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イロナキシ-Discolored death-  作者: あきの梅雨
廃墟で人は神になった
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涙と血と寂れた街並み

 考えを改める気はないのか。


 明らかに危険な行動だ、やめておけ。数日間、そんな台詞が繰り返された。

 休日の昼過ぎ、ニュースでは連日のように脅迫文に対する両総裁の対応を取り扱っていた。

 エリア2の企業政府は、厳戒態勢をとり、会談に臨むことを表明。反対する組織にはクロヅカ直々に実力行使に出るとした。会談はあさってに、クロヅカの本社ビルで行われることとなっている。多くのランカーがその護衛任務のために雇われた。さすがに6千番台のランカーなどには声はかからなかった。

 ただし、そんな緊迫する情勢とは別の理由で、美鶴達の日常も切迫した様子を見せていた。


「今回の依頼はちとまずいかもしれん。前払い金が既に払い込まれ、指定地は外部居住区だ。依頼内容はそこにいる騎士との戦闘」


 文造は危険な匂いがすると警告し、依頼の破棄を迫ってきた。

 普段であれば文蔵もここまで頑なに、否定をしてこないのだが。いや、否定は当然か。


「死亡フラグが立ったか?」

「あぁ立ったぞ。消されるパターンだ。どこの馬の骨か知らんが、おぬしを危険と見なした人間が抹消しようと考えてる可能性がある」

「六千番台のランカーを消すとかどんだけ小心者だよ」


 美鶴は笑った。表面上に取り繕った笑いだ。どうも文造の目は誤魔化せなかったようだ。


「茶化すな、美鶴。おぬしは先日、奴らの一人と遭遇したのだろ? 組合側でもその行方を追っているが、未だ手掛かりは見つかっておらん。現状では無闇な行動は慎んだ方がよいぞ。万が一、奴らの手の者ならばどんな手を使うか分からん。ただでさえ会談の脅迫騒ぎで、危険が高まっとるんだ」

「あぁ、分かった」

「それじゃあ、依頼は破棄するんでいいな──」

「オヤっさんは由佳里を守ってくれ。由佳里、俺を転送してくれ」

「──なッ、正気か!? 美鶴ッ」


 文造は立ち上がり、肩を震わせた。口角泡を飛ばし、拳を作る。それに対して美鶴は真っ向から向き直った。


「正気だ。ちょっとばかし俺の罪を清算するだけだ」


 美鶴は踵を返して、転送装置の中に乗り込む。心配そうな由佳里が覗き込んできた。


「本当にいいの?」


 由佳里が問いただした。それに対して美鶴は首を縦に振った。

 ウルが贈り物だといったものがこの依頼であるならば、その決闘の相手が創世の蛇(ボレアース)のメンバーである可能性が高い。


「あぁ、頼む。万が一、蛇が出てくるなら滅多にない機会だ。すぐに終わらせて、ここに戻ってくるさ」

「……やはりおぬしは阿呆だ。ちッ、由佳里もお前さんの身体も任せておけ。出来うる限りの努力はしとこう」


 文造が部屋を出て行き、隣りのドアが開けられる音が聞こえた。


「じゃ、精神転送を開始するよ。負けないでね」

「あぁ、期待しとけ」


 美鶴はバイザーをかけ、座席に後頭部を密着させた。ゆっくり深呼吸をする。


「同調開始、認証完了、精神転送トランス開始ッ。三、二、一」


──必ず勝って、守ってみせるさ。

「──零ッ」


 開けた視界に飛び込む部屋の様子。鎌錐の身長のおかげで幾分目線が高くなる。

 見上げるようにしている由佳里が手を振った。


「行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってきます」


 美鶴は玄関へと向かい外へ出た。当然のように転送時には気温を感じられない。視覚。聴覚や多少の痛覚はあるも、外熱を感じることは出来ない。それでもこの身体を本当の肉体のように感じてしまう錯覚。アンドロイド技術に今更ながらに驚嘆する。

 昼過ぎの陽気な気候だ。


「気張ってけッ、美鶴!!」


 不意を突く声に左を向けば、一体のロボットが凝然と立っていた。身長ニメートルはあるだろう。遠隔操作して動かすアンドロイドだ。無骨なロボットの陰から文造が顔を覗かせていた。その手には携帯ゲーム機が握られていた。昔、人気を博したシロモノだ。その画面にはロボットが見ている映像が表示されているだろう。

 文蔵が自身の手で作り上げたロボットだ。騎士の整備士としての活動を行う傍ら、そうしたアンドロイドの開発もしている。美鶴の目の前にあるアンドロイドは文蔵と誠が共同制作したものだった。


──名前はなんだったけな。

「遠隔操作型ロボット、アレキサンダーを出してやったぞ。騎士には到底及ばぬが、無いよりはましだろ。さっさと終わらせて戻ってこい」


 文蔵がエールを送り、美鶴は鎌錐の左手親指を立てた。

 アパートの二階から飛び降りると、上から声が飛んできた。


「今晩はキムチ鍋にしよッ!! 依頼を終わらせて、買出しに行くからね!!」


 由佳里が大きく手を振りかざしていた。

 由佳里の意見に文蔵も賛成するようにガッツポーズをとる。

 買出しといっても、ほとんどこっちは荷物持ちにされんだよ。でも久しぶりに鍋か、いいな。

 美鶴は外部居住区を目指して、跳躍した。



 外部居住区と隔離壁の中を繋ぐ非認可通路には様々なものがあるが、代表的なものは地下通路だろう。

 ただし、居住区に巡らされた下水道設備には、暗視補正カメラが設置され、騎士や違法入国者を監視している。実際、過去に何度も逮捕者が出ている。どれもこれも監視カメラに見つかり、警備の人間に捕まったためだ。

 ただし、完璧なものは存在しない。蜘蛛の巣のように巡らされた下水道の全範囲をカバー出来ることはない。必ず穴が存在している。

 その場所さえ把握出来れば、監視カメラに捉えられずに外にでも、中にでも自由に通行できる。それ相応の時間や手間がかかり、億劫ではあるのだが。


「やっと出たな。さてと場所はどこだったかな」

『現在地から北に一キロ地点だよ』


 由佳里の声が頭に響いた。

 それに従い美鶴は鎌錐を跳躍させる。鎌錐の逆間接脚はとりわけ機動性に優れている。軽く五〇メートルは一度に跳ぶことが可能だ。

 半壊したビルの間を抜けていく。大崩壊によって朽ちた都市の風景は、殺風景な灰色に染まっていた。当時にプレデターが際限なく破壊活動を行ったためだ。その痕跡は見渡す限りに存在した。


『止まってッ、センサーが反応した。左手のビル一階。人じゃないみたい』


 捕捉カーソルが表示されていないことから、危険はないものらしい。

 美鶴は常に開きっぱなしの自動ドアをくぐり抜け、一階エントランスホールに踏み込んだ。

 十年近く経って、堆積した落ち葉を踏みつけ、進んだ。中の様子は当時の悲惨さを訴えていた。弾痕が無数に残る壁には未だ黒くシミが残っている。大理石の床には何かの足跡状に穴が作られ、その周囲に亀裂が走っている。受付カウンターは見事に粉砕されていた。当時にプレデターの侵入を受けたらしく、手当たり次第に破壊されていた。

 想像するに、ここの会社員は皆殺しにあっただろう。そう思うほどの凄惨さが存在した。

 突如、鎌錐のカメラアイが崩れた壁の陰に動く物体を捉えた。

 錆び付いた胴体からは歪な駆動音が聞こえる。相手もこちらに気づいたらしく、動きを活発化させた。脚部を損傷、損失しているらしく不協和音が続く。


「犬型のプレデターか。久しぶりに見たな」

『プレデターの原動力って、電力だよね。よくまだ動いているよね』


 通信越しでも、由佳里が驚愕しているのが分かった。


「奴らは送電線から直接充電出来るからな。それが奴らの恐ろしさだ。燃料は戦地で蒐集し、破壊を続けた。今では外部居住区への電力供給は止められているにも、まだ動けるのがわんさかいる」

『全然見ないけどね』

「地下鉄とかデパ地下とかに入り込めば、嫌でも遭えるさ。電力消費を抑えるために地下に潜って、雨風を防いでるんだ」


 美鶴は言いながら、犬型プレデターの胴体を踏み潰した。スパークが散り、痙攣したように身を震わせた後、プレデターは機能を停止させた。

 ランカーには課せられた義務が複数ある。

 その一つが外部居住区でプレデターに遭遇した場合には、見過ごさず破壊するということだ。

 何とかプレデターを一掃したいも、企業間の軋轢で思うように作業が難航した結果、この形にされている。


「よし、行くぞ。由佳里、サポートは頼んだ」

『任せてよ──ちゃっちゃと終わらせて戻ってこいッ』


 由佳里の澄んだ声が途中からザラついた野太い声に変わる。


『竹ちゃんとの二重態勢で挑むよ』


 それは心強い限りだ、美鶴は目的地に急いだ。

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