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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
廃墟で人は神になった
21/66

生まれ変わった破壊者

 隔離壁に近づくほどに周囲に黒煙が立ち込め始める。人々の悲鳴が痛々しい。前方から絶え間なく、人々がエリア2の中央に向かって逃げていく。

 外周区に存在した住宅地は火の手が上がり、燻っている様相だった。まさに阿鼻叫喚の図であろう。崩れた石塀や倒れた電柱を飛び越えて、二体の騎士は先を急いだ。


「美鶴君、どうするつもりだい。得た情報だと、先遣したランカーのどれもがゲートまでたどり着けてないらしい。行く手を阻む騎士がいるって話だったね」

「神鳴ですね。俺に打開策があります。ただし、小埜崎さんには少し無理してもらうかもしれないです」

「じゃんじゃん頼ってよ」

『そうですよ先輩。うちらは先輩のファン何ですよ。例え火の中、水の中、宇宙にだってついていく所存ですよ。先輩に添い寝だって出来ます』

「最後のは何だ。添い寝は火、水、宇宙!? に並ぶほど大変なものか?」


 美鶴はとんでもないことを言い出す後輩に苦笑いした。こんな状況でも瑠璃は相変わらずだった。


『いや、先輩が心を許すなら簡単になります。でも先輩を攻略するのは難易度が高いですね。レベル百ですよ。──ちなみに最高レベルは一万です』

「たっかッ。俺どんだけ簡単だよ。百で考えたらレベル1じゃねーかッ。高く持ち上げて、叩き落とすなよ」


 スピーカーから少女の笑い声が上がった。


『にしても、先輩が蛇の一人だったなんて。どおりでうちのセンサーが反応したわけですね』


 どんなセンサーだよ、美鶴は苦笑した。にしても蛇であったと聴いて、この後輩には畏怖する感情が芽生えていないのだろうか。それが少し拍子抜けでもあった。


『一つ聴きたいんですけど。当時の先輩ってランカー序列いくつだったんですか?』


──やっぱ、気になるのか。はぁ、言っていいもんかね。

「当時の俺は序列四八番だったはずだ」

『四八ッ!? 小埜崎さんでも一五七番ですよッ』


 なんと小埜崎は一〇〇番台のランカーだったのか。その事実に美鶴は驚愕した。相当の騎士の使い手だ。どうやって瑠璃はそのサポーターに抜擢されたのだろうか。


「ほら瑠璃。仕事する、仕事。美鶴君も気を引き締めて」

『「了解です」』


 そうこうするうちに視界にカーソルが表示される。敵だ。美鶴の目の前に蛇型プレデターが鎌首をもたげていた。


「美鶴君ッ、こっから先はプレデターもわんさか徘徊してるよ。常に周囲に気を配って」


 小埜崎が美鶴から離れ、二方向よりプレデターを挟撃する。小埜崎の騎士、龍王が腰の鞘より太刀を抜き去り、二刀流の構えを採る。美鶴は銀狼の剣を突き出して猛進した。龍王の一振りが蜷局とぐろを巻いた体躯を切断し、銀狼の突きが頭部を穿うがいた。

 蛇型プレデターは抵抗なく、その場に崩れた。


──何かがおかしい。

 美鶴は違和感を覚えた。しかしこの場において、その疑問の正体は分からなかった。


「容易いもんだね。騎士の機動性の方が断然勝ってるんだ。いくらプレデターが複雑なプログラムを組まれていようが、簡単に凌駕出来るよ」


 小埜崎が足元で沈黙をする蛇型プレデターを太刀の切っ先で小突いた。


「それでも数がいると厄介ですよ。早くゲートを封鎖しないとまずいですね」


 美鶴は視界に現れた複数のカーソルの対象を視認して悪態をついた。大きさがまばら、モデルタイプの異なるプレデターがいた。その数は一二体に及ぶ。向こうは既にこちらを敵として認識しているようだった。犬型が機械であるにもかかわらず唸り声を上げ、先陣を切ってくる。


「仕方ない、プレデターの群れを突っ切っていこうか。瑠璃、最短ルートを割り出して」

『了解ですッ』

「それじゃあ美鶴君。とりあえず、目の前にいる奴らは一掃しよう。これ以上、侵攻を許す訳にはいかないからね」

「分かりました」


 美鶴は跳躍して小埜崎よりも前に飛び出し、まず一体。果敢に迫ってきた犬型の胴体に銀狼の右手長剣を衝き立てた。その状態のまま前方に右腕を振る。百キロ近くはあるだろう躯体くたいを投げ飛ばした。後方で様子を伺っていたプレデターのうち、二体を巻き込んで石塀に激突して粉塵を上げる。この時点でカーソルの表示が六箇所に減る。いつの間にか、美鶴を追い越した龍王が両手の刀で複数のプレデターの頭部を切り落としていた。その足元に転がる残骸は既に沈黙している。


「残り、六ッ」

『小埜崎さんッ、住民がいます。近くに三人、逃げ遅れた人がいます』


 切迫した様子で瑠璃からの通信が入った。龍王の外部スピーカーより瑠璃の声が響く。


「美鶴君、まだ非難出来てない人がいる。あたしが救助に向かうから、残りは任せていい?」

「いいですよ。こいつらは任せてくださいッ」


 美鶴は小埜崎と入れ違うようにプレデターに接近した。横目で龍王が黒煙の奥に消えるのを確認する。

 美鶴は上半身を捻り、両腕を斜め左下に向かって振り抜いた。長剣が捉えた犬型プレデターを切断せず、破砕する。

 銀狼の主兵装の両腕の剣は、切れ味に優れていない。ほとんど刃は潰された形になっている。元来、銀狼は斬るではなく、穿つことを目的に造られた。


 そのコンセプトは『立ち塞がる障壁を突き破り、突破する』こと。


 美鶴は両腕を前に突き出し、同時に二体のプレデターを串刺しにした。人型の機械兵がその胸を貫かれて痙攣する。美鶴は両腕を左右に振って剣を引き抜いた。そして、瞬時に後ろ向きに跳んだ。さきほどまで銀狼がいた路面に弾痕が複数生まれる。残った人型一体、蛇型二体からの集中砲火だった。ドラム式弾倉の自動小銃が火を噴く。


──やっぱり、おかしい。こいつらは……最近造られた兵器だ。

 美鶴はここにきて、先ほど感じた疑問の正体を知った。思えば当然の疑問だった。

 プレデターは一〇年近くも昔に造られたシロモノだ。弾薬などとうの昔に使い果たしているだろう。それに破壊した奴らはどれも、見た目は汚れているが、中身はやけに真新しかった。

 外側はそのままに、中身だけが入れ替えられていた。


「つまり、ボレアースに協力する莫迦な企業がいるわけだ」


 どうしようもなく救われない世界だ。今回の事件を起こすために、再び大崩壊を起こすつもりなのか。美鶴は高々と飛び上がり、三角形に展開するプレデターの間に着地。すかさずその場で右回りに回転し、敵を薙ぎ払った。左からの衝撃にフレームが歪み、擦過音を上げて吹き飛ぶプレデター。路面を転がってその表面を削り、線を描いた。それで機能を停止させない機械兵は、軋む躯体を動かしてこちらに照準を合わせようとした。



「無意味だよ」



 屈折した銃身で銃弾が爆ぜる。美鶴の周囲で三体のプレデターは、銃が暴発して自滅した。爆発で原型を失った残骸が散らばる。周囲を硝煙が包み、視界が霞んだ。


「さて、小埜崎さんに合流しよう」


 美鶴は小埜崎が消えていった方角に向かって、銀狼を急がせた。

 幸い小埜崎の騎士である龍王の姿はすぐに発見した。ちょうど住民の避難に一段落がついたらしく、手を振って離れていく子供達を見送っていた。


「あの子達の命は奪わせないよ」


 小埜崎の声には静かな焔が燃え上がっていた。それは怒りであった。


「急ぎましょう。小埜崎さん」

「そうだね、美鶴君。最優先は、これ以上の侵入を防ぐことだね」

『第一門扉方式通路への最短ルートは、そのまま正面に見える隔離壁へ向かったほうがいいですね。情報だと、ゲートを中心に半径2百メートル地点で多くの騎士が破壊されてます。ゲートが見えたら、細心の注意をお願いします』

「「了解ッ」」




「そろそろ、別のランカーが来る頃か。オステオの方の首尾はどうなったもんか」

「くそッ、化モンがッ──」


 グシャッ、金髪の男が片足で、悪態をついていた騎士の頭部を踏み潰した。その周囲には既に騎士の残骸が折り重なっている。数は五〇近くになるだろうか。四肢を失ったものや、腹部に穴が開いたもの。焦げ付いたものなど、さまざまであるが、不可解なことに破損していない騎士でさえたおれていた。

 男からは常にジジッ、ジジッ、という雑音が響いている。男の背後からは絶え間なく、完全自律型兵器が圏内に侵入を続けていた。この時点で、二〇〇近くが侵入していた。


「エリア1の企業さんらは、えらく気前が良かったな。前払い金とプレデター五〇〇機を用意してくれるなんてな。まぁ、彼らとしてはプレデターの危険性を再認識させるための必要悪らしいが、こいつは既に極悪行為だ」


 五〇〇機のプレデターが侵入完了すれば、首都圏(エリア2)は文字通り消えるだろう。プレデターの装備は最新式に一新されていた。機動性に劣っても、数がいれば敵はいない。立ち塞がるものを鉛の雨が洗い流すのだろう。


「タイムミリットは近づいているぞ。どうするエリア2の諸君」

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