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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
来たるべき災厄への希望
33/66

梟と少年と亀

 はい。

 どーぞ。

「ねぇ、どうすんの? ウル


 倦怠感を募らせた少女の声が、闇で黒く塗り潰された廃墟に響く。同時に地響きが鳴り、半壊したビルのシルエットが崩れた。その周囲でドミノ倒しの如く、連なった建築物が倒壊していく。濛々もうもうと立ち昇る粉塵がさらに視界を奪う。


「ほんっと、最悪だって。うちは夜目が利かないんだって、マジでッ」

「だから、チークの専用騎士は暗視特化仕様なんだろ? 少なくとも、俺の方が断然、分が悪い」


 声変わりのしていない少年の声が答えた。月明かりの下に姿を晒した人影は、小柄な少年そのものであった。その隣りに鳥類のような翼を背中に生やした人影が並ぶ。


「にしても、いい趣味してるね……ウル。まさか、あんたがそんな騎士を使うとは思わなかったわー」

「うちに残った開発チームに任せたらこうなったんだ。俺の意思は一欠片も入っていない」


 不服そうな声を上げた少年は、月明かりを反射する金髪を持っていた。口元はマスクで覆われ、目元には黒く稲妻が描かれている。目を引くのは背中に生える武骨な金属棒、その先端には球体が付いていた。それら人間ではない証を除けば、かなり幼い顔造りの男の子でしかない。

 その隣りで少女の笑い声をたてるのは、まるで梟に近似した面貌の武装アンドロイドである。四肢とは別に、背中に金属板が連結したような光沢のある翼を生やしていた。


「へー、ほんとかなー。まぁ、それは置いといて……性能は向上されてるんでしょ?」

「あぁ、この見た目でもな。こいつは後継騎でもあるんだ、期待してくれてもいい。だが、禍眼カメとは少々、相性が悪いな」

「あれと相性がいい奴っている? 重力操作とかマジでチートじゃんッ」

「チートってなんだい?」

「へ? えーっと、とにかくセコいってことッ!! ほら、来るよッ」


 二体の騎士が跳躍して、二手に分かれる。転瞬、二体が寸前まで立っていた場所に巨大な影が落下。破砕音を伴って舗装路を砕き、一帯の廃墟を崩落させて瓦礫の山へと変える。影の大きさは、高さ六メートル、横一〇メートルほどはあるだろう。山のような形状をしていた。闇より濃いシルエットは音なくその場で旋回し、頭部らしき部位を梟似の騎士に向けた。


「うわッ、狙われた。最悪だー。お願いだから、自滅しちゃってよ」


 少女の悪態を掻き消すように、爆裂音が轟いた。山のようなシルエットに閃光が走る。翼をもった騎士は慌てて、地面を蹴ると滑空するように跳躍した。途端、その後方でアスファルトに覆われた地面が深く抉られた。


「ったく、こっちから攻撃が当たらないのに、向こうは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に遠距離攻撃って……卑怯だッ」

「にしても、このままじゃ埒が明かない。奴を囲むように出来ている重力場をどう攻略するか。チーク、しばらく掩護えんごしろ」

「仕方ないなー。ここにうちとメディアンがいなかったらどうするつもりだったんだか」


 チークは同調する騎士──メディアンの背中に装着された翼、《ツァディ・バインダー》の片翼の末端部を分離パージした。本体から離れた翼の一部は二つに割れ、瞬時に転変して二本の太刀と化す。それをチークは両手に握った。


「便利なもんだな。翼自体が主兵装になってるのか」


 少年のなりの騎士と同調した、ウルが驚嘆の声を上げた。


「展開すれば簡易的な盾にもなるんだよ。まぁ、全部で十八枚しかないし、分離するほどに守備範囲が狭くなるけどさ」


 チークは両手の太刀を構えて、廃墟が見下ろす広い通りの奥に鎮座するシルエットを見据えた。月光が照らし出したその姿は、陸棲種のカメのようであった。複数の金属パネルを繋ぎ合わせたような背甲はいこうが大きなドーム上に盛り上がっている。甲羅から伸びる頭部はこちらを凝視するように微動だにしない。鋭いくちばしをもった顎、口端からは白煙が棚引いている。咽喉に装備された砲身が放熱しているのだろう。あれが、チークの追っていた機械兵、禍眼だ。

 ここまでの戦闘で、ウルとチークが攻撃を当てることは出来ていない。僅かに掠らせることも皆無だ。禍眼に刀身が届く前に、見えない壁のようなものに弾かれるか、地面に叩きつけられてしまった。それらは全て、禍眼の重力操作能力によるものらしい。そして、禍眼自身、自らの重力を小さくすることで俊敏な動きを体現していた。


「奴の重力場フィールドがどのような性質を持っているか、見極めさせてもらう」


 ウルが地面に膝をついて、左腕を前に突き出した。


「そういえばさ、鳴鳴かさなりの機能って、神鳴かみなりのものを引き継いでるんだよね」

「あぁ。まぁ、見ていろ」


 ウルとチークの目の前で、鳴鳴の左腕が展開を開始する。渦を描くように、糸が解れるようにして騎士の腕が展開して変形していく。その過程は造形美とでも呼べるかもしれない。

 チークは完成した鳴鳴の兵装を見て、言葉を失った。明らかに左腕だけの容積では造形不可であろうレールガンモジュールが、その照準を禍眼に向けて顕現していた。


「レールガン?」

「あぁ、美鶴クンの銀狼からヒントをもらったものだ。彼の場合、これが最終兵装だったが、俺の場合はこれが主兵装だ。性能面は折紙付きだ」


 ウルは右手で左腕を支えて、狙いを禍眼に定めた。レールガンに連結した弾倉から弾丸が装填そうてんされる。鳴鳴の背中に伸びる金属棒の間を、紫電が行き交い始める。数十秒ほどの間をおいて、ウルは狙いを定めて射出した。

 紫電の線が空間を切り裂く。瞬く間もなく、禍眼を巻き込んで爆煙が上り、大地が鳴動した。


「すっご。もしかして、あっさり終了?」

「いや、奴の目の前で弾道が曲げられた。次だ」


 ウルが再び弾丸を装填して、禍眼に再照準する。今度は禍眼を狙うのではなく、その僅かに上。本来であれば掠りはしないだろう場所に狙いを定めた。

 視界の先で、薄れた白煙より巨大な亀が何事もなかったように現れる。粉砕して地割れを起こした舗装路とは対照的な無傷の装甲。まるで歯が立たない。


「どうやってあれを止めればいいんだか。まったく、あれを造った人が責任もって処理してよ」

「もう死んでいる人に言ったって無駄だぞ」

「分かってるって」


 チークは憮然とした態度で返事を返した。


「こいつでラストだ」


 鳴鳴の背中で、金属棒が再度電流を纏い始める。そして、闇夜に電光が走った。




「あーらら……駄目じゃん」

 間をあけて、少女の落胆の声が闇夜に響いた。

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