆうのは────」


 その内容にアギトは、ふざけるな、と怒鳴った。

 ラパニールの提案した条件は、二つだった。

 ラパニールに両膝をつかせるか、五分保てばアギトの勝ち。人質の解放も行う。

 アギトが五分保たなかった場合、または大破した場合は人質に死んでもらう。

 たった五分、されど五分だ。

 ピグモとの戦闘で消耗した七彩では、戦い続けることは難しい。主兵装の狂刄鈴蟲は刃が欠けている。頼れるのは空気の刃と副兵装の振動刃だ。


「お前の思い通りにはならないぞ、イカレ道化師」


 ドスの利いた声は、聴いた者を戦慄させた。

 アギトはラパニールという男を睨み、破壊の対象として再認識した。



 由佳里は金属製の朝礼用の台の上に座って、祈っているしかなかった。手を握り合わせて懇願するしかなかった。どうかまだ残っていてください、と。消えていないで、と祈る以外に何ができようか。

 突如として吹き抜けた風は生暖かく、人の温もりがあるようだった。ハッとして面を上げると後ろを振り返った。当然そこには誰もいなく、無人の校舎と茂り始めた雑草があるばかり。

 だけど何となく、漠然とした感覚だったが、彼の存在がいた気がした。

 暖かな風は由佳里の唇を撫でて、遙か後方へと流れた。

 由佳里の制服の左袖、そこに止まった天道虫の表示する映像が大きく乱れた。ノイズまみれでのたくったように不鮮明な映像、その右上にかろうじて判別出来る数字は──99%...。その数値も次第に文字化けしたように崩れて、識別不能になる。

 その事態に誰も気づいていない。

 天道虫型ロボットが99%の数値を表示したことに、誰も気づいていない。

 もはや99%どころではなかったのかもしれない。



 ◆◇◆◇◆◇◆



「ふざけた、道化師が。おいらのネック・チョッパーの錆にしてやるぜ」


 多聞が吐き捨てて、もはや武器とは呼べない刀剣を構えて突進した。ピグモの損傷具合では、もはや動くことから困難な状態であるだろう。そんな多聞の捨て身のタックルに、ラパニールは両手を前に突き出した。指が鍵盤を弾くピアニストのような流動的な動きをする。

 その瞬間、ピグモの全身が切り刻まれて、綿を撒き散らした。弾けた火花が引火して、瞬時に全身に燃え広がる。

 斬撃が飛んだのではなく、目にも止まらぬ速さで斬ったのだ。両手に伸びる鋭い爪で刻んでみせたのだった。まさに一〇刀流の剣技の様相だ。

 同調率の上昇のおかげか、アギトにはその斬撃の全てを目で追うことが出来た。が、避けろと言われても回避は出来ないだろう。避けることは不可能な隙間のない集中斬撃だ。

 ラパニールは炎で視界を遮られたピグモの胴体を蹴り飛ばした。激しく転倒したピグモの装甲に窪みを残した。


「豚さんはもうじき死ぬんですね。あなたはもう用済みなんですよぉ。吹切多聞、あなたは何も思い出せないんですよねぇ。あなたがたの開発主任のことなんて、一切忘れてしまっているんでしょう? 記憶改変、いや改ざんですねー。可哀想な、可哀想なあなたもおやすみの時間です。グッドナイト、ですよ」

「くそったれ、ホントにオイラの身体を……。殺しやがったな………………ハハハ」


 多聞の声が消え入りそうに小さくなって、とうとうついえた。その口元に笑みが浮かんだように見えたのは、錯覚だろう。

 吹切多聞もまた、肉体が殺された。敵は一人だけでなく、複数存在するらしい。

 多聞が苦悶する姿を滑稽そうに嗤うラパニール。人の死を快楽に感じているようだった。


「ではでは、邪魔な方には退場してもらいましたので、始めましょうか」


 その言葉が余韻を残すうちに、ラパニールが俊足で詰め寄ってきた。

 瞬間移動したかのような動きに、アギトは咄嗟に身を引いて初撃を躱した。目と鼻の距離を掠めていく刃物の群れが、獲物を捕らえられずに地面を穿つ。

 ラパニールの両手から繰り出される斬撃は、俊敏かつ鋭利だった。繰り出されたのを視認してからでは、至近距離での回避は難しい。

 まるで翼膜のない翼のように変形した腕を巧みに操るラパニール。攻め立てられるアギトには、バックステップで躱す手段しかない。一度あの斬撃の雨に飲み込まれれば、無事では済まないだろう。


「アハハハハッ、素晴らしい身のこなしにです。ですが、それでは到底勝つことなど出来ませんよぉ? あなたがあっさり負けないほうが、彼女たちのためになりますけどぉ」


 ラパニールはアギトを倒した後は、高校校舎を全壊させると明言した。その理由は、彼が探し求めているものがあるためらしい。

 由佳里たちは観客という人質にされて、朝礼台に座らされて勝負の行方を見守っている。アギトが両膝をつかせるか五分保てば、彼女たちは解放される。逆にアギトが五分保たずに負ければ最悪の結果が待っている。

 だからアギトは負けられない。

 完全に消えた意識の存在。美鶴との最後の誓いを果たすつもりだった。

 かつて孤独を愛した獣を、再び光の当たる場所へと連れ出してくれた存在。人の温もりを思い出させてくれた存在。

 あの日の約束を守り続けた存在は、消えてしまった。約束を破ったのは、アギト自身だ。


──ボクがアギトになって戦おう。だから、オマエはミツルになって、ボクじゃ創れない温かな日常を創って欲しい。これはボクたちの契約だ。


 アギトは守ることを約束したミツルの日常を壊した。


「悪いがボクは負けられない。ラパニール、オマエは人間じゃない。質の悪い人形だ。オマエには死んでもらう」


 七彩の副兵装を完全展開させて、アギトは突貫した。

 負けることは出来ないが、災厄をみすみす逃すことも出来ない。ならば、倒して勝つだけだろう。

 腰から狂刄鈴蟲を抜き放つと、トリガーを引き絞って撃ち込む。ラパニールの指を二本吹き飛ばして、斬撃の数を減らす。軽い身のこなしで、片足を軸にして回転斬りを続けて無数の斬撃を捌いていく。

 火花が眩くほどに視界を埋めて、棚引く白煙が七彩とラパニールを包みこむ。

 

 ラパニールの瞬速の斬撃を全て躱すことは不可能であり、アギトは致命傷となる攻撃だけを見極めて回避していた。七彩の人工皮膚は無数に切り裂かれ、内部の金属骨格を晒している。所々擬似骨格も損傷しているため、動きに支障が出始めている。

 それでもラパニールとアギトはほぼ互角に渡り合っていた。

 両者ともに極度の戦闘状態に疲弊の色を見せている。それでも攻撃に乱れがない。

 これほどまでの戦闘はもう二度と見ることが出来ない、そう思わせるほどの熾烈な戦い。災厄と最凶の鎬の削り合いは、人の域に収まったものではなかった。


「おっかしぃですねぇ。あなたの反応速度が、ワタクシを凌駕しているようです。実におかしな事態ですが、笑えませんね。こんなことがありえるわけないですよ」


 七彩の振動刃を生やした踵落としを捌くと、ラパニールは七彩の腹部を蹴り飛ばした。その衝撃にアギトは思考が白紙になって、地面に転がされた。手から離れた狂刄鈴蟲が、すぐ横の地面に突き刺さる。


「ケハッ、ゴホッケホケホ……。くそ、内部電源が破損したか」

「もしかしたら、あなたは臨界者となったのかもしれませんねぇ。これは教授にご報告したほうが、よろしいですね。あぁ、あなたにはワタクシに付いて来てもらいましょうか」


 ラパニールが倒れたままのアギトの傍に寄ってくる。

 アギトはどうにか身体を立ち上がらせ、凶刃鈴虫の柄に手を忍ばせる。

 ふいに視界の隅で影が揺らめいてたのが見えた。まるで亡者のようにゆらりと立ち上がる姿。


「抵抗は無駄だと分かりませんかぁ。彼女たちに花を咲かせましょうか? 真っ赤な一輪の華を──ゴフォッ」


 唐突にラパニールの左胸に刀身が生えた。ラパニールが苦しげに呻いて、背後のピグモを突き飛ばした。


「どうして、まだ動けているんですかぁッ。あなたは肉体が死んだはずじゃないですかぁ」


 動転しているラパニールに対し、多聞は「ざまーみろ、ピエロの化物。灰渕、助かったぜ」と呟いて、沈黙した。宿主を失くしたピグモが、たたらを踏んで地面に倒れ伏した。

 ラパニールは息苦しそうに胸を押さえて、片膝をついた。胸に作られた傷口は変形した手では塞ぎようがない。

 タキシードの下に着る白いシャツに赤い染みが拡がっていく。

 この男にも、肉体部分が確かにあったようだ。


「……なんでしょうか、これ。アハハハハ、ワタクシともあろうものが、被験体たちに負けるなど。仕方ないですね、どうですか? ワタクシと一緒に旅行に出かけませんかぁ」


 ラパニールが口にした被験体という言葉が気になったが、アギトはそれに構う暇がなかった。ラパニールの仮面が外れ、露にされた金属製の面貌。大口を開けた咽喉の奥から銃口が伸びていた。その照準は朝礼台の上に固まる少女たちに合わせられていた。

 アギトは狂刄鈴蟲を拾うと考える前に疾駆して、由佳里たちとラパニールの間に飛び込んだ。狂刄鈴蟲の刀身を盾に、七彩の後ろに彼女たちを隠す。


「自分を犠牲に少女を守るんですねぇ、あなたは。臨界者は騎士の大破が己の死と同義なんですよぉ。一〇〇%を超えたら、擬似脳に精神が定着してしまうんですよぉ」

「ッ!?」

「最も簡単な、人間らしい機械の造り方。精神を移し替えて定着させてしまえばいいんですよぉ。あぁ可哀想に、秘密を知ってしまったあなたもリスト入りですねぇ。アハハハ、瞬きほどの死をあげましょう」


 ラパニールの動作は緩慢で、その一つ一つを追うことは造作もなかった。

 至近距離から撃たれた銃弾を躱すことも、難しくはないだろう。弾道を予測して回避すればいいのだから。

 しかし、それをすれば後ろの由佳里たちに銃弾は直撃する。だから──


「ざまーみろ、ピエロの化け物。真っ赤な華は咲かないぞ」


 アギトは笑って、放たれた銃弾を受け止めた。

 狂刄鈴蟲の刀身を直撃した銃弾の勢いは治まらず、刀身を折って七彩の左胸から侵入すると擬似肋骨を砕いて進む。しかし、狂刄鈴蟲を抜かれた時点で上体を捻っていたアギトによって、その軌道が七彩の体内で屈折した。

 七彩の身体を貫通した銃弾は、由佳里たちの手前に着弾して地面を穿いた。

 少女の悲鳴が炸裂音の余韻に重なる。

 アギトは左手に握った狂刄鈴蟲を、不気味な笑みを浮かべるラパニールの顔面に投げ飛ばした。半分になった刀身が、ぐしゃりとラパニールの口に突き刺さる。


「アババババババァ……」


 くぐもった笑い声を気が済むまで続けたラパニールは、白目を剥いて仰向けに倒れた。そして、二度と動かなくなった。


「くそ、ホントに精神が定着したのか。ミツル、お前との約束は守り抜けそうにない」


 アギトもそれ以上立っていられず、糸が切れたように膝をついて倒れた。

 ジワジワと消えていく自分の存在。

 ノイズが生じる視界に、目元を赤くした少女が映る。


「ねぇ、美鶴なんでしょ? そこにいるのは美鶴だよね……。違うなんて言わないでよ」


 とめどなく流れる泪を拭うことを忘れて、由佳里が七彩を揺する。

 酔いそうだ、アギトは喋らずに耐えた。自分の存在の消滅などどうでもよくなっていた。視界の隅に映り込んだ人影に視線をちらりと視線を向けると、安堵する気持ちよりも怒りが込み上げた。

 由佳里の手が止まったところで、由佳里の頬を撫でて流した泪を拭ってやる。

 美鶴は罪づくりな奴だと思う。全くもって、彼女不幸者だ。


「悪いが、ボクは美鶴じゃナイ。美鶴だったラ、ソコにいる」


 アギトは校舎の方を指さした。

 由佳里はその指先を辿って、振り返った。

 そこには息を切らして、両膝に手をついて肩で息する少年がいた。


「ハァハァ、悪い。遅くなったッ」


 少年の悪態に、アギトは遅すぎだ、と呟いた。


 夏祭りの様子を書きたい今日この頃。

 あとは海水浴。

 騎士関係ない感じの話で、美鶴と由佳里の恋人シーンを書きたいです。


 ちなみに、美鶴が死なないで、アギトが消えるって物語の流れは、三章の初めのほうからありました。

 同調率が一〇〇%を超えたら、精神が定着する。そこから、ヨルムガンドの話に繋げていこう、って感じで。

 そのためにはアギトには一〇〇%に到達してもらいたくて、美鶴には死にかけてもらいました。

 分かりづらいかもですが、多聞が延命出来たのは灰渕が頑張ってます。死んでないです、灰渕。生きて延命措置を採ってます。きっと。

 ちなみに何故、学校が占拠されたかについても触れます。

 ガマガエルの登場です。

 最近、面白い日常を書いてない気がするんで、出来れば書きたい。と、思います。はい。

 

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