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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
来たるべき災厄への希望
27/66

少女と少年と冬の蟷螂

 一ヶ月経ってないですね。とりあえず、続きを書いてしまいました。

 色々と設定を細かくもざっぱに決めました。

 とりあえず、この物語のキャラで夏祭りの出来事的なモノを書きたくなったので、頑張ります。ちなみにこの物語では季節は冬です。

 夏は遠いーなぁ。


 ※嘘と獣は手が進まないので、結構放置になっているんですがスミマセン。(たまに覗いてくれる人に言いました)

 

 つたない文章ですが、すみません。はい。

 誤字脱字は目を瞑ってスルーで。

 薄暗い通路が延々と続いていた。

 カビ臭い、濁ったような空気が漂う。淀んだ空気は器官に絡まり、息苦しさを感じさせる。

 天井を這うダクトを辿るように、一人分の人影が早足に進んでいた。人影が足を動かすたびにカツン、カツン、と硬質な音が響いた。

 人影が止まったのは通路の途中に存在した非常口の前。深緑の照明が周囲を気味悪く照らしていた。人影は暫し逡巡しゅんじゅんする素振りを見せ、扉を開け放った。同時に通路に風が吹き込み、淀んだ空気を彼方へ運ぶ。光が入り込み、人影を白日の下に晒した。


『うっわ、まッぶし……』


 発せられたのは少年のような明るい声。声を発した人物は、一目でその性別が女だと知れた。エアリーカールの明るい茶髪は肩までかかり、吹き抜ける風に揺れている。どこか育ちのよいお嬢様のようであった。見た目から判断すれば、彼女はまだ学生を続けているような少女でもあった。

 しかし不可解であるのは、彼女の服装であろう。

 はためく裾の長い黒のローブを纏い、その下にはタイトなブレスト。肩と腹部が剥き出しにされた格好は、異性であれば赤面して直視出来ないほどであった。およそ、この時代には彼女と同じ格好の同性はいないのではと思われる。

 少女はそのことに気を止める様子もなく、吹き抜ける風の冷たさに身を震わすことなく、非常口の先に続いた階段に足をかけた。彼女が履くのは、漆黒のブーツ。再びカツン、カツン、と硬質な音を鳴らして少女は下り始める。

 階段の途中、未だ眼下には小さな景色が広がる高さで、少女の身体から音楽が流れ出した。オルゴールの音のような、静かであって優美なメロディーであった。

 少女がローブの裾に手を伸ばし、取り出したのは白に塗装されたスマートフォン。おもむろに耳に当てて、少女は口を開いた。


「もしもーし、何の用? ん? うちが今どこにいるのかって? ご想像にお任せします。ってうっさいよッ。耳元で大声出さないでよ、ウル・・。──じゃぁね」


 少女は電話を切り、乱暴に携帯をしまった。そして今更ながらに気付いたように身震いした。「もう冬じゃん。さっむ」と独り言ちて、歩みを再開させる。


「さてと、うちもさっさと仕事を終わらせないとだね。エリア2かぁ、アギトに会えるかなー」


 少女は、ふと眼下を見下ろして言った。あぁ、アギトの名を持っていた者は確か……。

 少女は微笑を浮かべた。遠くに見える隔離壁を見て、思いを馳せた。

 高層ビルの非常階段で、少女は一人、くだっていく。その後ろ姿を見たものは、疑問に首を傾けただろうか。少女の首には、例えるならば首輪のような金属物が張り付いていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「くはぁ、はぁ……。はぁ、はぁ……はぁ。ふぁ、くふぁッ。はぁ……はぁ……」


 激しい運動の後のような、荒い呼吸音が響く。瓦礫を踏みつける不愉快な音がそれに伴った。走り続ける人は年端も行かぬ少年だった。額に流す汗を飛ばし、必死に肺に酸素を供給しようと空気を吸い込む。

 少年は生きることに必死であった。何故、どうしてこうなったのか。後悔が募り、自然と目頭が熱くなる。母の顔や父の顔、妹の顔が代わる代わる浮かぶ。

 少年の名は、榎原稔えのはら みのるといった。

 稔はたった一人、外部居住区の廃墟を疾走していた。たった一人。この場所にいるのは自分一人である状況は、一言に最悪の事態であった。助けが望める余地は限りなくゼロであろう。

 稔の背後、ほんの二〇メートル後方で白煙が上がった。コンクリ片を巻き上げ、粉塵が盛大に立ち昇る。間を開けずに、その煙の中から飛び出してきたのは錆びた金属物。まるで意思をもっているような、生き物めいた動きで迫ってくる。狼のような鋭さをもつ見た目。しかし、酷く金属質な躯体である。


──完全自立型兵器(プレデター)だ。まさか、こんなところにいるなんて。


 稔は悪態をついて、脇目もふらずに走った。意味もなく先を急いだ。どうにかプレデターを撒ければいい。少年は吹き曝しにされた住宅の瓦礫を通り抜け、ひび割れた舗装路の路を走った。

 稔が現在の事態に陥った理由は、ほんの数時間前に遡る。稔の両親が隔離壁の内側への移住を決意したことに起因する。

 首都圏(エリア2)近畿圏(エリア4)の両総裁が同意した結果、残った二つのエリアの企業総裁も続いて同意を表明。日本完全解放に向けて領内のプレデター掃討に先駆け、各エリアにおいて外部居住区(デッドゾーン)の人々の受け入れが開始された。掃討作戦で想定される戦闘における人的被害を最小限に抑えるために、各エリアへの移住、エリア周辺での安全圏の形成が急がれていた。

 しかし、それに対する外部圏の人々の反応は賛否に割れた。

 それは仕方のないことであっただろう。これまでまともな救援策がなかったのだ、疑心暗鬼になり、素直にその決定を呑み込む人間は少ないだろう。稔もまた同様だった。

 両親が決定したにもかかわらず、その意思に反発し、単身で外部居住区の奥へと出奔した。嫌だったのではない、恐かったのだ。本当に圏内の人間が自分たちを受け入れてくれるのか、信じることが出来なかったのだ。だから、気付けば逃げていた。頭の片隅でかすかに、両親が呼び止めようとして上げた怒声が余韻として残っていた。あの時、足を止めていれば。そう悔やむも時既に遅く、プレデターに追い立てられている。


「かはぁッ……はぁ。はぁ、はぁ……」


 目に付いた崩れかけのビル、五階建てであったろうソレは既に四階分の高さしかない。その入り口部分は崩れ落ちた壁で大半が塞がり、人一人分、それも子供が何とかくぐれるほどの広さしか穴が開いていなかった。

 稔は藁にも縋る思いで走った。すぐ背後に迫る気配を背中で感じ、恐怖で早鐘をうつ鼓動が耳元で聞こえるようであった。

 無事に辿り着けた半壊したビルを前に稔は四つん這いになり、小さな穴を潜った。通り抜けると同時に背後で瓦礫が軋み、砂埃が舞う。プレデターが崩れた壁の、厚さ数一〇センチのコンクリの向こうで、悔しげに引っかきまわす騒然たる音が続いた。

 どうにか間に合った。稔はほっと胸を撫で下ろし、乱れた呼吸を整えようと深呼吸をした。

 次第に落ち着きを取り戻した稔は、これからどうするべきか辺りを見渡した。


「ここも酷い。みんな壊されてる……」


 稔の眸に映ったのは、脚の折れた椅子や二つに割れた作業台らしき机。切削された壁は壁紙が無惨に引き裂かれ、所々に亀裂が走っていた。天井の一部が落下して、床に散乱していた。

 他にも黄ばんだ書類が束で転がり、ページがバラけた書籍が散見される。

 外部居住区では日常的な光景であった。プレデターが行ったのは、無差別な破壊活動であった。何故、大崩壊が起こることになったのだったか。その話を昔、父親に聞いた記憶があったが忘れてしまった。それよりも今は現状を打開しなければならない。いつまでもここに篭城するわけにもいかない。第一、稔には食料がなかった。


「どうすればいいのかな。帰りたいよ……。父さん、母さん。由愛ゆめ……」


 稔は妹である由愛の屈託のない笑顔を思い返し、胸が痛くなった。もっと兄らしいことをしておけばよかったと、心苦しく思った。

 ふと気付いた。


──音が止んでいる?


 あの狼のようなプレデターは諦めてくれたのだろうか。機械にも諦めという思考は備わっているのだろうか。そうであってほしいと稔は強く願った。

 が。やはり相手は機械であった。融通の利かない、機械仕掛けの破壊者であった。

 ドンッ、という衝撃がビル全体に走り、稔の頭上から砂埃が降りかかり、新たに床に落下した天井が増えた。白濁する視界に、入り口とは別の方角から眩い光が差し込んでいた。


「壁に穴を開ける気だッ」


 稔は血の気が失せ、蒼白する顔でうろたえた。このままでは本当にまずい。自分は死ぬかもしれないという恐怖に、足の震えが止まらなくなる。二たび走る衝撃にたたらを踏み、意を決して稔は入り口の隙間から飛び出して、太陽の下に影を濃くした。

 ドンッ、三度目の衝撃がビル全体を振動させ、コンクリが砕ける破砕音が鳴り響いた。ビルの入り口から白煙が噴出し、ビルが一階部分の壁を残して倒壊する。あのまま居たら死んでいただろう。逃げ出しておいて正解だった。しかし、現状は未だ最悪である。死を先延ばしにしただけであった。


「誰かッ、誰かッ。助けてッ」


 助けは望めないだろうと分かっていながらも、助けを求めてしまうのが人間の弱さか。

 稔はひび割れたアスファルトに足をとられた。体勢を崩して、両手をついて転んだ。擦り剥いたてのひらが熱を発し、血が線状に滲む。しかし痛みを気にしている場合ではなかった。

 稔のすぐ背後で重量ある物質が跳躍して、地面を揺らした。ドスンッ、と重い落下音を響かせ、プレデターが稔の目と鼻の先に着地した。

 終わった、短い人生だった。良いことない、誇れることのない人生だった。稔は自分自身の一三年という人生の終わりを確信した。目の前でプレデターが今にも跳びかかろうと身構える。


「ごめんなさい……」


 稔の呟きを掻き消すように、プレデターが地面を削って跳んだ。稔は両目を固く閉じ、最期を待った。



『ギィィィィィィィィィンンッ!!』



 凄まじい金属音が絶叫して、空気を震わした。稔はたまらず両耳を塞ぎ、目を開いた。跳びかかって来たプレデターが、宙で躯体を二つに裁断され、あらぬ方向へと吹き飛ばされるのが眸に映った。何が起こったのか、判断がつかなかった。慌てて周囲を見渡した稔は悲鳴を上げそうになった。

 数メートル離れた全壊した住宅の屋根の上に浮かび上がる機影。その右腕部分が巨大な鎌の形状を採っている。遠目から見て、それはまるで蟷螂のような姿であった。戦闘用アンドロイド、騎士。

 遠くでプレデターが地面に激突した衝撃が此処まで伝わった。稔は心を蝕み始めた恐怖から、再び逃走しようとした。腰が抜けたのか、足に力が入らずアスファルトの上でもがくことしか出来なかった。

 そうこうする間に、騎士が跳躍して稔の目の前に着地する。

 近くで見た騎士は、遠目で見たとおり、蟷螂を連想させた。逆関節の二本の脚部を持ち、白が基調の躯体に、ライトグリーンの塗装が線を描いていた。右腕の鎌がまるで死神の大鎌のように見えてしまう。言い難い恐怖を植えつける得物であった。

 稔は自分自身の身を案じた。騎士は人間が操っているものだ。プレデターであれば、ただ『殺す』という動作を実行するのみであろうが、騎士の場合は人間の意志が加えられるのだ。その動作にも『いたぶる』など、多様な過程が加わる可能性があった。稔にとって騎士の存在は、プレデターと同義であった。殺戮者、破壊者。

 企業が労働力の蒐集にランカーを用いた結果、外部居住区の人間は騎士に対しても恐怖と憎しみを募らせていた。


「殺さないでください……」


 懇願するように稔は言い、額をアスファルトに擦り付けるように土下座した。騎士を人間が操っているのなら、もしかすれば自分の言葉を聞き分けてくれるのではと思っての行動だった。


『えーっと……。いや、殺す気ないけど』


 騎士から発せられたのは、少し高めの少年の声だった。どうも困惑しているようだった。思いついたように右腕の刃を収納して、再び声が発せられた。


『お前の名前は?』

「僕の……名前は、榎原、稔です……」

『えのはら、みのる……ね。よっし、見つけたなッ』


 見つけた、という言葉に稔は過剰に反応してビクッと身体を痙攣させた。身を守るように縮こまり、自分の肩を抱いて騎士を見上げた。


『何で怯えんのッ!? 俺、何かしたか?──ってうるせぇよ由佳里ッ!! 頭にガンガン響いてるからッ』


 挙動不審に、目の前の蟷螂に似た騎士が左手で頭を押さえる仕草をした。暫し苦悶した様子を見せた後、再び騎士から声が発せられた。今度は耳に心地よい女の子の声であった。


『あーあー。聞こえてますかー』

『うるさいから由佳里』


 どうも少年の声と少女の声は別の場所から発せられているようだった。少年の声が頭部辺りから聞こえ、少女の声は腹部辺りから聞こえた。


『これぐらい耐えなよ美鶴。……んで君が稔君だね。君のお父さんとお母さんと、妹さんが依頼してきたんだよ。君を捜索して欲しいってね。だから安心してよ。私達は怪しい人間、君に危害を加えるような人じゃないから』


 少女の言葉に稔は安堵した。彼らを信じる理由が出来たことに、安堵していた。心のどこかでは、助けてもらいたいと願っていたのだ。その気持ちを素直に受け入れる理由を探していたのだ。


「良かった……。本当にありがとうございます」


 稔はよろめきながらも立ち上がり、感謝を口にした。

 ランカーの中にも、心優しき者はいるのだろうと、考えを改めた瞬間でもあった。こんな辺鄙へんぴな場所まで捜索しに来てくれたのだ。いくら依頼と言っても、どれほどの労力があったのだろうか、稔は申し訳なく思った。

 これからは親孝行、由愛に何かしてあげようと決心した。


『んじゃ、戻ろっか。ほら美鶴、急がないと日が暮れちゃうよ』

『了解。んじゃ、どうする? 鎌錐で抱えて運ぶか?』

『君は馬鹿なのッ?!』

『うっせーよッ!! 夕飯作ってやんねぇーぞ』

『奪わないで、私のポトフとポテトサラダと──』

『ポトフだけだろッ』


 ぐぅぅぅぅぅぅぅ、っと腹の音が響いた。稔は赤面してお腹を抱えるようにした。外部居住区では、人権団体が週に一度ほどに配布する食料以外に食べ物がなかった。まして、この一帯はかつて都市であったために、農作が難航していた。最近まともな食事をしていなかった稔は、常に空腹であった。


『美鶴~、稔君もお腹が空いてるんだって。彼の分も作ってあげなきゃ。これはもう、ポテトサラダとドリアと──』

『ポトフだけな。んじゃ、稔君だっけか、どうする? 歩いて戻るか、騎士に運ばれたいか』


 早く会いたい。家族に会いたい。その思いが強く、稔の胸を焦がした。


「すぐに家族に会いたいです。出来れば、運んでもらいたいです」

『了解』

『途中で落っことしちゃ駄目だからね』

『しないからなッ。恐いこと言うなよ。稔君が怯えるだろッ』


 稔は、伸ばされた騎士の左腕に抱きかかえられるようにされた。意外にも安定した。


『うんじゃ、行くぞッ』


 蟷螂に似た騎士が姿勢を屈んで、踏み込んだ。ふいに稔の全身にかかるG。景色が高速で後方に流されていく。

 騎士に運ばれる行為を例えるならば、そう。ジャットコースターであった。

 騎士が飛び去った後に、声変わりがすんでいない少年の悲鳴が残された。

 うーん。

 これっから物語をどうしようか……。

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