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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
来たるべき災厄への希望
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砕け散った心の行き先

 いっきにドバーと投稿しようとしたら、目がシバシバしました。

 はい。諦めて、少しずつの投稿です。

 とりあえず、次話はー多少めんどくさいことになりそうです。

 文字がいっぱい……はあたりまえで、会話というか、説明が沢山になりそうな。

 あれです。あれ。災厄のことについての話です。

 まぁ、それは置いていて。本文をどうぞ。

 ここまで永かったなーと思う今日。ここまで読んでくれた人に、とりあえず感謝。

 留置所から出ると早朝の冷気が肌を突き刺し、美鶴は首を竦めた。隣では由佳里が急いで手袋を嵌めていた。美鶴は防寒具が欲しいなと思いながら、白い息を吐いてそれを目で追った。

 正直に言ってしまえば、驚きだった。チークがあれほどまでに痩せていた、ということではなく、罵倒されなかったことにだ。かつて、美鶴がボレアースに叛旗を翻す形で施設を破壊し尽した。その過程で多くの命を奪った。そのことを怨んでいまいかと、不安であった。だが、チークの態度はそんなことを微塵も感じさせないものだった。

 肩透かしを喰らった美鶴は、不謹慎にも安堵していた。自分の居場所を否定されなくて良かったと思っていた。


「良かったね、美鶴。悠月さん、全然怒った様子じゃなかったし、いい人そうだったじゃん。結構美人だったしね。ふぁーねむ、それじゃあ美鶴。今日は学校もあるし、早く帰ろっか」


 由佳里が伸ばした右手を取ろうとした美鶴を制して、男の声が背後から響いた。


「君が美鶴君か。……まだまだ、若いな」


 脊髄反射で振り返ってみれば、はっとするほどの美青年がそこにいた。身につけた制服の襟に留まったピンバッチが警察関係者であることを美鶴に知らせた。


「もしかして、浅沼さんですか?」

「あぁ、そうだ。こうして人間の身体で逢うのは今回が初めてだったな」


 浅沼は美鶴を頭の先からつま先まで見ると、「若い」と再び声を発した。


「そりゃ、若いですよ。まだ俺は高校生ですから」

「そうだったな。いや、俺の中ではアギトという人間はもっと、大人の容姿かと勝手に想像してたんだ」


 突然アギトの名が浅沼の口から飛び出したことに、美鶴と由佳里は身を寄せ合い硬くした。美鶴は由佳里と触れ合っているにも関わらず、身体の芯が冷えるのを感じた。


「そう警戒しないでくれ。別に俺は君を逮捕しようとなど考えていない。もし考えていたとしても、現状では無理な話だ。どっかのヘビースモーカーが匿ってくれたおかげで、アギトが施設を破壊し大勢の仲間を手にかけたという事実はあっても、証拠がないんだ」

「そういうことだ。良かったなぁ~美鶴」


 別の方向から胴間声が聞こえた。こちらは見ずとも誰なのか分かった。


「津野田さんは知ってたんだよな。だったら、俺に事情を説明してくれたってよかったじゃん」

「悪りぃな、刑事にも守秘義務があんだよ。それと、おめぇに朗報だ。朴澤の方も、組合連合が保護することになってる。安心したか? おっと、これも秘密だったな」


 くっくっ、と不敵に笑う津野田に美鶴は嘆息した。浅沼もやれやれと首を振ると、最後に一つと言って口を開いた。


「──君は今、幸せか?」

「はい。俺は自分の罪を忘れたつもりはないですけど、それでも今の日常は本当に幸福な日々だと感じてます」


 ここで躊躇する様子を見せるのは駄目だと直感が伝え、美鶴は即答していた。実際、今の日常は幸福なものだと断言出来るものだった。


「そうか。手間をかけさせた、悪かったな。あぁ、それと美鶴君」

「なんですか?」

「君の目は死んじゃいないな。ちゃんと明日を見れる目をしてる。人の死を知っていたとしても、君は光を見ることが出来ている」


 そう言うと満足そうに頷いて、浅沼は踵を返した。道の角を折れ、隘路へとその姿が消えると津野田が美鶴に近づいてきた。相変わらず、その口に煙草を咥えていた。


「気分を悪くしたか、美鶴?」

「いいえ、別に不快感はないですよ」

「そうか。それならいいんだが。……あいつは今まで、自分を理解してくれる存在を欲していたんだ」


 あいつというのは浅沼のことだろう。美鶴は津野田が何を言おうとしているのか、首を傾げつつ待った。


「昔な、あいつが俺と同じ捜査課にいた頃の話だ。強盗事件が多発した時期があってな、あぁとあれだ。大崩壊後の混乱で生活必需品が不足していた頃だが、その事件の犯人を浅沼は追ってたんだ。……んで、あいつは丁度、犯行現場に遭遇しちまってな。やむなく、その場で撃っちまったんだ。んで、別の部署に左遷されてからも色々と後悔しちまってな、自分みたいな過去をもつ人間を求めてたんだ」


 一息つくように津野田が吐き出した白煙は、棚引いて消えていった。


「守秘義務があるんじゃないんですか」

「そうだ。だが、あいつの過去を知っといた方が、理解してもらいやすいだろ。アギトさん?」


 最初から浅沼の理解者になってもらいたいという魂胆だった、とでも意いたげな口調に美鶴は「解ったよ。解ったから」と二つ返事で答えた。

 それから時間がないということで、津野田と別れた美鶴と由佳里は口々に「学校に行きたくない」と言って道を急いだ。




 その後ろ姿を見送った津野田はその顔に暗いかげりを見せた。口から煙草を抜くと、空を見上げてその蒼をぼかすように煙を吐いた。


 事件には後味の悪いオチが続いた。

 浅沼がやむなく射殺してしまったのは、一八歳の少年二人。被害者は父、母、兄妹の一家四人でその内、父親が腹部を刺され重傷、あとの三人には怪我はなかった。ここまでは浅沼の刑事責任を含めた強盗事件として片付けられた。ここまではだ。

 被害者の四人は一旦、病院へと搬送されたが、搬送先の病院が騎士による襲撃を受けた。医師や患者を含め、一〇〇人近くが犠牲になった。現場はまさに死屍累々の惨状であった。その事件で唯一、一命を取り留めたのは強盗事件の被害者だった兄妹の妹で、兄の方はホトケの身元が特定出来ない状態が多く捜索は難航し、結局見つかることはなかった。

 ただ、その妹が茫然自失の状態で「兄さん、兄さん、何故、何故、何故」と呟いていたのが印象的だったのを津野田は覚えている。






「兄さん、兄さん、何故、何故、何故。──瑠衣るい兄さん、どうしてですか」







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